魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

4 / 53
目覚める妖精 - 3

「いくぜスライムもどき!!」

「グオオオオ!!」

 

優の着ているスーツはアーカム財団開発部が開発したA(アーマード)M(マッスル)スーツと呼ばれる優専用の全身装着型装甲強化服だ。

精神感応金属をベースとした合金によって作られた特殊繊維と人工筋肉が組み込まれており、装着者の精神作用によって発生するエネルギー障壁「パワーフィールド」が超常的な耐圧・耐熱・絶縁性と霊気・妖気耐性を生み出し、そして最大の特徴として通常時の30倍以上の筋力を引き出せるという、正に史上最強の戦闘服と言っても過言ではない性能を誇っている。

単純な身体能力でも数トンの重量を持ち上げ、助走無しで10メートルの壁を飛び越え、走れば最高で時速100kmを軽く超えるなど文字通りの超人的数値だ……とはいえA・Mスーツは常時この性能を発揮している訳ではない。

普段は機能を停止しており、起動には肌と密着させて装着者が起動の意思を強く抱く必要がある。起動すると人工筋肉の肥大化によりスーツが膨張し、シルエットだけで見れば文字通り極端な筋肉質になったような見た目となる。

ただし、これを着ただけで誰もが優のように強くなれる訳ではない。

スーツで覆えるのは首から下だけなのでスーツとは別に精神感応金属製のヘッドギアを装着しているものの、頭部の動きや視界を制限しないために面積を最小限に抑えてあるので絶対安全とは言えず、それ故に頭部は極力被弾しないよう自分で守る必要がある。

そしてスーツにより生み出されるパワーとスピードを制御するには相応の精神的・肉体的な負担がかかり、並の者では身体の動きに思考が追い付かないため、スプリガンの中でもこれを着て戦える者は優しかいないのだ。

 

しかし近年ではA・Mスーツの防御を無効化する攻撃を行なう者や、対A・Mスーツ用の武器の開発、果てには本家には劣るものの優との戦闘で蓄積したデータから他の組織もA・Mスーツの開発に成功するなどアーカム製A・Mスーツの優位性が大きく揺らいでいる。このためアーカム製A・Mスーツを持ってしても決して安心はできない状況になっているのだ。

 

 

 

 

(周りを引っぺがして依り代をぶっ壊す!)

 

依り代がどんな物かまではわからないが、少なくとも手で掴める程度のサイズであろう事は悪霊の大きさから推測できる。なので優は悪霊のスライム状の身体を蹴散らし、依り代を破壊して悪霊の本体が飛び出したところをある方法で倒そうと考えた。

 

「!!!」

「おっと!」

 

50歳を越えてもなお世界で五指に入る程の腕前だったボーマンの迅速・正確・変幻自在なナイフ捌きに比べれば、大抵の攻撃は児戯のようなものだ。

優は槍のように伸ばしてきた触手の連撃をスウェーとダッキングで次々と回避しながら接近すると、あっという間に悪霊の数メートル手前まで到達。

 

「そらよ!」

「!!」

 

あらかじめ用意しておいた手榴弾を放り投げ、着弾と同時という完璧なタイミングで爆発させた。

 

(よし!)

 

爆音と共に四散する白濁色のスライム。身体が大部分が吹き飛び、中から菱形の青い宝石が現れる。

 

「スラッシュキィーーーーック!!」

 

A・Mスーツの力により人間を遥かに超えた加速力・跳躍力で飛び出した優は、人間では決してあり得ない大ジャンプで青い宝石を飛び蹴りでスライム状の身体ごと蹴り抜いた。

なお優のこの攻撃は、彼が好きな格闘ゲームのキャラの技を名前もそのままに真似たものである。

 

 

 

「なにっ!?」

 

そう、確かに優は蹴り抜いた。それも宝石は疎か巨岩を砕く破壊力のキックでだ。だが宝石は砕けることなくスライム状の身体を突き抜け、斜め上に飛び出していったのだ。

 

(爆発で依り代の宝石が完全に露出するくらい抉られたってのにヒビ一つ入ってねえから変だとは思ったが…)

 

つまりこの宝石は優の力では破壊が不可能ということだ。

 

(こうなったら一か八か、直接サイコ…ぐっ!)

 

あれこれ考えているうちに宝石から伸びたスライム状の触手が飛び散った毛玉を集め始め、瞬く間に元の身体を形成していった。

 

「なっ…」

「ガアッ!!」

 

呆気に取られているのも束の間、形成の完了した悪霊は先ほどの触手攻撃より遥かに速い体当たりで優を襲う。

 

「がはぁッ!」

 

ボーマンに負わされた傷の痛みと悪霊の予想外の攻撃に反応の遅れた優はそれを回避できず、に直撃を受けてしまった。蹴られたサッカーボールのように吹っ飛び地面を跳ねながら転がっていく優は、20メートルほど吹き飛んだところでようやく動きを止める。

 

(油断…したぜ…。これじゃあ…スーツはともかく…生身がもたねえ…)

 

体当たりは幸い頭部には当たらなかったものの、吹っ飛ばされている最中に何度か地面に打ち付けており、深刻なダメージを負っていた。更にボーマンとの戦いで負った傷からの出血が体力を奪っていく。

 

(でも……)

 

それでも優は諦めない。諦めるわけにはいかない。

 

(オレは…守りたいものが…帰る場所が…あるんだ…)

 

だから優は立ち上がる。立ち上がる姿は生まれたての子鹿のように弱々しく、しかしその目は飢えた虎の如く鋭く。

 

「だからオレは!!」

 

だから優は戦える。どんな敵にも立ち向えるのだ。




A・Mスーツの説明にある「パワーフィールド」という言葉は、スプリガンの単行本未収録(文庫版には収録している)のエピソード「FIRST MISSION」でのA・Mスーツの説明に出てきた言葉です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。