新サクラ大戦 降魔世界大戦 乙女の血は紡がれて 第一部   作:魯竹波

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第五話 降魔出現す

「ということは、僕は次回は出撃出来ないということですね。」

 

「華撃団の歴代男性隊長には、誰一人として、着任早々出撃した者はいないよ。

別に優一郎だけが特別な訳じゃない。

 

もちろん、今のお前が、命を預け得る仲間として二人

に不安を抱くことは決しておかしくないさ。」

 

「ここに来るまでに、母さんが大帝国劇場に長らく居続けている理由が帝国華撃団にあることは既に想像がついていました。

花組の女優だった時にも、戦ってきてる筈です。

 

ただ、どうにも、現実味がないのです。

少女達が戦うという、この現実に。」

 

「………確かに華撃団構想が立ち上がってから数十年が経つ現在でも、少女達を戦わせていることへの批判が後を絶たない。

 

先代の米田さん当人も一時期悩んでいたくらいだからね。

 

だけど、それは違うんだ。  

 

彼女達は、自分達の生きている場所。この帝都のために、帝都を愛しているからこそ、戦っているんだ。

 

それをお前にも分かって欲しい。 そして、帝都をお前も愛して欲しい。 

 

俺達がそうしてきたように。」

 

「……………はい!!」

 

「よし。 

じゃあ、早速だけど、上野の米田さんの墓に、お墓参りに行ってくるんだ。

 

その墓前で、帝都を守る決意をあらたにしてこい。

 

いいな?」

 

「わかりました!!」

 

帝国華撃団初代司令:米田一基陸軍中将。

1943年に亡くなり、国葬された彼は、寛永寺に葬られていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー上野・寛永寺ーーー

 

 

「おっと、  あったあった。」

 

優一郎がここに訪れるのは14才の頃から、数えて3年ぶりである。

 

ふと、見ると、周りのお供え物の酒の徳利が揃いも揃って空なのが目立つ。

 

「またお供え物のお酒を飲んだな!

この酔っ払いっ!」

 

(全く………………。)

 

溜息を吐きながら、道中買ってきていたお酒の徳利を供えた。

 

すると、墓石の上から視線を感じた。

 

それは米田一基、その人の幽霊である。

 

目が、よぉ、久しぶりだなと笑っている。

 

ただ、何時ものように幽霊が何を話しているかまでは分からない。

 

「米田のおじいちゃんも息災に幽霊してるようで何よりです。

 

あ、そうだ。

米田のおじいちゃん、 僕は今回、帝国華撃団花組に正式に配属されたんですよ。」

 

するて米田は遠い目をしながら、しみじみと感じ入った風を見せた。

 

もう、そんなに月日が流れたのか………とでも語るかのように

 

「はい。 もう僕もそういう年ということです。」

 

そうかそうかと頷く米田。

 

米田はやがて、

 

帝都を、花組を頼んだぞ

 

そんな風に目で訴えてきながら、米田は優一郎の両肩に両手を置いた。

 

無論、感触はない。

 

「はい!」

 

優一郎は、内心は分からないことが多く、不安をも抱えながらも、頷き返した。

 

「じゃあ、米田さん、僕はこれで。」

 

優一郎が引き返そうとした時。

 

「…………………?!」

 

(あ、あれは?)

 

視界に妙な怪物の一団がよぎった。

 

降魔である。

 

現れなくなって久しかった降魔だが、長らく続いた日中戦争の末期、状況を打破すべく中華民国側が軍用降魔を使用し、帝都を攻撃した。

 

大神一郎のいない帝国華撃団は花組・奏組・乙女組・夢組・月組の力を結集してこれを撃退したが、帝都そのものはその影響を甚大に受けてしまい、帝都の地脈・霊脈が狂ってしまった結果、1945年以降、帝都に再び出現するようになってしまっていた。

 

ちなみに、優一郎が中学時代を過ごした3年間は、彼の中学のあった新宿界隈では出現しなかったため、彼が降魔を見るのは初めてである。

 

「あ、あっちは!!」

 

降魔の一団は街道の方へと侵攻していった。

 

「止めないとまずいが、あの大きさ…………だが、やるしかない。

なんてったって、僕は軍人…………もとい帝国華撃団花組なのだから!」

 

 

 

街道筋に着けば、既に辺りは大騒ぎとなっていた。

 

「降魔が来たぞぉっ!」

 

「きゃああああああっ!」

 

男も女も、老いも若きも、皆が逃げ惑っている。

 

警察が出動しており、沈静化に努めようとするも、降魔相手では為す術はない。

 

「おじさん、借りるよ!」

 

優一郎はその腰のサーベルに目をつけ、奪っていった。

 

「こらぁ貴様! ………海軍の軍人だな!

覚えておけよ!」

 

奪われた警察は、優一郎の背中に向け、そう叫んでいた。

 

 

 

「さて、と。」

 

降魔は10体くらい。  そして、降魔と自分の間には、少年が転んで泣いていた。

 

「こ、怖いよう 」

 

そして、まさに降魔の手は少年に向かっていた。

 

「助けてやるぞ、 待っててっ!」

 

優一郎は走り出し、手に向かって、サーベルの刃を叩きつけた。

 

帝都花組歴代最強の霊力を持つアイリスをも凌ぐ霊力を持つ優一郎の刃は、普通のサーベルではあったが普通に、降魔の腕を切り落とした。

 

「お兄ちゃん………」

 

「さ、ついてこいっ!」

 

優一郎は走りだした。

 

降魔はそれを追いかける。

 

だが、如何せん、大きさが違いすぎた。

 

(だ、ダメ……………か?!)

 

そして、降魔のもう片方の腕が、優一郎の背中に届くと思われた、次の瞬間。

 

 

 

桜色の霊気が降魔を見事に貫いた。

 

 

「………………まさか、これが…………。」

 

霊気を放ったのは、四体の蒸気甲冑のうちのピンクの機体だ。

 

 

この四体こそ、まさしく、霊子甲冑・光武J。

 

帝国華撃団花組の乗る、それである。

 

 

 

 




日中戦争…………史実のそれとは異なる。
1933年から1943年まで続いた戦争。
帝国陸軍参謀本部の謀略にかかった中国東北部の反張作霖分子が張作霖・張学良を爆殺し、清朝の最後の皇帝・溥儀を迎えて満州国を建国し、関東軍を招き入れたことに中華民国が反発したことから起きた。
戦争が長期化する中、ロシアの参戦により、日本は不利に立たされたが、中華民国の軍用降魔使用・日本とアメリカの関係修復により、国際情勢が日本側に一気に傾いたため、イギリス・フランス・アメリカ・ドイツの支援を得た日本が勝利した。 
日本の勝利を決定付けた黄海海戦は、大神一郎を海軍随一の名将と言わせしめた戦いである。

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