「ガアアアアア!!!」
「いくぜ!!」
「〈はい!!〉」
怪物の咆哮が合図となって弾かれたように優が正面切って走り出し、なのはは飛行魔法で上昇しながら優の後方を跳ぶ。
「!!」
「「!?」」
その様子を見るや否や、怪物は周りの木々を軽く飛び越える跳躍と同時に瞬時に背中からコウモリのような羽を生やすと、それをほとんど羽ばたかせることなく鳥のように自在に空を駆け回った。
(霊体の時より遥かに速え!しかも…)
こうなってしまうと空を飛べない優はほとんど手出しができず、まともに戦えるのはなのはのみとなってしまう。
「なのは!」
「わたしに任せてください!」
「頼む!」
優の一言で自分の役目を即座に理解したなのはは、怪物の頭上を越えてある程度の高度まで上昇するとそこで停止。
「リリカルマジカル… 福音たる輝き、この手に来たれ…」
詠唱を開始するとなのはの周囲に真円の光球が複数発生。それを見てなにか危険でもを感じ取ったのか、怪物がなのはへと向き直って身構える。
「導きの元… 鳴り響け…!ディバインシューター!」
微速で浮き上がっていた光球はピタリと動きを止める。怪物はこれを好機と見てなのはの喉元を食い破らんとその牙を剥いて飛び込んで行く。
「シューーーート!!」
「ガウッ!?」
正に間一髪、多数の魔力弾が一斉に怪物目掛けて襲いかかっていった。これが自身の周囲に生成した発射台「ディバインスフィア」から魔力弾を連続発射する魔法「ディバインシューター」である。
「グオオオオ!!」
(もっと多く…もっと速く…もっと正確に…!)
真っ直ぐ怪物へ向かって飛んだかと思えば弧を描き、時には怪物の進路を塞ぐように次々と撃ち込まれる魔力弾。
怪物は被弾こそ無いもののなのはの魔力弾によって制空権を奪われ、大きく飛び回りながら回避に徹している状態だ。
〈第二波を撃ったら
〈よし、任せろ!〉
「グオン!」
「レイジングハート!」
『protection.』
容赦無く追い立てる魔力弾を回避しようと上昇する怪物をなのはが横から猛追。
「でぇぇぇぇい!!」
「ゴアッ!!」
(よし!)
怪物を追い抜くと速度を落とさずにそのままUターンしつつ、レイジングハートを前方に突き出すと進行方向にアクティブプロテクション(触れたものを弾き飛ばすバリアを一定範囲に展開する魔法)を展開して最高速度で体当たりすると、弾かれた怪物は体勢を立て直すこともできずに背中から緩やかな角度で高速落下していく。
「うおおおおおお!!」
優は落下する怪物に追い付こうと全速力で走り、怪物が今まさに地面に落ちようかという刹那……
「タイガー…!」
「!?」
落下に追い付いた優が足を止めずに跳び上がり…
「キィーーーーック!!!」
「ガッ…!」
全力疾走の加速力を加えた渾身の飛び膝蹴りを背骨へ叩き込んだ。
「…!!」
「なっ…」
優の膝蹴りを防御も回避もなしでまともに喰らった怪物はサッカーのリフティングさながらに高々と打ち上げられるが、まるで効いた様子もなく猫のように即座に身を翻し、飛び膝蹴りの慣性が残って上昇したままの優へ襲い掛かり…
「グルァッ!」
「いっ…!」
「おみなえさん!」
両前足を使って優を押さえ付けながら落下していった。
「ちっ、許せよ!」
「ギャアッ!」
両前足で押さえ付けられた優は、咄嗟に腰部に携帯していた精神感応金属製のファイティグナイフを引き抜いて両前足を切断。肉体の欠損という深刻なダメージには流石の怪物も苦悶の表情で呻き声を上げ、優から離れていった。
ところが……
「!?」
切断した前足がヘビのような生物に姿を変えて優に襲い掛かってきたのだ。
(なんだよこれ…!)
ヘビの速度は反応速度に優れた優ならば余裕を持って対処できる程度のものだったが、意識の外からの奇襲により全く反応なかったために迎撃することもできず、絡み付かれて地面へと落下。
「このヤロー!」
受け身も取れずに背中から落下したものの幸いにも頭部へのダメージは無く、このヘビは戦闘能力自体は低かったため即座に引きちぎることに成功。投げ捨てたヘビは血肉を撒き散らすことはなく、そして音もなく消滅した。
しかし優がヘビと格闘していた隙を怪物は見逃さなかった。
「アアアアッ!」
「ぐうっ!(再生だと!?)」
起き上がろうとした優へ前足を再生させた怪物が再び覆い被さって地面へ押さえつけると、間髪入れずに優のナイフを歯で加えて放り投げてしまう。
「し、しまった!」
(ここから撃ったらおみなえさんに当たっちゃう…どうしたら…!)
いくら魔力弾のコントロールに自信があるなのはでも、優が密着していては怪物だけを的確に狙い撃つ自信はない。
自分の肉体を容易に切り裂く危険な武器を奪った怪物は、満を持して優の唯一の弱点である頭部を食い破らんと牙を剥いた。
「ガウッ!」
「ぐああっ!(く、食いちぎられる…!)」
(あのスーツが破られる!?)
辛うじて自由になった左腕を盾にして喰い付かせるが、怪物の言語を絶する
「おみなえさん!今…」
「来るな!!」
「!?」
「遠くから狙えないなら以前のように近接距離で撃てばいい」として怪物へ接近しようとしたなのはを優が制止。
優はなのはが持ち場を離れることによって怪物を取り逃がすことを懸念し、自分のピンチにもかかわらずなのはの助太刀を拒んだのだ。
「おおお…!」
「!?」
「オラァ!!」
「ガボッ!?」
不安定な体勢ながらも両足を使った全身全霊のキックで怪物の腹部を蹴り上げると怪物は優の腕から牙を離して吹き飛び、身を翻して着地するも胃液のような液体を大量に
(弱点、見つけたぜ!)
その隙に優は起き上がり、怪物に投げ捨てられたナイフを右手で拾って再び怪物へ向かって走っていった。
余談ですが、優の繰り出した両足キックはザ・キング・オブ・ファイターズ14のキャラであるアンディ・ボガードの必殺技「空破弾(ブレーキング)」をイメージしたものです。