「お前、どこの誰だ?」
「………」
黙して語らない少女はあどけない容姿の割りに妙に物憂げな表情を見せ、大人びた雰囲気を醸し出している。
そしてなによりも目を引くのは、容姿にとても不釣り合いな、頭部に黄色い宝石を埋め込んだ古めかしい石斧。それを右手に握り締めている。
「ユーノの知り合いか?」
「………」
「お前もジュエルシードを狙ってんのか?」
「………」
「それがどんな物かわかってんのか?」
「………」
その少女は目は合わせるものの一向に口を開こうともしない。そして握っていた石斧を
「待て!それをどうするつもりだ!」
「……!」
優がそれを制止しようとするとその人物は優を
『Mighty Spark.』
「!?」
放電を伴う光を撃ち放った。
「………」
「…へっ、問答無用って訳か」
『Internalize No.16.』
「あっ!」
ジュエルシードは光となってハンマーに吸い込まれていった。
「てめえ!言ってるそばから!」
〈待っておみなえさん!〉
「……っとと!」
自分を無視してジュエルシードを回収してしまった少女に業を煮やして飛びかかろうとする優をなのはが制止。今度はなのはが少女に話し掛けた。
「わたしの話を聞いて!わたしたちはあなたと戦う気はないの!」
「………」
「だから教えて!あなたは魔法使いなの!?」
「………」
「あなたはどうしてジュエルシードを集めてるの!?」
「………」
「そのジュエルシードはユーノくんが集めなくちゃいけない大事な物なの!お願いだから返して!」
「……邪魔をしないで」
「!?」
なのはを冷めた目で見つめる少女は、なのはの言葉を無視すると自身の周囲に3個の光球を浮かべ、そこからダガー程度の長さの光の槍をなのはに向けて連続で撃ち放つ。
「くっ…!」
「なのは!」
その槍は直線的な動きしかしないため軌道自体は読みやすいが、弾速が速いためわずかでも反応が遅れると直撃をもらう可能性が高く、なのはは回避に専念している。
(わりいが寝てもらうぜ!)
なのはへの攻撃に気を取られている隙を突き、優は少女を気絶させようと全力で踏み込んで腹部へのパンチを放った。
ところが……
「…!」
(ぜ!)
少女はそれに素早く反応し、腹部を空いた左手で覆って防御体勢に入る。
しかしA・Mスーツで高められた筋力による全力の一撃は、生身の人間の力で止められるほど軽いものではない。その握力は石を握り潰し、その拳撃は岩石を打ち砕く威力だ。
無論優は生身の人間相手に全力で打ち込むほど加減の効かない人間ではないが、ユーノの魔法講座でバリアジャケットの構造を聞いて「 平均的なものでも元の世界のサイボーグのボディを上回る防御力を持っている」と分かっていたので、並みのサイボーグでは防ぎ切れない程度の力加減で打った。
これならば非力な魔法使いならば防ぎ切れず、尚且つ致命傷を与えずに適度なダメージを与えられるはずだ。
「あなたも…」
「なにっ!?」
「や……」
……が、その目論見は一瞬で崩れ去ってしまう。
「邪魔」
「…!!」
「やめてー!!」
腹部に感じる重量感、悶絶、声にならない声、その後に襲い来る激痛。
なのはの声も虚しく響き、優はまるで重力を無視したかのように水平に吹き飛び、その延長線上にあった木に激突してようやく停止した。
(あの…石斧…。それに…手袋…)
「ああああーーーー!!」
「………」
なのはは優が倒されたことに激昂して少女へ突撃。無傷のままの少女は顔色一つ変えず、石斧の柄を人差し指と中指の間に挟めて頭部を軽く握りながら振りかぶり……
「…リパルション・スロー」
「うあっ!」
なのはへ投げ付けると、石斧は光に包まれ電気を迸らせながら目にも止まらぬ速度でなのはへ猛進していく。
レイジングハートは反応の遅れたなのはに変わって緊急でプロテクションを展開するが、石斧はその防御を薄氷を踏むかの如く叩き割ってレイジングハートに命中。なのはへの直撃は免れたものの、命中の際に発生した衝撃波でバリアジャケットが損傷してダメージを受けてしまったなのはは飛行魔法を維持できずに落下し……
「………ごめんね」
『Fire.』
弾丸のような速度で少女の手元に石斧が戻ると、トドメと言わんばかりに光の槍で追撃。為す術もなく直撃を受けたなのはは煙に包まれ、そのまま墜落していった。
「………今度は手加減できないかもしれない。だから…」
(ちくしょう…)
(待って…あなた…は…)
墜落時に頭を打った影響で意識を手放しかけていたなのはへ、少女は静かに語り掛ける。
「ジュエルシードは諦めて」
(こ…の…ガキ…)
(なんで…そんな顔…)
少女のこの言葉を最後に優となのはは眠るように意識を手放すのだった。