新サクラ大戦 降魔世界大戦 乙女の血は紡がれて 第一部 作:魯竹波
「あ、……………うん。 久しぶり。
あや姉さん」
彼は辛うじて、笑いかける。
「ところで、何故優ちゃんまでこっちにいるの?」
あやねは間髪入れずに聞いてきた。
「ん? あ、いや、何故か1年、繰り上げで卒業させられて……………。
海軍大学校に入るまで、しばらく海軍省にて実務を積むようにと辞令がきたんだ。」
海軍兵学校を卒業後、10年程度の実務を得て、海軍大学校に入学し、これを卒業すると、高級幹部になりやすい
と言っても、優一郎の父親・大神一郎のように海軍大学校に行かずとも海軍の要職に就く道は幾らでもあるし、何よりも優一郎の場合は秘密組織への配属の隠れ蓑であった。
「やっぱり、頭良いんだね~。 流石優ちゃんっ」
「そ、それよりも、何であや姉さんまで帝都に?」
「ん~? まさか、知らないの?」
「………………え?」
(な、何だ…………悪い予感がするな…………。)
「この度、あたし、大神あやねは、今月より大帝国劇場の帝国歌劇団花組にて女優デビュウをすることとなりました~。」
「ええっ!?」
あやねは花組の付属機関・乙女組にいて、2年程研修を受けていた。
それが今月、花組に昇格したのである。
「ん? どうかした?」
「……………待って、あや姉さん、今、帝国華撃団花組って言ったよね?」
「うん。
あ、そうだ!
優ちゃんも是非観に来てくれたら…………嬉しいな。」
優一郎に秋波を送るあやね。
「何か、聞いてない気もするけど、ま、いっか………。
実は、海軍省ってのは隠れ蓑にしか過ぎなくて、僕の本当の配属先は大帝国劇場なんだ。
しかも、多分帝国華撃団花組…………。」
「ってことは……………毎日会えるっ! やったー!」
あやねは優一郎に抱きついてきた。
「ち、ちょっと………?!」
流石に恥ずかしく感じた優一郎が慌てて引き剥がすと
「あ、さ、流石に恥ずかしいか…………。
でも、照れちゃって可愛い~。」
一人で盛り上がるあやね。
ただでさえ両親のいずれにも似ないどころか、この両親からでさえも生まれ得ない域とまで言われた美少女で、すれ違う人の尽くが振り返るような容姿である。
既に何人か注目していた。
「ほ、ほら、とにかく、行くよっ!」
「うん!」
「……………って、何してるのかな?」
「腕組んで、優ちゃんの肩に頭乗せてるんだけど……。」
「それ、姉弟のすることじゃないから!」
「いーじゃない。 …………好きなんだから。
やっと、久しぶりに会えたんだし…………」
顔を赤らめるあやね。
(やっぱり、変わらないなぁ…………あや姉さんは。
やっぱり、今でもまだ………………。)
優一郎は大きくため息を吐いた。
周りの視線をかなり集めており、その視線の大半が好奇と嫉妬だったのもある。
だが、それ以上に、あやねが俗に言うブラコンで、彼に抱く気持ちが肉親以上のソレであることを、優一郎本人が随分前から知っていたからだった。
その発端は、二人が育ってきた環境に由来する。
大神一郎は当時日中戦争に駆り出されていたし、真宮寺さくらは大帝国劇場支配人の任務に忙殺されており、二人の面倒までは見る余裕がなかった。
だが二人の祖父母にあたる大神一郎の両親は既に他界しており、真宮寺さくら側の両親も真宮寺一馬のみならず、若菜まで死んでいた。
そこで大河双葉が栃木の大神家にて養育にあたった。
両親とは偶に会える程度。
加えて昔は気弱だったので虐められており、大河双葉も当時は結構冷たくあたっていたので、自動的に優一郎に頼らざるを得なかったのだった。
それがあやねが優一郎を男性として意識する結果に繋がったのだった。
「やっぱり、嫌…………?」
「うん。 止めてくれるとありがたいんだけど……。」
「じゃあ、 やめないっ!」
「えっ! そこは止めるとこでしょ!」
「もう…………仕方ないなぁ」
「……………ソレもダメ。」
あやねは優一郎の胸に頭をもたれかけてきた。
「え~?」
改めて優一郎はあやねの方を見つめた。
(やっぱり、美人だな………………本当に、姉でさえなかったら凄く嬉しいんだけどな………。)
優一郎は大きくため息をついて、銀座方面行きの電車に乗り込むのだった。