魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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宇宙人なの?

「じゃあそろそろ始めるか!」

 

先程自分で振り撒いてしまった重い空気を打ち払うべく、心機一転してA・Mスーツを起動してから軽い準備運動をこなし、手の平と拳を突き合わせて気合を入れる優。

威勢の良い掛け声でなのはを元気付けようとしたが…

 

「でも…わたしがまちがっておみなえさんの顔にでも当てちゃったら…」

 

なのは自身も変身して構えてはみたものの、先程の出来事に起因するローテンションで元気が無く、そのせいもあって本調子とは言えず、それによるミスで優を傷付けてしまわないかと気が気でならない。

 

『危険なミスショットは私がコントロールして外しますので、ご心配には及びません』

「あ…ありがとう、レイジングハート」

「…へえ。その杖…てゆーか玉か。そいつ、もしかして人格でもあるのか?」

 

突如発光しながら言葉を発するレイジングハートを見た優は、思いの外冷静にその様を分析する。

 

「…おみなえさんは驚かないんですね。わたしは最初、けっこうびっくりしちゃったんですけど…」

「前に仕事で似たようなヤツに会ったことがあるからな。免疫がついてるってことさ」

「は、はあ…。似たような…」

「え!?この世界にインテリジェントデバイスを作れる技術があるなんて聞いたことないですよ!?」

(インテリジェントデバイス?)

 

こちらの世界には簡単な受け答えや限られた言葉だけでの会話程度なら可能な人工知能はあるが、自ら情報を取り入れて思考しながら他人を気遣って喋るような複雑なものはまだ存在していない……はずだった。だと言うのに優はそれを見たことがあるという。

ユーノはそれが俄かには信じられなかった。

しかしながら優は「仕事で会った」と言っていたことから、恐らくはオーパーツ絡みである可能性が高い。そこでユーノは優に恐る恐る質問をしてみることにした。

 

「さ、参考までにその似たようなヤツっていうのを教えていただけませんか?」

「んー、思いっきり砕いて言うと…………宇宙人だな」

「「宇宙人!?」」

 

優が今まで語ってきた仕事やオーパーツなどの内容には説得力があった。だが、その内容が「宇宙人」ともなれば話は別だ。

 

「宇宙人って銀色でおっきい頭で小さい身体の!?」

「テレビのイメージと一緒にしてんじゃねえよ」

「こっちは少なくともミッドチルダの銀河に他の生命体はまだ発見されてないんですよ!?」

「そっちの事情なんて知らねえよ」

 

ユーノの話も歯牙にもかけず一蹴…と思いきや……

 

「その宇宙人はどこに住んでるんですか!?」

「…あー…」

「どんな外見なんですか!?」

「それはだな…」

「どんな能力を持ってるんですか!?」

「おい、俺の話…」

「なんでこの星に来たんですか!?」

「いい加減落ち着け!!」

 

ユーノは異常な程の食い付きを見せ、優はそれに辟易してしまって話す気が少しばかり失せたが、仕方なく話すことを決めるのだった。

 

「……で、その似たヤツってのはだな……」

「「………」」

(話しづれえ……)

 

優は話しながら2人の目をチラ見すると、先程と変わらず目を輝かせながら食い入るように優を見つめて声を押し殺している。

 

「紀元前数千年前に地球に来た宇宙人……ってことなんだが、オレが会ったのは正確には宇宙人本人じゃなくて本人の人格と力をコピーした仮面なんだ」

「本人のコピー………人格モデルに使ったんじゃなくて人格をそのまま仮面に移したってことですか?」

「そういうこと。仮面だから肉体はねえけどな」

「………」

「…まだ疑問でもあるのか?」

「い、いえ……」

 

まだなにか言いたそうなユーノを見た優が気を揉んで質問を促すが、ユーノはそれを受け流す………が、優の推測通りユーノは言いたいことを我慢していた。

 

(ミッドチルダでは作り上げた人工知能は基礎となる人物の人格を数値化したものをインプットして、あとは学習させて明確な個性を持った人格を形成していかなきゃいけないのに…。今の説明だと完成された人格をそのままインプットしてるってことになる)

 

ミッドチルダの人工知能は人格を数値化してインプットすると言っても、完全にその人物と同じ人格になることはなく、飽くまでも人物の模倣に過ぎない。

だと言うのにその宇宙人とやらは人格を完璧に複製できると言うのだ。

 

(肉体は無いとはいえ、それだとただのコピーっていうより人間の複製に近いぞ。そんなこといったいどうやって……)

 

ユーノが隠すことも忘れて思いっきりポーズを決めながら考え込んでいる隙に、なのはも思い付いた質問をする。

 

「はーい、わたしも一ついいですか?」

「いいぞ、なんだ?」

「そのコピーっていうのはどんな技術だったんですか?」

「そいつの星の科学技術と地球で学んだ魔術の賜物らしくてな、特殊な技術で作り上げた翡翠(ひすい)製の仮面に魔術で自分の人格を転写したそうだ」

「ヒスイ…って宝石とかに使われるあのヒスイですか?」

「ああ、そうだ」

「そんな石に人格なんて本当に宿せるものなんですか?」

「もちろんオレもそんなの無理だろって思ったが、実物を見ちまったからな。そんな無理を可能にしてんのがそいつの技術と魔術なんだろ」

「………」

 

その質問の答えを聞くとユーノは難しい顔をしながら黙り込み、優は青空を見上げながら物思いにふける。

 

(ケツアルクアトル…ちゃんと自分の星に帰れたんだよな…)

 

優はかつて共に戦い友情を育んだ宇宙人に想いを馳せ…

 

(そんな昔にそこまでの技術があるなんて……。この世界の大昔の文明って、下手をすればミッドチルダよりもずっと優れた文明だったのかもしれないな)

 

ユーノは質問の後は最後まで黙り通しだったが、「この世界は自分が思っている以上に秘密と危険性を秘めているのかもしれない」と警戒を強めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

優のいた世界での話ではあるが。


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