この儚き幻想の地で為すべき事は。   作:マイマイ

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幻想郷での日々は、のんびりゆっくりと過ぎていく。
さあ、今日はどんな一日が待っているのかな?


2月20日 ~紅魔館の“鬼”ごっこ~

 薄暗い赤い館、吸血鬼の城である紅魔館を駆け抜ける。

 息は上がり足がもつれそうになるが、速度は決して緩めない。

 何故なら、そうしなければ捕まってしまうからだ。

 

「待てー、お兄ちゃーん!!」

「ほらほら、このままじゃ捕まるわよ?」

 

 楽しそうなフランと、意地悪そうに笑うレミリアさん達スカーレット姉妹が後ろから僕を追いかけてくる。

 どうしてこんな事に……泣きたくなるのを我慢しながら、ただただ逃げ続けていく。

 

 事の始まりは少し前、前に咲夜さんから聞いた会いに来いというレミリアさんの言葉に従い、紅魔館へと赴いた。

 咲夜さんが作ってくれたお菓子や紅茶に囲まれながら、楽しいお茶会のはじまりはじまり……になる筈だったのだが。

 

「それにしてもだ。ナナシ、咲夜に言伝を頼んでから実際に来るまで随分と間が開いたな?」

「あ、すみません」

「……まあいいさ、わたしは寛大だからね。

 とはいえ……何も罰を与えないというわけにはいかないな」

 

 全然寛大じゃないですね、口から出そうになった言葉を無理矢理呑み込んだ。

 でも罰って……噛まれたりとかされるのだろうか?

 よく見るとレミリアさん牙が生えてるからなあ、噛まれたりしたら凄く痛そうだ。

 

「そう身構えるな、痛い事は多分しないさ」

「多分?」

「そうだな……少しわたしとフランの遊びに付き合ってくれればいいさ」

 

 予想とは違う言葉に、拍子抜けしそうになりながらも安堵する。

 遊び相手になればいいだけなら、特に問題はないだろう。

 

 ……それが間違いだったのだ。

 

「フラン、鬼ごっこでいいわね?」

「うん、いいよー」

「鬼ごっこですか、じゃあまずはじゃんけんで鬼役を……」

「まあ待て、まずは咲夜が用意してくれたお菓子を楽しもうじゃないか」

 

 で。

 3人で他愛ない話をしながら、美味しいお菓子と紅茶に舌鼓を打った。

 のんびりとした平和な時間を過ごし、それで終わり……だったらどんなに良かった事か。

 

「――では、そろそろ始めるとしようか」

「ナナシ、頑張ってね?」

「えっ?」

 

 その言葉の意味を理解するよりも早く。

 僕は、2人の身体から溢れ出し始める妖力を全身で感じ取り、身を震わせた。

 

「鬼役はわたし達姉妹、お前は逃げる側だよ」

「えっ……えっ?」

「十秒待ってあげる。逃げられる範囲は館の中だけだからね?」

 

 そう言って、ゆっくりと数を数え始めるスカーレット姉妹。

 逃げるのが僕だけで、鬼は2人って……冗談ですよね?

 しかし数を数えるのを止めない2人を見て、冗談ではないと理解した僕は、全力でその場から逃げ出して……今に至る。

 

 一応手加減をしてくれているのか、僕が走る速度と2人の追いかけてくる速度はほぼ同じだ。

 だがそれでは逃げ切れない、此方の体力が先に尽きて捕まるのは目に見えている。

 

〈幼女2人に追いかけられるとか、一部の紳士が見たら羨ましがられるな〉

(ちっとも嬉しくないよ!! というか、力を貸してよ八咫烏!!)

〈いや、命の危険がないのに神であるオレの力を貸せるわけねえだろが、男なら自力でなんとかせんかい〉

(無茶言うな!!)

 

 人間と妖怪では地力が違うというのに、なんとかできるわけないだろう。

 八咫烏はああ言っているが、絶対に今の状況を見て楽しんでいるから力を貸すつもりがないに決まっている。

 ああ、もう、本当にこの神様は肝心な時に……。

 

「――追いついたよ、お兄ちゃん」

 

 真横から聞こえる声を耳に入れると同時に、僕は半ば本能でしゃがみ込んだ。

 刹那、先程まで僕の上半身があった高さにフランのレーヴァテインが横切った。

 

「ちょ、何するのさフラン!!」

「何って……攻撃だよ?」

「鬼ごっこの最中に攻撃とか普通しないけど!?」

 

 しかも今のは避けなければ真っ二つにされるような攻撃だった、遊びの範疇を越えた一撃だ。

 

「何を言っているんだナナシ、脆弱な人間の鬼ごっことスカーレット家に伝わる鬼ごっこを一緒にするな」

「代々伝わる鬼ごっこなんてあるわけないでしょ!! この鬼、悪魔!!」

「確かに吸血“鬼”で悪魔だが……それが一体どうしたというんだ?」

 

 っ、駄目だこの吸血鬼姉妹、完全に楽しんでる……。

 

「なんだかんだいいつつも避けられたじゃないか、少し会わない内に成長したようでわたしは嬉しいぞ」

「……遊び相手になれるからですか?」

「賢しくなったじゃないか」

「チクショーッ!!」

 

 泣き叫びながら、再び全速力で駆け出した。

 だがこのままでは本当に捕まる、というより捕まる前に命が消える気がする。

 どうすればいい、どうすれば……逃げ出しながら全力で思考を巡らせこの状況を打破する手段を思いつこうとして。

 

「…………あれ?」

 

 気がついたら、僕は廊下ではなく『大図書館』と書かれたプレートがある大きな扉の前に立っていた。

 レミリアさん達の姿は見えず、代わりに僕の前に居たのは……この館のメイド長である、十六夜咲夜さんだった。

 

「咲夜さん……?」

「館内が騒がしいので何かと思ったら……申し訳ありませんナナシ様、お嬢様方の戯れに巻き込まれる事になってしまいまして……」

「あ、いえ……気にしないでください」

 

 謝罪する咲夜さんにそう言いながら、僕の頭は混乱していた。

 たった一瞬にも満たない時間で、見知らぬ場所に移動している今の状況が理解できない。

 自身のジャンプ能力によるものではない、そもそもあれは僕の視界に映る場所にしか移動できない。

 困惑する僕の心中を察したのか、咲夜さんはこの状況の経緯を説明してくれた。

 

「私が時を止めてナナシ様をこちらまで移動させてもらったのです」

「……時を、止める?」

「私には時を止めたり時間を遅くしたり早めたりできるのですよ」

 

 さも当たり前のような口調で、咲夜さんは右手に持つ金の懐中時計を見せながら自らの能力を明かす。

 ……時を止めるなんて、それこそ常軌を逸した反則級の能力じゃないか。

 自分の治癒能力が可愛く思える程のその力に、驚きを隠すことができずそんな僕に咲夜さんは苦笑を浮かべる。

 

「あっさりと信じるのもナナシ様らしいとは思いますが、そこまで驚かれるのは中々新鮮な反応ですね」

「あ……すみません」

 

 慌てて謝り頭を下げる、僕が見せた態度は彼女にとって失礼だと思ったからだ。

 他者にはない力を持つ者に対し、物珍しげな態度を向けるなどそれでは珍獣を見るようではないか。

 

「頭を上げてくださいナナシ様、私は一切気にしておりませんから」

「……ありがとうございます」

 

「ふふっ、ナナシ様は少々他人の顔色を伺い過ぎているような気がしますわ。もっと堂々とすればいいのに。

 まあそれはともかくとして、ナナシ様は暫くそこの扉の先にある“大図書館”に隠れてていただけますか? その間にお嬢様達にナナシ様を追いかけないように言っておきますので」

「すみません、お手数をお掛けします」

「いえいえ、元はといえばお嬢様方の気紛れが原因なのですから」

 

 それでは、そう告げて咲夜さんがこちらに向かって一礼したと思った時には……彼女の姿は消えてしまっていた。

 時を止めて移動したのだろう、目の前で能力を見せられても正直半信半疑だ。

 

〈人間には過ぎた力を持ってやがるなあの嬢ちゃん、幻想郷にはそういうのが多いな全く〉

 

 八咫烏の言葉を受け流しながら、僕は目の前の大きな扉に手を掛けた。

 割とすんなりと扉は開き、中に入り……その広大さに目を見開いて固まってしまう。

 

 天井は高く、優に六メートルは越えているだろう。

 横幅も数百メートルと広大であり、驚くべきは……その殆どのスペースを天井に届きそうなほどの高さの本棚で埋め尽くされている点だ。

 目に見える範囲では本棚の中にはぎっしりと本が収められており、入りきらないのか下に積み重なっている所もある。

 高い所の本を取る為であろう簡易式のエレベーターのようなものも設置されており、一体ここには何千……何万何十万という本があるのだろうか。

 

〈こりゃあすげえな、こんだけの本があるって事も驚きだが……その殆どが魔導書だぞ。これだけの魔導書が一箇所にある場所なんて初めて見たな〉

 

 八咫烏もさすがに驚いたのか、そう告げる声には驚愕の色が込められていた。

 大図書館の名に恥じぬこの空間で、暫し立ち尽くしていると。

 

「――侵入者にしては、随分と隙だらけなのね」

 

 僕の前に、パジャマのような衣服に身を包んだ紫の髪を持つ少女が降り立ってきた。

 こちらを警戒するように睨んでいる少女に、驚きつつも僕は事情を説明した。

 

「ぼ、僕は侵入者じゃなくて、ナナシという者でして……」

「ナナシ? じゃああなたがレミィ達が言っていた変り種の人間?」

「……多分、そうだと思います」

 

 認めたくはないけど、否定もできないのでとりあえず頷きを返した。

 すると紫髪の少女は此方を値踏みするような視線を暫し向けた後、自らの名を明かす。

 

「私はパチュリー・ノーレッジ、この大図書館の管理者……のようなものをさせてもらっているわ。

 種族は魔法使い、こう見えても一応百年以上は生きている魔女なの。レミィ……レミリア・スカーレットとは一応親友よ」

「はじめまして、ノーレッジさん」

「パチュリーで構わないわ。それより……この大図書館に何の用かしら?」

 

 ノーレッジさん、もといパチュリーさんの問いかけに僕は先程までの経緯を話す。

 すると彼女は呆れたように溜め息を吐き、僕に同情めいた視線を向けてきた。

 よかった、パチュリーさんは良識があるんだ……いや、決してあの姉妹に良識が無いとかそういう意味ではないけど。

 

「そういう事なら暫くここに居なさい、ただ静かにしている事と無闇にここの本に触れない事、いいわね?」

「はい、わかりました」

「ん……どっかの白黒と違って物分りが良い人間ねあなたは、あの子もこうだったらいいのだけれど…………来なさい、小悪魔」

「はーい!!」

 

 パチュリーさんの声に、赤髪の少女が2人こちらへと飛んでくる。

 白いシャツに黒いベストにロングスカートで身を包んだ長髪の少女と、上の服装は同じだがミニスカートで髪は短い少女。

 どちらも頭と背には黒い羽根のようなものが生えており、小悪魔と呼ばれた事から彼女達は人間ではなく悪魔なのだろう。

 全然悪魔のイメージとは違う容姿に面食らっていると、短髪の方が僕に向かってにやーっとした笑みを向けてくる。

 

「パチュリー様、この子……食べちゃってもいいんですかー?」

「えっ……?」

「背丈はそれなり、顔は悪くない……しかも童貞とあっちゃ、悪魔としては放っておけませんからねー」

 

 にじり寄って来る短髪の悪魔少女、その赤い目は妖しく光り僕を逃がすまいとする狩人の目に見える。

 なんだか男としての危機が迫っているような気がしたが、そんな彼女を隣に居た長髪の悪魔少女が重い拳骨を叩き込み強引に黙らせた。

 頭を押さえ地面をゴロゴロと転がる短髪悪魔少女、鈍く重い音がしたから相当痛いんだろうな……。

 

「……妹が失礼を致しました」

「あ、いえ……」

「私達はパチュリー様の使い魔である低級悪魔、ですので名前はありません。

 とはいえそれでは不便ですので私は“こあ”、妹の方は“ここぁ”と名乗っていますので、そう呼んでください」

「わかりました、こあさん。ここぁさん……は、大丈夫ですか?」

 

 転がるのは止めているけど、微塵も動かず時折痙攣してる……。

 しかしパチュリーさんもこあさんもそんなここぁさんには目もくれず、僕を奥の席と机がある場所まで連れて行く。

 

「あの、ここぁさんは……」

「いいんです。お客様に対してあのような態度を取るあの子が悪いんですから」

「あなたは紅魔館の主であるレミィの客人なのだから、あんな態度が許されるわけないわよ」

「別に僕は気にしてないので、許してあげてくれませんか?」

 

「――さっすが、女の子の身体を知らない童貞君は言うことが違う」

「うわぁっ!?」

 

 背後からいきなりここぁさんに抱きしめられた、いつの間に復活したんだ?

 うぐっ、背中に柔らかな感触が……。

 

「ふふふっ、初々しい反応ね~。ますます食べたくなってきちゃった」

「あ、あの……すみませんけど、離れてくれませんか?」

「そんな事言って本当は嬉しいくせにー、ほーらあなたのココはこんなに大きく……ふごぉっ!?」

 

 ここぁさんの顔面に突き刺さる、エメラルド色の水晶。

 その衝撃は凄まじく、彼女はそのまま吹き飛んでいき近くの壁に叩きつけられてしまった。

 

「…………」

「本当にごめんなさい。ああいう子だからしばらく男を遠ざけていたのだけれど……逆効果だったみたい」

「うぅ……悪魔らしいと言えばそれまでだけど、どうしてあんなにエッチな子に育っちゃったのかしら……」

 

 どうやら、ここぁさんには2人も結構手を焼いているらしい。

 でもやり過ぎなような気がする、だってまた動かなくなっちゃったし。

 

「っ、けほっ、げほっ!!」

「パチュリー様!!」

「えっ?」

 

 突然咳き込み出したパチュリーさんに、険しい表情を浮かべ慌てて駆け寄るこあさん。

 優しく背中を擦るこあさんだけど、パチュリーさんはますます咳き込んでいき只事ではない事態だと認識させられる。

 

「大丈夫ですか!?」

「パチュリー様は生まれつき喘息持ちでして……ここぁちゃん!!」

「ちょっと待ってて!!」

 

 一気に図書館の中が緊迫した空気に包まれる。

 そうこうしている間にも、パチュリーさんの顔色は悪くなる一方で咳き込み方だって尋常じゃなくなっていた。

 命の危険に晒されるのは時間の問題だ、だから僕は席から立ち上がりパチュリーさんの元へと駆け寄る。

 

「すみません、ちょっとジッとしていてください」

「げほっ、ぐ……ナナ、シ……?」

 

 右手を気道の部分へと翳し、内側にある癒しの力を取り出す。

 力は黄金の光となって右手に宿り、ゆっくりとそれをパチュリーさんへと注ぎ込んでいった。

 

「これは……!?」

「っ……」

 

 痛みが走り、肉体が警鐘を鳴らす。

 それを無視して力を注ぎ込み……およそ十秒ほど経っただろうか。

 黄金の光が手から消え、そのままパチュリーさんから離れると。

 

「…………嘘、落ち着いたわ」

「ええっ!?」

「ふぅ……」

 

 単純な傷ではなかったけれど、病気にも効果があって良かった。

 ただパチュリーさんの喘息が重いものだったのか、それとも傷の治療ではなかったからなのか、消耗は激しく身体が重くなっていた。

 ……今日はもうゆっくり休んだ方がいいな。

 

「……あなた、今何をしたの?」

「僕には傷を癒す力があるんです。それでパチュリーさんの喘息を治した……わけではないんですけど」

 

 傷を癒す事はできるのだが、どうにも喘息のような病気系には完全な効果は望めないようだ。

 一時的に症状を和らげる事はできるみたいだけど、もっとその病気に対する知識を得ればまた違ってくるのかもしれない。

 

「成る程、レミィが気に入るわけだわ……魔法使いである私の身体に干渉して喘息の症状を和らげるなんて……魔法に例えたら最上位に該当する力よそれ」

「そう、なんですか?」

「ええ、種族である魔法使いの肉体は人間のものとは違うのよ。無意識的に魔力を帯びている身体には別の力を送りにくいの。

 自らが唱えた治療魔法なら効果は見込めるけど私の喘息は生まれつきでしかも呪いに近いほど重いのよ、だから治療魔法では治す事はおろか症状を和らげる事もできない」

 

 だから、症状を和らげた僕の力にパチュリーさんもこあさんも驚いたそうだ。

 また汎用性が高い能力になってるな……力が成長しているという事なのだろうか?

 

「けれどあまりその力は使わない方がいいわね」

「……ええ、色々な人からよく言われています。人間の僕には負担が大きいって」

「それもあるけど……それだけの力よ、必ずそれを利用しようとする者が現れる。危惧すべき点はそちらの方が大きいわ」

「…………」

 

 もう利用された事がありますけどね、とは言えなかった。

 

「とにかく助かったわ、ありがとう。借りができてしまったわね」

「そんな……僕が勝手にやった事ですから、そんな風に考えなくてもいいですよ」

「……呆れた。こういう時はキチンと恩を売っておかないと後悔するわよ?」

「むっ……」

 

 それはそうかもしれないが、そういうのは嫌なのだ。

 顔に出てしまっていたのか、パチュリーさんは僕を見て肩を竦めため息を吐き出す。

 けれど浮かべる表情はなんだか優しく、隣に居るこあさんといつの間にか居たここぁさんも僕に向ける表情は柔らかいものだった。

 

 ……なんだか居心地が悪い、それに恥ずかしくなってきた。

 

「――失礼致します」

 

 そんな空気を払拭するような声が、大図書館に響く。

 入口の扉が開き、入ってきたのは咲夜さんと……スカーレット姉妹。

 ま、まさか鬼ごっこの続きをするのか? そう思った僕はおもわず身構えてしまう。

 

「大丈夫ですよナナシ様、お嬢様も妹様もやりすぎたと反省しています。そうですよね?」

「え、ええ……悪かったわねナナシ、ちょっとやりすぎたわ」

「ご、ごめんねお兄ちゃん……反省しているから、許してくれる?」

「うん、それはいいけど……何かあったの?」

 

 なんかやたらと脅えている様子にそう訊ねると、2人はなんでもないと口を揃えて言い返してきた。

 明らかに何かあった態度である、でも凄まじい勢いで首を横に振り続ける2人を見るとそれ以上は訊けなかった。

 そんな姉妹の横に立つ咲夜さんはいつもの様子だったけど……何故だろう、ちょっと恐く見えてしまった。

 

「レミィ、彼……面白いわね」

「なんだパチェ、ナナシと仲良くなったのか?」

「そう言えるほどではないけれど……そうね、友人にはなりたいと思ったわ」

「ほぅ……根暗で友達付き合いの悪いお前がそんな事を言うとはな」

 

「ナナシ、そういうわけだから……私と友人になってくれるかしら?」

「え、ええ……それはいいんですけど……」

 

 ちらりと視線を横に向けると、顔面に氷の塊を叩き込まれ悶絶しているレミリアさんが映った。

 確かにレミリアさんの言動は失礼なものだったけど、氷柱みたいに鋭い氷の塊を魔法で作って叩き込まなくても……。

 

 

 

 その後、パチュリーさんとこあさん達を加えて、改めて紅魔館でお茶会が開催された。

 レミリアさんがパチュリーさんに余計な事ばかり言って、それに怒ったパチュリーさんが魔法をレミリアさんに叩き込み……という光景が複数回行なわれたのは余談である。

 ただ傍から見るとその光景は恐ろしいと思うと同時に、仲の良い友人が戯れているようにも見えたので、ほっこりしたのは内緒だ。

 

〈いや、普通に惨劇だろアレ……なんか腕とか足とかあらぬ方向に曲がってるぞ?〉

(そう思うようにしたんだから、余計な事は言わないで)

〈あ、ハイ〉

 

 

 

 

 


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