新サクラ大戦 降魔世界大戦 乙女の血は紡がれて 第一部   作:魯竹波

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第一章 新たなる世代の風
序話 海軍の卒業前演習


1951年3月 江田島・海軍兵学校宿舎

 

海軍兵学校の三年生は、明後日に航海演習を控えており、その準備に明け暮れていた。

 

そう、この2名を除いては……………。

 

 

 

 

「よし、届いたっ!  菊原っ!」

 

大神優一郎は同室の親友:菊原武を呼び寄せた。

 

「どうしたってんだ? 優一郎。 」  

 

優一郎は幾重にも包まれ、封印された袋を突き出して

 

「ついに馬糞が届いた!

栃木の伯母さんに送ってもらった奴だよ。」

 

「早速、やるつもりか!

面白ぇ。  楽しみだぜ」

 

「ああ。  これを鬼佐々木の枕元に潜ませておくんだ。

洗顔料にもね。

何故か、不思議と気づかないんだよね~鬼佐々木の奴。」

 

「毎回毎回、つくづく面白いイタズラを考えるな。

しかも、中将閣下の息子と来てるから、奴もうかうかと手出しできないしな。」

 

「あはは…………普段、僕達生徒を鬱憤晴らしに虐めている罰だよ。

皆の意趣返しをしてやるのが、権力者の息子としての責務だと、僕は思う。」

 

「嘘つけ。 お前はただ楽しんでるだけだろ」

 

「えへへ。 そういう考え方もあるよね~。」

 

と、その時

 

「おいっ! 大神と菊原っ! いるか!」

 

優一郎のイタズラを仕掛ける対象……………もとい、数年に一回は自殺者を出す程の苛烈な指導で鬼と謳われている鬼佐々木こと、教官の佐々木軍曹が乱入してきた。

 

「噂をすれば陰って奴だな。」 

 

「人外でも通用するとは知らなかったよ……。」

 

「返事をせんかっ!」

 

「「はっ! 如何なさいましたか教官殿!」」

 

「校長殿がお呼びだ。 さっさと行けっ!」

 

「「はっ!」」

 

「ふん! それと、大神っ また変なイタズラをしてみろ。

死ぬような思いをさせてやるからな。」

 

「はいはい。」

 

 

 

 

 

 

「全く、何の用だよ 校長が。」

 

「さぁね。  

僕と君が学年のツートップだから褒めてくれるんじゃないの?」

 

「冗談はよせ。 校長は、将官の息子だからと俺らが贔屓されていると思っていやがる連中の一人だぞ。」

 

「冗談冗談。  さ、ついたよ」

 

優一郎と菊原は、校長室の扉の前に立った。

 

「「大神優一郎、菊原武の両名、只今到着致しました!」」

 

二人がそういい、ノックすると

 

「入り給え」

 

「「失礼します」」

 

2人は校長室に入った。

 

そこにはいつものハゲデブの校長がどっしりと構えていた。

 

「大神優一郎くん、菊原武くん。

君達、先月の妙な健康診断を覚えているかね?」

 

校長が二人に尋ねた。

 

「はい。  あれは一体、何だったのでございますか?」

 

「あれはただの検査ではない。

軍のさる秘密組織の適正を調べるための検査だ。 

そして、君達はその検査で合格値を示したんだ」

 

言葉を次いだ。

 

「「……………それが如何なさいましたか?」」

 

「大神優一郎くん、菊原武くん。

君達には、最上級生の卒業前演習に加わり、蒸気甲冑の実戦演習をしてもらう!」

 

校長は高らかに用件を告げた。

 

日中戦争で、戦争に実戦投入された蒸気甲冑は、それ以降、海軍兵学校の必修指導要領に含まれていたのだ。

 

「……………マジかよ」

 

「謹んでやらせていただきます!」

 

菊原と優一郎はとりあえず返事した。

 

「よろしい。 では、今から、早速、参加して貰うぞ。

いいかね?」

 

「「はいっ! 失礼します。」」

 

二人は校長室を出た。

 

 

 

 

「あちゃあ、参ったな~。

蒸気甲冑、苦手なんだよな~」

 

「あはは…………。

菊原はそれさえなけりゃ首席に立てるのにね~。」

 

「いや、お前の素行不良がなくなりゃあ、それでも無理だがな。」

 

「イタズラばかりは、止められないかも。

相手が相手だからねぇ。

止めるのは相手が女の子の時くらいじゃないかな?」

 

「そういうの興味なさそうなお前から、まさかそんな言葉が出るとは思わなかったぜ

まあ、そうだろうな。  ハハハ。」

 

(にしても、蒸気甲冑の演習か……………何故だろう。

なんか、臭うな。

明後日に航海演習を控えている中で、一体、何の目的で…………。

やるしかないにしろ…………不安だなぁ。)

 

優一郎はそんな風に考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「凄い眺めだな。」

 

「ああ。」

 

教官に指示された演習場に行ってみると、数十年前の光武くらいの大きさの蒸気甲冑が所狭しと並んでいた。

 

(それにしても、ここで一体、何をさせる気なんだ?

蒸気甲冑にただ乗れますよ~ じゃ意味ないし、何よりまだ蒸気甲冑での戦闘はやったことないし………。)

 

と優一郎が考えていた、その時。

 

 

 

「見ろよ、なんで下級生がいるんだ?」

 

「昨日、上官が言っていたろう

蒸気甲冑演習に二人、下級生を参加させるって」

 

「可哀想にな。  

まだ戦闘演習はしたことないだろうに。」

 

「だな。  いや、それより、蒸気甲冑の予備ってあったっけな。」

 

「いや、一応、あるにはあるが、今まで一度も動かせた奴がいないとか言われている機体らしいよ。

名前は確か……………。」

 

「しっ! 聞こえてるだろ」

 

居合わせている上級生からそんな声が聞こえてくる。

 

「気にするな。 お前は他人の目をいちいち気にするところがあるからな。」

 

菊原の声に、優一郎は頷き返した。

 

 

 

 

 

 

やがて、最上級生の監督をしている教官が皆が集合している演習場の台に立った。

 

「それでは、本日、貴様らが卒業するにあたり、重要な試験の内の1つである、蒸気甲冑の実戦演習を行う。

ルールは簡単だ。

周囲にいる仲間を倒していけ。

最後に生き残った奴が当科目の首席だ。

なお、倒すための条件は、

1、相手から武器を奪う

2、相手の蒸気甲冑を中破、大破させる

以上だ。

なお、蒸気甲冑は中破、大破しても、来年6月まで演習ないから構わんぞ。

落第がない科目だからといって、油断してると

 

死ぬぞ     」

 

その教官はそう言葉を終えた。

 

「嘘だろ 嘘だよな優一郎?」

 

「……………………。」

 

二人は完全にビビっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい。 大神と菊原はこっちだ。」

 

別の教官に指示され、優一郎と菊原はある機体の元に案内された。

 

その機体は妙な即席の倉庫の中に仕舞われていたようだった。

 

「こ、これは……………。」

 

整備されているのが見て取れるとはいえ、その機体はやや埃を被っており、古い機体であることは間違いない。 

だが、妙な気配を感じた。

まるで、生きているかのような。

 

そして、何故か、不思議と優一郎を懐かしい気持ちにさせていた。

 

「さる秘密部隊が有していたとされる旧式の機体だ。

海軍の上層部から、二人にはこの機体に乗せるようにとの指示があったのでな。

だが、今まで動かせた者は、海軍士官学校の生徒では私は見ていない。

現に、お前達に動かせるとは、私にも思えんがな。」

 

優一郎の方の機体は、太刀を2本、有する機体。

 

菊原に用意された機体は、太刀1本の機体だった。

 

これは菊原の学んできた剣術が新陰流の系統なのと、優一郎が学んできた剣術が父親と同じ二天一流なのに起因している。

 

「すみません、この蒸気甲冑の機体構造は、通常機体と同じでしょうか?」

 

「いや、操作自体は通常機体よりも簡単に出来ているらしい。」

 

「はは…………よかったぜ。

妙にピンクがかった、この機体の色を除けばな。」

 

「そう?」

 

「それじゃあ、大神に菊原、乗ってみろ」

 

「「畏まりした。」」

 

「なお、いずれの機体もお前達にそれぞれ合うよう、微調整は済んでるから、そこら辺は気にするなと伺っている。」

 

「「はい!」」

 

二人は蒸気甲冑に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、嘘………………だろう?」

 

教官は声を上げた。

 

 

 

「なんだよ。 ちゃんと動くじゃねえか。」

 

「そうだね。  ぎこちなくはあるけどね。」

 

優一郎と菊原は動き回る。

 

「如何なさいましたか教官殿?」

 

教官は驚きながらも

 

「い、いや、何でもない。  さっさと行けっ」

 

「「はっ」」

 

二人の蒸気甲冑は、足についている車輪を展開し、演習場に向かった。

 

 

 

 

 

「ば、バカな。  信じられん。 あの機体を動かせるとは………………。

動力の伝達経路は少しだけ弄っていたが、内部の動力の中心部は全く弄られていないはず………。」

 

教官は、この蒸気甲冑は動力部の出力が弱いために動かないものとばかり思っていた。

そして、伝達経路を弄っただけでは出力の問題までは解決できないことを知っていた。

 

「当たり前や。 何言うてはりますのや。

あんさん。」

 

眼鏡をかけて白衣を着ている中年の女性が教官に近づいていく。

 

「え?」

 

「あれは 寅型霊子甲冑 光武二式。

かつて、帝国華撃団・花組で使用されてはった蒸気甲冑や。

 

常人には出力不足で動かないように見えるかもしれへんけど、あの二人は、違う。

 

才能があるんや。 それもかーなりのもんが。」

 

その女性は笑みを浮かべてそう呟いた。

 

 

 




大神優一郎……………1934年7月9日生まれ
身長169センチ、体重55キロ
帝国海軍中将兼海軍副大臣・大神一郎と真宮寺さくらの長男。
伯母:大河双葉に養育されており、武術、勉学などは人並み外れて優れる一方、絵画や図画工作、楽器の演奏は超苦手。 
小学校を1年、中学校を1年飛び級している。
普通、海軍兵学校の受験資格は16~19才だが、体格のために14才で海軍兵学校の受験が認められ、これに合格している。
顔は童顔で、母親に生き写し。 
女性を苦手としている。(※ホモではありません)



菊原武…………1934年8月8日生まれ
身長170センチ、体重54キロ
帝国陸軍大将(関東軍総司令官)・菊原一の一人息子。
「海の大神、陸の菊原」と謳われることに、対抗意識を燃やした父親の意向を受け、海軍を志した。

同じく14才で海軍兵学校の受験が認められ、これに合格している。
大変な美男子である。

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