「それじゃあさっそく訓練を始めようか。なのは、準備はいいかい?」
「うん!バッチリ!」
優の横槍により中断されていた魔法の講義も終わり、実際に魔法を使用した訓練が始まろうとしていた。
「じゃあまずは基礎からだ。心の中にイメージを描いてそのイメージを……」
「うん…」
なのはが始めたのは魔法の制御の基礎である魔力弾のコントロール。本来はこれを習得してから応用したり上級技術へステップアップしていく。……本来は、だが。
「うう~~…。うまくいかないよ~~!」
一時間後、なのはは魔力弾のコントロールを続けていた。魔力弾自体は撃ち出せるが、あらぬ方向へ飛んでいったりUターンして自分に戻ってきたりと散々なノーコンっぷりである。
「まだ初日だし仕方ないよ。…でも昨日は練習もせずにあんな凄いことができたのになんで基礎の方ができない…………はっ!!」
ユーノはある事態に気付いて急に言葉が止まるが、もう肝心な部分は全て喋ってしまっているので意味はない。
「………ユーノ」
「はい!何でしょうか!」
「すっかり忘れてたが…説明、してくれるよな?」
「わ…わかりました…」
予想通り優が静かにユーノへ語りかけてくると、ユーノは敬礼しながら優へ振り向く。ユーノは優の冷たい視線に冷や汗をかきながら説明を始めた。
「……以上です」
「………マジかよ………」
ユーノの撮っていた映像を、ユーノの解説を交えながら見た優は絶句した。
なのははユーノの援護すらなく、単独でジュエルシードの悪霊を3体同時に相手取り、それらを全て封印してしまっていたのだ。
しかもその時は飛行魔法・射撃魔法・防御魔法・封印砲撃魔法を全て使いこなしていた(ただしこの時の射撃魔法は接射だったのでコントロールの必要はなかった)。
「あの体当たりをノーダメージで完全に止める上にカウンターダメージを与えられる防御、長距離を正確に狙い撃てる上に当たれば一撃で終わる砲撃…。そして自由度の高い飛行能力に近接戦闘用の射撃…。
実戦ではうらやましいくらいに理想的なバランスだな。格ゲーなら間違いなく強キャラだ」
(かくげー?)
「あんまり認めたくねえが、ジュエルシードの無力化って点においてはオレよりお前の方が上みたいだな」
「えへへ。おみなえさんにほめられた~♪」
やっと自分を認めてくれたことに喜色満面となるなのはである。
「よし、決めた」
「え?なにをですか?」
「オレもお前の特訓に付き合う」
「「え!?」」
そして優の発言に対しシンクロして驚くなのはとユーノであった。
「でも魔法を使うのには興味なかったんじゃ?」
「魔法を使うのにはな。だがオレが付き合うって言ったのは魔法じゃなくてなのはの訓練だ」
「「………」」
呆気に取られるなのはとユーノ。2人は無言で向き合ってから再び優の方へ振り向き、ユーノが口を開く。
「どうしていきなりそんなに協力的になってくれるんですか?」
「あの映像だけで全部認めたわけじゃねえからな。どれほどのもんか確かめたくなったんだ」
「そ、そうですね…」
やっぱりそうですよね…と落胆の色を隠せないなのはだったが、優は言い過ぎたと思ったのか顔にしわを寄せて頭をかきながら話を続ける。
「…えーと、それとだな…。これから一緒に戦うんなら互いのことをもっとよく知っといたほうがいいだろ」
「え…」
「そうすりゃ連携もフォローもしやすいしな」
「お、おみなえさん…!」
優が渋々ながらも共に戦うことを了承してくれた。なのははその事実だけで胸がいっぱいになり、思わず目頭に熱いものがこみ上げてくる。
「…フフッ」
「なんだよユーノ、気持ちわりい笑い方だな」
「なんでもないですよ。気にしないでください。(やっぱりこの人…口は悪いけど優しい人なんだな)」
こうして優と2人の間に流れていた重い空気が浄化されるのだった。
(早いとこ芳乃と帰る方法は見つけてえが…)
優としては一刻も早く芳乃と共に元の世界へ帰りたいが、ジュエルシードの事を他人任せにするには危険な代物だ。
(あんなものを人の手に渡す訳にはいかねえ!)
生物に強大な力を与え、また自らも破壊の権化と化す悪夢の宝石ジュエルシード。オーパーツと同様の脅威となり兼ねないロストロギアの存在は、スプリガンの誇りに賭けて許す訳にはいかない。
(それになのはも心配だし……さっきはああ言ったが、ユーノの一族ってのを見捨てるのも寝覚めが悪いしな)
放っておけばどんな危険も顧みずに自ら厄介事に首を突っ込み兼ねないなのはと、一族の未来のために1人で責任を果たそうとしていたユーノ。
先程悪態を吐いたものの2人の強い意志を目の当たりにして少なからず影響を受けた優は考えを改め、年齢不相応な使命感を抱いている2人の力になろうと誓うのだった。
魔法講座と銘打っておいて冒頭で終了w