IS -インフィニット・ストラトス- if   作:人食いムンゴ

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4月10日 夜

――浴室―――――――――――

 

 

サァアアアアア

 

浴室に流れる水の音が響いている。

シャワーを浴びながら、セシリアは物思いに耽っていた。

 

(今日の試合――――。あの最後の攻撃、あれはまさしく『零落白夜』。おそらく彼は単一能力を発動させたのですわ。)

 

初代ブリュンヒルデと名高い最強のIS使い織斑千冬も使っていたとさせる単一能力───。

 

エネルギー性質のものであればそれが何であれ無効化・消滅させる最強の威力を持つと言われる。

それはまさしくISの絶対防御を超える攻撃。

 

数日前、絶対防御についての授業で解説していた。

 

絶対防御──全てのISに搭載されている、あらゆる攻撃を受け止めるシールド。シールドエネルギーを極端に消耗することから、操縦者の命に関わる緊急時、救命措置を必要とする場合以外発動しない。そして、その判断はIS側が行う、操縦者側ではカットできないシステム根幹。

だが、その絶対防御も完璧ではない。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させる───。

 

そのシールドエネルギーを貫通させる一例として見せてもらったのが、織斑千冬が武器、雪片と単一能力の零落白夜を駆使して戦っていたモンド・グロッソの映像だった。

自身のシールドエネルギーを攻撃力へと転換し、雪片に光の結集が纏う。その光で相手を一網打尽していた。

 

そして、その攻撃が自分自身の目の前で放たれようとしていたことに思わず怯えたのだ。

 

あのときのわたくしはその凄まじさに怖じけましたわ───。

 

彼が躊躇なく振り切っていたら、確実にわたくしの負けでしたわ───。

 

いえ、攻撃を止めていなければわたくしの身体は───。

 

考えただけでゾッとする。どうなっていたかわからない。

 

でも、彼の頭にあったのはわたくしの身を案じるやさしさ───。

 

エネルギー切れにも関わらず、命懸けでわたくしのために助けてくださった───。

 

いつだって勝利への確信と向上への欲求を抱き続けていたセシリア。

しかし、このときは違った。

ただ勝利を求めるあまりに、焦りと恐怖で混乱して、自分を見失い彼を傷つけた。

終わったとき、ただ状況を理解することだけで精一杯だった。

 

わたくしが出来る、せめてものお詫びを───。

 

織斑───一夏───。

 

その人物を考えると不思議と、胸が熱くなるのが自分でもわかった。

 

どうしようもなくドキドキとして、セシリアはそっと濡れた身体を自身の腕で抱きしめてみる。

 

思い出すだけで、望んでいたかのように不思議な興奮を生み出した。

 

出来れば、もう一度────。

 

あの腕に、あの胸に包まれたい────。

 

あのときの光景を思い出す。

 

『セシリア!落ち着け!!もう終わったんだ!大丈夫だ!』

 

『わたくしが…勝ったの?』

 

『ああそうだ!──俺のエネルギー切れでセシリアの勝ちだ』

 

「………。」

 

他の男は違う───。

 

あの、強い意志の宿った瞳を。

戦うときに見せていた他者に媚びることのない眼差し。

それは、不意にセシリアの父親を逆連想させた。

 

父は、母の顔色ばかりうかがう人だった……。

 

そんな様子を幼少のことから見ていたセシリアは『将来は情けない男とは結婚しない』という思いを幼いながらに抱かずにはいられなかった。

だが、もう、両親はいない。三年前に事故でなくなった。

 

一度は陰謀説がささやかれたが、事故の状況はとてもあっさりとそれを否定した。

 

越境鉄道の横転事故で、死傷者は百人を超える大規模な事故だった。

 

それからはあっという間に時間が過ぎた。

 

手元には莫大な遺産が残った。

それを金の亡者から守るためにあらゆる勉強をした。

その一環で受けたIS適性テストでA+が出た。

政府から国籍保持のために様々な好条件が出された。

両親の遺産を守るため、即断した。

第三世代装備ブルー・ティアーズの第一次運用試験者に選抜された。

稼働データと戦闘経験値を得るため日本にやってきた。

 

 

そして――出会ってしまった。織斑一夏と。

理想の、強い瞳をした男。

そして、他者を思いやる優しい瞳をした男に。

 

「……………。」

 

熱いのに甘く、切ないのに嬉しい。

 

――なんだろう、この気持ちは。

 

意識をすると途端に胸をいっぱいにする、この感情の奔流は。

 

――知りたい。 その正体を。

 

その向こう側にあるものを。

 

――知りたい。一夏の、ことを。

 

 

サァアアアアア…

その後も浴室には流れる水の音が響き渡っていた。

 

 

 

 

一方そのころ…。

 

──1025号室──────────────────

 

「………。」

 

一夏は唖然としていた。

部屋に帰ってからスマホを見てみると、いろんな人から大量に送られて来ている画像。

どれもこれも同じ写真だ。

 

もちろんその写真の内容はと言うと……。

 

一夏がセシリアを抱き締めている写真だった。

 

セシリアは背中を向ける形で顔は写っていないがこんなブロンドの美女が学園に多くいるわけもなくすぐ誰が抱き締められているか特定され、一夏に関してはセシリアの左肩から顔を出し正面から写真に写っていた。

幸いなことに、はっきりと顔まで写ってはいない。

某写真週間誌のスクープ写真のようなちょっと荒いといえば荒い写真だ。

 

だが、この写真についての問い合わせの連絡が殺到してスマホの通知音が止まらない。

 

それから、この写真についての釈明をするため、また一夏の睡眠時間は取られていったのであった。


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