「……さん、しっかりしてください!」
「う…」
朦朧とする意識の中で身体を揺すられて次第に覚醒していく優は、必死に起き上がって自分を揺する者の正体を確認する。
「ユーノ…」
「遅れてしまってすみません…」
「………」
「でもよかった。どうやらなんともないみたいですね」
「…ホントだ」
優は腹部を
(なんで無傷なんだ?)
先程少女から受けた石斧の一撃は、A・Mスーツが役に立たない「浸透」するような一撃だった。
優は今までに幾度もA・Mスーツの耐圧性を無効化する攻撃を受けてきたが、あの石斧の一撃はその中でも氣功の技の一つである「発勁」に近いものを感じた。
発勁と同質のものならば物理的な防御は意味を為さず、体内に直接打撃を打ち込まれているのとなんら変わりないダメージを受けているはずだ。
なのに痛みがないだけでなく、ダメージを受けた痕跡すら残っていないのはどういうことなのだろうか?
「御神苗さんが意識を失っているあいだにボクが治癒魔法で治してたんですよ。治癒魔法はあまり得意じゃなかったからどの程度まで治せるか不安だったんですけど、問題なく動き回れるみたいで一安心です」
「………お前、攻撃魔法はさっぱりだけど他はなんでもできるんだな」
「………それ、褒めてるんですか?」
結界とその合成、空間加工、テレパシー、簡易な封印、そして治癒。これ程バラエティーに富んだ魔法を顔色一つ変えずに使うユーノ。
その実力に目を丸くした優は素直な感想をユーノに述べるが、褒めているのか
「なのは、大丈夫かい?」
「………ユーノくん………」
ユーノは優の時と同じように治癒魔法で身体を癒してからなのはへ呼び掛ける。
「………あの子は!?」
「行っちゃったよ。ジュエルシードを持ってね」
「………」
目を覚ましたなのはは飛び起きて先程の少女の姿を探すが、当然ながら少女の姿は影も形もない。
「ごめんね、ユーノくん…。あなたの大事な物、取られちゃって…」
「そんなことよりなのはが無事だっただけで充分さ。それにきみはボクの想像以上に成長してくれていたしね。こんなになるまで頑張ってくれてありがとう」
「……うん。ユーノくんこそ、心配してくれてありがとう」
なのはとユーノは顔を赤くして照れながら互い謝辞を述べるのだった。
「それにしても…」
「あ、おみなえさん」
自由に動き回れるくらいに回復した優はユーノの後からなのはの元に歩み寄りながら声を掛ける。
「レイジングハートがデキるヤツで助かったな。お前にアレが直撃してたらかなりやばかっただろうぜ」
『お褒めに
なのはは石斧の投擲に反応し切れず、レイジングハートは自ら杖を動かすことはできなかったが、プロテクションでワンクッション置いたおかげでなのはが咄嗟に杖で受けるだけの時間を稼ぐことができたのだ。
「アレって……おみなえさんはあの武器を知ってるんですか?」
「ああ、よく知ってるぜ………ってなのは、お前知ってるんじゃなかったのか?」
「え?なんでそう思ったんですか?」
「……いや、もういい」
「??」
(……気にしすぎだったか?)
優は何故なのはが石斧のことを知っていると思ったのか?
遡ること数分前、優が金髪の少女に殴り飛ばされる直前……
"やめてー!!"
このように叫んでいた。まるで少女が所持していた石斧の危険性を予め知っていたかのように。
実際に優が殴り飛ばされてなのはが激昂した事実からも、殴られればどうなるのかをなのは自身が知っていたからだと考えるのは自然の流れだろう。
「御神苗さんが知ってる………まさかそれって!」
「御名答だ、ユーノ。ありゃ遺跡さ」
「え!?あんななんでもなさそうな石斧が!?」
そして優の口から告げられた少女の武器の正体。それはなんとオーパーツであった。
「じゃあ御神苗さん、それのことを教えてもらえますか?」
「ああ、こういう情報は共有しといた方がいいからな」
それを聞いた2人は、不謹慎ながらもそのオーパーツの話に興味津々で耳を傾けた。
「あのハンマーは『ウコンバサラ』だ」
「うこん…」
「フィンランド神話の自然現象を司る『雷神ウッコ』の持つ神器でな、変幻自在の雷を撃ち出せて、斧を基本形態にハンマー・剣に変形させられるんだ」
「3形態もある上に好きな形で撃てる雷、か。恐ろしいですね。しかもただ投げただけであの威力…」
「そう。ウコンバサラはその力を使うために持ち主の精神エネルギーを使うんだが、それをウコンバサラに留まらせることで物理的破壊力を高められるんだ。しかも使い手の能力次第で天井知らずに威力が上がるんだぜ」
「じゃ、じゃあその気になれば破壊できないものはないってことですか!?」
「使い手次第って言ったろ?使用条件は軽いが、遺跡の力は一朝一夕で使いこなせるもんじゃねえ」
「あ、そ、そうですか…」
「あ、そうだ。これはさっき気付いたんだが…石斧の直撃を喰らった感じだと叩いた部分から内部に直接ダメージを与えることもできるみたいだ」
「そ、そんなものをわたしたちは…」
「言いたいことはわかるぜ、なのは。あのガキがどれほどのウコンバサラの使い手かはわかんねえが、オレたちはそんなものを喰らって生きている。それこそあいつの言う通り『手加減された』ってことなんだろう」
(じゃあ、あの子はやっぱり…戦いたくないって思ってるんじゃ…)
「それに加えて厄介なことがもう一つある」
「え?まだなにかあるんですか?」
「ああ、あのガキは下手すりゃウコンバサラよりやべえものを持ってやがる」
「「ウコンバサラより!?」」
なのはとユーノは少女の使用していた石斧…否、ウコンバサラに危険性を感じて最大限に警戒するつもりだったが、それを超える危険な物を持っているという信じ難いことを優は言いだすのだった。