魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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男同士の秘密なの

「あ、今度はわたしからいいですか?」

「ん?なんだ?」

 

続いてなのはの質問。優は軽い気持ちで何でも答えるつもりだったが、これが意外にも答えに困る難問だった。

 

「そのスーツとか武器って普段はどこに置いてるんですか?」

「!?」

 

まるで登校時に初めて染井芳乃と出くわした瞬間のような顔になって絶句する優。

それもそのはず、A・Mスーツおよび各種武器は士郎が密かに借りている倉庫に仕舞っており、このことは家族には「絶対に他言無用」と頼まれていたが、誰にも話してはいないもののうっかりしていざ聞かれた時のための言い訳を全く考えていなかったのだ。

 

「今思えばなんですけど、あの日おとうさんにおみなえさんを運んでもらった時にはあったそのスーツと武器がなくなってるのを思い出して気になったんですよ」

「そ、それはオレが…」

「気を失ってたおみなえさんがどこかに隠すことなんて無理だし……他の誰かが隠した可能性があるとすればおとうさんくらいしかいないと思うんですけど…」

「………」

 

「でもおとうさんだとしたらその装備を隠した理由がよくわからないんですよね。わたしみたいにおみなえさんのことを知ってるならまだしも、普通は本物の鉄砲とか見たらすぐ警察に連絡くらいはすると思うんですよ」

「………」

「おみなえさん、もしかしてそれに関してなにか知ってたりしますか?それともやっぱりおとうさんがなにかおみなえさんのことを知ってるとか?」

(やべえ…どうするオレ…!)

 

しかもなのはは冷静に分析して士郎に辿り着きそうになっており、 優はバレかけているというプレッシャーと圧倒的に足りない時間という窮状極まるピンチの中でこの場をなんとか切り抜けるための言い訳を必死に考えた………が、しかし………

 

(実はわかってるけど……おみなえさんの口から本当のことを聞かせてほしいな)

 

そう……。

なのはは士郎がA・Mスーツと武器を隠したこと、優と士郎がそれに関連するなんらかの秘密を共有したこと、加えてその秘密を共有しつつ良好な関係になっていることを知っている。知らないのはその装備の隠し場所、そして優と士郎の秘密の内容だけだ。

優が士郎に隠されたはずのものを持っているということは、少なくとも「優はその装備を返しても暴れず、危険のない人物である」と士郎に信用されていることがわかる。

正直言って優の装備はA・Mスーツだけならまだしも、ナイフに拳銃に手榴弾という、平成のラ○ボーとでも言わんばかりに物騒なラインナップだ。一般人から見れば「怪しい」を通り越して「危険」や「凶悪」、果てには「人殺し」と見做(みな)されても文句が言えない代物ばかりである。

幻影ではなく物理的に自分の身体をフェレットのような姿に変身させる少年、人知を超えた力で暴れる化け物、そしてその化け物を屠り去る強大な力である魔法……そんな超常現象と言っても過言ではないものを立て続けに目撃した自分ならまだしも、そんな物騒な装備を見た父が何故平然としていられるのか……。

なのはにはそれが分からなかった。そして自分だけその秘密を知らないということに疎外感を覚えた。

 

本来ならば核心を突いた質問で問い詰めれば大抵の人間は真実を語り出すが、優の性格を考えるとただひたすらに問い詰めようとしても逃げるだけだとなのはは考えた。

だからなのはは鎌をかけた。

敢えて真実に近い推測という(てい)で質問することで優の下手な言い訳を引き出し、それを論破することによってごまかしが効かなくなった優が観念して本当のことを話してくれることを期待したのだ。

そしてその結果は……

 

「い……」

「い?」

「今は……話せねえ……」

「………」

 

これである。

なにかしらの言い訳なら追求のしようはあったが、このように回答自体を拒否されてしまうと取り付く島もない。作戦は大失敗に終わってしまったという訳だ。

 

「………そっか。じゃあ…仕方ないですね」

「………」

「でも…いつかきっと…話してくださいね」

「……ああ」

 

憂いを帯びた双眸(そうぼう)で貼り付けたような笑顔を作るなのはを直視できず、力無く相槌(あいづち)を打つ優であった。


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