(次元世界に時空管理局…って言ったよな、こいつ)
優は胡座をかき、頬杖を突きながら沈思黙考に突入する。
(さっきの話しぶりから察するに、時空管理局…ミッドチルダってのが宗主国みたいなもんで、他の世界が従属国みたいなもんか。
で、『全く違う世界』ってことは全く同じ存在は無いってことだ。…となると管理してる世界には並行世界は含まれてねえってことになる。元の世界に戻るためのヒントになるかと思ったが…当てが外れた、ってことになるのか…)
ユーノの心配とは裏腹に、優は自分が並行世界から来た事もあってやたらにあっさりとユーノの話を信じてしまっていた。
(そんなバカでかい組織が並行世界を管理してねえとなると……並行世界は存在してないと思ってるか、下手すりゃ並行世界って概念すら無いかもしれねえな。
もしそんな怪しい世界から来た人間がいるってわかったら時空管理局も黙っちゃいねえだろう。時空管理局がまっとうな組織ならいいが、生の情報が入らない以上は信用できねえ)
この時優の頭を過ぎったのは、もちろん元の世界で所属していたアーカム財団だ。
次元世界全体を守るという想像もつかないような大規模の組織である時空管理局だが、元の世界におけるオーパーツにあたるロストロギアという危険な力を管理して均衡を保つという意味ではアーカム財団と時空管理局はよく似ている。しかし、それ故に優は時空管理局に対して一抹の不安を覚えたのだ。
(ややこしいことにならないように、今はこれ以上元の世界のことは話さねえ方がいいな)
先日の幽霊島での戦いにおいて、信じていた師・ボーマン。彼がアーカムを裏切り、敵対するに至ったのには深い理由があった。
"アーカムが必ずしも正しいことをしているとは限らない"
彼はこう言った。
「これこそが自分の生きる道」とその仕事に誇りと使命感を持っていたボーマンは、直接師事していた優ですら信じられない「裏切り」という行為をもって優に牙を剥いた。
直接対峙した優は、ボーマンが裏切る以前となんら変わりのない誇りと使命感を持っていることに、決着してからようやく気付いたのだ。同時に「アーカムは確実に裏で間違ったことをしている」と確信してしまったのだ。
こうなるともう以前のように働くことなど出来はしない。それ故に優は幽霊島を脱出しようとした際にはアーカムに幽霊島を渡さないため、データプレートをその場に故意に放棄してしまったのだ。
そしてそれは時空管理局にも全く同じことが言える。
そもそもロストロギアの有無以前に、幾つもの世界を管理するなどという空前絶後の巨大組織は、裏を返せば時空管理局に並ぶ組織は存在しないということを示している。
これは詰まる所、そんな巨大組織がもし万が一にも暴走した場合に止められる組織も存在しないということだ。
時空管理局と同様の性質を持つ組織が自分の知らないところで暴走を始めてしまっていた以上、時空管理局もそうなる可能性が高いというのは自明の理。そんな危険性を秘めた組織に貴重な情報と自分の身柄をどうして預けられようか。
優の心はそんな不信感で満たされていたという訳だ。
…ん?待てよ。そういや時空管理局が次元世界を管理してるってことは…)
しかし優は、自分が今為すべきことを改めて考え直した結果、1つの可能性に気付いた。
「…やっぱり…簡単に信じてはもらえないですよね…」
「また質問、いいか?」
「あ、はい。どうぞ」
一通り考えがまとまった優はまた浮かび上がった疑問を問う。
「管理局ってのは次元世界を管理してるって言ったよな。…ってことは、自由に次元世界を渡る技術を持ってるってことか?」
「はい、技術も手段も管理局が持っています。でも手続きさえすれば誰でも渡ることができますよ」
「………そうか。じゃあ質問を変えるぜ。例えば…次元を渡る技術もなにも無い奴が何かに巻き込まれて別の次元世界に飛ばされちまう、ってことはあり得るか?」
「うーんと…。ボクは実際に見たことは無いですけど、管理局の方では色々な経緯でそういう人を発見して保護することはたまにあるみたいです。ちなみにそういう人のことを、こっちの言葉で次元漂流者って言います」
「!!」
「えっ?」
ユーノの口から聞きたかった答えを聞けた優は、目を見開いてユーノの顔に迫って来る。今までに無い程の剣幕で迫る優に、ユーノは思わず息を飲んだ。
「その話、本当だろうな!?」
「は、はい!本当です!間違いありません!」
優は答えを確認しつつ数秒間ユーノを睨み付けると、顔をゆっくりと引き、座り直して先程と同じく無言になって考え始めた。
(……やっぱりどう考えても並行世界が次元世界と無関係だとは思えねえ。そして管理局は次元世界を自由に渡れる。だったらもしこれらの関連性が証明されれば、元の世界に戻る方法が見つかるかもしれねえ。
それに管理局が次元漂流者ってのを保護してるなら、ここに留まって闇雲に探すより管理局に照会するか探してもらう方が
何の手掛かりもなく、どの次元世界にいるかどうかもわからない状態で人探しをするなど砂漠で指定された一粒の砂を探すようなものだ。本来ならば身の安全のために自分の存在は伏せておくべきだったが、それを捨ててでも賭けるべき可能性が見つかった。
(待ってろ、芳乃…!!)
己の身を省みずに自分を救おうとした少女に報いるため、優は決意を固める。
「ユーノ、ちょっと話があるんだが…」
そう……「今度はオレが助ける番だ」と。