・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
@
@デミウルゴス⇒獅童の息子であり明智の異母兄弟とされた
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『運命を切り開くだけの簡単なお仕事』および『ペルソナ3異聞録-.future-』、Pixivの『2周目明智吾郎の災難』および『【一発ネタ】有栖川黎の幼馴染』の設定を下地にし、別方向へ発展させた作品である。
・ジョーカーのみ先天性TS。
ジョーカー(TS):
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
ピアス:
罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
ハム子:
番長:
・敵陣営に登場人物追加。
@神取鷹久⇒女神異聞録ペルソナ、ペルソナ2罰に登場した敵ペルソナ使い。御影町で発生した“セベク・スキャンダル”で航たちに敗北して死亡後、珠閒瑠市で生き返り、須藤竜蔵の部下として舞耶たちと敵対するが敗北。崩壊する海底洞窟に残り、死亡した。ニャラルトホテプの『駒』として魅入られているため眼球がない。獅童パレスの崩壊に飲まれ、完全に消滅した模様。
・「2罰ボスの外見を見た人間の反応」に関するねつ造設定がある。
・普遍的無意識とP5ラスボスの間にねつ造設定がある。
・『改心』と『廃人化』に関するねつ造設定がある。
・春の婚約者に関するねつ造設定と魔改造がある。因みに、拙作の彼はいい人で、春と両想い。
・魔改造明智にオリジナルペルソナが解禁。
・胸糞悪いレベルでフィレモンが酷い。
・女神転生4FINALより、一部の敵の姿を借りている。今回は大天使より、メルガバー、メタトロン、セラフ、マンセマット
その日、とある夫婦はクリスマス会の準備をしていた。
その日、とある家族は街に繰り出していた。
その日、とある青年は大学で講義を受けていた。
その日、とある会社の関係者は重要な会議に出席していた。
その日、とある者は――。
普段と変わらない日常。薄氷の上に成り立つ平穏が、どれ程脆いものかは知っている。それを守るために戦う人々がいるから、世界は穏やかに回っていることも知っていた。
彼らはそれを噛みしめながら、その日を生きていた。当たり前の明日が来る喜びを噛みしめながら、普通に生きる人々と同じように日常を謳歌していた。普段通りを生きていた。
今日も日常が続くのだと思いながらも、後輩たちの窮状を気にかけながら営みを続けていた。世界の危機を察しながらも、その規模が以下様なものかまでは把握できかねていた。
異変が起きたのは、唐突だった。
曇り空が真っ赤に染まり、赤い雨が降ってきた。雨粒は地表を覆いつくし、足上まで飲み込む程に氾濫する。骨のアーチが至る所に出現し、街頭のテレビジョンが例外なく砂嵐に飲み込まれる。信号機や灯りはすべて消えているのに、人々は何食わぬ顔で行き交っていた。
異変に気づいた者たちは悟る。世界は滅びの
そんなことを考えたとき、スマホ/携帯電話がメールの着信を告げてきた。
差出人は空本至。添付されていたのは『イセカイナビ 最終決戦特別版』。
「――行こう」
世界の存亡がかかった大一番に挑まんとする後輩のために。
世界の危機に立ち向かわんとする後輩の道を切り開くために。
誰に褒められるわけでもなく立ち上がった、無銘の英雄たちのために。
迷うことなく、『イセカイナビ 最終決戦特別版』を起動した。
◆◇◇◇
「――来たか、反逆の徒よ」
神殿へと続く道を塞ぐようにして降臨したのは、獅童智明の皮を被っていた統制神の配下――デミウルゴスだ。僕らの予想していた通り、奴は怪盗団の道を阻むために立ちはだかった。想定内の事態に、僕たちは身構える。
「やっぱり、デミウルゴスが足止め役か」
「前に戦ったときより能力値が上昇してる。アイツ、本気だ」
ジョーカーがデミウルゴスを睨みつけ、ナビが鋭い眼差しを崩さぬまま敵の戦力を分析する。元より相手が強大であることは予測済みなのだ。逃げるつもりなど微塵もない。
奴を倒せば、渋谷にいる人々に施された認知に影響が出ることは確かだ。うまくいけば、この異変に気づいて統制神への盲目的な信仰を撤回する可能性がある。
常人がメメントスと同化したこの風景を受け入れるとは思えない。ひとたびこの光景――異界化した東京をを認識してしまえば、十中八九パニックになるであろう。
「統制神の配下を倒せば、下にいる連中は否が応でも怪盗団の姿を認識するだろう。大衆がこの世界を平穏だと思っているのは、コイツが認知を操作してることが原因だ」
「大衆の認知を歪ませ、聖杯を運用するためのエネルギーシステムとして利用しているのね。うまくいけば、聖杯への供給を止められるかもしれないわ」
モナとクイーンはデミウルゴスを睨みつつ、下の世界――異世界と化した東京を平然と歩き回る大衆たちに視線を向ける。怪盗団のことを忘れ去り、怠惰の感情によって支配された人々は、このままだと『統制神のエネルギー源』として永遠に使い潰されてしまうだろう。
例え運良くこの異変を認識したとしても、一般人がどうにかできるものではない。世界の異変と周りの反応の異質さに戦慄しつつ、怯えながら死を待つことしか許されないのだ。勿論、その大衆の中には、ペルソナ使い以外の人々と結んだコネクションも含まれている。
特に、歴代『ワイルド』たちが結んだ絆の先には一般人が数多くいた。今世代の『ワイルド』たる有栖川黎の例だけで見ると、佐倉さん、冴さん、武見さん、三島、織田信也、岩井さん、吉田議員、大宅さん、川上先生、一二三さん、御船さん――こんなにも多くの人々がいる。
世界が滅ぶということは、必然的に、彼/彼女らも死んでしまうということを意味していた。数多の絆を背負っている有栖川黎には、敗北なんて絶対に許されない。世界を救う戦いであると同時に、見知った人々が生きる世界を守るための戦いだ。
それは黎だけに言えることではない。怪盗団全員が、大なり小なり一般人との絆を持っている。同じ重みを背負っている。――誰1人として、敗北は許されない。
「あの永久機関は脅威以外の何物でもないもの。壊せるなら壊しておきたいわね」
「まったくだ。意志を持つ命を命と思わぬ鬼畜な所業、幾ら『神』といえ許されることではない! ――いいや、許してなるものかっ!!」
「俺たち人間は、テメェらのために使い潰される
ノワールがデミウルゴスを見上げる。彼女の眼差しはどこまでも真っ直ぐで、一切の迷いがない。
同じようにして、フォックスとスカルが啖呵を切った。やられ方は全く違うが、双方共に、『悪い大人に未来を食い物にされた』経験がある。
前者は班目の盗作によって画家としての才能を食い潰されかけたし、後者は鴨志田の理不尽なしごきによって足を壊しスプリンターとしての未来を奪い取られた。
デミウルゴスや統制神が人間にしようとしていることは、班目や鴨志田がフォックスやスカルに強いた理不尽となんら変わりない。怒りが溢れるのは当然のことだった。
「ここにいる誰1人、統制神の有難い御高説を聞く気はない。統制神の御使いであるテメェの話だって同じようなモンだろ?」
―― ぶっちゃけ、獅童の演説並みに薄ら寒ィんだよな ――
「成程な。通りで“我が主”が貴様らを見限るわけだ。大人しく“我が主”の言葉に従えばいいものを」
僕が零したツッコミに対し、“明智吾郎”も真顔で同意する。
自分の思い通りにならないからと言って、その原因全てを排除すればいいという訳にはいかない。時には妥協案を見つける必要がある。社会を円滑に動かすために必要なことだ。
悪神には『折り合いをつける』という概念が皆無らしく、『自分の意に反する邪魔者は皆殺しにすればいい』と本気で信じている。
フィレモンに反抗したのも、ニャルラトホテプや大衆をエネルギータンクに使用したのも、怪盗団を消そうとしているのもその証だ。
奴に親はいなかったのかと思ったが、元・フィレモンの化身という時点でアウトだったことを思い出した。やはり『神』にロクな奴はいない。閑話休題。
「こんな奴らを見守ることに徹するフィレモンもフィレモンだ。自ら望んで“我が主”を生み出しておきながら、あのお方のやり方を否定するだけでは飽き足らず、失敗作だと誹り、『存在自体が誤りだった』とまで言い切った! 人間の愚かさを目の当たりにしたからこそ、“我が主”は立ち上がったというのに!」
―― ………… ――
「終いには、“我が主”の持ち込んだ『ゲーム』に対し、『煩いな。私は今、自ら力を振るえる状態ではないのだよ。元通りになるための計画が佳境を迎えたところなんだ。これ以上見苦しく喚き散らすなら、私の部下であるイゴールを窓口にすると良い』とぞんざいに扱う始末だ! 決して許されることではない!!」
「……だろうなぁ」
デミウルゴスの言葉を聞いていると、僕の脳裏には悪びれる様子もなくいい笑顔で首を傾げるフィレモンの姿がよぎる。実際、至さんに似たようなことを言ったときと同じ表情を浮かべていたに違いない。
根本的な存在否定――その度合いの罪深さを察したのか、“明智吾郎”が渋い顔をした。“彼”もまた、最期の瞬間に――間接的ではあるが――獅童正義に存在を否定されたからだ。最後は殺すつもりだったと思い知らされた。
あまり言いたくないことだが、どうやら
勿論、だからと言って統制神たちがやったことに対して同意することはできなかった。人間にとって奴らの行動は「余計なお世話」だし、「有難迷惑」でしかない。
奴らの主張に今の話を組み合わせれば、こいつらの行動には人間に対する善意が一切無かった。あるのは人類の支配欲求と、フィレモンからの存在肯定欲求くらいだ。
「――あんな奴のやり方は間違っていると、“我が主”こそが唯一絶対の神なのだと証明する。そのために、“我が主”は『ゲーム』を計画したのだ」
デミウルゴスが忌々し気に天を睨む。多分、奴の視線の先にはフィレモンがいるのだろう。実体を失って久しい善神の姿を、僕は久しく見ていない。
あまりにも愚かな人類の姿に怒りを覚えた統制神は、フィレモンのやり方と態度に反発した。だが、奴の主張はフィレモンに切って捨てられた。
望まれて生まれた存在であったはずなのに、待ち受けていたのは創造主本人からの誹謗中傷と存在否定。統制神のプライドがズタズタになってもおかしくはなかった。
人間への失望と創造主への怒りが統制神を突き動かす。奴の影響を色濃く受け継いだイエスマンであるデミウルゴスも、統制神の
「これ以上、“我が主”によって齎される統制を乱すなら、容赦はしない」
荘厳な声で宣言した大天使が羽を羽ばたかせる。赤い空の切れ目から差し込む陽の光は、まるで奴を照らす後光のようだ。
奴の足元に、黄金の天使を模したシャドウたちが現れた。それは殻を突き破り、デミウルゴスの持つ認知の姿として顕現する。
「反逆者ども! これ以上は進ませぬ!」
「大人しく牢へと戻れ。世を乱す者は、等しくこの場で処刑する」
「私も、おのが子どもらの不始末の責任を取るとしましょう……!」
「秩序を悪と叫び、あまねく冒涜をも顧みぬ者たちよ。もはや是非もなし!」
現れたのは、ウリエル、ラファエル、ガブリエル、ミカエル――キリスト教に登場する大天使たちだ。命さんや真実さんが駆使したペルソナの中にも存在し、強い力を持つ部類に入る。
「て、天使……!? しかも、何このプレッシャー……!?」
「ノワール、取り乱すな! そいつらは確かに強いけど、デミウルゴスや統制神の認知を元に顕現したシャドウ。真っ赤なニセモノだ!」
困惑した声を上げたノワールに対し、ナビのプロメテウスは天使どもの正体を見破る。この天使どもは、デミウルゴスと戦う前の前座らしい。
奴らは怪盗団に罰を与えるために襲い掛かってきた。だが、数多の困難を乗り越えてペルソナを覚醒させた僕たちの敵ではなかった。
襲い来る天使たちを容赦なく叩きのめす。幾ら徒党を組んで現れようが、ただのニセモノ如きが敵う筈がない。
最期はジョーカーの召喚したマガツイザナギによるマガツマンダラに飲み込まれ、4大天使を模したシャドウたちは断末魔すら残さず消滅した。少々苦戦したが、満身創痍と呼ぶほどではない。僕らはデミウルゴスへと向き直った。
不意に、下の方からざわざわと声が聞こえてきた。下の大地から人々の声が聞こえてくる。あの天使たちを撃破した結果、大衆の歪んだ認知の一部を正すことができたらしい。彼等はようやくこの異変に気づいたようで、大慌てだった。
先程の天使たちは、大衆の歪みを操作するための存在でもあったのだろう。しかも、デミウルゴスの平然とした態度からして、替えも効くタイプだ。
こうなることは予想していたらしく、デミウルゴスには取り乱すような様子はない。
奴は更に、新手のシャドウを顕現させた。その姿を見たナビが「うげっ!?」と声を上げた。
「コイツら、1対1体がデミウルゴスに匹敵する力を持ってる……!」
ナビが危機感を持つのは当然だ。現在顕現したシャドウは、どれも凶悪な力を有していると言える存在たちばかりである。
4つの顔と4枚の羽を持つ戦車のような様相の大天使、金属質の肌と翼を持つ大天使、4つの顔が円を描くように並んだ頭部と4枚の羽を生やした円形モチーフの大天使、白い法衣に身を包んだ漆黒の羽を持つ大天使。先程倒した連中など比べ物にならなかった。
デミウルゴスは奴らのことを順番に、神の戦車メルガバー、数多の異名を持ち世界を維持する者とさえ呼ばれるメタトロン、天使のヒエラルキー最高位である熾天使セラフ、ヘブライ伝承における悪を告発する天使マンセマットと呼んでいた。
「デミウルゴス1体でもキツいってのに、それが4体も……!?」
「それでもやるしかねぇだろ!」
自分たちの不利を見抜いたクイーンに対し、スカルは躊躇わず鈍器を構えた。仲間たちの意志を確認したクイーンも、弱気を振り払って悪魔と天使の群れと向き合う。
奴らは怪盗団を取り囲むようにして襲い掛かって来る。奴らの攻撃に備えるために身を固くしたが、大天使たちの攻撃はこちらに降り注ぐことはない。
「――ペルソナッ!」
四方八方から声がした。ガラスが割れるような音が響き、青い光が僕らの立つ戦場を照らし出す。現れたペルソナたちは、僕にとって見知った存在ばかりだった。
ヴィシュヌ、アポロ、アルテミス、メサイア、伊邪那岐命を皮切りに、数多のペルソナが敵に攻撃を仕掛ける。僕たちは思わず振り返った。
そこに広がる景色を例えるならば、壮観という言葉が相応しい。
御影町、珠閒瑠市、巌戸台、八十稲羽の歴代のペルソナ使いたちが勢揃いしている。彼や彼女たちは自身の持つペルソナたちを顕現し、デミウルゴスが顕現した大天使の群れと渡り合っているではないか。
中には東京にいるはずのない人々や海外にいるはずの面々もいる。八十稲羽にある老舗旅館若女将である雪子さんや、ダンサーとしてアメリカを活動拠点にしている稲羽さんがその筆頭だった。
「東京のライフラインは寸断されてるのに、どうやってここに!?」
「ライブの打ち合わせ中に赤い雨が降り出してな。嫌な予感がしてイタリーにメール送ったら、これが送られてきたってワケだ!」
僕の問いに答えたのは稲葉さんだ。彼が指し示したスマホ画面には、『イセカイナビ 最終決戦特別版』と銘打たれたアプリが表示されている。
どうやら歴代のペルソナ使いたちは、至さんからこのアプリを受け取ったことによってメメントスと化した東京へと降り立つことができたようだ。
丁度、稲葉さんの隣でアマテラスを顕現してセラフに攻撃を仕掛けていた雪子さんは稲葉さんの言葉に驚いたらしい。思わず声を上げていた。
「赤い雨が降って骨だらけになったのは、八十稲羽や東京だけじゃなかったってこと!?」
「ああ。ロスの街並みもこんな感じになっちまった! 終いには天使を模したシャドウどもが跋扈する始末! おまけに大半の連中がこの異常事態に気づいてねェ!」
「成程。この異変は世界規模で発生しているってことか……!」
雪子さんの言葉に稲葉さんが同意する。アメリカの首都も東京――数時間前前――の焼き直しとなっているなら、他の国もメメントスと融合しているのかもしれない。天田さんも小さく舌打ちし、大天使どもの群れを見上げた。
眼下は文字通りの阿鼻叫喚。歪んだ認知が一時でも正されてしまえば、転がるように人々は地獄を認識していく。一度知ってしまえば、知らない頃に戻ることなど不可能だ。嫌が応にも真実を突きつけられ、大衆は完全にパニック状態に陥っている。
日本でこれだった場合、世界は一体どうなっているのだろう。日本同様、この異変に気づいて阿鼻叫喚になっているのだろうか? それとも、未だに何も知らないままとなっているのだろうか? できれば前者であってほしいが、どうなっていることやら。
「そうだ。至さんは?」
「あの人なら大丈夫ですよ。『最後に準備しなきゃいけないことがあるから、それが終わったらすぐ来る』って言ってました」
僕の問いに答えた直斗さんは、即座にマンセマットへ攻撃を仕掛けた。彼女の双瞼は、自身の言葉を信じて疑わない。実際、至さんの実力はみんながみんな知っているのだ。
至さんと共に駆け抜けた旅路の総決算とも言える光景に、僕の胸が熱くなる。彼等と出会い、彼等の絆を積み重ねた結果が目の前にあるのだ。感極まらないはずがない。
大天使たちは歴代のペルソナ使いたちが抑えてくれるらしい。僕たちは彼等に大天使どもを任せ、天使どもの総大将たるデミウルゴスへと向き直った。
「セエレ……“至らぬ者”め! 余計なことを……!」
奴は忌々しそうに舌打ちする。何かの名前を呼んだようだが、すぐに別の名前で言い直した。
双瞼に宿るのは、この状況を生み出した張本人にして唯一の不在者である空本至への憎悪。
「だが、幾ら徒党を組もうと所詮は人間。『神』の用意した盤上で踊るしかない哀れな『駒』たちだ。“我が主”の『ゲーム』はまだ破綻していない……!」
「お前たち『神』からしてみれば、人間なんて確かに矮小な存在かもしれない」
傲慢に塗れた神の言葉をジョーカーは肯定する。だが、彼女は『神』にすべてを任せるような奴ではない。反逆の意志は、灰銀の瞳で燃え上がっていた。
「でも、『神』の見えざる手はもう必要ない。人間はお前たちのような奴に頼らなくても、ちゃんと自分で歩いて行ける」
「何……?」
「そして何より、吾郎を筆頭にした私の大切な人たちを見下すような輩に、これ以上好き勝手させるわけにはいかないんだ」
ジョーカーの声はどこまでも静かだが、込められた想いに揺らぎはなかった。誰よりも何よりも、一番最初に僕の名前が出てきたことが胸を打つ。ジョーカー
“明智吾郎”の人生に待ち受けていた破滅は、『神』の気まぐれが大半を占める。奴の生き様や性格を考慮した上で、綿密に組み上げていたのだろう。僕に引っ付くような形で傍にいた“明智吾郎”は、幸か不幸かその事実を思い知らされた。一時は酷く打ちひしがれたこともあったのかもしれない。
同時に、“彼”は知った。“自分”の居なくなった世界で、他ならぬ“明智吾郎”を望んでくれていた存在がいたことを。その祈りが、僕の存在する世界と可能性を手繰り寄せたのだということを。そんな祈りを蝶に乗せて飛ばしていたのは、“明智吾郎”にとっての唯一無二の運命――“ジョーカー”であったことを。
本当は、誰かに愛されたかった。必要としてほしかった。罪と罰に塗れる前に、唯一無二の運命と出会いたかった。どんな形でもいいから、一緒にいたかった――。
“明智吾郎”の人生は後悔だらけで、間違いだらけで、罪に塗れた人生だ。それでも『最期に他者を生かす』選択ができたことに関しては、間違っていたとは思わない。
ただ、“明智吾郎”は最期まで、『“ジョーカー”が自分を選んでくれる』とは全く思わないままだった。僕とこの世界が出来上がるその瞬間まで、気づかなかった。
「ジョーカーの言う通りだ。俺も“
―― これ以上、テメェらの『ゲーム』につき合うつもりはねーよ。……もう充分遊んだろう? そろそろエンディングと行こうじゃないか ――
誰かが自分を必要だと言って、歩み寄ってくれる。他ならぬ自分のために心を砕き、歩み寄り、寄り添ってくれる。
その幸福を、その奇跡を知った僕
「貴様らに待ち受ける運命は、『破滅』以外にあり得ない。“我が主”の慈悲を否定した時点でな!!」
デミウルゴスは羽ばたき、僕たちへと襲い掛かって来た。コンセントレイトで威力を底上げされた祝福属性の全体攻撃。それは裁きの名を冠しているらしく、マハコウガオンなど比較にならない程の破壊力だ。僕たちはそれを防御し、即座に反撃に打って出た。
まずは敵の能力を下げ、味方の能力を上げる。ロビンフッドのランダマイザを使った後、僕は即座にカウへとペルソナを付け替えた。カウのコンセントレイトで力を貯める。
奴のメギドラを耐える。僕はロビンフッドに付け替え、メギドラオンを叩きこんだ。コンセントレイトによる威力上昇は効果を発揮し、デミウルゴスに相当な痛手を与えたらしい。
他の仲間たちも、物理攻撃を主体にして攻撃を叩きこむ。属性付きの攻撃を得意とする面々は援護に回ったり、得物を振るって大天使に攻撃を叩きこんでいた。
「まだ仕置き足りねーってか……!」
「フォローお願い!」
「任せろ!」
パンサーのムチとクイーンの拳を喰らっても、デミウルゴスを揺らがせるには至らない。
次に動いたのはフォックスとスカルだ。セイテンタイセイとカムスサノオがデミウルゴスに攻撃を叩きこんでいく。やはり、ペルソナを駆使した物理攻撃は効果的らしい。デミウルゴスの身体が僅かに揺らいだ。だが、決定打にはならなかった。
デミウルゴスが繰り出したのは、マガツマンダラとは気配が違う呪詛の闇だ。先程の祝福属性全体攻撃が裁きならば、今回の呪怨属性全体攻撃は審判と言えるだろう。寸でのところで防御が間に合ったようで、呪怨弱点のロビンフッドでもダウンすることはなかった。
「広範囲攻撃ってのは厄介だな……!」
モナがメリクリウスを顕現して僕たちの傷を癒す。デミウルゴスが繰り出す攻撃は、どれも高威力広範囲を対象としたものだ。気を抜くと回復が追い付かなくなってしまう。
回復に回っている間に攻め込まれてしまうのは厄介だ。神殿に続く道でラヴェンツァに傷と精神力を回復してもらっていたし、元々長期戦は覚悟の上だ。
でも、キツいものはキツい。強大な力を容赦なく振るう『神』の眷属が、そんじょそこらのシャドウより遥かに強いのは当然のことである。最も、負けるつもりなど微塵もないが。
次に動いたのはノワールだ。顕現したアスタルテがチャージからのワンショットキルを叩きこむ。横殴りの一撃はデミウルゴスの右翼に直撃し、黒い羽を散らした。追撃とばかりにクイーンがアナトを顕現し、フラッシュボムを放つ。流れるようにしてジョーカーがアルセーヌを顕現し、剣の舞で攻撃を仕掛けた。
僕もそれに続いてロキを顕現し、レーヴァテインを叩きこむ。だが、デミウルゴスは僕の攻撃に耐え切ると、先程と同じようにコンセントレイトで魔力を貯める。奴も僕と同じように、メギドラオンを打ち放って来た。文字通り、防御が遅れた僕たち怪盗団は文字通りの壊滅一歩手前まで追い込まれる。
「まだまだ……! 負けるものですかっ!」
「人間を舐めるなぁッ!」
ノワールとスカルが吼えた。不退転、および反逆の意志はペルソナの攻撃力をブーストしたらしく、アスタルテとセイテンタイセイの攻撃がデミウルゴスの急所を穿つ。
デミウルゴスは反撃と言わんばかりに裁きの光を放つ。降り注ぐ光が僕たちに直撃するコンマ数秒で、メルクリウスのメディアラハンが発動。僕たちの傷を癒してくれた。
即座に体は傷だらけになるものの、クイーンが数秒遅れで範囲回復魔法を使ってくれたおかげですぐに全回する。指示を出したのはジョーカーらしく、彼女は満足げに頷いていた。
「よーし、最大火力でぶちかませー!」
ナビはそう叫ぶな否や、プロメテウスのサポートを行使した。僕ら全員に更なる強化がかかる。丁度強化が切れるタイミングだったので助かった。
圧倒的な力で押し通そうとするデミウルゴスと、回復しながら必死になって食らいつく僕たち。戦況は拮抗したまま、未だ傾かない。
背後からは爆発音や剣載の音に紛れて先輩たちの怒号や鼓舞の音頭が響く。彼等も戦っているのだ、僕らが折れるわけにはいかないだろう。
「何故折れない? 何故足を止めない? 貴様らに待つ未来は破滅だというのに」
「受け継いできたんだ」
アルセーヌを顕現したジョーカーが叫ぶ。彼女のペルソナと大天使は派手にぶつかり合った。
「至さんと航さん、達哉さんや舞耶さん、命さんや真実さんが歩いてきた旅路を――あの人たちが救ってきた世界の未来を、託されたんだっ!」
「途絶えさせて堪るものか」とジョーカーは吼えた。それに呼応するようにして、アルセーヌ――否、『6枚羽の魔王』が強力な核熱属性攻撃を打ち放つ。デミウルゴスも同じようにして、光の裁きを下した。2つの攻撃が派手にぶつかり合う。
双方共に拮抗していたが、アルセーヌの繰り出した攻撃がじりじりと押し返されつつある。ほんの一瞬、ジョーカーの横顔に苦悶の色が浮かんだ気がした。僕は迷うことなくロキ――ロキの皮を被った“明智吾郎”を顕現する。“彼”は躊躇うことなく攻撃を繰り出した。
「クロウ……!?」
「っ……!」
僕が加勢したためか、じりじりと押されていたアルセーヌの攻撃が止まった。それを見た仲間たちも次々とペルソナを顕現し、ジョーカーに加勢した。重ねられたエネルギーが渦を増し、それはついにデミウルゴスの裁きを打ち砕く。
デミウルゴスは酷く驚いた顔をした。奴の身体は、僕たちの放ったエネルギーによってブーストされた核熱属性最強攻撃によって飲み込まれる。凄まじい爆発音が響き渡り、砂煙が舞う。それが晴れた先には、大きなダメージを受けた大天使の姿があった。
双翼は焼け焦げ、多くの羽が抜け落ちている。法衣もボロボロになっていた。真っ直ぐに伸びていた背は目に見えて丸まっており、奴の手は腹を抑えていた。荒い呼吸が響き渡る。――『顕現さえしていれば、神様は殴れる』とは、至さんの言葉通りだ。
「おのれ……!」
人間がここまでやってのけるとは思わなかったのだろう。大天使は忌々しそうに吐き捨てると、この場一帯に淀んだ空気をまき散らした。
状態異常の付着率が上がったことを確信したジョーカーは、状態異常に耐性を持つペルソナにチェンジする。僕もロビンフッドに付け替えた。
次の瞬間、奈落の底へ無理矢理引っ張り込まれそうになる感覚に見舞われる。それは仲間たちの絶望を煽ったようで、何名かががっくりと蹲っている。
「おい、回復急げ! デカいのが来る!」
ナビの警告は間に合わない。身動きが取れない仲間たち諸共、デミウルゴスはメギドラオンで吹き飛ばした。僕らはそのまま地面に叩き付けられる。悲鳴を飲み込んで体を起こせば、ジョーカーがペルソナを付け替えてメシアライザーを行使していたところだった。
絶望していた仲間たちが正気に戻り、立ち上がって得物を構える。僕も突剣を構えて大天使へと向き直った。どうにか立て直しが間に合ったことに安堵したナビは、再びサポート能力を行使した。本当にナイスタイミングである。
チャージで攻撃力を高めていた面々が次々と高威力の攻撃を叩きこみ、チャージを習得できない者たちは己の最強物理攻撃を、物理攻撃を習得しない面々は得物を振るって大天使に攻撃を加える。デミウルゴスは呻きながらも、再び闇の審判を下した。
僕たちはデミウルゴスの攻撃を防御し、奴に更なる攻撃を仕掛けていく。
気づけば、威風堂々とした大天使の姿は無様なものになっていた。
圧倒的な力を振るう姿は変わらないが、奴の身体はふらついている。奥に鎮座しているであろう聖杯からの援助はないらしく、奴の傷は癒えることもない。
「どうした御使いサマ!? 辛いなら、テメェの神にでも祈ったらどうだ!? 『どうかお助けください』ってな!」
「貴様ァ!」
スカルの挑発に乗ったデミウルゴスがメギドラオンを打ち放った。しかも2回である。幸いなことは『コンセントレイトなしだった』という点だろうか。僕らが立て直しに入ったのと、デミウルゴスが大きく手を広げたのは同時だった。
神殿の奥から黄金の光が溢れだす。それはデミウルゴスの傷を癒していった。だが、何故か『神』の御業は完璧に振るわれることはない。傷が癒えたのはほんの僅かだ。
デミウルゴスは驚いたように目を丸くして振り返る。神殿の奥の光はチカチカと点滅していた。――まるで、統制神の言葉を伝えるかのように。
「――畏まりました。それが、貴方の命であるならば」
「おい、来るぞ!」
粛々とした態度のまま、大天使は僕たちに襲い掛かる。モナがそれを察知し、メリクリウスを顕現した。ミラクルパンチを叩き込まれたデミウルゴスが怯んだ。
その隙を逃さず、僕たちは更に攻撃を叩きこんだ。自己強化と敵弱体を忘れず、一気に攻め落としにかかる。聖杯がデミウルゴスの傷を癒すより先に押し切るためだ。
しかし流石は『神』の化身。一方的に嬲られるわけもなく、デミウルゴスは態勢を整えて再び苛烈な攻撃を仕掛けてきた。光の裁きと闇の審判が下される。
「この程度で倒れると思ったら大間違いなんだから……!」
「貴方方に未来を明け渡せるほど、私たちは易くないの!」
パンサーが鞭を振るい、ノワールがアスタルテを顕現して攻撃を叩きこむ。即座にクイーンが回復に回った。
「みんな、あと少しよ! このまま押し切りましょう!」
「分かった!」
クイーンのアナライズを聞いたジョーカーが頷き、アルセーヌを顕現して剣の舞を叩きこむ。しかも、チャージで威力、リベリオンで急所に当たりやすくしていたらしい。再び大天使の身体が揺らいだ。
コイツを倒せば聖杯へ辿り着ける。『神』を倒せば、東京や世界を取り込んだメメントスも崩壊することだろう。怪盗団は解散し、普通の学生へ――けれど色鮮やかに変わった世界で続く日常へと還ることになる。
迫る終わりが悲しいわけじゃない。少しの寂しさを感じるだけ。
だって最初から、旅には
終わりは始まりだ。大切な人とかけがえのない日々を過ごすための、新しい旅路。
俺たちには夢がある。黎は弁護士、俺は彼女の専属プレリーガル。竜司は体育教師、モルガナは人間形態の獲得、杏はトップモデル、祐介は画家、真は警察キャリア、双葉は研究者、春はこだわりの喫茶店経営。
俺たちに未来を託した人たちにだって、夢がある。守りたい人たちがいる。大事なものを守りたいから、俺たちは世界を救うのだ。
世界がなければ、俺たちの夢は絶たれてしまうと知っているから。そうやって、世界を守って来た人々から託されたから。
「俺たちの世界は、俺たちのものだッ! テメェの玩具じゃねえんだよ!!」
「黙れ、“我が主”から逃げ堕ちた失敗作風情が――!」
俺の啖呵を聞いたデミウルゴスは、狂ったように叫びながら俺を標的にした。元々全体攻撃しか使ってこなかったが、俺に向ける攻撃だけ異様に威力が高い気がする。勿論、その程度で立ち止まるつもりは一切ない。
仲間たちからの連続攻撃を叩きこまれたデミウルゴスがよろけた。その隙を突く形で俺は飛び出す。
奴の目が俺を映し出した。受け止めようと伸ばされた手を掻い潜り、剣を振り落ろす。
「――これで、終いだ!!」
満身創痍の死に体となった大天使目がけて、俺は容赦なく突剣を突き立てた。
何かを砕くような音が響き渡る。大天使を敷板にするような形で、俺は地上へと帰還した。
大地に叩き伏せられたデミウルゴスの身体が光の粒子と化して消えていく。
「……貴方の御心のままに。“我が主”……ヤルダバオト、さま……」
デミウルゴスの姿が完全に掻き消えたのと、神殿の窓から黄金の光が溢れたのはほぼ同時だった。建造物の中からは数多の人間たちの声――聖杯、統制神ヤルダバオトの存続を望む声や、異界化した東京に耐え切れず助けを求める声が響き渡る。
特に、後者は統制神の信仰と一切関係ないはずなのだが、「何かに縋りたい」という人間の欲求すらも己の糧になるよう認知を歪ませているらしい。これがデミウルゴスの置き土産ということだろうか? 本人が消滅したため、最早確かめようはなかった。
徹頭徹尾ヤルダバオトのために動いた化身は、最後の最期までその命を曲げることはない。奴の在り方がそうだったように、僕らも奴を受け入れなかった。――これは、ただそれだけのことだったのだろう。
僕がそんなことを考えたのと、何かの破裂音が響いたのは同時だった。振り返れば、歴代のペルソナ使いたちが他の大天使たちを屠ったらしい。
怪盗団がデミウルゴスを降したことを視認すると、全員が笑顔を浮かべた。先輩たちは多少傷ついてはいるものの、まだ余裕である。
先輩たちの激励の言葉を受け取りながら、僕たちは顔を見合わせて微笑み合う。激しい戦いの中の、ひと時の休息であった。
***
骨で組まれた神殿への道と、地上の街並みとの距離はかなり離れている。にもかかわらず、ここからは人々の声がよく聞こえてきた。
認知の歪みを司っていた天使どもを倒したため、歪んでいた認知は正され、人々はメメントスと融合した世界を認識したのだ。
一般人が異世界を目の当たりにして、普通にして居られるとは思えない。下手したら、発狂してもおかしくないだろう。
まあ、僕たちから言わせれば「今気づいたのかよ」と悪態をつきたくなること必須だ。あまりの変わりように苦笑したくもなる。
不思議なことに、異変の気づいていた人間――黎の正体が怪盗団の一員だと気づいている者たちのみが冷静な面持ちでいるのがはっきりと伺えた。
「東京の人々は、この状況を目の当たりにしてPanicに陥っているみたいですわね。天使たちを倒すまでは、みんな何も知らないまま日常を生きていたのに……」
「アタシたちからすれば、もうちょっと早く気付いてほしかったって感じ。流石にこの状況で気づかない人がいるなら、もう面倒見きれないよ」
桐島さんが何とも言えぬ面持ちで、パニックに陥って右往左往する大衆たちの姿を見つめる。「この状況に陥っても気づかない人間がいてもおかしくなさそう」という予感を抱いたパンサーは、想像するだけで気が滅入ったのだろう。呆れたようにため息をついて肩を竦めた。
ため息をついたのはパンサーだけではない。
航さんと達哉さんも眉を顰める。
「誰もが思考を放棄し、誰かの指示を待ち望んでいる。それがそっくりそのまま、統制神への信仰にされているらしい」
「縋るものを求める大衆の気持ちも分からなくはない。だが、自分が縋っているものが何かを知らぬままだ。このままだと大衆は、信仰対象である統制神にエネルギーを捧げるだけの存在に成り果てるぞ……!」
遅かれ早かれ、方向性がどうであれど、大衆は統制神ヤルダバオトのエネルギー源として人ならざるモノと化すだろう。ヤルダバオトに縋って祈りを捧げるだけの存在――まるでそれは、食われるために生きている家畜だ。思い浮かべるだけで薄ら寒さを感じる光景である。
救いを求める人々の声が四方八方から響き渡った。「誰か助けて」という不特定存在へ向けた叫びは、すべて統制神へのエネルギーとして変換されている。救いを求める民衆の叫びを源としたエネルギーが、聖杯に無尽蔵の回復力を与えているのだろう。
メメントスと融合した現実世界に対する不安だけでなく、東京の街中を徘徊する異形の姿に気づいた恐怖も含まれているようだ。よく見ると、黄金の天使を模したシャドウたちがスクランブル交差点を闊歩している姿が伺える。シャドウの存在に気づいている人間はまだ少ないが、これから増えてきそうだった。
「伊邪那岐命の秘密兵器は使えないの? ほら、“ありとあらゆる嘘を無効化し、真実を示す”ってヤツ」
「できることなら使いたいんだけど、大衆がこの真実から自分で目を逸らしてるんだ。幾ら嘘という名の霧を晴らしても、本人たちが直視しようとしない限りどうしようもない。……それに、ここは俺たちのペルソナが与えられた
「マサザネの言う通りだ。統制神によって歪まされた認知は、八十稲羽を包み込んだ嘘の霧以上にタチが悪りィ。今の大衆は、真実を真実と認識することができてねぇからな」
黛さんの言葉に、真実さんは苦い表情を浮かべる。モナもそれを肯定した。
現状、民衆は真実を受け止め切れるような精神状況ではない。彼等の目と耳、および心は統制神に囚われてしまっている。「存在自体があやふやであるならば、怪盗団よりも『神』に縋った方がまだ生産的だ」とでも思っているのだろう。嘗ての民衆が怪盗団にすべてを丸投げしていたように、今度は統制神に何もかもを委ねているのだ。
「『神』に縋ってもどうしようもないのだ」と、「このまま『神』を崇拝し続ければ、精神的な人類の死――滅亡が待っている」と、どうにかして大衆に認知させない限り、僕たちにヤルダバオトを降すための突破口は見えてこない。難しそうな顔で唸っていた真実さんを横目にしつつ、パオフゥさんが命さんに問いかけた。
「香月。お前さんのタナトスは、ニュクス――死そのものを宿していたことによって顕現したペルソナだろう? ソイツで大衆に死の恐怖の片鱗を見せつけてやれば、統制神への信仰もご破算にできるんじゃないのか?」
「今の状況で死の恐怖を思い出させたら、それすら統制神に縋るきっかけにされるでしょう。結果、余計に滅びが早まってしまう気がします。……それと、私はもう香月じゃなくて荒垣なんですけど!?」
「荒垣って呼んだらお前さん夫婦が同時に返事するじゃないか。それはそれで面倒なんだよ……」
パオフゥさんの問いに答えた命さんは、ムッとした様子で頬を膨らませた。命さんは荒垣さんと入籍して荒垣命となって以来、荒垣姓に強いこだわりを見せるようになっていた。
断じて、命さんは自分の旧姓が嫌いという訳ではない。好きな人と同じ苗字を名乗り、好きな人と家族になった――その喜びと幸福の証が“荒垣”という姓なのである。
命さんの家族は彼女が幼い時に亡くなっているし、荒垣さんは孤児である。夫婦揃って“家族”という関係に恵まれなかった者同士だ。家族の証にこだわるのも当然と言えよう。
妻の気持ちを察した夫は深々とため息をつく。何も言わないのは、ある意味で自分も同じ穴の狢であるためだろう。
お熱いバカップル夫婦のやり取りに精神力を抉り取られたのか、独身男性であるパオフゥさんはそっと目を逸らしていた。
……うららさんと冴さんの一件を思い出すと、彼に対して「お前こそいい加減にしろ」と叫びたくなる衝動に駆られたのは気のせいではない。閑話休題。
「統制神を斃さないと、大衆の認知を目覚めさせることができない。大衆の認知を目覚めさせないと、統制神を斃すことができない……文字通りの堂々巡りだな」
「せめて、聖杯に供給されているエネルギーを断ち切ることができれば、統制神を斃す足がかりに出来そうなんだけど」
フォックスとクイーンが顔を見合わせて唸った。仲間たちも顔を見合わせて考え込む。
そのうちに、何か思い至ることがあったのだろう。ノワールが「そういえば」と声を上げた。
「メメントス奥地には、沢山の管が張り巡らされていたわよね? その管は最下層にまで続いてた」
「ノワールの言う通りだな。聖杯にも、似たような管が突っ込まれてた。赤黒く光ってたから間違いねぇ。……ってことは――」
「――聖杯に繋がっている管を壊せば、無尽蔵な回復を止めることができる!」
ノワールの言葉から聖杯との戦いを思い出し、スカルが目を輝かせる。ジョーカーは我が意を得たりと言わんばかりに頷いた。難攻不落どころか文字通りの永久機関と化した回復機構を壊してしまえば、僕たちにだって勝機はある。突破口を見つけることができた僕たちの表情は、自然と明るくなっていた。
そんな怪盗団を激励するかのように、僕らの視界に何かがちらついた。見れば、黄金の蝶がひらひらと東京の空を舞っている。
黄金の蝶とくれば、連想するのは吐き気を催すレベルの善神フィレモンだ。だが、どうしてか、あの蝶を見ていると、奴を見たときのような不快感は一切湧いてこない。
寧ろ、見ていると安心するというか、元気が湧いてくるというか、頑張ろうと思えるのだ。頼もしさすら感じる。この場にいない僕の保護者みたいだ。
今、至さんはどこで何をしているのだろう。彼が成そうとしていることが何なのか、僕たちには一切関知することができずにいる。
経験則からして、それは僕たちの勝利に必要なことだというのは察していた。……察してはいたけど、ここまで分かりにくいのは初めてだ。
(あの人のことだから、大丈夫。至さんは、大丈夫だ)
―― あんなの間近で見てりゃあ、そう思うのは当然だろうな ――
わずかに滲んだ不安を振り払うように、僕は僕自身に言い聞かせる。“明智吾郎”も遠い目をしながら肯定していた。おそらく、御影町のスノーマスク事件やセベク・スキャンダルを皮切りにした今までのことを思い出していたのだろう。
僕を守りながら、あの人は数多の怪異事件を駆け抜けた。スノーマスク事件やセベク・スキャンダル以後は、当時のコネクションを駆使して歴代ペルソナ使いたちをサポートしてきた。頼れる背中を、尊敬できる背中を思い返す。――俺の憧れた保護者は、強い人だ。だから大丈夫。
「聖杯のヤロウは俺たちがぶちのめすとして、玲司さんたちはどうするんすか?」
「パニックになってる連中たちをどうにか抑えなきゃならねえな。それに、東京には鷹司と織江がいる。……アイツらに背中を押されてここに来たが、お前等はもう大丈夫そうだ」
「バッチリっす! だから、玲司さんは鷹司と織江さんを守ってやってください!」
城戸さんに笑いかけるスカルは、猪突猛進でお気楽且つお調子者が浮かべるような笑みではない。歴戦を駆け抜けてきたペルソナ使い特有の、不敵で頼れるものだった。それを察した城戸さんも嬉しそうに微笑み返す。「随分と、頼れる漢になったじゃないか」――その言葉を聞いたスカルもまた、照れくさそうにはにかんでいた。
「東京中にもシャドウが跋扈してるみたいだね。人々の不安を煽っているのかな?」
「ならば我々の出番だな。市民を守るのが警察官の務めだ」
「里中さん、周防刑事……。分かりました、お任せします」
「ああ、任せてくれ」
異形から逃げ惑う人々の姿を見ていた千枝さんであったが、栗色の双瞼にはやる気が滲んでいる。周防刑事も頷きながら、サングラスのブリッジを押し上げた。
シャドウを斃せる存在がいる――それを大衆に示すことができれば、微々たるものかもしれないが、統制神に流れるエネルギーを削ぐことができる可能性があった。
微笑んだクイーンに対し、真田さんが静かに笑って頷き返した。握り拳を掌に叩き付ける様子からして、こんなときでもバトルジャンキーの片鱗が漂っている。
「みんな、こんなときこそレッツ・ポジティブシンキングよ! 夢を叶える権利は誰だって持っている――そのことを忘れないでね」
「当然! 自分の夢は、自分の手で守らなくちゃ!」
「その意気だよ杏ちゃ……パンサー! 絶対諦めちゃダメなんだからっ」
「うふふ。Anne……Pantherも、今や立派なladyになりましたね」
舞耶さんの口癖に同意したパンサーも不敵に微笑む。後輩の成長した姿に感極まったのか、ゆかりさんと桐島さんがパンサーにエールを送っていた。
両親がデザイナーという縁だけでモデルをやっていた姿からは想像できない程、パンサーの姿は生き生きとしている。彼女なら、自分の夢を守り通すことができるだろう。
「順平さん。チドリさんと貴方の絵、もうすぐ完成します」
「ホントか!? どんな仕上がりになったんだ?」
「それに関しては、結婚式のお楽しみと言うことにしてください。俺自身の手で渡すと約束します」
「……分かった。楽しみに待ってるから、絶対無事で帰って来いよ!」
フォックスの約束から彼の決意を察した順平さんは、にかっと笑って頷き返した。チドリさんとの結婚式は来年の4月、丁度春休み期間中である。巌戸台にある桐条グループ系の結婚式場で執り行われる予定らしい。きっと、チドリさんもそれを心待ちにしていることだろう。そのためにも、絶対に負けられない。
「桐条さん、南条さん。今なら、お2人が仰っていた言葉の意味がよく分かります。今回の一件で、私はかけがえのない仲間を得ました。……それを、失いたくありません」
「……そうだな。それもまた1つの答えだ、奥村のお嬢さん。世界の命運も、朋友と共に過ごす未来も、1個人としては大事なことだからな。決して、譲歩も妥協もしてはいけない」
「我々は、我々の務めを果たす。キミたちに希望を託す代わりに、キミたちの背中を守り抜こう。それが、子どもに未来を託した大人の責務だ。――任せてほしい」
「はい! 取引成立です!」
ノワールは美鶴さんや南条さんと取引をしたらしい。お互いがお互いの責務を果たすという内容は、取引というよりも約束に近い様相だった。
理不尽に辛酸を舐めさせられた財閥の跡取りたちはは、今では頼れる大人として前線に立って仲間たちを支えている。ノワールもいずれ、そうなるのだろう。
この3人が手を組んだら、きっとどんなことだってできる――傍目から見ている僕でも、その未来図は容易に想像がついた。
「よーし、見てろよあのチート野郎! 絶対ボッコボコにしてやるんだっ!!」
「その意気だよナビちゃん! チートは絶対に許される行為じゃないから、思う存分叩きのめしてきてね!」
「……風花ちゃん、なんだか様子がおかしいような……?」
聖杯――正確には、聖杯の持つ無尽蔵の回復能力――への怒りを剥き出しにするナビに対し、風花さんはやけに大張り切りで激励を飛ばしていた。園村さんもそれを察知したようで、何とも言い難そうに首をかしげていた。
そういえば、風花さんはチートという言葉や行為に対して得体の知れぬ反感を持っていた気がする。何かのテストプレイの一環でチートを使った至さんを、風花さんは真正面から罵倒していたこともあったか。正直あまり思い出したくない。
「…………」
「モナ、どうしたクマー? さっきからずーっと難しい顔してるクマよー?」
「……最終決戦だからな。お気楽なオマエと違って、ワガハイの心は高ぶってるんだよ」
「ふーん、期待外れクマー。てっきり人間形態になった後、杏チャンへどうプロポーズするかの算段立ててると思ってたのに」
「ちょ、オマっ!? アン殿とはまだ付き合ってすらもいないんだ! ワガハイは、い、いきなり結婚だなんて、段階をすっ飛ばすような真似しねーぞ!」
モナはクマに振り回されっぱなしだ。メメントス奥地に足を踏み入れてから、彼の様子はどこか鬼気迫るような空気が漂っている。だが、モナのピリピリした気配は、どこまでも能天気なクマによって木端微塵にされていた。
人外同士、どことなく通じ合う部分があるのだろう。恐らく本人たちは否定するだろうが、傍から見れば漫才のようなテンポ溢れるやり取りだ。会話はいつの間にか女湯談義に飛び火し、欲望に忠実なクマと紳士的なモナの意見は真っ二つに割れる。
終いには、お約束通り「猫になりたい。女風呂覗きたい」と主張するクマと「人間になりたい。絶対女風呂は覗かない」と主張するモナが取っ組み合いを繰り広げていた。普段は大あくびをして無視するコロマルだが、今回は止めることにしたようだ。
「ワオーン!」
「げぇっ!?」
「クマー!?」
犬の遠吠えと共に、ケロベロスが顕現する。地獄の番犬から「いい加減にしろ」と叱られた黒猫と着ぐるみは、しょんぼりと肩を落としていた。心なしか、2匹(人外故に、数える際の単位が分からない)のペルソナも覇気を失ったように感じた。閑話休題。
ジョーカーは仲間たちの様子を静かに見守っていた。細められた灰銀の瞳からは、怪盗団の面々のことを大切に思っていることが伝わってくる。そんな彼女が愛おしい。
明智吾郎が守りたい世界はここにある。守りたい人たちはここにいる。それを救うために、世界を救う必要があるだけだ。――大事なものは、この手の中に。
「ちょっと待って、ジョーカー」
「何?」
「俺たちの力を受け取ってくれ。きっと、『神』との戦いに役立つと思う」
命さんと真実さんが、ジョーカーを見つめて微笑んだ。2人の背中にペルソナが顕現する。純白の救世主たるメサイアと、竹取物語で月からやって来た姫君カグヤ――『ワイルド』能力者たる命さんと真実さんが顕現した特別なペルソナだ。
2体のペルソナはジョーカーを慈しむように見つめた。ペルソナたちは彼女の仮面の中へと吸い込まれる。次の瞬間、青白い光がより一層強く輝き、2体のペルソナはその姿を一変させた。命さんと真実さんから手渡されたペルソナが、ジョーカー専用に適正化されたのだ。
純白の救世主も、月からやって来た姫君も、怪盗であるジョーカー用に変質していた。体躯の色がやや黒味を帯び、どことなく賊のような印象を受ける。ジョーカーは驚いたように目を丸くしていたが、命さんと真実さんから託された力をきちんと受け取った。
2体のペルソナはジョーカーの心の海の中へと受け入れられた。嘗て、足立透がジョーカーへマガツイザナギを託したときと同じように。
足立のペルソナがジョーカーに最適化される――マガツイザナギが賊神化しなかったのは、あくまでも“貸出し”扱いだったからなのかもしれない。
ジョーカーが自分たちの力を受け取ったのを見届けた命さんと真実さんは、満面の笑みを浮かべて頷く。ジョーカーも不敵に笑い返した。
「クロウ」
名前を呼ばれて振り返る。僕の保護者の片割れたる航さんと、僕にとっての師匠的存在であるパオフゥさんとうららさん、直斗さんが静かにこちらを見つめていた。彼等を代表して、航さんが微笑む。
「行ってこい。お前にとっての大事なもの、全部守るために」
「――わかった。行ってくる」
頼れる大人たちから、世界を救ってきた大人たちから、すべては託されたのだ。怪盗団である僕たちは、迷うことなく神殿へと足を踏み入れる。
大人たちは東京の街に戻るのだろう。前に進む僕たちの背中を守るために。僕らが何の憂いもなく、『神』を討つことができるように。
眼前に広がったのは、渋谷がメメントスと融合する直前に見た奥地の光景だ。
黄金に輝く聖杯が鎮座している。左右には手を模したオブジェが並んでおり、眩い程の光を放っていた。周囲の牢獄からは聖杯の存続を望む人々の声がひっきりなしに響く。
天から伸びた管は聖杯と繋がっており、未知なる恐怖と不安に怯える大衆そのものをエネルギーとして取り込んでいた。それが、無尽蔵の自己修復――永久機関の源となっている。
左右のモニュメントを伝って行けば、あの管に近づくことができる。聖杯の隙を突いて管を断ち切れれば、永久機関は失われ、聖杯の破壊が可能になるのだ。
「なあ。あの管を壊すために、誰を派遣するんだ?」
統制神の様子を伺いながら、ナビがジョーカーへ問いかける。ジョーカーは仲間たちの顔を一瞥した後、真っ直ぐに僕を見つめた。思わぬ指名に、僕は思わず目を瞬かせる。
瞬く灰銀には、僕に対する惜しみない信頼で溢れていた。彼女の後ろに佇む“ジョーカー”も、同じようにして“明智吾郎”を見つめている。その眼差しを真正面から受け止めたためか、僕の身体が震えた。
心の底から込み上げてきたのは、欲したものを手にしたという歓喜。僕にとって一番大切な人が、他ならぬ僕に大役を任せてくれる。僕を信じて、命すらも託してくれる。――これに応えるのが、僕の役目だ。
「クロウ、お願いできる?」
「分かった。僕に任せてくれ」
仲間たちの眼差しを受け止めて、僕は頷き返した。算段は立てたのだから、後は統制神の元へ殴り込みである。
僕たちは再び、聖杯と対峙した。奴は最初に対峙したときと変らない。目が痛くなるような輝きと、文字通り上から目線の態度を崩さなかった。
「なぜ我が聖杯でありながら『神』だと思う? 選ばずともよい自由、考えずともよい自由。……だが、みなが誰かに肩代わりをさせた気でおれば、実際は誰もしておらぬのが当然の道理。そこに広がる巨大なひずみを、誰が引き受ける?」
「……その答えが、貴方だというの!?」
「いかにも! 人間自身が、聖杯に『支配する『神』であれ』と望んだのだ。我はその願いを叶えたまでに過ぎない!」
「その割には、管理がずさんなように思うのだけれど?」
ノワールは鋭く言い放つ。実際、統制神は人間の怠惰を利用し、聖杯に憑りついたようなものだからだ。そうやって認知を弄り回し、人間たちに自分を求めるよう策を弄している。
奴がしたことは『支配する『神』が欲しい』という人間の弱さに便乗して、自分自身への信仰を手に入れようとしただけだ。すべてはフィレモンを否定し、屈服させるため。
自身を否定した『神』への復讐――そのための道具として使われるだなんてお断りだ。反逆の意志を燃やす僕らに対し、聖杯は一瞬苛立たし気な殺気を発したが、演説を再開した。
「それを拒み続けるならば、もはやこの世に貴様らの居場所などないものと心得よ! 今までとは違い、誰からの賞賛を得られることもないのだ。無意味だろう?」
統制神は僕たちを小馬鹿にするように煌めく。
奴の言葉通り、支持率に一喜一憂していた頃がなかったかと問われれば嘘ではない。怪盗団の支持率が上がっていくことに危機感を抱きつつも、嬉しさを感じなかったわけではない。他者からの肯定に心が湧きたたなかったかと問われれば、否と答える。
でも、『神』の気配を察知したときから、『神』の作為に気づいたときから、それこそが罠だと見抜いていた。仲間たちにも散々警告をしてきたから、支持率の低下や奥村社長の罠等で揉めることもなかった。むしろ団結し、乗り越えようと思えたのだ。
「周りの方がどう思うかに縛られることは、随分前にやめました。何故なら、私は私の為すべきことを見つけたからです。誰に何を言われようが、私はそれを貫きます」
「ちやほやされたいとか、褒められたいとか、認められたいとか、そりゃあもう魅力的だったさ! だが、そんなモンだけがすべてじゃねぇって気づいたんだ。だからもう、そんなモンに騙されねぇ!!」
「そう言うこと! 私はもういい子ちゃんをやめたの。大人の言いなりになることも、誰かの人形になるのも御免だわ。勿論、あんたみたいな奴のエネルギータンクになるのもね!」
「……従わぬと言うなら、今一度受けるがよい。――我が秩序を乱す賊どもに、裁きの鉄槌を!」
ノワール、スカル、クイーンが聖杯へと反論する。奥村春も、坂本竜司も、新島真も、――“明智吾郎”だって、嘗ては統制神の語った気質を持っていた人間たちである。
だが、彼女や彼等含んだ僕らはもう惑わされない。上っ面だけの名誉も賞賛も必要ないのだ。本当に大事なものが何か、僕たちはちゃんと分かっている。
聖杯が僕たちに殺気を向けたのを皮切りに、ジョーカーたちが聖杯へ攻撃を加えていく。聖杯と彼女たちが派手に火花を散らす中、僕は自分の役目を果たすために駆け出した。
長らくスランプに陥っていましたが、どうにか復活して書き上げることができました。今回はデミウルゴスとの決着と、聖杯戦直前までのやり取りです。思いのほかあっさり目に仕上がったことに驚きつつ、ペルソナ使い同士の絡みを書くことができて満足しています。
それから、魔改造明智コミュランク9の恩恵が発動し、黎の使用ペルソナにメサイア・賊神とイナザギ・賊神が使用可能になりました。「命と真実からペルソナを託され、それを黎なりに最適化させた結果である」という設定。魔改造明智のカウと似たような原理ですね。
風花のネタに関しては、どこかで「P3関連のゲームを改造すると、ナビ役である風花や美鶴から罵倒される」という話題を拾ったものです。書き手は一切やったことがなく見たこともないのですが、それ故に拙作ではあんなノリになりました。尚、情報には、うろ覚えではありますが、「される」ではなく「してもらえる」と記載されてたように思います。
うまくいけば次回でVS統制神の決着がつくと思われますが、果たしてどうなることやら。現時点では未定なので、まだ上手く言えないです。最終決戦編は「2/13日に至るまで」。現在4話目なので、早くてあと2~3話程度とアタリをつけています。予定は未定なので何とも言えませんが。
あと、デミウルゴス撃破をトリガーにして魔改造明智コープがMAXにランクアップします。但し、詳しい効果は次話の進行次第で開示しますので、今暫くお待ちください。
折角なので、オマケとして追加されたペルソナのスキルとデミウルゴス関連の情報を公開します。参考までに。
<メサイア・
メギドラオン、アグネヤストラ、オラトリオ、不屈の闘志、勝利の息吹、万能ブースタ、瞬間回復、チャージ
<カグヤ・
輝矢、マハンマオン、コンセントレイト、メディアラハン、アムリタシャワー、神々の加護、物理反射、大気功
<デミウルゴスの詳細>
特筆事項:1ターンにつき2回行動。
耐性:火炎・疾風・電撃・氷結・核熱・念動 無効:呪怨・祝福・各種状態異常
コンセントレイト、光の裁き(祝福全体攻撃/元ネタ:2罰)、闇の審判(呪怨全体攻撃/元ネタ:2罰)、メギドラオン、淀んだ空気、奈落の波動