IS -インフィニット・ストラトス- if 作:人食いムンゴ
──教室─────────
「お前のせいだぞ!」
「あなたのせいですわ!」
昼休み、開口一番に箒とセシリアが文句を言ってきた。
二人は午前中の授業に注意や何度も怒られていた。
俺のせいにして、完全に八つ当たりだな。
「ま、まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」
「む……。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」
「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」
さっきまでの息巻く様子から、一変して態度が180度コロッと変わった。
俺自身も二人の扱いになかなか慣れてきた気がする。
──食堂──────────
「待ってたわよ、一夏!」
どーんと俺たちの前に立ちふさがったのは噂の転入生、凰鈴音だった。
髪型も昔から一貫してツインテール。
恐らく、俺がそれ似合うよなーとか言ってからずっとしてる気がする。
(それより、鈴のやつ食券機の前に立ってるから食券が出せないだろ。)
「とりあえずそこどいてくれよ。食券が出せないだろ」
「う、うるさいわね。そんなことわかってるわよ! 大体、アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」
「それだったら、俺のいるクラスに声かけりゃよかったじゃん──今朝みたいに」
「なんでアタシから言わなきゃいけないのよ。」
「いやいやいや、鈴。言ってることなかなか無茶苦茶だぞ」
ワーワーと揉めあう前二人と、蚊帳の外の後ろの女子二人。前の二人には聞こえない小さい声で話す。
「気にいりませんわね」
「全くだな」
とりあえず四人はそれぞれの食事を持って席についた。
「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」
「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我とか病気しなさいよ」
「どういう希望だよ、そりゃ……なら、怪我とか病気したら鈴に頼もうかな」
「「「え!?」」」
軽い冗談で言ったつもりが、びっくり顔で三人は固まっている。
「あ、いや、セシリアや箒にもお願いしようかなー。
三人に介護してもらったら俺速攻で元気になるだろうし」
出来れば下半身の白式もセットで介護をお願いしたいものだ。
だが、自分一人だけ指名されたと思いきや、ぬか喜びだった鈴はご不満の様子だった。
「な、なによ一夏!アタシだけじゃ不満なの!?」
「そうは言ってないだろ───三人寄ればなんとやらって言うだろ」
「それは『三人寄れば文殊の知恵』でしょ!今、アタシが言ってることと関係ないでしょうが!」
さすがは代表候補生。頭の回転が早い。
「いやいや、病気や怪我が早く治るいい案が浮かぶかもしれないだろ」
そう言うと、蚊帳の外だった二人を鈴は見る。
「どーだか?」
────ムカッ!
その発言で蚊帳の外の二人に怒りマークが何個も浮かび上がるのが見えた気がする一夏。
ふふんといった調子の鈴。相変わらずだな、こいつ。妙に確信じみてるし。
「一夏!そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ!一夏さん!」
鈴の態度に苛立ちを感じてか、箒とセシリアが怒気を交えて訊いてくる。
「お、落ち着けって二人とも───鈴とは幼なじみなんだよ」
「幼なじみ……?」
怪訝そうな声で聞き返してきたのは箒だった。
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ? 鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」
ちょうど入れ違いな形で箒と鈴は引っ越してきたのだ。
だから、二人は面識がない。
「で、こっちが篠ノ之箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」
「ふうん、そうなんだ」
鈴はじろじろと箒を見る。箒は箒で負けじと鈴を見返していた。
「初めまして。これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
そう言って挨拶を交わすふたりの間で、火花が散ったように見えた。
おいおい、またかよ…。
「それでこっちがセシリア──イ」
ギリスと言い切る前にセシリアが俺の会話に割り込んで入ってきた。
「そう。このわたくしこそ、かの有名なイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ。」
そこまでして、自分のことを大々的に紹介したかったのだろう。だが、当の鈴はというと……。
「……誰?」
「なっ!?まさかご存じないの?」
「うん。アタシ他の国とか興味ないし」
「な、な、なっ……!?」
言葉に詰まりながらも怒りで顔を赤くしていくセシリア。
この件に関しては俺も鈴には何も言える立場じゃない。
俺もセシリアのこと知らなかったからな…。
「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
「そ。でも戦ったらアタシが勝つよ。悪いけど強いもん」
余裕を見せる鈴。
「い、言ってくれますわね……」
箒は無言で箸を止める。セシリアはわなわなと震えながら拳を握りしめた。 それに対して、鈴は何食わぬ顔でラーメンをすする。
「一夏──アンタ、クラス代表なんだって?」
「まぁな。成り行きでな」
「ふーん……」
鈴はどんぶりを持ってごくごくとスープを飲む。
「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」
顔は俺から逸らして、視線だけをこっちに向けてくる。言葉にしても、歯切れの悪いものだった。
その瞬間、箒とセシリアがバンっ!とテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」
「あなたは二組でしょう!?敵の施しは受けませんわ」
「アタシは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」
鈴もまたそんな相手を逆撫でる言い方して…。
これがまた、素で言っているから恐ろしいものだ。
「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」
どうしてもとまでは言ってないが……って、こんな会話前にもあったな。デジャヴ感がすごい。
「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。あなたこそ、後から出てきて何を図々しいことを――」
「後からじゃないけどね。アタシの方が付き合いは長いんだし」
「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」
「うちで食事? それならアタシもそうだけど?」
「いっ、一夏っ!どういうことだ!?聞いていないぞ私は!」
「わたくしもですわ!一夏さん、納得のいく説明を要求します!」
鈴、余計なこと言って…絶対、勘違いしてるだろ。
「いや、鈴の実家の中華料理屋なんだよ。それで、よく世話になってるとかで飯ごちそうしてもらってたんだよ」
俺が嘘偽りなくそう言うと、さっきまで余裕の表情を見せていた鈴が途端にむすっとふてくされる。 対照的に、箒とセシリアはほっとしたような顔をした。
「な、何?店なのか?」
「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね」
「親父さん、元気にしてるか?まあ、あの人こそ病気と無縁だよな」
「あ……。うん、元気――だと思う」
うん? 急に鈴の表情に陰りが差して、俺は妙な違和感を覚えた。
「そ、それよりさ、今日の放課後って時間ある? あるよね。久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ。積もる話もあるでしょ?」
「──生憎だが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」
「そうですわ。クラス対抗戦に向けて、特訓が必要ですもの。特にわたくしは専用機持ちですから? ええ、一夏さんの訓練には欠かせない存在なのです」
さっきまでの勢いの劣りはどこへやら、一転攻勢に転じたふたりはここぞとばかりに俺の特訓を持ち出す。
いや、助かるけどさ。
「じゃあそれが終わったら行くから。空けといてね。じゃあね、一夏!」
ごくんとラーメンのスープを飲み干して、そのまま学食を出て行った。
行っちまった。
まぁ、これから話せる時間はいくらでもあるわけだしな。
うんうんと自分で納得していると二人が俺の前に立つ。
「一夏、当然特訓が優先だぞ」
「一夏さん、わたくしたちの有意義な時間も使っているという事実をお忘れなく」
そう言って二人も食堂を去っていった。
三人がいなくなったことで嵐が去ったかのように一気に静けさを取り戻す食堂だった。