魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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最初のうちは登場人物が少ないです。


第1章 始まりの妖精
目覚める妖精 - 1


(教官……オレは……)

 

罪の意識と信じていたものに抱いてしまった不信感にうなされながら目を覚ます優。

 

「……ここは……」

 

朦朧とした意識の中、ぼやけた視界で辺りを見回すと、ここはブロック塀で区切られた夜の住宅街の一角だった。家の造りや立っている標識を見る限り、どう考えてもここは日本のどこかである事が伺える。

 

優は考えた。

幽霊島付近にいたはずの自分が何故、日本の住宅街の中で気絶していたのか?

幽霊島の暴走は止められたのか?

船長達は無事に逃げられたのか?

あれから何時間、あるいは何日経ったのか?

 

これらはいずれも大事な問題だ。だがそれらにも負けないくらい大きな問題がもう一つあった。

 

「芳乃………芳乃は!?」

 

己の身をも顧みずに自分を助けようとしてくれた女の事を思い出し、辺りを再び見回しながら同時に気配も探る。

 

「………くそっ!」

 

周りには人はおろか野良猫の一匹すら見当たらず、風も無く、動いている生物の気配すら感じられない。住宅の明かりも全く見えないところを見ると、どうやら現在の時間帯は深夜。正に草木も眠る丑三つ時というやつだ。

街中とはいえ、一般市民ならば殆どの者が眠っているであろうこの時間帯は、街灯が夜道を明々と照らしながらも不気味なほどに静まりかえっている。

 

(待ってろ……借りは必ず返す……!)

 

優は直ぐさま立ち上がり、芳乃を探すために気配を探りながら走り始めようとした瞬間、周辺が異様な気配に包まれるのを感じ取った。

 

(この感じ…結界か?しかもこれは…)

 

優は以前、「今世紀最悪の黒魔術師」と呼ばれる「ヘウンリー・バレス」という男の手によって闇の世界に閉じ込められた事がある。その際に使われたのが、結界内の影を異空間への扉に変え、その影に触れた者を飲み込むというものだ。

闇の世界は闇の亡者(死者の怨念が悪霊となったもの)と生者を閉じ込めるものだったが、この結界はそれと似た気配で、闇の亡者に似た()()を閉じ込めようとしているようだ。また闇の世界は通常空間から隔絶された異空間にあるが、この結界は空間自体は移動していない。それにも関わらず、この結界はその何かを残して人のみを中から消してしまっている。

優は走りながらこの結界の詳細を分析する。

 

(まさかこの一帯の人を位相をズラして隠したってのか!?)

 

ありえない結論だった。

結界術は発動条件が厳しく発動に要する時間も長いため、基本的には遠隔で発動するか、止むを得ず近距離になる場合は発動まで他者に守ってもらう必要がある。今回の場合は近くに人はいないので遠隔発動ということになる。

また結界の範囲は相当広く、走り始めてから既に数百メートルは走っているのに結界の端に当たらない。

善悪は抜きにして魔術師としては極めて優れたヘウンリー・バレスでさえも、短時間で発動する場合は触媒を用いて近距離にいる者のみ限定で範囲内の対象を同時に異空間に飛ばすので精一杯。結界内限定だとしても、これ程の広範囲の空間そのものを加工して数十人から下手をすれば百人単位で同時に隠してしまうなど到底人の為せる業とは思えないものだったからだ。

厳密に言えば完全に不可能という訳ではないが、実現するにはヘウンリー・バレス並みの魔術師十数人と莫大なエネルギー、そして強力な魔術用触媒が大量に必要だろう。……もっとも、何らかの遺跡の力を使えば大掛かりな準備をしなくとも、1人でも不可能ではないだろうが……。

 

(とんでもねえ魔術師がいたもんだ。……だがなんでオレは残されたんだ?)

 

優の疑問は当然のものだ。結界内に特定のもののみ閉じ込める場合は、展開時にその特定のものに合致する条件を満たしたもののみを閉じ込める又は結界から弾き出すようプログラミングしておく必要がある。

だが優は当然ながらただの人間だ。霊的な存在と合致する条件などある筈がない。

 

(とりあえずそいつに会わなきゃ話になら…)

 

《助けて!》

「!?」

 

考えている最中、突如優の頭を叩く少年の声。優は慌てて立ち止まり、気配を探りながら辺りを見回す。

 

(やっぱり辺りに人の気配はねえ……ってことは頭に直接声が…!)

 

当然ながらこの結界内には優以外の人間はいない…筈だ。他にいるとすれば、この結界を展開した人物以外にはありえない。

 

(テレパシストが実際にいるなんて聞いたことねえぞ!つーかなんで同時に使ってやがんだ!?)

 

優は仕事柄命懸けの戦いを数多く経験しており、それ故に特殊な能力を持つ者と戦った回数も多い。その者達は、超能力者や魔術師・霊媒師、獣人やサイボーグなど様々だ。しかしそれらの全ては各々の分野の延長線上の領分でしか能力を使えない。魔術師は例外的に系統の違う複数の力(魔術)を使えるが、同時に複数の力を使える者は一部の例外を除いて存在しない。

ところがこの結界の主は全く系統の違う能力を同時に使用している。こんな能力の使い方は本来絶対に有り得ない、ヒトの領分を超えた所業だ。それも人間一人では到底不可能な結界を展開しながらとなると、その人物がどうやってそのような不可能を可能にしたのかがはっきりと見えてくる。

 

(何かの遺跡の力を使ってやがるな…!)

 

仮にその人物がその力を悪事に使っていないならそれに越したことは無い。実際にわざわざ民間人を避難させた上で悪意ある何かを閉じ込め、助けを求めている経緯を見ると悪事を働いているとは思えず、助けを求めるということは結界内にいる可能性が高い。

しかしながらその力を悪用する可能性も無いとはいえないため、優は万が一の時を想定しながら結界内にいるであろう結界の主を探す事にした。

 

(さて、朧ほど正確じゃねえが…試してみるか)

 

優は気配の通りを良くするために民家の屋根の上に飛び乗り、極限まで意識を集中すると……

 

(…よし、いた!)

 

遠くに微かな一つの生物の気配を感じた。それを辿るべく屋根から屋根へ飛び移ってショートカットしながらそこへ向かう。

 

(ん?閉じ込めようとしてたのはこの気配の主か…!)

 

動き出して数秒ののち、突如現れたもう一つの気配がそのせいぶの向かう方向と同じ方向へ急速接近しているのを感知した。

優が感じたのは妖気。恐らくはほぼ自我を持たずに一つの意志のみで暴威を振るう悪霊の気配だ。悪霊は思いの外速く飛んでおり、あまりにも突然の出来事に反応が遅れてしまった優はそれを後追いするが、追い付く前に暴れ出して建物を破壊してしまう。

 

(やべえ、気配のある方に向かってやがる!それに建物も…!被害が広がる前に何とかしねえと…!)

 

こうなれば残された猶予は多くない。優は屋根から屋根へと飛び移りながら必死に悪霊を追って行った。




テレパシーを使うキャラはスプリガンにも登場しますが、出てくるのは幽霊島のエピソードの後なので優は知らないという事になっています。

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