「まず始めに『リンカーコア』のことからお話しします」
「リンカーコア…」
「リンカーコアとは魔力の生成機関のことで、臓器のように体内に存在しますが、物理的な存在ではないので特別な手法でないと触ることも見ることもできません」
「じゃあオレにもそのリンカーコアってのがあるのか」
「魔法を使える人じゃないと見えないしさわれないってこと?」
「まあ、そういう認識でいいかな」
「そんなもんが普通の人に見えてたら手術の時にえらい騒ぎになるだろうからな」
「で、そのリンカーコアが大気中に漂っている『魔力素』と呼ばれる魔力の源を取り込んで魔力を生成するんですよ」
「その魔力素ってのはどこにでも存在するもんなのか?」
「理論上、故意に取り除かない限りは大気中に存在しない場所はないです。だから場所に関係なく、消費した魔力は休めば自然に回復します。
基本的には寝ると一番早く回復しますね。あと、リンカーコアを制御できるようになれば自然回復より早く回復できるようになりますよ」
「ふむ」
「そうして生成された魔力を特定の技法で操作して『変化』『移動』『幻惑』のいずれか単独又は組み合わせた作用を引き起こすのが魔法です。
もうちょっと分かりやすく言うと……自然摂理や物理法則をプログラム化してそれを任意に書き換えたり、書き加えたり、消去したりすることで前述の3つの作用に変える技法ですね」
「うーん…。ユーノくん、よくわかんないよー」
「そうだね…。作用を三つの絵の具、自然摂理や物理法則を水や油として考えればもっと分かりやすいかな。
要するに『三色の絵の具を水や油を加えて調整しながら組み合わせて自分に合った色を生み出して使うようなもの』、かな」
「三原色みたいなものなんだね」
「うーむ…」
「おみなえさん、どうしたんですか?」
「やっぱり似てるな」
「似てる?なにがですか?」
「オレの仕事で言う魔術とお前らの言う魔法がだ」
ユーノの魔法講座の最中、優が突然意味有りげな言葉をつぶやく。
「どういうことですか?」
「物理法則を書き換えるのが魔術とかって話はオレの仕事仲間から聞いたことがあるんだ。それに『魔術はいつか科学で解明できる』とも言ってたな」
「ボクの知ってる魔法は素質云々は抜きにして、技術として体系化されていますよ」
「そっちの魔法は解明って点においては遥か先に進んでるんだな」
似たもの同士である魔術と魔法ではあるが、こちらの世界の魔法は優のいた世界の魔とは比べ物にならない程に発達しているようだ。
「まあ、そいつの使う魔術は日本の陰陽道とか中国の仙術とかその他色々な術のいいとこ取りらしいからかなりややこしいんだが、そいつの中では既になんらかのロジックができてるからこそのハイブリッドなんだろうな」
「それって呼び方が違うだけでこっちと同じ魔法ってことじゃないんですか?」
「オレは魔術の専門じゃねえから断言は出来ねえが、お前らが魔法を使ったところを見る限りプロセスや作用がちがうみたいだ。オレの知り合いのはそれらが別のもんに見えたぜ」
優の話している人物の名は「ティア・フラット」。スプリガンに所属しているS級特殊工作員の1人だ。
彼女の組織での立ち位置は特別なもので、アーカム財団に協力はしているものの、生い立ちやアーカム財団に協力する理由など全ての素性を隠しており、彼女自身は協力的ではあるものの命令の拒否権や単独行動の権利を与えられているためなにも強制できないのだ。
そのため、優はおろかアーカム財団の誰一人として彼女の秘密を知っている者はいないという訳だ。
「それは興味をそそられますね。その知り合いの人はどんな魔ほ…魔術を使うんですか?」
「本人曰く何百個も使えるらしいが、オレはそのほとんどを見たことがねえ。よく使ってたのは空間歪曲、物質透過、
「く…空間の創造!?どんなものなんですか!?」
「地面も空気もあるが真っ白でなにも無い、そして無限に広がってて、出口が存在しない空間だ。しかも本人だけは出入り自由なんだぜ。
オレはお仕置きで一回閉じ込められて、たった数時間で気が狂いそうになったんだ」
「こ…怖い人ですね…」
「だろ?」
そんな正体不明の女をアーカム財団が抱え込んでいる理由は、世界中を探しても存在しない…彼女の唯一無二の技術である「術式の応用・合成」によって、戦闘だけでなくあらゆる任務を極めて高いレベルで遂行することができるからに他ならない。
これほどに優秀かつ貴重な人材を招き入れない理由もなく、また彼女の能力を他の敵対組織に使われることで彼女が極めて重大な障害になってしまうことをアーカム財団は恐れていたのだ。
「やり方は!?いったいどうやってそんなものを作ってるんですか!?」
「はっきり言ってわかんねえが、あいつは間違いなく遺跡の力を使ってねえ。しかも相手の警戒を他に向けさせてる隙にいつの間にか使ってるから、発動時間も多分数秒程度だ」
「たった数秒でなんの補助もなしに!?」
「厳密には一度作った空間がそのまま残ってて、そこへの出入り口を開閉してるんだそうだがな」
「それでもそんな空間を作れるなんてすごいですよ!そんなの人間業じゃない…神業だ…」
どうやらこちらの世界でも空間の創造まではできないらしい。考えてみれば敵味方含めてもそんなことができる人物はティア1人しか見たことがないので、優にしても大変に珍しい訳ではあるが…。
「神…ねえ。まあ、神かどうかは置いといてそいつはホントに人間じゃねえんだけどな」
「ど、どういうことですか?」
「『魔女』だからだ」
「魔女?魔術師じゃなくて魔女ですか?」
「ああ」
このように優秀な人材であると同時に危険人物とも言えるティアだが、彼女の生い立ちについて1つだけ信憑性の高い推論がある。
「魔女ってホウキに乗って空を飛んだり、杖を振ってチチンプイプイみたいな呪文を唱えたりするみたいなイメージしかないですけど…」
「そりゃマンガのイメージだろ。本人から聞いた訳じゃねえけど、見た目は20代後半くらいだが実年齢は多分100歳どころじゃねえはずだ」
「ひゃ…」
「100歳以上…!」
「年齢については職場にも秘密で、年齢のことを聞くと怒るから確かめようもないけどな」
「そんな年齢で20代の若さを保ってるってことは………不老不死の魔術でも使ってるんですか?」
「魔術かどうかはわかんねえし不死かどうかは知らねえが、少なくとも不老能力だけは確かにあるな」
ティアは各分野の術式やオーパーツについて広いだけでなく深い知識を持っており、中には現代では解明されていなかったり、敵対組織との戦いの中で失われたものや、80年前にアーカム財団に封印されて以来内部の人間でも極一部の者にしか伝えられていないオーパーツのことを彼女は知っていた。これは少なくとも80年は遡り、その80年前の時点でそれなりの年齢でなければあり得ないことだ。
ただし、前述通り本人に確かめることは不可能であるため、これは飽くまでも推論である。もっとも、年齢がわかった程度で大した意味はないので気休め程度あるが。
「はあ~〜~…。おみなえさんの仲間ってすごい人がいるんですね」
「それだけじゃねえぞ?他にもヘタな国の軍隊より強い少人数のコンバットチームとか、バカな獣人とか、世界最強の氣法師とか…他にも色々いるぜ」
「もう守護者っていうよりは超人の戦闘集団ですね…」
「それくらいのメンツじゃないと遺跡の先取りはも守護もできねえってことさ。さあ、そろそろ本筋に戻ろうぜ」
「あ、そうでした」
「おみなえさんが自分で逸れていったのに…」
「そうだったか?」
魔法講座から思わぬ方向に逸れていった話ではあるが、なのはとユーノはこの話を聞いて俄然優の話に興味を持つのだった。
ティアの年齢は原作では最終話にて発覚しましたが、当初はあまりにも唐突なカミングアウトにびっくりした記憶があります。