魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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無敵なの

「ああ、あのガキは下手すりゃウコンバサラよりやべえものを持ってやがる」

「おみなえさん、ウコンバサラよりやばいものって…」

 

ただでさえ強力で危険な武器であるウコンバサラを超える危険性を孕むものを少女は持っていると言う。それはいったい何なのか?

 

「あいつの手を見たか?」

「え?はい、ちょっとゴツゴツした手袋を付けてましたけど…」

「それも遺跡だ。ウコンバサラと同じく地味だけどな」

「あ、あの手袋が!?」

「あれは『ヤールングレイプル』。北欧神話の『雷神トール』が使っていたものでな、砕いて言えば強力な投石機みてえなもんだ」

「ヤールングレイプル…」

 

ヤールングレイプルとは雷神トールが複数使っていた神器で、「雷鎚ミョルニル」とセットで使われていたとされるものの一つだ。

 

「投石機…ですか。ウコンバサラを投げたあとであんなに細かい軌道修正でわたしに向かってきたのを見た感じでは、ものすごく高い誘導性があるように思えましたけど…」

 

投石機と言うと古臭く性能が低く思えるが、当然ながらオーパーツであるヤールングレイプルにそれは当てはまらない。これは二つの機能によって現代の軍事兵器にも劣らない…否、現代の技術では再現すらできない性能を秘めているのだ。

 

「ああ、その通りだ。それに実はヤールングレイプルは手に持てるサイズの物ならどんな物でも制御できるんだ」

「放電に加えて、あんな速度と威力で同じものを何回でも投げられるってなると対人戦では敵無しですね」

 

ヤールングレイプルによるウコンバサラの投擲は魔導師になって日が浅いなのはどころか、天性の見切りが可能な優でさえ回避に専念しないと危険な速度だ。

並みの者では回避どころか気付く前にその身に受けて絶命しても不思議ではない。

 

「あれ?でも投げたものが手に戻ってくるのはどうしてなんですか?」

 

少女が投げたウコンバサラはまるで引き寄せられるように手元に戻っていっていた。

特に意識している様子もなく手に収まっていった様子を見るに自ら操っているようには見えない。確かに不思議な機能だ。

 

「そりゃあ単純なもんでな、制御したもの限定でかかる引力だ」

「引力!?」

「それでウコンバサラを投げてもあんな風に…」

 

効果範囲は制御したもののみと非常に狭いが、代わりに他には全く影響を与えない引力によって投擲物を使い捨てにすることなく使い回せるのだ。

 

「例えばオレのナイフとか、そこらに落ちてる石でもなんでも投げて手元に戻せるぜ」

「そ、それじゃあ最悪の場合はわたしたちの武器が奪われちゃうことも…」

「無いとは言い切れねえな。まあ、制御するには条件がいくつかあるんだがな」

「「………」」

 

ヤールングレイプルの制御下に置かれたものは、使い手が制御を解くかヤールングレイプルの機能を停止しない限り永続的な支配を受ける。

条件があるとは言えなのはのレイジングハートも奪われる可能性を示しており、決して捨て置く訳にはいかない可能性だ。

 

「あともう一つ、ヤールングレイプルには厄介な機能がある」

「「まだあるんですか…」」

 

投擲に返戻に支配…。これだけ厄介極まりない能力が揃っているといのにまだ厄介な機能があると優は言う。これにはなのはとユーノも辟易気味だ。

 

「なのは、オレがあのガキにどうやって攻撃したか覚えてるか?」

「はい、たしか一気に近付いてパンチ…でしたよね。でもあのパンチはA・Mスーツを起動した状態でのパンチなのに受け止められるなんて思いませんでしたよ」

「そうだ。死なねえように手加減したとはいえ、本来なら生身の人間が受け止められるような速度と威力じゃなかった。だがあいつは受け止めた。それはあの手袋がヤールングレイプルだったからだ」

「つまり……ヤールングレイプルは衝撃を吸収する防具にもなっている、ということですか?」

「それだと半分正解、だな」

「うーん…これ以上はちょっと…」

 

「正解は『斥力(せきりょく)』だ」

「せきりょく?」

「磁石の同極同士って互いに離れようとするだろ?磁力も斥力の一つでな、ヤールングレイプルはそれと同じようなもんだ」

「でもそれだとぶつかってくる物体も同じ力がないと成立しませんよね」

「そこがヤールングレイプルのすげえところだ。衝撃が手袋に伝わる一瞬で斥力を生み出してるのさ。それがエネルギーなら相殺して消し去ることもできるし、当然本人にはなんの影響も無え」

「そっか、だから投げたウコンバサラがあんな速度で手元に飛んできても軽く受け止められてたんだ」

「加えて言えば、その斥力を使ってとんでもない速度での投擲も可能になる。攻防一体・一石四鳥の手袋って訳さ」

『攻撃も防御も完璧ってことですか…」

「攻撃はまだしも防御に関しては完璧どころじゃねえ。手に限れば完全無敵だ」

「……手強い、ですね」

「ああ、そうだな」

「………」

(それに遺跡を2つも同時使用して平気な顔してるガキもバケモノだがな,でも持ってる武器がウコンバサラじゃなくてミョルニルで、「メギンギョルズ」もセットで持ってたらどうしようもなかったぜ…)

 

変幻自在の放電と、A・Mスーツを無効化した上にバリアすらも軽く打ち砕く打撃を放てる神器ウコンバサラ。

そして引力と斥力による武器の制御と絶対防御とそれを応用した投擲が可能な手袋ヤールングレイプル…。二つのオーパーツを同時に操る少女が現れた。

現時点では優となのはの2人では勝ち目の薄い強敵だ。少女の言葉を鵜呑みにするならば、ジュエルシードを追い掛ける限りその少女との交戦は決して免れない。

つまり、少女を相手取るならば2人が今より強くなるか、ユーノと3人で戦うしかないということだ。

 

(できれば先取りしてそのまま逃げられりゃいいが…鉢合わせした場合、あの速さじゃそれも難しいな。さて…)

(それでもわたしは知りたい。あの子がなんでジュエルシードを狙ってるのか…。なんであんなに寂しそうな顔であんなことをしてるのか…)

 

優となのははそれぞれの思いを抱いて家路につくのだった。


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