「よし、じゃあまずさっきの質問に答える……前にオレから一つ質問いいか?」
「は、はい。どうぞ」
ユーノが警戒心解いたことで優も落ち着き、互いに対面で座り込んで話し合いが始まった。
「お前、結局何者なんだ?しゃべってるってことは人間なのか?」
「御察しの通りボクは人間で、この身体は変身した身体です。だからそのフェレットっていう動物とは身体の構造が違うので、人間と同じように声が出せるんです」
「ふーん、そうか」
「にん…げん………人間!?」
「ん?なのは、どうした?」
「あ…」
ユーノの答えを聞いた途端、なのはが異様に食い付く。いったいどうしたのかと優が聞くがなのはには聞こえておらず、なのはは瞳を顔を紅潮させながらユーノを睨み付けた。
肝心のユーノは恐る恐る上目遣いでなのはの機嫌を伺っているように見える。
「ユーノくん…」
「は、はい…」
「あなた、変身してるって言ってたけど………性別は………」
「お………」
「…お?」
「男……」
「…!!!」
なのはは更に顔を紅潮させ、今にも湯気を立ち昇らせそうな程に真っ赤に染まっていった。
「ユーノくんのエッチー!!」
「うわ!ちょっ!やめ!」
「オレ知ーらね」
なのはは羞恥と怒りを足して2で割ったような表情で、先刻優と激闘を繰り広げた士郎を彷彿とさせるような竹刀捌きをユーノに披露し始めた。
「えーと、次はなんだっけか」
「僕の…ハア…質問に…ハア…答えて…ハア…くださると…ハア…」
「無理しないで呼吸を整えてからしゃべっていいぞ」
3分後、今にも倒れそうなくらい疲れたユーノはなるべくなのはの目を見ないように優の膝下に座り込んだ。
「んじゃ、改めてもう一回頼むぜ」
「はい。あなたは何故そんなに僕のことや、家宝の……この指輪のことに詳しいんですか?」
「仕事柄そういう知識が必要で、色々調べてたらやたら詳しくなっちまってな……ってこれ、言ってもよかったかな…」
思わず自分がやっていた仕事の内容を口から滑らせてしまい、戸惑う優だったが……
「ま、同じように隠し事があるお前らなら大丈夫か」
意外にもあっさりと素性を(少しだけだが)明かす事を決めた。
「ちなみに指輪の名前はアンドヴァラナウトな。それもオレの仕事の界隈じゃ有名なオーパーツだからだ」
「オーパーツ?なんですか?それ」
「『
オレの仕事ではもっと短くして『遺跡』って呼んでて、古代どころか現代の技術ですら製造不可能な上に、人知を超えた力を持つ物のことを指してるんだ。伝承や神話で語られるようなものがゴロゴロしてるぜ」
「人知を超えた…。この世界にもそんなものがいっぱいあるんですか…」
(ん?「この世界?」)
「こっちもだいたい同じようなものがありますね。こっちではそれをロストロギアって呼んでます」
「同じようなもの、か。まあとにかくだ。その遺跡を悪用されないように、他の誰よりも早く発掘して封印するのがオレの仕事の最大の目的だ」
「遺跡を発掘…封印…」
「おいフェレット、どうした?」
「い、いえ…。続きをお願いします」
「……で、アンドヴァラナウトの話に戻るんだが…。アンドヴァラナウトは遥か昔にアンドヴァリっていうドワーフが黄金を無限に生み出すために作ったって言われてる指輪だ」
「黄金を無限に、ですか?なんのために?」
二人の間に突然なのはが割り込んで質問をし、優はそれに応じる。
「さあな。でも多分昔の人は金銀財宝に目がなかったんだろうな」
「へえ…」
「他の神話とかにも黄金を求めた話はいくらでもあるし、今話したアンドヴァリは生み出した黄金を洞窟に全部ぶち込んで自分一人で守り続けてたっていうしな」
「昔の人って意外と欲深いんですね。あ、そういえば人って……ドワーフもいちおう人なんですか?」
「ドワーフが本当に現在に伝えられる通りかはわからねえ。何気なく人って言っちまったが、もしかしたら人じゃないかもしれねえな。だが少なくともアンドヴァラナウトのようなとんでもねえ道具を作り出す技術を持ってたのは確かだ」
「たしかに目の前に実物がある以上、それは疑いようがないですね」
ここでユーノが優の説明に深く頷く。いつの間にかなのはとユーノは優の話にのめり込んでおり、興味津々に優を見つめながら耳を傾けていた。
(だが問題は「なんでこっちの世界にアンドヴァラナウトがあるのか」ってことだ)
「………おみなえさん?」
「…わりい、じゃあ続けるぞ。アンドヴァラナウトが黄金を生み出すってのは今言ったが、それの力はそれだけじゃなかった。厳密に言えばそれはアンドヴァラナウトの能力の一端に過ぎなかったって訳さ」
「それがさっき言ってた…」
「そう、莫大な力と強力な触媒、複雑な演算を高速処理する機能…つまり強力な魔術を使用できる能力だ。欲に目が眩んでたアンドヴァリは黄金を生み出す以外の使い方を考えてなかったが、本人が気付かなかっただけで他にいくらでも使い方はあったんだ」
「「………」」
「ところでフェレット。その指輪、いつ・どこで・どうやって手に入れた?」
「そ、それは…」
「ん?なんか話しにくいことでもあったか?」
「………僕の一族は昔から遺跡の発掘を生業にしていて、何代か前のご先祖様が発見して以来、僕の家系に受け継がれていたんですよ」
「遺跡の発掘!?」
「やっぱり…そうなりますよね…」
ところがユーノの生業を聞いた途端、優が突然騒ぎ立てる。ユーノはこの反応を予想していたようだ。
「おみなえさん!落ち着いて!」
「大丈夫だ、もう落ち着いた」
そう、確かに落ち着きはした。そして落ち着いた結果、新たな疑問が浮かび上がってきてしまった。
(資料見て知ってただけで実際に見るのは初めてだが…デザインも機能もオレの世界にあったアンドヴァラナウトと同じだ。並行世界なら本来一つしかない物が互いの世界に一つずつ存在してもおかしくはねえが…)