「ユーノ、ちょっと話があるんだが…」
「はい、どうぞ」
優は神妙な面持ちで再度ユーノを見つめ直し、問い掛ける。
「今からその時空管理局ってのに連絡は取れるか?」
「今、ですか…。急にどうしたんですか?」
「次元漂流者の中にオレの知り合いがいるかもしれねえんだ。それを問い合わせてみてえ」
「………」
優の話を聞くや否や俯いてしまうユーノだったが、数秒後に顔を上げて優の目を見つめながら先程の質問の答えを述べる。
「結論から言うと…可能です」
「結論から、か…なんか含んだ言い方だな。なにか面倒な条件でもあるのか?」
「条件とかそうという類いのものじゃないんです。これは単なる僕の………」
「………」
「僕の…責任なんです」
「責任?」
とても9歳とは思えない程に憂いを帯びた目になるユーノ。こんな年端も行かぬ少年に一体どのような責任があるというのだろうか?
「お前みたいなガキにいったいなんの責任があるってんだ?」
(高校生もまだ子供だと思うんだけどなぁ)
「なのは、なにか言いたそうな顔してんな」
「ナ、ナンデモナイデスヨ?」
なにか言いたそうななのはは顔を引きつらせながらたどたどしい日本語で否定した。
「昨日の化け物……あれは僕のせいで現れてしまったんです」
「…なに?」
「ユ、ユーノくん!あれはユーノくんのせいじゃ…」
「なのは、黙ってろ」
「…!!」
「どういうことだ、ユーノ」
昨日現れた、悪霊が封じ込められていた青い宝石。それを「この街に現れたのは自分のせいだ」とユーノというこのフェレット……否、少年が苦々しい表情で発言する。
どんな事情があるのかははからないが、人命に危機が及ぶ程の事件に発展してしまった事は看過できるものではない。優は無意識にとはいえユーノを仇敵でも見つけたかのような目で睨み付け、僅かに感情を高ぶらせた。
なのははそれを肌で感じて竦み上がり、恐怖で声が出なくなってしまう。
「………ぼ、僕はここ近年、故郷の世界で古代遺跡の発掘の指揮を執っていました。その中で見つけたのが昨日の化け物が封じられていた宝石…ジュエルシードです」
(その歳で発掘作業か…)
ユーノの仕事内容を聞いて優は自分の幼少期を思い出す。
優の両親はアーカムの発掘隊の一員で、優が物心付いた時から家族で世界中を飛び回る日々を過ごしていたが、幼かった彼は両親の仕事内容をほとんど理解していなかった。
だが両親の好奇心と誇りに満ちた目を見てそれがこの上なく楽しく素晴らしい仕事だと本能的に理解し、彼自身もまた両親を誇らしく思い、「大きくなったら自分もこの仕事をしてみたい」と強く考えるようになっていったのだ。
彼が5歳になって間もない頃までは……。
「文献によるとジュエルシードは『願いを叶える宝石』と呼ばれていて、手にした者は望んだことが現実になるそうです」
「願いを叶える?そんなものがホントにあるわけねえだろ。ドラゴ○ボールかよ」
「ロストロギアの力は本物です。文献そのままの力ってことはボクもないとは思いますが、少なくとも人の想いに関わる力を持っていると思いますよ」
「結局想像かよ。連想ゲームじゃねえんだぞ」
「すみません…」
(つーかあの中に入ってた悪霊はただ猪突猛進に暴れるだけのバケモノだ。しかも放置していれば永久に暴れ続ける、な。だが問題はそこじゃねえ)
悪霊がそのような力を持っているかは不明だが、悪霊自体の戦闘能力は然程高いものではなかった。
では何故悪霊はあの宝石の中に封印されていたのか?
悪霊は少なくとも封印が必要なほど強くはなく、戦闘に限って言えば特別な処置で使ってやる価値などない。ならばそこまでして使う可能性は1つ。
[戦闘能力以外に特筆した能力を持っている]
そこで優はその能力がどのようなものか推測した。
それに当たって文献の内容は信用に値するものではないが、だからと言って全く参考にならないと言うほどのものでもないため、「願い」をキーワードに推測を進める。
「もっとそのジュエルシードとやらの具体的な情報はねえのか?」
「はい、僕達の一族ではこれ以上のことは…」
人間の願い……すなわち欲望は星の数ほどあれど、大別すると以下の4つに分けられる。
○富(物理的な充足)
○名声(他人の自分に対する認知)
○力(才能、特殊能力など)
○その他(上記以外)
富・名声は結果が出て初めて成就したと言えるものなので即座に実感はできず、更には物理的・精神的に「無」から「有」を生み出したり、時には因果を捻じ曲げる必要があるため実現は不可能なものが多いと言える。
しかし力は別だ。ほぼ100%の確率で自己が対象となり、自己という物理的存在を使用する…有り体に言えば「人体改造を行う」ということなので富・名声と比べれば容易と言える。もし仮に悪霊が自分を使用した相手になんらかの強大な力を与えられるとすれば、それは願いを叶えられると言い換えてもいいだろう。
優は悪霊の特殊能力が、より現実的である「なんらかの力を与える能力」であるという結論に至った。
(だとすればやっぱりヒトの手に渡るのは避けなくちゃならねえな…)
世の中には優のように力に溺れない人間ばかりではない。そしてそれを与えるのがあのように凶暴な悪霊である以上は、力を振るわれる者だけでなく力を振るう者にも危険が付き纏うのだ。
「でもあんな暴走が起こる物である以上、危険な物であることは明白です。だから責任者であるボクが…」
「待て。この世界にどうやってジュエルシードが来たのかって説明がねえぞ」
「………」
(……ここからが核心か)
そして優の確信通り、ユーノの「自分の責任」の意味がここから語られることとなるのだった。
今回はなのはが一回も出て来なかったw