(ここは…並行世界…)
ここまでで優が得た情報を整理してみよう。
街中で倒れていた優は目覚めるとすぐに遺跡の力を使ったと思われる結界の展開を確認。直後に宝石を依り代とした悪霊と交戦し、これを撃破した。
ここで注視すべき点は「悪霊を閉じ込めるために結界を展開した」ということ。優の知る限り、遺跡を手に入れたのが「組織」の場合はその限りではないが、「個人」が私利私欲以外の目的で遺跡の力を使った前例は無い。これが優に僅かな疑念を抱かせたのだ。
使用可能な遺跡が身近に存在するならば、物によってはそのまま捨て置くのはあまりにも危険なため、使用者本人の善悪に関係なく場合によっては破壊しなければならない。
(早いとこ帰りてえが帰る方法がさっぱりわからねえ…)
そして次の日、高町家で目を覚まし、その後士郎と交戦した後に和解。関係者への電話と士郎への質問でここが自分のいる世界でないことを知ることとなった。
士郎への質問の意図は至って簡単なものだ。アーカム財団は「第二のロックフェラー」とも呼ばれ、世界中に考古学研究所を作っており、他にも様々な事業の援助なども行うなどしているため至る場所で名前を目にする機会があり、物心のついた年齢の者ならばその名を知らぬ者は存在しないと言っても過言ではない。
それを知らないというのは、全く別の世界でもなければあり得ない話なのだ。
(それにもしかしたら芳乃もこっちに来てるかもしれねえ。芳乃を探すためにも、もし帰る方法がわかってもしばらくはこの世界にいるしかねえな)
そして先程までなのは遊んでいたゲームは自分の知っている…というか大好きなゲームと全く変わらないゲームであること、またなのはの発言により、少なくともそのゲームの歴史は(仮にズレが有っても)同じ流れであることが判明。
これれらにより優は「自分の知るものがありながらも、有るはずのものが無く、無いはずのものが有る世界=自分の知る世界と似ているようで違う世界=平行世界」と結論付けたのだ。
これにより優の優先事項が三つに増えることとなる。
一つは染井芳乃の発見・保護。
一つは先日の魔術師の使用した遺跡の調査。
そしてもう一つはつい先ほど加わった自分の世界への帰還方法の確立だ。
(やれやれ、今回ばかりは全く先が見えねえぜ…)
「御神苗くん、聞いてる?」
「………」
「御神苗くーん?」
「おみなえさん!」
「…ああ。すまねえ、考え事してたぜ。なんだ?」
「わたしじゃなくてお母さんですよ!」
「あ…す、すいません!」
「なにか大事なことでも考えていたんでしょ?別にいいわよ」
優もさすがに目の前の人を無視して上の空になるのは失礼どの思ったのか、慌てふためきながら大声で謝罪する。
「それじゃあ話を戻すけど、今夜うちの家族みんなとKOFをやってみない?」
「…はい、是非お願いします」
「じゃあ決まりね!みんなでKOFなんて久しぶりだわ~」
「………」
優の不安など知る由もなく、こうして何故か高町家でゲーム大会の開催が決定した。
「おみなえさん、まだゲームやりますか?それともなにか他にやりたいことは?」
「うーん、そうだなぁ…」
おやつを頬張りながらまったりとした時間を過ごす2人。
優は格闘ゲームが好きではあるが、基本的にアウトドア派なので長時間ゲームをやることは殆どない(友達とゲームセンターへ行った時や連続技の練習でつい長くなってしまうことは度々あるが)。
したがって(休憩を挟みながらやるなら別だが)、ひと勝負の時間が長くなりやすいKOFでなおかつ相手プレイヤーが1人ならば、立て続けに10戦もやればもう満足なのだ。
「少し…身体を動かしてえな」
「え?身体を…ですか?」
それでもまだやろうと思えばやれたが、また10戦など長くてできるはずもなかったのでキリ良く10戦で終わらせようと考えた訳だ。
「でもまだケガが…」
「これくらいいつものことだ。それにある程度身体を動かしてた方が早く治るってもんよ」
「そんなムチャクチャな…」
優の謎論理に呆れるなのはだったが、なるべく本人の意思を尊重したかったので仕方なく了承したのだった。