IS -インフィニット・ストラトス- if 作:人食いムンゴ
─朝─教室───────
キーンコーンカーンコーン。
「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」
昨日の様子見は終わりを告げたのか、山田先生と千冬姉が教室を出るなり女子の半数がスタートダッシュ、俺の席に詰めかける。
「ねえねえ、織斑くんさあ!」
「はいはーい、質問しつもーん!」
「今日のお昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」
一夏の周りはあっという間に囲まれた。四方八方から言葉が飛んで来る。
「いやー、一度に訊かれてもなぁ――」
困る。聖徳太子じゃないので、一度に何人も聞き取れるわけじゃない。
でも、女子に囲まれているのは困らない。むしろウェルカム。
ピローン♪
突然、机に置いてあった一夏のスマホから着信音が聞こえてきた。
表示された画面には、
箒:人気者だな。
その一言だけ送られてきていた。送り主はもちろん一夏を囲む集団から少し離れた位置で見ていた人物。
幼なじみこと箒だ。怒っているように見え、機嫌が悪そうだ。
仕方ないだろ。ここは女子高。必然的に女子とは話すことになるんだ。
と返信しようかと思っていると、一夏のスマホを見て女子達は次々にスマホを取り出した。
「あーー!?織斑君。篠ノ之さんと連絡取り合ってるの!?」
「篠ノ之さんだけずるい!私も連絡先教えてよ!」
「私も!私も!」
「私のIDこれだから――。」
ワーワーワー
完全に収集がつかなくなっている。我先に連絡先を交換しようと押し合い圧し合い。
もちろん、その押し合いには一夏も巻き込まれ、脱出不可能な板挟みの状況。
(む、胸が…やわらけぇー)
制服越しだが、柔らかい感触が一夏を襲う。
そんな夢のような時間もあっという間で。
「いつまで騒いでいる馬鹿者!休み時間は終わりだ。散れ。」
千冬が馬鹿騒ぎを止める。慌てて蜘蛛の子を散らすように回りから女子はいなくなり、自分の席へと戻っていった。
「ところで織斑、お前にひとつ言っておく。私のプライベートについてなにか言ってみろ。なにか言ったら殺すからな」
全身に悪寒を感じさせる眼光で睨みつける千冬。もはや、目で殺しに掛かっていると言っても過言ではない。
「……はい」
某少年漫画の主人公が海の魔物に襲われていたところ、やって来た赤髪の海賊が魔物を睨んだだけで追い返すシーンを思い出した。
あの魔物の気持ちが少しわかった気がする──。
だが、この忠告は一夏だけでなくクラスメイトにも言っているのであろう。
私のことは聞くなと。
その気迫にクラスメイト全員が察するのであった。
「それから、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機はない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「はぁ…?」
一夏はちんぷんかんぷんでいると、教室中ざわめきだす。
「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出るってことだよね……」
「いいなぁ……。私も早くほしいなぁ」
全く意味がわからないという顔をしていると、見るに堪えかねたという感じで千冬がため息混じりに呟く。
「はぁ……。つまり、本来ならIS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられないのだ。だが、状況が状況だ。
データ収集を目的として専用機が用意されることになった。わかるか?」
「なんとなくだけど……」
「そのうえ製作者である篠ノ之束はIS467機を作って以来行方をくらました。その中の一つがお前に与えられるのだ」
……え、マジかよ。
当然といえば当然。世界でただ一人ISを動かせる男性なのであるから。
「あの、先生」
女子の一人が千冬に挙手をする。
「なんだ?」
「篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
挙手をした女子はおずおずと千冬に質問する。
まあ、普通同じ名字の人がいたら気になるし、そうそう聞かない名字である。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
いずれバレるにせよ、個人のプライバシーは守るべきじゃ…。
そのせいで教室は授業中にも関わらず大騒ぎ。
「ええええーっ!す、すごい!このクラスに有名人が二人もいるなんて!」
「篠ノ之さんも天才なのかな?そうだったらすごいよね!」
「あたしISの操縦について教えても~らおう!」
しかし、箒は何かに耐えているようだったがついに限界に達する。
「あの人は関係ない!」
突然の大声。一夏は目見開きながら箒を見る。と同じく箒のことを話していた女子たちも目を見開いていた。
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
そう言って箒は窓の外に顔を向けてしまう。女子は盛り上がったところに冷水を浴びせられた気分のようで、それぞれ困惑や不快をした顔にして席に戻った。
(あれ?箒って束さんのこと嫌いだったか……?)
記憶をたどってみるがそんなことはなかったと思う。そもそも箒と束さんが一緒にいたところをあんまり見たことがないかもしれない。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生」
「は、はいっ」
山田先生は箒の様子を確認してから授業を始める。
(………でも、あの様子じゃなにがあったかは、いいたくないだろうな。)
そうして、一夏は教科書を開くのであった。