魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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なのはさん、顔見せです。


目覚める妖精 - 2

(ヤロウ、追いついたぜ!)

 

やっと被害を受けた建物の近くまでやってきた優。しかし安堵する時間など1秒もない。

 

「きゃっ!」

(こ、子供!?)

 

突如建物のある敷地内からイタチらしき動物を胸に抱えながら飛び出す少女が現れる。少女はまだあどけなさが顔に残る茶髪ツインテールで、大きく見積もっても中学生になっているかどうかといった年齢だ。いや、もしかしたら10歳にもなっていないかもしれない。

 

(イタチ、か…。気配が弱々しいな。さっき気配を感じなかったのはあの子供が抱えてたせいで弱い気配が隠れちまったってわけか。それにしても…)

 

優は一瞬だけ考えた。「子供が何故深夜の街を徘徊していたのか?」と。

子供が深夜に外へ出回る理由はそう多くはない。考えられる大まかな理由は、子供ながらの冒険心かもしくは何らかの不平・不満による家出といったところだろう。

 

だが今はそんなことは些細な問題だ。なんの抵抗もなく悪霊から逃げているのを鑑みると、どうやらこの少女は結界の主ではないらしい。そもそもこの若さでこれ程の魔術を使うなどあり得ないという話ではあるが。

では結界の主はどこにいるというのだろか?もしや自分だけは被害に遭わないよう気配を消して逃げ回っているのだろうか?それとも結界の外にいるのだろうか?

これが本当にそうであればただの臆病者に見えるかもしれないが、結界を展開している人物であるならば(加えて戦闘能力がないならば)、結界が破られる危険を避けるためにはそれが賢明ではあるので責めることはできない。

しかし目の前の少女の命が危機に晒されているのは間違いなく、悪霊はそれなりの移動速度に加えて物理的破壊力も大きいため、迅速に仕留めなければ被害は瞬く間に街中に広がってしまうだろう。

 

「グオオオオ!!」

「いやっ!」

 

黒い眼球に赤い瞳孔の入った目と大きく開いた口を持つ白濁色のスライムのような軟体の悪霊が、一時的に動きが止まったと思いきや再び動き出して少女を襲う。

しかしその時、優の腕から破裂音と共に流線型の小型金属塊が飛んでいった。

 

「ガッ!」

 

金属塊の命中した触手が弾け、それに驚いたのか悪霊が触手を引っ込めて後退する。

 

「て、鉄砲?」

「バカヤロー!早く逃げろ!」

「は、はい!」

 

優は手に持った拳銃を悪霊へ向けながら、へたり込む少女を一喝。少女はイタチを大事に抱えながら必死にその場を走り去っていった。

 

「グルルル…」

(さーて、どうすっかな)

 

霊的存在は物理的な干渉が可能なものも数多く存在する。しかし、その多くはただ()()()()()()()で、ダメージを与えられないことが多い。

殴ろうが蹴ろうが切ろうが砕こうが貫こうが焼こうが爆破しようが、基本的には短時間で元に戻ってしまう。先ほど優の撃った弾丸もその例外ではないということだ。

 

(見たところ実体は無い。ってことは…)

 

物理的干渉が可能な霊的存在は基本的に行動範囲が狭く、自ら霊質の違う土地へ移動することはない。理由は、それが存在する土地で縛り(結界や未練など)により妖怪や霊、又は人や動物の怨念などが大量に留まることにより生まれるエネルギー(霊気や妖気)を大量に取り込むことで大きな力を得た結果、霊体が実体に近い性質に変化するからだ。

逆に言えばその土地を離れると弱体化し、エネルギーの無い場所では最悪の場合消滅してしまうということでもある。だが当然ながら例外も存在する。

 

この一帯からは霊的なエネルギーが微塵も感じられない…ということは本来そこには強力な霊的存在はいないということだ。だと言うのに今、優の目の前にはそれがいる。ならば答えは例外の一つ……

 

(依り代か)

 

依り代とは霊的存在を降ろす際、その器として用いられる道具の事だ。降ろすと言っても実際には何も無いところから降ろすことはほとんど無く、周辺又は任意の場所に存在するものを降ろす。その種類は霊木・宝石・動物など非常に多く、降ろした依り代の用途は大別して…

 

○顕現させる…呼び出して使役する。

○隷属させる…従わせ、命令通りに動かす又は術者が能力を借りて行使する。

○封印する…中に閉じ込める。

 

この三つで、この中でもとりわけ多いのが封印の用途である。

依り代は用途に関わらず小さいものが多く、理由も「持ち運びやすい」「隠しやすい」という実に単純なものだ。だが残念ながらデメリットもある。持ち運びやすいということは盗まれやすいということでもあり、隠しやすいということは盗まれても気付きにくいということでもある。

逆に大きいものは不便な分監視しやすく、物によっては人力で運ぶのが困難な場合も多いので盗むのも難しい。

このような長短から危険度の高いものは大きい依り代、低いものは小さい依り代を用いるのが通例だ。ただし、依り代は用途によって使用できるものが限られている場合があり、またデメリット以上にメリットの方が大きい場合が多いので、現代ではできる限り小さい依り代を使いたがる者が多数を占める。

 

それらを踏まえて目の前の悪霊の事を考えてみよう。

この悪霊はまともな自我を持たず、優に追随する速度で飛行し、実体が無いにも関わらずコンクリート製の建物を体当たり一撃で粉砕するパワーも持っており、そのエネルギーは常に安定している。これは霊的エネルギーの無い土地では有り得ないことであり、それを可能にしているのが依り代だ。

 

(これ以上建物を壊されるわけにはいかねえ…)

 

降ろしたものは依り代の中にいる限り消耗することはなく、優れた依り代や相性の良い依り代は様々な特殊効果を持つものもある。

エネルギーが安定しているという事ことはエネルギーが減っていないことになり、エネルギー減っていないという事は常に依り代の中にいるということ。

また降ろしたものは依り代の中にいる限り、一部の例外を除いて力を使えない。つまりこの悪霊はその例外…「依り代の中にいながらも力を振るえる」ということになる。

 

(それにこの結界が絶対に破れないとも言い切れねえ。そうなれば一般人に被害が出ちまう。だったら……)

 

作戦を考えながらスーツの首の裏に付いているスイッチを押すと内側に空気が入り込んで肌とスーツが完全に密着し、優が気合を入れるとスーツが数倍に膨張。

 

「速攻だ!」

 

ここに妖精VS悪霊の戦いの火蓋が切って落とされた。


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