魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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妖精と雷神

☆☆☆☆

空が輝きに包まれる1分ほど前のこと……

 

「くっ、うっ……」

 

頭上で雷を迸らせる金髪の少女は、苦悶の表情を浮かべて全身から汗を吹き出しながらも精神を集中している。

 

「轟け………御雷………」

 

しかし、負担のあまり下半身から力が抜けてその場に崩れ落ちてしまった。

 

〈やっぱり無理だよ!〉

〈だ、大丈夫…だから…〉

 

それに気付いたアルフは「これ以上の無理はさせられない」と中断を呼び掛ける。

 

〈これ以上やったらあんたの方がまいっちまうよ!ちょっと時間はかかるけどくまなく探せばきっと…〉

〈「あっち」もきっと気付いて探し始めてる…!〉

〈うっ…〉

〈だからわたしたちが先手を取らないとダメなんだ!〉

(……もし()()をやったせいでその連中に先取りされでもしたら………いや、二度とあんたに『あんな思い』をさせる訳にはいかない…!)

 

アルフは少女の身体に負担をかけたくないが故に今から行うことをやめさせようとしたが、優たちにジュエルシードを先取りされる危惧を知ると即座に考えを改めた。

しかし、アルフが恐れているのは少女の身体への負担やジュエルシードを取られることだけではない。ジュエルシードを取られることによって起こる「悲劇」を恐れているのだ。

 

〈………わかった、それならもう止めないよ。こうなったら発見次第さっさと確保してさっさと帰るよ!!〉

(ありがとう、アルフ…)

 

少女は口には出さなかったが、心の中でアルフに感謝の言葉を告げると意を決して立ち上がり、再びウコンバサラを天に掲げて頭部を輝かせると……

 

「轟け、御雷…!!!」

『Mighty thunder.』

 

ウコンバサラを床に叩き付け、天を貫く巨大な雷光の柱を屹立させた。

 

(来た…!)

 

待ち侘びたアルフは雷光の柱をその一身に受けると、黒雲の中で()()()()()()見せたことのない獣の姿に変身し……

 

「ヒョオオオオオオ!!!」

 

不気味な鳴き声と共に全身から放電。それが呼び水となって黒雲全体が活性化、黒雲の至る場所が一筋の輝きを放ち始める。

 

(これがわたしとアルフの…!)

 

「サンダーレイジ!!!!」

 

アルフの耳を(つんざ)く叫声と共に街全体に雷の雨が降り注いでいった。

☆☆☆☆

 

 

 

「………」

 

ユーノの警告から数秒後に空から無数の雷が地上に降り注ぎ、間一髪回避に成功したものの、尻餅を突きながら呆然とする優。

 

(ユーノの声がなかったらやばかったぜ…)

 

A・Mスーツはほぼ完璧な絶縁性があるため電気の類いは効かないが、頭部だけは完全には覆われていないためそこに攻撃を受ければ深刻なダメージとなってしまう。

故に優は空を見上げるのと同時に落雷の兆候に気付き、咄嗟にその場を飛び退いて難を逃れたのだ。しかし飛び退くのと同時に直前まで優の立っていた場所に雷が落ちたため、炸裂の衝撃で吹き飛ばされて着地に失敗したのだった。

 

(テスカポリトカと比べりゃ威力は低いが攻撃範囲は比べ物にならねえ…!)

 

以前に優が戦った敵の中には、気候を操る「テスカポリトカ」という魔術師がいた。

彼が放つ落雷は物理的破壊力を持っており、一本ずつしか落とせなかったがその威力は家一軒程度ならば跡形も無く消し飛ばせる威力があり、落雷の軌道を操って広範囲に攻撃可能だった。

しかし、今落とされたものは威力こそ数メートルのクレーターを作る程度だが、それが街中に無数に降り注いでいるのだ。

 

〈なのは!ユーノ!無事か!?〉

〈わたしは平気です!〉

〈ボクも大丈夫です!〉

 

そしてなのはとユーノは魔力反応をたんちして事前に気付いていたのでそれぞれが防御魔法で防ぎ、事無きを得ていた。

 

〈その様子だとおみなえさんも平気みたいですね、よかった…〉

〈あたりめえよ、オレは不死身だぜ。それにしてもあの落雷は…〉

〈あれは「強制発動」!魔力を直接ぶつけて強制的にジュエルシードを発動させるために広域型の魔法を使ったんです!〉

〈…ってことは!〉

〈もうじきジュエルシードの暴走が!?〉

 

全員の無事を確認して一安心したのも束の間、ユーノの忠告により間もなくジュエルシードが現れると判明。

 

〈…来た!!〉

〈〈!!〉〉

 

そこから間髪入れずにユーノが突如として現れた巨大なエネルギー反応を感知し、優となのはの立ち位置の間の優に近い場所でエネルギーの放出と共にジュエルシードが出現した。

 

(よし、オレから近い!)

 

エネルギーの光柱を確認した優は即座にジュエルシードの確保に向かった。

 

(あれか。まだ暴走はしてねえな)

 

ジュエルシードはド派手に出現したものの、出現時の荒々しさもなく淡く光りながら沈黙しつつ地面から1メートルほど浮いた状態を保っている。

 

なのはより先に到着した優は「これなら簡単に確保できる」と高を括ってジュエルシードに手を伸ばした瞬間…

 

「!!」

 

背後から光の槍が優を襲うが、優は事前に気配を察知して素早く横に跳んで回避する。

 

「へっ、さっそくお出ましか」

「………」

 

優が振り返らずに話し掛ける背後には、金髪の少女が無言で雷光を湛えたウコンバサラを構えていた。

 

「忠告は……したよ」

「それはこっちのセリフだ。こっちにもジュエルシードは必要なんでな」

「………」

 

振り向きながら横目に金髪の少女を睨み付ける優。

憂いか哀れみか、はたまた諦観か…フェイトの顔には負の感情しか感じられない。

 

「そんな思いつめた顔してでも欲しいんだな。だが、こっちにも譲れねえ理由がある」

「…!!」

(ん?)

 

金髪の少女の目付きが鋭く優を射抜くと空気が張り詰め、優の背筋に寒気が走る。

 

「ジュエルシードは…!」

(予定がひっくり返っちまったが…)

 

同時にウコンバサラに宿る雷光が輝きを増していく。

 

「絶対に渡さない!!」

(とにかくこっからだな)

 

今のフェイトは自分の命を脅かす敵対生物を喰い殺さんと牙を剥く獣と同類。極力戦いを避けるためにへわずかな失敗も許されない。

なのはに任せるつもりだったフェイトの説得を試みる決意を固めるのだった。


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