「………」
(す、すごい…)
「や、やるじゃねえか…」
『お見事です、御神苗氏。私の補助など必要なかったようですね』
「レイジングハート、お前なあ……」
脱線した話が終わってから30分後の現在。
なのはが訓練で発生させた爆煙が風で流れると、中から両腕を交差させて防御態勢に入っている優が現れた。
煙の中から姿を現した優はあまりの精神的ダメージによって顔を引きつらせ、2人の様子を見守っていたユーノは口を開いたまま唖然としている。
「つーかなのは…。杖からじゃなくても出せるのかよ、それ…」
「あ、はい。そうみたいですね」
「自分でやったくせにわかんねーのかよ!」
「なんかおみなえさんと一緒に訓練してるとなんかテンションが上がっちゃったっていうか…」
「なんだよそりゃ…」
(どういうことだ?ボクはそこまで教えてないのに…)
なのはは練習再開直後こそ相変わらずのコントロールの悪さだったが、何故かその目は直前までのオドオドしたものとは打って変わって真剣なもので、10分後には既に動き回る優を正確に捉えられる程精度が向上していたのだ。ただし優はA・Mスーツを起動していないので、元々捉えられない程ではなかった訳ではあるが。
しかし問題はその後だ。その後なのははいつまで経っても優に当てられないことに業を煮やし、一時的に動きが止まってしまう。
攻撃を中断し、下を向いて黙り込むなのはを見た優は「当てられないからって不貞腐れるなんてこいつらしくねえな」と気を揉んでなのはに近付き話しかけようとしたところ、なにやらブツブツと呟いていたかと思えば次の瞬間、自身の頭上に3個の光球を浮かばせてそこから魔力弾を連射し始めたのだ。
これには優も不意を突かれて数発ほど直撃コースだったものを両腕で弾いて事無きを得たが、連射は止まらないのでバックステップで距離を置いて再び回避に専念。
ここからまた被弾無しが続くとなのはは気迫を増しながら光球を6個に増やし、怒涛の連続攻撃を開始。コントロールは若干落ちてはいるものの、更なる不意を突いて倍加した弾幕には優も回避し切れず、両腕で頭部を覆って防御を固めたという訳だ。
「なのは」
「なに?ユーノくん」
その力を目の当たりにして疑問が湧いたユーノはさっそくなのはに質問する。
「その魔法……まさかとは思うけど、やっぱり自分で編み出したのかい?」
「うーん、編み出したっていうか…。よくわかんないけど、気付いた…ううん、『思い出した』って感じかな」
「思い出した?」
思い出した…。
魔法に関しては、一般的には基礎どころか概念すら空想の産物として扱われている世界の人間が、魔法に関してなにを思い出すと言うのだろうか。
「よくわかんないけど、とにかくわたしの記憶にあった魔法なんだ」
「魔法のない世界で魔法を見た記憶がある?どういうことだい?」
そんな疑問が口から出てしまいそうになるユーノだったが、流石にそこまで言うのは失礼に当たると考えてなるべく柔らかい言葉でなのはの答えを促した。
「うん。最初は全然おみなえさんに当たらなくてどうしようかって考えてたら『手数を増やすしかない』って思ったんだ。でも今のわたしじゃこれ以上の連射は無理だからどうしようって考えたの。
するとその時頭に見た覚えのないイメージがいきなり浮かんできて、それを形にしようとしたらいつの間にかできてたんだよ。
具体的には『魔力弾の精製は一個一個やるとけっこう時間がかかるからどうしようもないんじゃ…』って思ってたらいきなり頭にさっきの魔法を知らない誰かが撃ってる映像が浮かんできて、それを見ながら『どうやってるんだろう』って考えたらなんとなくできたんだ」
「知らない誰か……。本当に見覚えはない?ないのにはっきりと覚えてるつ?」
「うん」
(覚えてないだけでボクに出会う以前に「知らない誰か」がその魔法を使ってるのを見たってことか?この世界の常識を考えるとちょっと信じられないけど……ウソをついているようには見えないな)
(他人の記憶か?まさか………いや。どっちにしてもなーんかきなくせえな)
「まあ、とにかく……これで基礎となる魔力弾のコントロールはバッチリだね」
「ああ、しかもこんだけの手数とコントロールがありゃこの魔法だけで近距離から中距離は充分いけるぜ」
「ほ、本当ですか!?」
「今のを実戦でやれりゃあな……って話だけどな」
「そのための訓練ですよ!」
「へいへい」
「ユーノくん!次にいこうよ次!」
「ずいぶんやる気になったね」
(さっきはあんなに落ち込んでたくせに今はえらいはしゃぎやがって…。心配して損したぜ)
「わかった、じゃあ次のステップだ。次は……」
ユーノも優も軽く流したように振る舞ったが、なのは本人ですら自覚のない記憶に違和感を覚える2人であった。