魔法少女リリカルなのは ~彷徨える妖精~   作:拳を極めし者

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作者の趣味全開のお話です。


格闘遊戯なの - 1

「何があったのか教えてくれ……と言っても今は無理なようだな」

「……すまねえ……」

 

優は座り込んだままそれ以上喋ろうとはしなかったが、沈黙を良しとしない士郎は再び話を切り出す。

 

「事情はよくわからんが…要は帰るべき場所へ、今は帰ることができないということだな?」

「………ああ」

「よし、だったら当初の予定通りうちに泊まれ」

「え?でもこれ以上あんたに迷惑は……」

「お前が危険人物ではないとわかった以上、お前はただの客人だ。

それに俺達を気遣うと言うならむしろ居てくれないと困るぞ。なのはが悲しむからな」

「………恩に着るぜ」

 

こうして優は高町家にしばらくの間居候する事となった。

 

 

 

 

 

「なかなかやるじゃねえかなのは!」

「おみなえさんこそ!」

 

ぶつかり合う拳、鳴動する大地、吹き荒ぶ風。

優となのはは死力を尽くした激闘を繰り広げていた。

 

「今だ!!」

「ああっ!!」

 

なのはの一瞬の油断。優はその一瞬を見逃さなかった。

振り上げられた腕によって生み出された破壊の竜巻が人間を天高く巻き上げて

その意識を刈り取ると、周りの景色が光に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

[勝利者はいつもこの俺!ジョー東様よ!]

 

「あー!また負けたぁ!あと天地返し1発ぶんだったのにー!」

「あたりめえよ!お前とは年季が違うんだよ!焦って見え見えのスカシ投げなんて狙うからそうなるんだ!」

「おみなえさん強すぎだよー!」

「へへっ、こう見えても仲間内じゃイチバン強えからな!」

 

勝利の余韻に酔いしれる優、そして敗北の悔しさに頬を膨れさせるなのは。

二人はテレビゲームで対戦していたのだ。

 

「う~~~…。このチームならけっこう自信あったのに…」

「ほほーう、もしかして確定地雷震を使えない大門じゃ厳しかったかぁ?」

「そんなのなくても勝てるもん!…てゆーかそれわたしが生まれる前の話じゃないですか!」

「俺も98無印はリアルタイムでやってたわけじゃねーけどな。はははは!」

 

二人が遊んでいたゲームはSNKプレイモアの「ザ・キング・オブ・ファイターズ」シリーズの一作である「ザ・キング・オブ・ファイターズ'98 アルティメットマッチ」…通称「98UM」。

かの有名な格闘ゲーム…CAPCOMの「ストリートファイター」シリーズと並ぶ格闘ゲーム二大巨頭の片割れである。

この格闘ゲームは同社の様々なゲームのキャラが一同に会し、その中から使用キャラを3人選んで3対3の勝ち抜き戦を行う形式で、同シリーズの中でも最高傑作と名高い「ザ・キング・オブ・ファイターズ98」…通称「98無印」を、稼働10周年を記念してリメイクした作品だ。

新キャラ・新技・新システム・その他膨大なバランス調整が施されたこの作品は、無印と同様ファンに長く愛されている大作となっている。

 

「もう!いじわるなんだから!」

「わりいわりい。でもお前ホントに強いからついジョーを使っちまったんだよ」

「ほ、ほめたってわたしの機嫌は治りませんよ…」

 

そんな事を言いながらなのはは顔を赤くして、優から顔を逸らす。

「こいつチョロいな」とか言っちゃいけません。

 

「しっかし、大門・クラーク・裏社か。パワフルすぎておっかねえ組み合わせだぜ…。波に乗ったらゲージ要らずでも圧殺だもんな」

 

なのはのチームは豪快な投げ技による一撃の破壊力が売りのキャラを集めたチーム。しかも投げキャラにも関わらず打撃も強かったり、機動力が高かったりと他の強みも持っている手強いチームである。

 

その3人の中でなのはが得意としているのは大門五郎というキャラだ。

大門は平均的に高めな性能に加えて無印では「確定地雷震」と呼ばれるテクニックの存在により最強キャラの座に君臨しており、98UMでは調整により確定地雷震が不可能になってランクは下がったが、他の強化調整が働いて相変わらず上位に座するキャラとなっている。ただしどのナンバリングタイトルでも連続技が他の投げキャラに比べて難しい傾向が強く、扱いが大変な玄人向けのキャラでもあるのだ。

 

「そういうおみなえさんは餓狼伝説チームなんですね。みんなけっこうスタンダードだから苦手なチームって少なそう。あんまり性能はよくないけど…」

「単純に餓狼伝説が好きってだけでそういうのを考えて選んだわけじゃねーけどな」

「でもその中でジョーが他の二人とはレベルがちがいますよね」

「ああ、ジョーは特に気に入ってるからな。思い入れも一入だ」

 

対して優のチームは兄のテリー・弟のアンディのボガード兄弟、そしてその友人であるジョー東と同じ作品の中のキャラをそのまま使ったチーム。

性能のバランス自体は悪くないものの、あまり強いとは言えないキャラが集まっているという感じだ。

だがそこはキャラ愛でカバーする優。特に彼の愛するキャラであるジョー東はテリーとアンディを遥かに上回る強さを誇っている。

その強さたるやなのはが他二人を一番手のクラークで屠り去り、あとはジョーを三人で仕留めるという簡単なお仕事だったはずが、そのジョーだけで三人抜きの大逆転で返されてしまったほどだ。

 

「なんならクラークと大門抜いて庵とクラウザーでも入れるか?」

「そんな卑怯なことしませんよ!あーくやしいーー!!」

 

優が今挙げた二人は98UMのキャランクにおいて最上位を争う「二強」という、いわゆる「強キャラ」と呼ばれるキャラ達だ。

どれくらい強いのかというと、「(上級者が使えば)中級者以下が相手ならどちらか一人がいれば他のメンバーはいらない」とまで言われる程だ。

ちなみに優が入れ替えるキャラに裏社……正式名「乾いた大地の社」を挙げなかったのは、彼も二強に次ぐランクの強キャラであり、投げキャラの中では最強だったからである。

ただしなのはの場合は裏社より大門の方が強いので、入れ替えるならクラークと裏社になる訳だが。

 

「あらあら。盛り上がってるわね、二人とも」

「あ、お母さん!ちょうど喉が渇いてたところだったから助かったよ!」

「あ、どうも」

 

二人は居間で対戦していた。ゲーム機本体とゲーム自体は恭也のものだが、優の暇潰しになればと気を利かせて居間に置いてくれたのだ。

そこへ更に気を利かせた桃子がジュースとお菓子を持って来た訳だ。しかもお菓子は手が汚れないように一枚ごとに包装されたクッキーという完璧なチョイスである。

ちなみに連続10回対戦した優の戦績は9勝1敗。なのはは2戦ごとにキャラを変え、9戦目でなのはが自身のベストチームである先述のチームを使って優のチームを破ってしまったため、優は封印していた餓狼伝説チーム…ひいてはジョー東の封印を解いたのだ。

 

「それにしても御神苗くん強いわねー。これでもなのははうちで二番目に強いのよ」

「二番目…っていうと一番は恭也さんですか?」

「そうそう。剣術の訓練の息抜きにちょっとやってみたらハマっちゃったらしくてね、地元ではちょっとした有名ゲーマーになったくらいよ。

あ、でももちろん練習はしっかりやった上でよ」

「へえ…」

 

恭也は高町家初のゲーマーで、某格闘ゲームの祭典の98UM部門に参加する為の予選大会では、他のゲーマーを歯牙にもかけず圧倒的な実力で優勝した程の腕前だ。ただしその祭典は「時間が取れない」との理由で辞退してしまったそうな。

 

「あ、そうだ!今晩にうちで98UM大会をやりましょう!」

「え?なのはと恭也さん以外もこれやってる人いるんですか?」

「お兄ちゃんに影響されて家族みんなねー。もちろん私もよ」

(家族全員で同じゲームやってるなんて珍しいな。それにしても……)

 

現在この日本では空前の格闘ゲームブームが訪れており、小学生から大人まで男女問わず幅広い世代が格闘ゲームを楽しんでいる時代だ。

格闘ゲームイベントも様々な形式で行われ、規模も各ゲームセンターでの小規模なものから大きい会場を借りて全国の猛者を集結させる大規模なものまで多種多様なものが催されている。その波に高町家で最初に乗ったのが恭也で、他の家族も恭也のハマりっぷりに興味を惹かれてやり始めたという訳だ。

 

(まさか「こっち」にも全く同じ格ゲーがあるとはな。でもこれで確信したぜ)

 

そして優は確信した。

 

()()()にも()()()にも有る。

()()()に有って()()()に無い。

()()()に有って()()()に無い。

優の記憶の中にある()()()と極めて似通っていながらも根本的な部分が全く違う()()()

そんな有り得ないような奇妙奇天烈摩訶不思議な場所を人々はこう呼ぶ。

 

 

 

 

 

「並行世界」、と。




スプリガンの作者は(恐らくは)格闘ゲームが好きなようです。
何故かと言うと様々な作品の中で名前や動作が格闘ゲームの技そっくりなものを登場人物に使わせたり、主人公が格闘ゲーム好きな作品があったり、作中にゲーム画面がそのまま出て来たりする上に、格闘ゲームのキャラクターデザインやコスチュームデザインを手がけたりもしているからです。
ちなみに「目覚める妖精 - 3」で優が繰り出した「スラッシュキック」は、そこに書かれている通り技名も動作もゲームのキャラそのまんまで原作の優が使っていました(しかも幽霊島で)。

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