魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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妖精の力

〈フェイト!挟み討ちだ!〉

〈うん…!〉

 

アルフより機動力に優れたフェイトは先行して優を飛び越え、反対側に回り込んでそのままアルフと交差しながらの挟撃に入る。

 

「「はあっ!!」」

 

言葉を介さず、思念通話すらも無しに完璧なタイミングでの挟撃が繰り出される。

フェイトほどではないにしろ高い機動力を発揮することができるアルフ、そして不意を突いたとは言えども優でさえ気付けなかったほどの速度でジュエルシードの元へ駆け付けたフェイトの2人によるコンビネーションはかつて破られたことはなく、魔導師でもないただの人間であれば自分たちの姿を視認することすら困難を極める高速攻撃だ。

その自慢のコンビネーションを繰り出した瞬間、アルフの目には首を描き切られる優の姿、フェイトには足から血を流して倒れ込む優の姿が……

 

「甘めえ!!」

「「!?」」

 

2人の目に映っていたはずの優の未来の姿は、強烈な腕の痛みと痺れによって掻き消される結果となった。

 

「なっ…」

「に、人間がこれを!?」

 

信じられない、ありえない。2人は目の前で起こった出来事が理解できずにしばし呆然としてしまう。

 

「お前らは速さが自慢みたいだけどよ、あのバカ(ジャン)ほど速くもなけりゃ(おぼろ)ほど読めない動きでもねーんだよ!そんなんじゃハエが止まるぜ!」

「チッ、こいつ…!」

(こ、この人…)

 

フェイトは初めて優と戦った時に無傷で勝利はしたものの、それは自分のことを…ヤールングレイプルとウコンバサラのことをなにも知らず、子供相手であるが故に生じた手加減も働いた無策無防備の優の隙を突いたに過ぎない。

今回はその全ての有利がなくなり、条件は五分……否、自分の速度は優より速いことに加えてアルフが参戦していることを加味すればやはりフェイトの圧倒的有利だ。ところが優は臆すどころか、その圧倒的不利を物ともせずに2人の自慢のコンビネーションを瞬時に、自然体で、なんの苦も無く破ってしまったのだ。

 

(やっぱり強い…!)

(前とは全くちがう…!)

 

先ほど自分の爪撃を受け止めた優の防御力を目の当たりにしたアルフは「ハンパな攻撃じゃこいつにダメージは与えられない」と即座に認識して足を使い、「蹴り」ではなく「押し」で優を吹き飛ばして間合いを取った。

その直後にフェイトとの抜群のコンビネーションで繰り出した同時攻撃は、人間が最も反応・対応しにくい対角線(右上&左下又は左上&右下)を狙った実に合理的かつ確実性のある攻撃であったのにもかかわらず、優はその場から一歩も移動せずに捌いてしまった。

 

それを目の当たりにしたアルフは優への認識を改めざるを得なかった。「只の弱い人間」から「只者ではない強い人間」へと。

依然として2人は優を挟み込んではいるが、付け入る隙が見当たらずに攻め倦んでいた。

 

(でも…あの筋肉ヤロー…!)

 

しかし、アルフは認識の改めと同時に優の「ある行為」に気付き……

 

「人間!なんでそのまま反撃しなかった!?」

「………」

 

そう……。

優はその気になれば捌くのではなくそのまま攻撃を打ち込んで2人の腕を破壊することや、2人を誘導して衝突させることもできた………が、優はそれをしなかった。

 

「お前、そこのフェイトってヤツとオレの話を聞いてたんだろ?だったらわかるはずだ」

「…!!」

 

優は先ほどフェイトにこう言った。

 

"お前だって本当は戦いたくねえんだろ?オレたちも同じだ。だったら戦う以外の解決策があるはずだ"

 

対話とは片側の一辺倒な語りでは成り立たず、逆に言えば片側が対話の意思を示そうとももう片側に聞く気がなければ成り立たない。

互いに話を聞き、語り合う気持ちがなければそもそもそも土台すら作れない。だからこそ「戦いを望まない」というフェイトの思いを汲み取った優は、できる限りの説得を続けようと誓った。

優はその一環としてなるべく無用なダメージを与えずに時間を稼ごうとしていた、という訳だ。

 

「ゴチャゴチャうるさい!戦うのがイヤならさっさとジュエルシードを渡して消えちまいな腰抜け!!」

「………」

 

しかしアルフはそんものは知ったことではなく、思うように事が運ばないことと人間に手心を加えられた事実に激昂していた。

 

「てめー…」

「ふん!この程度で怒った…」

 

優の苛つきを察したアルフは若干気を良くしたが、次の瞬間……

 

「邪魔だ!!!」

「!?」

 

優が一瞬でアルフの懐へ飛び込んで飛び蹴りで蹴り飛ばした。

 

「こ…の…!」

「アルフ!!」

「へ、平気だよ!この程度!」

 

アルフは優の奇襲の飛び蹴りにはなんとか反応して受け止めたものの、威力を相殺しきれずに大きく後方へ吹き飛んでしまった。更には蹴りを受けた腕が先ほど以上に痺れてほとんど動かせなくなってしまっている。

 

「あたしよりジュエルシードの回収だ!」

「…!!」

(じゃあ、あとは頼んだぜ)

 

アルフを窮地から救うべくフェイトは優へ再び向かおうとしたが、アルフに諭されて本来の目的を思い出し、ジュエルシードへ一直線に向かった。

ところが……

 

「シューーーート!!」

「!?」

 

聞き覚えのある子供の声と同時に多数の光弾が飛来。その光弾がフェイトを追跡するようにその頭上に一斉に降り注ぎ、フェイトは止むを得ず急停止と同時に後退する。

 

〈遅れてすみません!〉

〈いや、いいタイミングだ〉

 

その弾が飛来してきた方向を睨むフェイトの視線の先には、闇夜の中で一際目立つ白い服を身に纏った、可憐ながらもその瞳に鋼の意思と強い覚悟の宿った1人の少女が映り込んでいる。

 

〈他に仲間がいたんですね〉

〈みたいだ。めんどくせえことにな〉

〈でも人間…じゃない?〉

〈どうせ使い魔だろ〉

〈使い魔……聞いたことあるかも〉

〈余計なおしゃべりはそこまでだ〉

〈そ、そうですね〉

 

間一髪でフェイトがジュエルシードを奪取するという事態を防いだなのはは、ジュエルシードを挟んでフェイトと視線を交わす。

 

〈で、こんなゴチャゴチャした状態での話し合いは無理だ。こっちのケモノ女はオレが抑えとくからそのガキとの話し合いはお前がやれ〉

〈はい!そっちはお願いします!〉

 

フェイトに背を向けてアルフと睨み合っている優は、思念通話でなのはと連絡を取り合いながらアルフの出方を伺う。

 

〈じゃあ頼んだぜ!〉

〈はい!いきます!〉

 

〈フェイト!こっちはすぐ片付けてそっちに行くからね!〉

〈うん、無理はしないでね!〉

 

方針が決定すると2人は同時に動き出し、優となのはの出方を伺っていたフェイトとアルフもまたその迎撃に向けて動き出すのだった。


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