・完全な蛇足話。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・完結した本編の余韻をぶち壊しにする恐れがある(重要)。
・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。
・こんな可能性がどこかに転がっていることを示唆しているだけで、それが実際になるわけではない(重要)。
・原作怪盗団と、『Life Will Change』関係者が絡む話。
・視点は原作怪盗団側。怪盗団名は『The Phantom』
・原作ジョーカーの名前⇒雨宮漣。
・本編をすべて読んだ後だと、意味が分かる。
・神様系関係者がゲスい。
・ペルソナQ2の関連情報を見て、ふと唐突に「形にしよう」と考えたもの。
・今後とも、この作品と作者をよろしくお願いします。
20XX年の11月某日。
心の怪盗団『The Phantom』は、最大の危機に陥っていた。
人殺しの汚名を着せられ、犯罪者として指名手配された若きペルソナ使いたち。彼や彼女たちは、この危機を打破するために、新島冴のパレスを攻略していた。
パレス内部の仕掛けを解き明かし、オタカラまでのルートを確保。あとは、決行日たる11月19日――強制捜査が行われる前日まで息を潜めるのみとなる。
入り口まで戻り、イセカイナビを起動して現実世界へと帰還しようとしたときだった。――スマホに異様なノイズが走り、奇妙なアナウンスが響き渡ったのは。
『新しい迷宮を発見しました』
『ナビゲーションを、続行します』
世界は暗転し、気づいたらそこは、見覚えのない世界。
怪盗服から制服へと変化しているが、スマホの表示はパレス内部のまま。
現実世界へ帰るはずが、未知なるパレスへ迷い込んでしまったのだ。
未知のパレスは、曇天に覆われていた。入り口には、ペンキの禿げた看板が斜めに寄りかかる。辛うじて読み取れたのは、『シャドウメイズ・ワンダーランド』の文字だけだ。朽ちて大穴が空いたフェンスの向こう側には、錆び切った遊具や廃墟の群れが並んでいた。入力した覚えはないが、パレスのキーワードは『廃墟』、『遊園地』あたりだろうか?
イセカイナビを起動して脱出しようにも、『ナビゲーションを、続行します』と呟き続けるだけだった。“何かがアプリに干渉し、怪盗団がこの空間から脱出できないようにしている”ことを察知した面々は、脱出する方法を探すため、まずは廃墟と化した劇場へと足を踏み入れる。妙に小奇麗な青一色の装飾と、ステージの上に置かれた学生机と椅子が目を惹いた。
「――また、フィレモンかニャルラトホテプが“変な遊び”でも始めたのかよ……」
変化は唐突に訪れた。
朽ちかけた学生机と椅子が突如、在りし日の美しさを取り戻す。
驚く怪盗団だが、更に変化が起きた。先程まで誰も座っていなかったはずの椅子に、青年が腰かけていたのである。机に突っ伏して眠っていた彼は、起きて早々、不機嫌そうにため息をついた。
「あんた、名前は?」
「空本至。エルミンの2年生だ」
「えるみん? ……オコジョのこと?」
「聖エルミン高校。東京の郊外にある、中堅の伝統校だね」
怪盗団は、灰色の学生服――聖エルミン学園高校の制服を着たペルソナ使いの学生、空本至と遭遇する。
彼もこの空間に迷い込んでおり、尚且つ、
しかし、残念ながら、この空間から出る方法は分からないようだった。
「この空間に来る前に、自分が何をしてたか一切思い出せないんだ。……いや、もっと大事なことを忘れているような……?」
「……なあ、漣。なんかさあ、コイツの言動にすっげー既視感を感じるんだけど……」
「モルガナに似てるな。俺たちと出会ったとき、そんな風に言ってたから」
「……あの御仁……」
「モルガナ、どうかしたの?」
「上手く言えないんだが、ワガハイ、あの御仁には
空本至の言動に、蓮と竜司は既視感を覚える。しかし、空本至に対して何かを抱いたのは、彼等だけではない。
記憶喪失が通じたのか、失くした記憶/魂に刻まれた重要事項が共鳴したのか、黒猫は訝し気に首を傾げた。
「レディース・アンド・ジェントルメン! ご機嫌如何かな?」
そこへ現れたのは、謎の男。
煌びやかな青装束に身を包み、バタフライマスクで顔を隠した男は、自らを『語り手』と称した。“自分こそが、怪盗団と空本至をこの空間に呼び寄せた張本人である”と。
「自分たちを元の世界へ帰せ」と訴える怪盗団や空本至に対し、『語り手』は告げる。“この世界に秘められた謎を解き明かし、正しい手順で儀式をすれば出られる”と。
件の劇場を攻略拠点にして、怪盗団と青年は寂れた遊園地を散策した。――すべては“元の世界へ帰り、自分の成すべきことを成し遂げる”ために。
まず最初に足を踏み入れたのは、雪と氷に覆われた城。
聖エルミン学園の校舎と、落ちていた演劇――『雪の女王』の台本をモチーフにした世界。
『ペルソナさま遊び』、『聖エルミン学園七不思議』、『雪の女王』、『スノーマスク』、『呪い』、『氷の城』。
「至、お前は下がれ」
「キミは戦う術を持っていないだろう? ここは僕たちに任せてくれ」
「――ああそうだ。戦わなくちゃ」
『ペルソナさま、ペルソナさま。おいでください』
「その術を、俺は知っているはずなんだ――!!」
ペルソナ――“自分の心の中に宿す、もう1人の自分”。
紐解かれるのは、すべての原点。始まりの日。
生まれた意味を探す青少年が体験した、不思議な物語だ。
「奇遇だな。俺の弟分も“吾郎”って名前なんだ。最近ウチに来たばかりの弟分でさー」
「へ、へえ……。そうなんだ。僕も吾郎だから、既視感あるなあ」
「そうそう。色々あったせいか、処世術が上手いんだよな。――丁度、今のキミみたいに!」
失くしたものを取り戻す。
本来の姿を取り戻す。
次に足を踏み入れたのは、廃墟と化したビル。
朽ち果てた看板から読み取れたのは、掠れたアルファベット――Sebecの文字だけだった。
『セベク・スキャンダル』、『神取鷹久』、『園村麻希』、『白と黒の双子/あいとみき』、『生きる意味』、『ノモラカタノママ』、『アヴディア界』、『パンドラ』。
『キミは、何のために生きている?』
『その答えを探すため』
あの日の問いに、誰が何と答えたのだろう。あの日の問いに、自分は何と答えただろう? その答えを、自分はちゃんと見つけることができただろうか?
『空本至。――キミは、生まれたこと自体が間違いだったんだ』
誰に何を言われても。自分が一体何だったのかを突きつけられても。数多の恥を晒し、他者へ理不尽をばら撒くだけの存在に成り下がろうと。
それでも生きるのだと、無様に、我儘を叫び散らしながら、泥と傷に塗れながらも歩いていくことを選んだ。生きていきたいと願った命があった。
――そうして今、間接的にこの問いを投げかけられた怪盗団の面々は、その問いに対して何と答えるのだろうか?
「イタルさま。貴方は今、何歳で、どこに住んでいて、どのような肩書を持っていらっしゃいますか?」
「時間感覚がよく分からないが……今の俺は20歳、住所は珠閒瑠市夢崎区▲▲▲-◆◆◆メゾン昴星、○○大学○○学部○○科2年、南条コンツェルン非公認特別研究部門に在籍する調査員かな?」
「南条コンツェルンって、日本でも有数の大財閥じゃない!?」
「社交界でも何度か顔を合わせたことがあるわ。政財界の大物や政治家ともコネを持ってるっていう、由緒正しい資産家……」
「肩書は凄いけど、とっても愉快な人だよ。サトミタダシ薬局店の歌を聞いて洗脳されたりしてたし」
「えっ」
「南条くんが高校時代のクラスメートでさあ。卒業後はペルソナ関係の部署を立ち上げるって言ってたから、兄弟そろって協力することにしたんだ」
失くしたものを取り戻す。
本来の姿を取り戻す。
「久しいな、空本至。随分と愉快なことになっているじゃないか!」
「ニャルラトホテプ……!」
「キサマ、よくもワガハイの前に、ぬけぬけと!!」
(……あれ? 何でワガハイ、コイツのことが嫌いで仕方ないんだ……!?)
次に足を踏み入れたのは、朽ちかけた船。七姉妹学園の制服を着た、金色の目を持つ男が不気味に嗤う。
噂が現実になる街で、まことしやかにささやかれた噂があった。――今ではもう、誰も語る者がいない話。
『デジャビュ』、『ライダースーツの青年』、『JOKER様』、『JOKER使い』、『向うの世界』、『罪と罰』、『モナドマンダラ』。
『お前が『鍵をかけて閉まっておけばいい』なんて提案しなければ、一連の悲劇が始まることはなかっただろうにな!』
悪意に翻弄された末に、確約された悲劇があった。
『虫のいい話だな? 辛いことは仲間に押し付け、『自分だけ記憶を持ったままでいたい』などと、許しがたい大罪だ』
『罪には罰を下さねばならん。だから、その女と再び出会う機会を与えてやった。仲間たちと巡り合う運命を紡いでやったのだ』
悪神は、楽しそうに笑っていた。
善神は、涼しい顔して厳かに語り掛ける。
『我が化身の失敗作。人間に対し、災厄をばら撒くだけの欠陥品よ。――キミは、キミ自身の罪を償わなくてはならない』
誰が罪を定めるのか。誰が罰を降すのか。誰がそれを裁くのか。裁定者はいつだって傲慢で、理不尽で、容赦がなくて、優しい顔して無慈悲な判決を下すのだ。
その本質が超常であるが故に、大事なところで、人間と相いれることはない。人間に友好的だろうと、敵対的であろうと、決して油断してはいけないのである。
『――俺、『向こう側』へ帰るよ』
『淳は約束を守った。……今度は、俺の番だ』
伸ばした手は届かない。数多の理不尽を差し向けられても、必死になって頑張っていた彼の頑張りは報われることはなかった。
“何も忘れたくなかった”という大罪。周防達哉はそれを償うために、“愛する人と永遠に会えない”という罰を受けたのだ。
大事なものを守るために、謂れなき罪を認め、理不尽な罰の執行を受けた命がある。――その背中は、決して忘れてはいけない。
「……なあ、至サン。今何歳で、ドコに住んでる?」
「今? 23歳で巌戸台◆◆◆-××月光館学園高等学校特別分寮在住。寮母兼南条コンツェルン非公認特別研究部門に在籍する調査員。桐条財閥の内偵捜査してた」
「桐条って、南条家の分家で相当な資産を有する企業よね」
「人脈がヤバいことになってる……!!」
失くしたものを取り戻す。
本来の姿を取り戻す。
「私と交わした契約を覚えているかな? 私が生み出した、失敗作の化身よ」
「――フィレモン」
「フィレモンさま……」
「お、おい。どうしたモナ? 突然直立不動になって」
次に足を踏み入れたのは、月まで聳え立つ時計塔。大事なことを忘れたままの至へ、善神の化身は語り掛ける。
誰かの罪が積み重なった挙句、無辜の少女に滅びの業を背負わせた。終わりを告げるかのように、時計塔の鐘が鳴り響く。
『影時間』、『タルタロス』、『
大切な契約をした。理不尽だけれど、それを交わしてでも守りたい未来があって、守りたい人たちがいて、笑顔になってほしい人たちがいた。努力が報われてほしいと望んだ。
終わりへのカウントダウンが始まる。1人の破滅は、誰の未来を守れるだろう。誰の笑顔を守れるだろう。――この命は、何を成すために生まれ落ちたのだろうか?
近づいて来る終わりを噛みしめながら、今はまだ、守れたものを慈しんでいたい。彼らが信じる日常を、自分も信じていたかった。きっと最後まで、最後の最期まで。
「今年で26歳、八十稲葉にある旅館『天城屋』に長期宿泊中。南条コンツェルン特別研究部門に在籍する調査員で、
「神さま最低だな」
失くしたものを取り戻す。
本来の姿を取り戻す。
次に足を踏み入れたのは、霧に覆われた神社の社。土地が視信仰が残る田舎をモチーフにした、寂れた広場。
電柱に張り付けにされた死体の墓標をかき分けた先に、人々が求めた真実があった。
『マヨナカテレビ』、『連続猟奇的殺人事件』、『特別調査隊』、『霧に覆われた街』、『都合のいい嘘』、『幾万の真言』――『あと2回』。
もしも最後に、死ぬ理由を決めることができたなら。自分が死ぬに値する相手を、自分が死ぬに値する理由を、死ぬ寸前までに見つけることができたなら――それはとても、幸福なことなのではないかと考えた。死に方を選ぶことは、生き方を決めることと同義だから。
選ぶことができないのなら、せめて足掻きたい。最高の結末を迎えるには、自分はあまりにも年を取りすぎた。天元を突破することが子どもの戦いならば、天井の下で足掻き続けることが大人の戦いであると。そのためなら、もう少し我儘になってみてもいいのではないかと。
『世の中クソだな!』
キャベツ頭の刑事が吐き捨てた言葉は、この世の心理だと思う。コイツがぶちまけた本音は、あまりにも生々しくて痛々しかった。羨望と八つ当たりに満ち溢れた叫びは、誰もが心の奥底で抱えていたことだった。
どんなクソ野郎にだって、捨てられないものがある。なくしたくないと思うモノがある。越えたくない一線があるのだ。実際このキャベツ野郎、なくしたくないものを守るために、自分の完全犯罪を無に帰す行動をとった。
完璧じゃなくていい。出来損ないでもいい。弱くてもいい。どうしようもなくてもいい。頼りなかろうと、ズルばかりしようと、我儘であろうと、自堕落であろうと、汚い欲望塗れだろうと、人間は生きて行けるのだ。
間違ってもいい。遅すぎたなんてことは何もない。輝ける未来は絶たれたかもしれないが、そこまで悲観する必要はなかった。
だって知っている。世界は自分が思った以上に優しくはないけど、自分が思った以上に悲しいことも辛いこともないんだと。
周囲を見回せば必ず誰かがいて、確かに誰かと結びついているのだから。――いつか、それが永遠に断ち切られる日が来ても、結んだことを後悔なんかしない。
「――ああ、そうだった」
最後の契約を、思い出す。
それを成すために、空本至はここにいた。
「思い出した。……思い出したよ。吾郎、黎」
「俺の交わした契約は――」
失くしたものを取り戻す。
本来の姿を取り戻す。
「これは旅路だ。空本至の歩いた、人生という名の」
最後に広がるのは、朝日を思わせるような東雲色の空。けれど実際に、眼前に広がるのは黄昏時の空だ。夜明と夕方の暁が滲む向うに、青年は全ての答えを得る。
『いかないでくれ、兄さん……!』
糸を切る。
戦を司る神が、悲痛な顔をしたまま消えた。
『ダメだ、至さん!』
『お願い、思い出して! 私の口癖を忘れないで!』
糸を切る。
太陽を司る神と、月を司る女神の手は、こちらを掴めなかった。
『ダメだよ。そんなのダメだよ!』
糸を切る。
救世主は呆然と、切れた糸を見つめていた。
『こんな真実、見たくなんかなかった……』
糸を切る。
日本神話の神は、自分の目を覆って首を振っていた。
『――至さん』
躊躇いながらも、糸を切る。
1羽のヤタガラスが飛び立つ羽音を聞いた。
悪魔の王たちは、その背中をずっと見つめていた。
それを見届けた『語り手』は、茫然と佇む怪盗たちへと告げる。
「――さあ、お葬式を始めよう」
「これは、空本至という人間が、死に至るまでの物語だ」
「狂気の沙汰とは自覚しているよ。……『過去の自分を、過去の自分に縁がある面々と瓜二つの奴らに殺させよう』だなんて」
寂れた遊園地にある、小奇麗な劇場。そのステージの中央に、献花で一杯になった棺がある。
青年は眠っていた。綺麗な顔で、眠っていた。棺の淵に、仮面の男は腰かけていた。
「おめでとう。キミたちのおかげで、どこかの世界にいる誰かが救われた」
「キミたちは、ここで体験したことの一切合切を忘れるだろう」
「でも、この旅路は、キミたちの魂の中に深く刻み込まれる」
「いつか、キミたちにも選択を迫られる瞬間が訪れるかもしれない。もしかしたら、そのときに、大事なことに気づけるかもしれないよ」
「“気づいた後、どうするか”が一番大事なんだけどね」
彼は怪盗団と対峙しながら、静かに語る。
一人の男の生き様が、彼等にどのような影響を与えるかなんてわからない。何かの導になるかもしれないし、何の意味も無く打ち捨てられる可能性だってある。
でも、いいじゃないか。蝶の飛んだ軌跡はどこへゆくのか――好奇心で見守ることくらい、きっと許してもらえるはずだ。生まれたばかりの神様は、そんなことを考えた。
舞台の上には誰もいない。じきにこの世界も崩壊することだろう。神様が手をかざすと、そこは高層ビルよりもっと上――怪盗団と悪神の最終決戦場。
光に満ちた空を眺める青年の背中へ、神様は静かに歩み寄る。
振り返った彼は、静かに笑みを浮かべていた。
――
黒い切り札が、仲間たちを守るために己の実を差し出す未来を。
白い烏が、最後の最期に本音をぶちまけ、嘗て描いた正義に殉じる未来を。
前話の???が結局頓挫してしまったのと、ペルソナQ2の情報を目にしたことが切っ掛けで書き上げた嘘予告風SS。
簡潔に言うならば、“原作怪盗団が、『間接的に至を殺す』ことで世界を救う”お話です。因みにこの遊園地を攻略しないと、世界が滅ぶ模様。選択権はナシ。
こちらも続く予定はありません。あくまでもオマケであり、本編の掘り下げ+ネタ補完系のお話です。
また何かあったら、こんな感じのSSをUPするかもしれません。
そのときはどうか、この作品と書き手をよろしくお願いします。