IS -インフィニット・ストラトス- if 作:人食いムンゴ
「一夏さーん」
チャイムと同時に駆け寄って来たセシリア。
「お昼はどうされますの?」
にこやかな顔でこちらの様子を伺う。
もう、昨日までのセシリアはいないと言っても過言ではない。
その変化に驚くばかりだが、何にしてもこんな美少女からご飯を誘われてるのは悪くない。
「とりあえず、学食に───。」
バン!
一夏の机を叩いてセシリアを睨むのはご存知この方。
「一夏は”私と”一緒に食べるのだ。邪魔しないでいただきたい」
相変わらず、“私と”の部分を大きく強調する箒。だが、セシリアはそれで黙っていない。
「あら、篠ノ之さん。それを決めるのはあなたではありませんわ。一夏さんに決めていただく権利がありますわ」
この発言でクラスメイトが盛り上がりを見せた。
皆、セシリアの意見に同情しているようだ。
「い、一夏!また弁当を作り過ぎたのだ!この弁当を一緒に…」
「お待ちなさい。抜け駆けのようなことは認められませんわ」
「そーだ。そーだ。」
「織斑一夏は我々1-1の共有財産である。」
「篠ノ之さん。ここ最近、毎日一緒じゃん」
クラスメイトの不満が爆発して、ブーイングの嵐が飛ぶ。
実際そうなのだ。お昼のときは箒と逃げ出すかのように、寮の自室に籠ってご飯を食べていた。毎日、作り過ぎたという理由で作ってくれるのは嬉しいが、クラスメイトからあまりの反感をもらうのは箒自身の学園生活にも影響が出かねない。
「箒。ここは大人しくしておいたほうが身のためだぞ───。」
こっそり耳打ちする。
「い、一夏までそういうのか?」
「クラスメイトを全員敵に回してるんだぞ」
「私はそんなの気にしない。慣れているか───」
「嘘つくなって」
「う、嘘など」
「そうやって、クラスメイトとの壁作ってどうするんだよ──。」
「………。」
図星をつかれて箒は黙りこんだ。
箒自身も感じてはいた。幼いころから自分の性格もあってか他者があまり寄り付かない。中学も転々としていたため女子での友達と呼べる友達もいない。
中学のときもクラスメイトが話している様子を見て楽しそうだと何度も思った。
そう思ったことは事実なので、確かに嘘はついている。
これ以上一夏に返す言葉がなかったため大人しく言うとおりにした。
「とりあえず、今日は学食で食べるよ」
「本当ですか一夏さん。では、さっそく行きましょう。」
その他のクラスメイトが数名付いてきて、ぞろぞろと食堂に移動した。
今日の日替わりは鯖の塩焼きだった。こんがりとついた焼き目が食欲をそそらせる。
空いているテーブルについて、さっそく皆で昼飯を食べる。
「ねぇーねぇー!近いうちにさぁ織斑君のクラス代表決定記念パーティーやらない?」
「あーやりたいそれ!」
「いいねぇ!」
「賛成賛成ー!」
盛り上がる女子たち。意見は一致したようで、一斉に一夏の方へ目を向ける。
「「「いいよね織斑君!?」」」
「おお、いいんじゃないか」
「やったー!」
「そうと決まれば…」
ワーワーワー
いやークラスで盛り上がるためとは言え、こんな企画まで考えてくれるとは感激だな。うんうん。にしても……。
盛り上がる女子をよそに俺の隣に座っているセシリアと箒。両隣から感じる異様な雰囲気。とてもじゃないが、仲良くと言った雰囲気ではない。
二人の様子を横目に伺いながら鯖の塩焼きを頬張っていたところセシリアが話し掛けてきた。
「あ、あの一夏さんのその…し、塩焼き美味しそうですわね」
欲しいと言わんばかりに訴えかける瞳。
うは、可愛い…。
「セ、セシリア欲しいのか?」
「は、はい!わたくしあまり日本料理は食べたことなくて…それに箸を使うのはどうも苦手でして、出来れば…」
頬をほのかに赤くしながらもじもじしている。これは食べさせろと言うことだよな。そういうことだよな。
一夏が箸を持とうとしたとき
「私が食べさせてやろう!」
ズイっと箒が一夏の前に割り込み、勝手に塩焼きを取っていった。
しかもご丁寧に一夏が箸をつけていない反対側を切って取っていった。間接キスなどさせまいという行為なのだろう。
「し、篠ノ之さん!わたくしは…」
「さぁ遠慮することはないぞ。」
箒はセシリアの口元へ塩焼きを運ぶ。
欲しいと言ってしまったので、渋々口につけるセシリア。
「美味しい…ですわね…。」
食べることは出来たが、本来の目的は果たせなかったので不満な様子。
(篠ノ之さん!やってくれますわねー)
目に見えるわけではないがメラメラとセシリアの背後が燃えているような気がする。
おいおい…。
「オルコットだけに食べさすのは悪いな!ということで一夏!作り過ぎた弁当を私が食べさせてやろう!」
どんな理由だよ……。
思わず、心の中でつっこんだ。
そして、箒は素早く作った弁当の中にある卵焼きを取り、一夏の口元へと運んだ。
運んだというより食べ物が口に接触しているため、押し付けている状況。
無理やりだ…。
押し付けられている以上食べなくては進まないため、一夏は箒の卵焼きを食べる。
「どうだ一夏!美味しいか?」
「あ、あぁ美味しいよ」
「そうか」
ニコニコ笑顔の箒。と同時に勝ち誇った表情もしている気がする。
「一夏さん!」
大声を張り上げるセシリア
「は、はい!」
「わたくしのこのサンドイッチを食べさせてあげますわ!」
いやそれ、セシリアが作ったわけじゃないだろ。とまた心の中で突っ込んでいると
「なにかご不満でも?」
箒ばりの鋭い睨みを効かせてくるセシリア。
もう、無茶苦茶だー。
そうして、一夏はセシリアと箒の昼御飯を無理やり、あーん。をしながら腹一杯食べさせられていった。