Life Will Change   作:白鷺 葵

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【諸注意】
・完全な蛇足話。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。
・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。

・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 @空本(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄で明智の保護者その1。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
・実質的なオリキャラとして、追加人員あり。名前は以下の通りで、詳しい設定は本編内にて。
 @高城(たかじょう) 暁斗(あきと)
 @明智(あけち) 唯花(いつか)
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『運命を切り開くだけの簡単なお仕事』および『ペルソナ3異聞録-.future-』、Pixivの『2周目明智吾郎の災難』および『【一発ネタ】有栖川黎の幼馴染』の設定を下地にし、別方向へ発展させた作品である。今回は更に、以前の『???』と、頓挫した設定(派生系である『逆行人と現地人がエンカウント』ネタも含む)要素を足している。
・『Life Will Change』における歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ジョーカー(TS):有栖川(ありすがわ) (れい)⇒御影町にある旧家の跡取り娘。旧家制度は形骸化しているが、地元の名士として有名。身長163cm。
 ピアス:空本(そらもと) (わたる)⇒明智の保護者2で、南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。
・追加人員
 人修羅:小林(こばやし) 春馬(はるま)⇒その筋では有名なスタントマン兼着ぐるみアクター。人修羅でありながら、悪魔の特権系能力(例.悪魔の言葉が分かる)や英語技能が壊滅気味。猫は喋らない。得意なことはジャイヴトーク。昔、ガタイのいい外国人と学生服を着た同年代の青年に追いかけ回されたことがある。
 14代目ライドウ:賀陽(かや) 星十郎(せいじゅうろう)⇒平行世界の大正25年で活躍するデビルサマナー。時折、この世界に遠征してくることもある。

・本編読後推奨。蝶が沢山飛んだ果てにある補完話。中々愉快なことになってる。
・他版権ネタやオリジナル要素が大量に含まれているので注意してほしい。


Dream of Butterfly -Perfect world-
胡蝶の夢の、その先に


 ――蝶を飛ばす。

 

 それは、誰かの未練だった。

 それは、誰かの祈りだった。

 それは、誰かの哀しみだった。

 それは、誰かの愛だった。

 

 1羽の蝶の羽ばたきは、あまりにも脆弱だ。到底、何かを変えるまでには至らない。

 

 ……では、群れの数が増えたらどうなるだろうか?

 それも、10羽20羽程度ではなく――数百、あるいは数千、もしくは数億だったら。

 

 

「積み上げられた蝶の屍も、越えられなかった運命への嘆きも、何かを掴めたことの歓びも、掴めなかったことの哀しみも、決して無駄になりはしない」

 

 

 数多の蝶が飛び交う世界で、青い外套を羽織った仮面の男は微笑む。彼と向かい合っていた青年も頷き、言葉を引き継いだ。

 

 

「その恩恵を得るのが“()()()”じゃくても、構わない。“どこかには、そんな世界がある”――その確証が得られただけで、充分だ」

 

 

 本音としては、「恩恵を得るのが『俺たち』だったなら、それが一番嬉しい」に決まっている。……ただ、この世界はそこまで優しくはない。己を取り巻く環境が変われば、人はその通りに変わってしまう。性格も、価値観も、己を取り巻く事象のすべても、何もかもが。

 努力は報われると無条件に信じられる人間は、あまりにも恵まれていた。努力する前に叩き潰された者、幾ら努力をしても認めてもらえなかった者、自ら諦めてしまった者。彼らを責める権利はどこにあるだろうか? いいや、きっと、誰にもどこにも存在しない。

 

 ()()を飛び交う蝶は、盲目的に「努力は報われる」だなんて思っちゃいない。寧ろ、努力など容易に踏み躙られることを嫌という程知っていた。

 実際、()()に辿り着くことなく力尽き、踏み躙られた蝶がいたことを知っている。ここに集った蝶の数より、辿り着けなかった蝶の数の方が遥かに多い。

 それでも、祈った。それでも、願った。『かけがえのないあなたがいる世界』を、『あなたと一緒に生きる未来』を。積み上げられたソレは、可能性として顕現する。

 

 

「……自分で言うのも何だけど、賑やかになりすぎたかな?」

 

「それくらいで、丁度いいんだよ。どうせ、物語は『俺たちの戦いはこれからだ』で終わるんだって相場が決まってるんだから」

 

 

 青年の隣に寄り添っていた女性も、静かに笑った。

 

 彼女たちからしてみれば、『心の怪盗団が解散しても、自分たちの人生はこれからも続いていく』のと同じだ。旅はまだまだ終わらない。迷い歩いた奇跡の1年は、これからも迷い歩くこととなる自分に指針を示すのだろう。

 数多の可能性を集めた。確固たる指針と、繋ぎ紡いだ絆で世界を織り上げる。さながら機織り作業のようだった。此処に辿り着いた自分が何人目かなんて知らないし、時間間隔が無いから分からないけれど、永劫のような旅路を繰り返したのだと思う。

 

 

「なあ、少し待ってくれ。向うの“誰かさん”たちに、()()()おきたいことがあるんだ」

 

「何を?」

 

「――『“()()()”の分まで、みんなで笑い合えることの奇跡と幸福を、沢山積み重ねてほしい』って」

 

 

 新しく生まれる可能性に、朽ち果てた可能性を引き継がせることは不可能だ。残るとするなら、僅かな残骸程度であろう。彼らがそれに思い至るか否かも定かではない。

 けれど、それでもいいのだ。彼らが過ごす日々こそが、自分たちが夢見たものだから。欲しくて欲しくて堪らなかった奇跡そのものなのだから。

 

 

「……そうだな。そう在ってほしいな」

 

 

◆◆

 

 

 どんなに長い夜にだって、夜明がやってくる。悪党が栄える世の中にも、黄昏時が訪れるのと同じように。

 朝が来たら夜になり、夜が明ければ朝になる――そういう意味では、『世界は平等である』と言えるだろう。

 東京の四軒茶屋にある純喫茶ルブランにも、戦いが終わってから、何度目の朝を迎えたのだろうか。

 

 統制神ヤルダバオトは倒れ、人々は本当の意味で解放された。怪盗団としての事後処理関係では多方面で大騒ぎになったが、最終的には落ち着くところに落ち着いたと思う。不満をぶうたれている奴がいないわけでは無いが、今となっては無意味な「たられば」でしかない。

 悪辣な神々との戦いを乗り越えられたのは、怪盗団に味方してくれた人々がいたからだ。嘗て遭遇した事件で共闘したペルソナ使いや、異形絡みだが別の分野で活躍していたプロたち。特に後者の協力が無ければ、恐らく、救われた世界に不在者がいてもおかしくなかった。

 

 

「人の結びつきと、大衆の望み。……それら2つが上手い具合に機能したから、この結末に至ったんだよなあ」

 

 

 俺――明智吾郎の保護者、空本至さんは噛みしめるように呟いた。黎の淹れたコーヒーを舐めるように飲むのは、己がここにいる奇跡の価値を味わっているためだろう。

 

 至さんは、フィレモンから「自分が完全復活するための生贄になれ」と迫られていた。悪辣な取引に応じなければ、後輩であるペルソナ使いたちが理不尽に晒されることになる。結んだ絆を引き裂かれ、世界を救うために使い潰されてしまうのだ。彼は性格上、それを見捨てることができなかった。

 だが、それに待ったをかけた奴がいた。“至さんがフィレモンと契約した世界の最果てにいる存在”が、2人の取引に割って入ったためである。奴は至さんがフィレモンの生贄にならずともいいように、便宜を図ってくれた。丁度同じ時期に、別分野のプロたちが様々な事件を解決していたことも大きい。

 他者が見出した『希望』のエネルギーが、巡り巡って『赤の他人』を掬い上げる――不思議な縁もあるものだ。どこで何が繋がるだなんて分からない。袖振り合うのも他生の縁と言うが、たった数回触れ合っただけなのに、互いが互いに助けられ合っていたとか、奇跡ではなかろうか。

 

 

<おかしいな。ここを指定した奴からは『ストロベリーサンデーが美味しい喫茶店だ』って聞いたんだが……>

 

<うちにはそんなもん置いてねえよ。どこかの店と間違えたんじゃねえか?>

 

 

 佐倉さんは現在、外国人男性相手に接客中である。流石は元官僚、英語の接客もそつなくこなしていた。スラング英語には弱いようで、何度か聞き返していたが。

 件の客――半人半魔のデビルハンターは、一体誰からガセ情報を掴まされたんだろうか? 隣にいた彼の後輩は、滅茶苦茶嫌そうな顔をして彼を見つめていた。

 

 俺と彼の視線が合った。彼は先輩であるオッサンを指さし、肩をすくめる。

 

 

「……食ウ、意地、張ル過ギカ」

 

 

 以前より日本語が上手くなった。未だにカタコトで超スロー・ぶつ切り気味ではあるものの、充分意味は通じる。

 

 城塞都市フォルトゥナでは英語じゃないとコミュニケーションが取れなくて難儀し、彼らの来日時にブッキングしていた絆フェスでは翻訳アプリ片手に気遣ってくる菜々子ちゃん相手に狼狽していたレベルだったのに。因みに、対堂島さんでは、堂島さんの方が彼相手に狼狽していた。

 東京が認知世界と合体したとき、件の2名は別件でそれぞれ来日していたらしい。悪魔を象ったシャドウの群れを目の当たりにした2人は、ノリノリで奴らを殲滅して回っていたという。SNSで大暴れする2人の画像や動画が出回って、火消しに難儀したという話を耳にしたことがある。

 俺がそれを思い出していたとき、彼は先輩から声をかけられた。スラング交じりの早口英語でやり取りを始める。ネイティブ発音の為、会話のテンポがいいことぐらいしか掴めない。多分、あの2人からしてみれば、俺や至さんの会話もあんな感じに聞こえていることだろう。

 

 赤いコートを着た銀髪のオッサンは<どうせまだ時間あるし、ファミレスのストロベリーサンデー食べてからまた来る>と言い残して店を出て行った。

 彼の好物はストロベリーサンデーだから、さぞや楽しみにしていたのだろう。ガセネタを掴ませた相手は、きっとボコボコにされるはずだ。

 

 

「裁判、行方、ドウシタ?」

 

「獅童正義から派生するみたいに、関係各者の余罪がゴロゴロ出てきた。官僚や研究者、警察機構も大変なことになってるらしいぞ」

 

 

 先輩の後ろ姿を見送り終え、カウンター席に座った青いコートの青年は、黎と俺へ興味深そうに問いかけてきた。俺たちの代わりに、客席で資料を読んでいた青年が答える。

 小学5年生でとんでもない冤罪――親友の妹を意識不明の重体にした犯人――を着せられた経験を持つ彼は、その経験から冤罪専門の弁護士を志した。

 ある意味、黎の先輩に当たる人物だ。黎の冤罪事件も『そう』と見抜いて弁護しようとしたが、獅童お抱えの弁護士によって先手を打たれてしまったという。今回は満を持しての参戦だった。

 

 

「甲斐刑事や嵩治も、全力を尽くしてるってさ。……今は、異世界やシャドウ、悪魔や天使絡みの問題をどう処理するかで頭が痛いみたいだけど」

 

「当然だな。人と魔の境界線は曖昧ではあるが、だからといって不用意に混ぜるわけにもいかない。混ぜた結果が認知世界とヤルダバオトなら、尚更だ」

 

<狭間の中を突っ切るアンタがそれを言うのか? 大正25年から来たタイムスリッパー系悪魔使いのライドウさんよ>

 

 

 彼らの話を聞いた青年は、スラング交じりの英語で会話に加わる。彼から名を呼ばれた学生服姿の青年――第14代目葛葉ライドウ/賀陽星十郎は、彼の指摘など歯牙にもかけなかった。佐倉さんから「大学芋は置いてないが、ケーキはある」と言われ、星十郎はケーキ類を一心不乱に食べ続けている。

 

 青年がネイティブ日本語の会話にネイティブ英語で混じれたのは、悪魔との交信を生業としていたり、直接悪魔の系譜を継ぐ人間であることが関係していた。

 『悪魔絡み』という共通点がある者たちは、念話に近いような形でコミニュケーションが取れるという。……まあ、中にはその力が異様に弱い人物もいたようだが。

 

 

『猫はニャーニャー言ってるし、オッサンも何話してるか分からないし! 猫語も英語も分かんねーよ! 日本語話せよ日本語ぉ!!』

 

 

 『閣下』なる大悪魔によって人外に仕立て上げられた人修羅――小林春馬による全身全霊の泣き言/迷言は、今でも忘れられない。ジャイヴトークは得意だったのに。

 因みに、春馬とモルガナを引き合わせたら「猫はニャーニャーしか言わない」と言っていた。ゴウトのときと同様に、モルガナの声は彼に聞こえていない。

 春馬もまた、人と魔の狭間を駆け抜けた人間だ。此度の一件で滅茶苦茶になりかかった境界線をどうにかするため、星十郎と駆け回る羽目になっていた。

 

 半人半魔の悪魔狩りやゴウトと再共闘することになった一件――絆フェスの事件でも、春馬は同じ発言をしていたか。

 スラング英語を操る悪魔狩りに、何を言ってもニャアニャアとしか聞こえない喋る猫。彼らとコミュニケーションを取るのは至難の技だったろう。

 

 ――俺はそこまで思い出した後、ふと思い至る。

 

 

「そういえば()()2()()、今日も警察と検察から話を聞かれてるんだよな……」

 

「心配か?」

 

「そこまでは憂いてないかな。だって、片方は『その道のプロ』だし」

 

 

 至さんの問いかけに、俺は小さくかぶりを振った。心配なのは本当だが、俺が議題に挙げている人物たちなら、何とかできそうな気がしていた。

 何せ()()2()()の片割れは、この店に集っている『その道のプロ』の同業者であり、彼らと縁を結んだ張本人なのだ。

 人と魔の境界線に関する線引きや落としどころの塩梅は、俺たちの見解や案よりずっとうまくできるだろう。

 

 実際、“明智吾郎”がいない世界では暫く目を付けられる羽目になった元怪盗団のメンバーだが、今回は監視とは無縁の日々を勝ち取る目途が立ったという。異形と人の境目を守る番人が動いてくれたおかげで、追及を逃れた獅童派の残党や怪盗団に対して強硬的な連中を黙らせることができたそうだ。

 異形絡みの出来事は、無辜の人々へ晒していいものではない。異形の存在を明らかにしたせいで発生したトラブルは、どれも悪質で世界崩壊一歩手前の規模だったという。それ故、人と魔は互いを分けることで、一応の安寧を得た。以後、狭間の境界線を守るために、『その道のプロ』が裏で手を回してきた。

 

 魔を悪用し、人と魔の境界線を乱そうとした人間は、それ相応の『罪の償い』に服すこととなる。勿論、現代社会における法律とは全く違うベクトルで、だ。

 

 どんな内容なのかは教えてもらえなかった。守秘義務が徹底している。ペルソナ使いというカテゴリは、『その道のプロ』にとっては充分『無辜の一般人』枠に入っているらしい。

 ……最も、彼らのルールから逸脱していた場合、ペルソナ使いに対してもそれ相応の『罪の償い』が発生するという。幸い、今回の怪盗団はルールに抵触していなかったそうだ。

 

 

「――あ、電話だ」

 

 

 カウンター越しから響いた発信音は、黎のスマホのものだ。黎は作業の手を止めて、スマホの向こう側にいる相手と話し始めた。時計の長針が1つ動いたのと、黎がスマホを切ったのはほぼ同時。

 

 

「ねえ、誰から?」

 

「高城から。『全部うまい具合に片付いた』ってさ」

 

 

 高城暁斗――それが、()()2()()の片割れであり、『その道のプロ』の方だ。

 

 くせ毛の強いウルフカットに分厚いレンズの伊達眼鏡、黒基調の洋服を着ていることの多い青年。簡単に言えば、“有栖川黎が男性だったらこんな感じ”の外見だった。性差による顔立ちの特徴を差し引けば、彼と黎の顔立ちはほぼ同一だと言えるだろう。

 “明智吾郎”に尋ねてみたところ、どうやら彼の外見や性格は、“『ジョーカー』が男性だった場合のもの”と同じらしい。実際、生年月日や趣味趣向は黎と一緒だった。ただ、高城暁斗はペルソナ使いではなく、異形と人間の境界線を守る番人であった。

 俺が至さんと一緒に歴代ペルソナ使いの戦いに巻き込まれてきたように、暁斗も様々な事件に巻き込まれてきたのだ。その断片は、ルブランに顔を出している面々から大体察せられた。……そんな高城暁斗を運命の相手として見出した【彼女】の気苦労が忍ばれる。

 

 

―― 『俺と瓜二つの女が、嘗ての俺の立場に立たされてる現場を目の当たりにする』とか、本当にもう“何でもあり”な気がしてきた ――

 

(しかも【彼女】、所謂2()()()らしいね。……どんな気持ちだったんだろ? 何の予備知識もなく、こんな闇鍋みたいな世界に放り出されたときは)

 

―― 知るかよ。……予備知識を急遽学んだ俺でさえ、今回も頭が爆発するかと思ったくらいだ ――

 

 

 “明智吾郎”は言及しないものの、多分、彼は暁斗と黎/俺と【彼女】の関係に“当たり”を付けているのだと思う。

 以前黎が言っていたこと――『自分が男として存在する世界があるなら、その世界には女として存在する吾郎がいるはずだ』――にやたらと反応していた。

 

 

「それで、暁斗くんは? ルブランに来るのか?」

 

 

 至さんの問いに、黎は首を振った。

 

 

「今日はこのまま、【明智】と一緒に過ごしたいんだって」

 

 

 黎の言う【明智】は、俺のことではない。俺以外に存在していた獅童正義の私生児――明智唯花のことを指す。男女の性差を差し引いて比べれば、文字通り俺と瓜二つの顔立ちだ。半分血が繋がった姉弟にしては、あまりにも似すぎていた。

 そんな彼女は、所謂2()()()の人生を歩んでいたらしい。恐らく、彼女の1()()()は、俺の中にいる“明智吾郎”と類似の人生を歩んだのだろう。その後、どういう訳か、彼女はヤルダバオトのゲームの駒として“この世界の可能性”に紛れ込んだ。

 俺たちが高城と【明智】の存在を知ったときには、既に疲れ気味だったように思う。俺はそれを“廃人化の実行犯だが、犯罪行為は不本意であるが故”だと思っていた。……今なら分かる。半分は俺の予想と同じで、残る半分は高城本人と高城のツテだったんだろう。

 

 高城の実父である絶斗/蠅の大悪魔(ベルゼブブ)とか、ポン刀で戦艦を真っ二つにした14代目ライドウ(高城のご先祖)とか、まさにそれだ。色々なものがゲシュタルト崩壊するのは当然と言えよう。

 

 

(……【明智】、どうなるんだろうな)

 

―― “今日のこの後”って限定した場合、十中八九『高城に抱かれる』んだろうよ ――

 

 

 “自分と瓜二つの美少女が、男のジョーカーとシケこむ”――そんな想像を頭に思い浮かべたのか、“明智吾郎”は複雑そうに顔を歪めた。

 俺も黎をしょっちゅう抱き潰す身であり、黎が大好きな男である。キャッキャウフフしたいと考えるのは当然のことだ。……複雑だけども。

 

 

「このまま孫ができたりして! 男の子かな? 女の子かな? 名前はどうしようかなあ!?」

 

<気が早すぎるぞハエ野郎。あと、ダンテならちょっと前にストロベリーサンデー食いに出てった>

 

「知ってる!」

 

 

 突如現れたのは、高城の実父である大悪魔・ベルゼブブ――その仮の姿である高城絶斗だ。くすんだ黄緑色の髪を束ね、中東出身者に多いような褐色の肌と赤茶色の瞳が印象的な男性である。人外故に、彼のガワは幾らでもあったし、本気を出せば物理法則を無視して現れることだって朝飯前だった。

 この一件で散々見せつけられ、慣れてしまったのだろう。佐倉さんは呆れた顔をして「できれば普通に入って来てくれると安心なんだが」とぼやくだけだ。彼が本格的にルブランへ来たのは6月以降だが、絶斗氏が物理法則を無視して入店したことに気づいたのは11月頃。当初は大騒ぎになったか。

 

 絶斗氏は妄想の翼を羽ばたかせ、まだ見ぬ孫を夢見ている。どうしてそうなったのかは知らないが、奴は筋金入りの親バカだった。

 ついでに、悪魔狩りのオッサンにデマを吹き込んだのは彼らしい。当人同士が鉢合わせれば、騒ぎになってルブランが吹き飛びかねないのが心配である。

 まあ、日本での乱闘騒ぎはご法度だ。暴れ回る際には、それ相応の舞台をこしらえた上で行う常識くらいは持っているだろう。多分。

 

 俺がそんなことを考えながら視線を動かしたとき、玄関先にいた緑色の悪魔――キマイラが、悪魔の群れを電撃でのしている光景が飛び込んできた。彼のパートナーは黎の弁護士である。外見サイズは大型犬程度で、ルブラン店内に連れ込むには些か巨体だった。入り口でお留守番になってしまうのも致し方なかろう。

 

 

「【明智】、結局どうなるの? 彼女は獅童の関係者を失脚させてただけでしょう? 廃人化をしていたのは彼女じゃない。【明智】は濡れ衣を着せられただけだ」

 

「自分の身を守るためとはいえ、獅童の言いなりになり、抵抗手段を一切持たない人間相手に超常の力を振るったのは事実。その部分が抵触し、それ相応の『罪の償い』をしてもらうことになるだろうな」

 

「……ゴウトみたいにされてしまうの?」

 

「彼女の件に関しては、情状酌量が認められるだろう。暁斗と協力し、廃人化を引き起こしていた“悪神の駒”から標的を守るために行動していた。そうして最後は、お前たちの戦いが有利に運ぶよう手助けをしていたんだ。……流石に、人の姿を奪われるまでには至らんだろう」

 

 

 黎の問いに答えたのは星十郎とゴウトだった。ヤタガラスと呼ばれる超常組織に所属する彼は、人と魔の境界線の番人とも言えよう。

 安堵する黎の姿を見て、「ああでも」とゴウトは付け加える。

 

 

「監視役ぐらいはつくだろうな」

 

「ワガハイ、誰が監視役になるか検討ついたぞ」

 

「その解釈で間違っていない」

 

 

 元人間の猫(本物)(ゴウトドウジ)の発言から、善神の化身である猫(モルガナ)は今後の展開を予想した。俺にだって予想がついた。実質的に、あの2人は蜜月になるわけだ。

 歩んだ道筋は違えど、俺と【明智】のルーツは同一だ。どの道、悪態をつこうが背伸びをしようが、こんな世界の可能性を引き当てるレベルで、伴侶が大好きである。

 口はどうだか知らないものの、内心舞い上がっていそうだった。実際、高城絡みの【明智】は文字通り“恋する乙女”そのものであった。年相応、あるいは少し幼く見える程に。

 

 ――そんなことを考えていたとき、来客を告げるカウベルが鳴り響いた。双葉の素っ頓狂な声が木霊する。

 

 

「よーっす、黎! って、すっげえ賑わってる!?」

 

 

 やって来たのは、春休みの真っ最中である怪盗団の面々だ。自分たちが来る以前にルブランが満員御礼になっているとは思っていなかったようで、全員が目を丸くしていた。

 彼らは予想外の賑わいぶりに目を瞬かせながらも、普段通りの調子に戻って席に着く。間髪入れずまたカウベルが鳴り響いた。今度は至さんが目を丸くする番だった。

 

 

「南条くん? なんでここに?」

 

「何度連絡しても出ないからだろう。……同窓会幹事と調査員としての職務、忘れたとは言わないだろうな?」

 

「あ」

 

 

 眉間にしわを寄せた南条さんの言葉に、至さんのこめかみに筋が刻まれた。文字通り、彼の顔から血の気が引く。

 

 

「ごめん! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「……はあ。お前はどうして、こうも地雷を踏み抜くような発言が多いんだ」

 

 

 南条さんの表情が曇った。至さんの発言は、まったくもって笑い事ではない。何か1つでも可能性がずれていたら、空本至はこの世界からオサラバしていた危険性があったのだ。身辺整理に勤しんでいた至さんのことを、南条さんは糾弾することができないのだろう。

 至さんは慌てた様子で勘定を済ませ、ルブランを飛び出す。南条さんの眉間には皺が寄ったままだったが、彼の口元は柔らかく弧を描いていた。2人はそのまま車に乗り込む。黒塗りの高級車はそのまま、大通りの向うへと消えて行った。

 程なくして、俺のスマホにメッセージが入る。『今日は遅くなるから食べててくれ』とのことだ。俺は了承の返事を出し、仲間たちへと向き直る。3月末に御影町に戻る俺と黎にとって、みんなと過ごす春休みを無駄にしたくない。

 

 ……できればこの場に、もう2人ほど参加してほしかったのだが。

 馬に蹴られるような真似を自らするような馬鹿は、残念ながら、ここにいるはずがないのだ。

 

 

 




思うところがあって、今更P5RのテイザーPVを見ました。結果、「次の情報が出てくる前に何か書いてみよう」と思い至って出来上がった産物がこれです。以前計画し、頓挫した設定を引っ張り出してみました。『Life will Change』で主役格を務めた明智吾郎&有栖川黎側の視点で構築。
『Dream Of Butterfly』は明智吾郎&有栖川黎の“歴代ペルソナシリーズ行脚組の怪盗団”と、“元・ジョーカーでNotペルソナシリーズ行脚済み”の高城暁斗&“2周目プレイヤー”の明智唯花による“生き残り作戦組”が交錯するような形式を検討していたんです。力量不足と体力不足とプロットの瓦解でおじゃんになりました。
明智×P5主人公♀と、P5主人公×明智♀のどちらをメインにするか決められなかったことも理由かもしれません。どっちも書き手の好みなんです……。ついでに『Life will Change』を読破済みを前提としたネタも大量に盛り込むつもりでした。ええ。

蝶を大量に飛ばした結果、「至がいなくならない世界」が出来上がりました。但し、冷静に状況を確認すると、愉快でハードな世界観になっている模様。
魔改造明智は自分のことを棚に上げて、暁斗と唯花のミラーカップルを「はた迷惑」と認識しています。第3者からすればどっちもどっちだし、地獄度合いが上昇中です。
こちらも続く予定はありません。あくまでもオマケであり、本編の掘り下げ+ネタ補完系のお話です。

また何かあったら、こんな感じのSSをUPするかもしれません。
そのときはどうか、この作品と書き手をよろしくお願いします。

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