一応言い訳しておきますと、今回の話は優の命に対する意識を強調させるためにあえて厳しめにした次第です。
「………」
(核心はここからか)
ユーノはしばし沈黙するが、やがて観念したのか一つ深呼吸をしてから静かに語り始めた。
「………僕はジュエルシードが危険だと判断し、輸送用次元船を手配して管理局へ運んでいる途中……事故に遭って船は沈み、事故の影響でジュエルシードは…この世界に全部ばら撒かれてしまったんです…」
「その事故はお前のせいってのはことなのか?」
「事故の原因は不明です。でも考えられる可能性で一番高いのは……」
「………」
「ジュエルシードの…暴走…!」
ユーノは顔を伏せ、身体を震わせ、歯噛みしながらも全てを語った。
優は暫し黙り込み、徐に口を開く。
「暴走……。じゃあ昨日のあれはその影響ってことか?」
「……あれは少しちがいます。この世界にばら撒かれたジュエルシードは幸い封印状態ですが、それが人の強い意思や魔力によって発動し、暴走したものです」
「ふーん。じゃあもう一つ聞くけどよ、仮にお前のせいで暴走したんだとしたらどうしてそうなったと思ったんだ?」
「これは推測ですけど…遺跡に眠っていた時は僕にはわからない複雑な封印が施されていたんだと思います。僕はそれを知らずにいちおう念のためにと自分で簡易な封印を施したんです…。それが原因で…封印が乱れてこんなことに…!」
(…なるほどな。それなら悪霊があんな状態で動き回れたのもある程度合点がいくな。要するにユーノの封印術のせいで本来の強力な封印が乱れておかしな術になっちまったってことか)
ユーノは9歳という若年者にして優れた結界術を操り、発掘現場の指揮を執れる程の実績と信頼があり、人格も年齢不相応に責任感の強い面がある。
それ故に周囲の期待も大きく、発掘作業の指揮は彼にとって誇らしくはあったが、同時に責任者としての重責が彼の心を強く圧迫してしまっていたのだ。
ジャンルに関わらず初めての大役が失敗に終わることが仲間の信頼を失い、取引先の信頼を失い、自信を失うことになるというのはそう珍しいものではない。
況してや才能に溢れていると言ってもまだ精神的に未熟な少年だ。「その失敗で周囲がどれ程の被害を被るのか」……彼はそれを恐れてこのような行動に写っている面もあるのだ。
「だからこれは僕がやらなくちゃいけないんです。なんとしても全部回収して封印しなくちゃ…!」
「……で、結局全部で何個あって、今現在は何個回収したんだ?」
「……ジュエルシードは全部で21個。今現在は僕が自分で回収した1個、御神苗さんが倒した1個………。そ、その後更に回収したのが3個………。合計………5個です」
「……ちょっと待て。最後の3個はなんなんだ?誰がどうやって回収したんだ」
「………それは………」
《ユーノくん!それは言っちゃ…》
「…!!」
師匠ほどではないとはいえ、気配の察知能力の高い優は共に話を聞いていたなのはの動揺に気付き、すぐさま答えを導き出した。
「まさかなのはにやらせたのか!?」
「うっ…!」
図星を突かれたユーノは最早、誰と目を合わせることもなく震えるばかりだ。しかしそのまま黙することを許す優ではない。
「てめー…。さっきは自分で全部回収するようなことを言ってたよな…」
「…!」
「なのに今は危険なことをなのはに任せて、自分は陰に隠れて高みの見物か」
「ち、ちが…」
「アンドヴァラナウトでなのはを洗脳でもしたのか!?力を与えたのか!?」
「そんなこと…!」
てめーの不始末を他人を利用して尻拭いさせてんじゃねえ!!」
「ちがう!ボクは!」
優はなのはのことで頭がいっぱいになっており、感情を抑える余裕は無い。相手が9歳の子供であることも忘れて感じたまま、思ったままの全てをユーノにぶつけ始めた。
「てめーは戦いとは無縁のガキを命懸けの戦闘に巻き込んで何とも思わねえのか!」
「僕だって好きでなのはに頼んだわけじゃない!でも僕は!…僕には力が……事を為す力が無かったから……!」
「だったらてめーの仲間に頼めばよかっただろうが!」
「一族みんなが僕みたいな力を持ってるわけじゃない!だから僕がやらなくちゃいけなかったんだ!」
「バカかてめー!それなら管理局に頼め!なんのための管理局だよ!次元世界を管理してるんだからそういう戦力くらいあるだろ!」
「もし管理局にこれを知られたら…一族が管理局からの信用を失ってしまうんだ…!」
「信用なんか後から取り戻せるじゃねえか!命は一度失ったら二度と取り戻せねえんだぞ!」
「!!…うううっ…」
優の言葉が次々と胸へ突き刺さる。ユーノはとうとう反論することもできなくなり、動物のつぶらな瞳から二筋の液体を滴らせた。
「な、泣いたって何も変わらねえぞ!」
「うっ…あああ…」
それでも優の叱責は終わらない。終わらせる訳にはいかない。
優は最早染井芳乃や帰還方法のことなど二の次。決してユーノが憎くてこんな事をしているわけではなく、命を軽んじている節のあるユーノに考えを改めさせるために厳しい物言いをしているのだ。
「うっ…うっ…」
「……わかったらいつまでも泣かねえでさっさと管理局に応援を要請して二度となのはに…」
「もうやめて!!」
「「!?」」
そこへ可愛らしくも猛々しく、若干怒気を孕んだ第三者の声が二人の耳を