「ジュエルシードは絶対に渡さない!!」
「………」
鬼気迫る表情で睨みを効かせる少女を前にして、優は振り向きながら少女の目を見つめつつも涼しげな顔で戦いを回避するための思案を巡らせる。
「どうしても戦いは避けられねえのか?」
「傷つきたくないならジュエルシードは諦めてって言ったはずだ!」
……が、優は以前のような喧嘩腰ではなく柔和な態度で接しており、その甲斐あってか少女は臨戦態勢を維持しつつも優の言葉に耳を傾けている。
「……お前、なんでそんなに必死にジュエルシードを集めてんだ?」
「そんなのあなたには関け…」
「オレは自分のためでもないのに自分の命を懸けて遺せ…ロストロギアを求めたヤツを何人か知ってる」
「…?」
「で、なんとなくって程度なんだが、お前は必死さがそいつらにちょっと似てる気がするんだよな」
「…!!」
「どうやら図星みたいだな」
「くっ…!」
優の推測が核心を突いたのか、誰の目から見ても明らかに少女の顔に動揺の色が現れる。
「誰のためかは知らねえが、それは他人を傷つけてでもやらなくちゃいけねーことなのか?」
「そんなこと…」
「そんなに急いで手に入れなくちゃいけねーのか?」
「………」
「お前一人でないと成し得ないことなのか?」
「………」
「幸いこっちには時空管理局の伝がある奴がいるからもしかしたらなにか協力できるかもしれねえ。話してくれねえか?」
「!?」
以前に誓ったとおり、今は優たちは時空管理局に接触する訳にはいかない。しかし、ジュエルシード集めさえ終われば本当に協力できるかもしれないというのは事実のため、これはいわゆる方便というものになる。
「お前だって本当は戦いたくねえんだろ?それはオレたちも同じだ。互いに戦いたくねえんだったら戦う以外の解決策があるはずだ」
「それは…」
戦わないで済むのなら、血を流さずに済むのならそれに越したことはない。優は倒すべき敵と見做した者は容赦なく叩き潰すが、本来は無用な争いを好まず、場合によっては敵であろうと情けをかける性分なのだ。
それ故に優は先日の戦闘でジュエルシードに手を出すなとの忠告を行なった上で手加減された挙句に最終的にジュエルシードを諦めるようにとの忠告のみで事態が終息したことを鑑みて、少女が「目的のためにはある程度手段を問わないが故意に人を傷付けること自体は望んでおらず、目的を優先しつつもできるだけ戦いを避けようとしている」と判断し、「それなら和解の道があるはずだ」と希望を見出して説得しようと決断したのである。
「オレたちになにかできることはねえのか?」
「………」
「黙ってちゃなにもわからねえ。お前の本音を聞かせてくれ」
「………」
優の真摯な姿勢に心打たれたのか、自分でさえ気付かないうちに戦闘態勢を解いてしまっていた少女は次第に顔が憂いを帯び、唇を震わせ始める。そしてついに……
「わたしは…母…」
「フェイト!!!」
「!!?」
自分から話し始めた少女の言葉を遮るように、威嚇のように鳴り響く怒声と共に少女の背後から飛び出した人影が優へ猛然と襲い掛かった。
「他人に耳を貸すんじゃない!!」
「て、てめえ…!」
優は右手の爪撃を左腕で受け止め、続いて左手の爪撃を右腕で受け止めたものの、間髪入れずに繰り出された前蹴りで押されるように蹴り飛ばされて大きく後退した。
「ア、アルフ…」
「あんたはジュエルシードのことだけ考えてればいいんだ!!」
「!!」
(くそっ、もう1人いやがったか!…ん?あの姿は…)
優にとっては悪く、「フェイト」と呼ばれた金髪の少女にとっては良いタイミングでアルフが割り込んだ。
(いや、それよりも…)
「さっさとあの気味の悪い筋肉ヤローをぶっとばしてジュエルシードをいただくよ!!」
「……うん、そうだね」
この一瞬のせいでフェイトは先程の気持ちの昂りが完全に収まってしまい、優の懸命な説得は水泡に帰してしまったのである。
「アルフ」
「ああ、わかってるさね!」
(やっぱ避けられなかったか。……最悪のタイミングで来てくれるもんだな。だったら仕方ねえ……)
優は目を細めながらも覚悟を決めると、襟の裏に手をかけてスイッチを押し、A・Mスーツを起動。すると一般人の目からA・Mスーツを隠すために身に付けていた上着が人口筋肉の急激な膨張によって弾け飛ぶ。
「ふぅぅぅぅ…」
「「………」」
長い深呼吸で気を取り直す優と、それを無言で見つめつつ戦闘態勢を崩さないフェイトとアルフ。
「じゃあ…」
「「………」」
更に優は左
「来な!!」
「ただの人間が!!」
(もう、迷わない…。手加減もしない…!)
優の一声を合図に2人が飛び出し、ついに互いに望まぬ戦いが始まってしまうのだった。