Life Will Change   作:白鷺 葵

11 / 57
【諸注意】
・各シリーズの圧倒的なネタバレ注意。最低でも5のネタバレを把握していないと意味不明になる。次鋒で2罪罰と初代。
・ペルソナオールスターズ。メインは5、設定上の贔屓は初代&2罪罰、書き手の好みはP3P。年代考察はふわっふわのざっくばらん。
・ざっくばらんなダイジェスト形式。
・オリキャラも登場する。設定上、メアリー・スーを連想させるような立ち位置にあるため注意。
 @空本(そらもと) (いたる)⇒ピアスの双子の兄で明智の保護者その1。武器はライフル、物理攻撃は銃身での殴打。詳しくは中で。
 @獅童(しどう) 智明(ともあき)⇒獅童の息子であり明智の異母兄弟だが、何かおかしい。獅童の懐刀的存在で『廃人化』専門のヒットマンと推測される。詳しくは中で。
・歴代キャラクターの救済および魔改造あり。
・一部のキャラクターの扱いが可哀想なことになっている。特に、『普遍的無意識の権化』一同や『悪神』の扱いがどん底なので注意されたし。
・アンチやヘイトの趣旨はないものの、人によってはそれを彷彿とさせる表現になる可能性あり。他にも、胸糞悪い表現があるので注意してほしい。
・ハーメルンに掲載している『運命を切り開くだけの簡単なお仕事』および『ペルソナ3異聞録-.future-』、Pixivの『2周目明智吾郎の災難』および『【一発ネタ】有栖川黎の幼馴染』の設定を下地にし、別方向へ発展させた作品である。
・ジョーカーのみ先天性TS。
 ジョーカー(TS):有栖川(ありすがわ) (れい)⇒御影町にある旧家の跡取り娘。旧家制度は形骸化しているが、地元の名士として有名。身長163cm。
・歴代主人公の名前と設定は以下の通り。達哉以外全員が親戚関係。
 ピアス:空本(そらもと) (わたる)⇒明智の保護者2で、南条コンツェルンにあるペルソナ研究部門の主任。
 罪:周防 達哉⇒珠閒瑠所の刑事。克哉とコンビを組んで活動中。ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件の調査と処理を行う。舞耶の夫。
 罰:周防 舞耶⇒10代後半~20代後半の若者向け雑誌社に勤める雑誌記者。本業の傍ら、ペルソナ、悪魔、シャドウ関連の事件を追うことも。旧姓:天野舞耶。
 ハム子:荒垣(あらがき) (みこと)⇒月光館学園高校の理事長であり、シャドウワーカーの非常任職員。旧姓:香月(こうづき)(みこと)で、旦那は同校の寮母。
 番長:出雲(いずも) 真実(まさざね)⇒現役大学生で特別調査隊リーダー。恋人は八十稲羽のお天気お姉さんで、ポエムが痛々しいと評判。
・「2罰ボスの外見を見た人間の反応」に関するねつ造設定がある。
・ブロマンスを連想させるような話題や表現が出てくるが、登場人物にその気はない。あくまでもネタである(重要)
・ブロマンスを連想させるような話題や表現が出てくるが、登場人物にその気はない。あくまでもネタである(重要)
・冴に対して失礼な発言がある。
・フィレモンがそこはかとなくゲスい。


Wiping All Out
次から次へと大問題


 さて、平穏(?)な日々が過ぎて、ようやく班目の『改心』が発生した。個展の最終日、班目がメディアの前で盗作行為を自白したのである。街頭モニターに映し出された班目の自白は、多くの人々の目に留まった。勿論、メディア関係者だけでなく司法関係者も動き始めたようだった。

 司法関係者が動いたのは獅童の差し金だろう。獅童は認知世界を使った『廃人化』による完全犯罪を、『駒』である智明に行わせていた。僕の予想通り、自分たちのしていることと全く逆のことをしている連中を危惧し始めたのだ。でなきゃ、渋谷の連絡通路にたむろしているだけで補導員と警察がやって来るはずがない。

 

 メディアでも班目の一件は取り上げられたし、獅童たちも怪盗団を本格的にマークし始めた。今回の社会見学は怪盗団への牽制および威嚇行為も兼ねているという。仲間たちには既に根回しが済んでいたので、今度は協力者に根回しする段階に入った。僕は三島のSNSにメッセージを送る。

 

 

吾郎:三島くん。秀尽学園高校の社会見学、テレビ局だったよね?

 

三島:そうですけど、何かあったんですか?

 

吾郎:俺、そのテレビのゲストに呼ばれてるんだ。怪盗団に関する話題に対して、コメントを求められてる。

 

三島:本当ですか!? やった、これで怪盗団が有名になるぞ!

 

吾郎:そんな三島くんに朗報だ。怪盗団は今、超弩級の巨悪を『改心』させるための計画を練っている。奴は手強いから、他の連中を『改心』させていく傍ら調査を行う長期的計画だ。その一環として、俺は密偵として巨悪の下に潜り込んでいる。表向きは奴らのシンパ、裏では怪盗団の一員としてだ。

 

三島:それってスパイ活動!?

 

吾郎:三島くん、そういう話は好きかい? 浪漫があるだろ。

 

三島:そりゃあ格好いいなとは思いますよ! でも吾郎先輩、それ流石に危険じゃありませんか!? バレたら確実に葬り去られそうですよ!? ってか、表向きが巨悪のシンパって、もしかしてテレビ出演ってのは……。

 

吾郎:ああ、奴らから直々の依頼だ。『コネと権力でお前を名探偵にしてやるから、その代わり怪盗団を批判しろ』ってな。せいぜい『何も知らない、調子に乗った高校生探偵』を演じてやるさ。そういう訳だから三島くん、キミには全力で俺をアンチしてほしい。怪盗団関係者と探偵がいがみ合っていれば、向うは不審に思わないだろう。頼めるか?

 

三島:巨悪を『改心』させるため……正義のために、怪盗団の仲間を傷つける……。黎の一番大切な人を……。

 

吾郎:ぬか喜びさせたくなくて黎にはまだ言っていないけど、件の巨悪は黎の冤罪事件と関わりがあるんだ。正義を貫くためってのもあるけど、何より俺は、彼女の冤罪を晴らしたい。

 

三島:“惚れた女のため”ってヤツですね。……分かりました。俺だって男です、協力しますよ!!

 

吾郎:ありがとう、三島くん。

 

 

 怪盗団関係者――三島への根回しも万全にして、僕は6月10日を迎えた。9日に黎たちとスタジオで顔を合わせることになるとは思わなかったが、言葉を交わした時間は数分にも満たない。智明がこの現場を――僕たちが怪盗団であることを見ていないというのは幸いだった。

 収録の打ち合わせと言っても、獅童の関係者から『論理的に怪盗団を批判せよ』という指示が出るだけである。それさえ貫けばどんな発言をしてもいいらしい。僕は鉄壁の微笑を浮かべながら頷いた。智明は最初からそのつもりのようだから、涼しい笑みを浮かべて頷くのみだ。

 

 さて、収録スタート。獅童たちから依頼された通り、僕は怪盗団を痛烈に批判する。事前の根回しが利いたのか、オーディエンスの中にいる怪盗団関係者の表情には変化がない。むしろ、ちらっとでも視線を向けると、みんな揃って『頑張れ』と言わんばかりに力強く笑い返してくれる。それが、僕にとってとても嬉しかった。

 

 収録はとんとん拍子で進み、インタビュアーが秀尽学園高校の生徒へと歩み寄った。何の因果か、回答者として指名されたのは有栖川黎/怪盗団のリーダーだ。

 インタビュアーの問いに対し、黎は『怪盗団は悪人しか狙わない』と返す。自信満々に言い切った彼女の双瞼はいつ見ても綺麗で、僕はひっそり目を細めた。

 

 

『実は、怪盗団を調べるつもりでいるんですよ。警察とも足並みをそろえて――』

 

 

 にこやかに内部情報を口走る智明だが、それはある種の牽制だ。

 

 奴らは既に“怪盗団の関係者が秀尽学園高校の生徒である”と察して、今回の社会見学を手回しした。案の定、怪盗団関係者たちの表情が一瞬曇る。

 怪盗団を批判するなら、発言内容は問われない――その約束を逆手にとって、僕はささやかな抵抗/援護を1つ。理論ではなく、感情論側からの否定だが。

 

 

『僕には大切な人がいます。僕が母を亡くして今の保護者に引き取られた際、新しい環境に馴染めずに途方に暮れていた時期があったのですが、その人に励まされたおかげで立ち直ることができました。その人は今、みなさんの通う秀尽学園高校にいます。残念ながらこの場には来ていないのですが……』

 

 

 真実と嘘を巧みに混ぜ込みながら、僕は言葉を紡ぐ。黎が目を丸くした。

 

 

『僕の恩人とも言えるその人は、鴨志田氏から振るわれる暴力に悩んでいました。何度も相談を受けていたのですが、部外者の僕ではどうすることもできなかった。……そんなときです。怪盗団が彼に予告状を出し、直後、鴨志田氏が罪を認めて警察に自首したのは』

 

 

 あくまでも、“自分の無力さに打ちひしがれる名探偵”の仮面を被りながら、言葉を続ける。

 

 

『人の心を無理矢理変えてしまう彼らのやり方に正義はありません。でも、僕の恩人を救ったのは、僕の正義ではなく、怪盗団の正義でした。……悔しいことに、僕が掲げた正義は余りにも無力だった。けど、僕の貫くべき正義は変わりません。犯罪を犯した者は法で裁かれるべきだ。今回の件を重く受け止めて、僕はこれからも探偵業を続けていく所存です』

 

 

 それが、僕なりの“怪盗団へのフォロー”だった。探偵とは相容れぬ正義であると主張しつつ、“名探偵・明智吾郎が、怪盗団を自らのライバルとみなしている”とも聞こえるだろう。獅童から指示された通りのスタンスを貫きつつ、関係者に分かるようメッセージを送る。

 僕の発言を聞いた女子生徒たちが『明智くんが怪盗団にライバル宣言した』と色めき立ったあたり、僕の意図通りになったようだ。MCも『怪盗団に対するライバル宣言?』と目を輝かせながら食いついてきたので、僕は真顔で頷き返す。途端に会場内がざわめいた。

 智明は少し意外そうな顔をして僕を見た。僕は熱を込めた眼差しを送ってみせる。“論理的にも感情的にも正義を貫く名探偵”の仮面はきちんと機能したようで、智明は納得したように頷いた。それ以外は特に問題もなく、番組収録は終わりを迎えた。

 

 予め『他人のフリをしろ』と根回ししておいたので、竜司も杏も黎も僕に話しかけることなく帰路に就こうとしている。

 竜司が一端この場を外し、次は杏が部屋を出た。黎はちらりと僕に視線を向ける。僕もアイコンタクトで返し、他人のフリを装った。

 

 

『それじゃあ、怪盗団を追いつめるための算段を立てようか』

 

 

 その後は智明と共に作戦会議に興じた。“怪盗団を追いかける正義の名探偵”――明智吾郎の売り出し文句はこのスタンスで進むらしい。やはり、怪盗団にライバル宣言をしたことが利いたのだろう。おかげで俺は怪盗団キラーの神輿として担がれることとなった。

 

 そうして現在――6月11日。僕たちは班目『改心』による戦勝会と祐介の歓迎会を行っていた。会場はルブランの屋根裏部屋である。

 佐倉さんは竜司、杏、祐介を連れ立って来た僕と黎を見ると、どこか嬉しそうに微笑みながら迎え入れてくれた。

 鍋の具材を奪いあったり、締めをご飯かうどんにするかで軽く揉めた黎と祐介を宥めたり、互いの身の上話をしたりして、楽しい時間が流れていく。

 

 

「ところで祐介。お前、学校の寮から出てきたんだろ? 行くアテはあんのか?」

 

「ない。先程杏に断られてしまってな」

 

 

 竜司の問いに対して、祐介は悪びれる様子もなければ何も考えていないと言わんばかりのドヤ顔で答えた。

 流石、“ファミレスに所持金なしで来店し、その上で注文までした”図々しい男である。芸術以外に無頓着だった悪影響が顕著に出ていた。

 

 

「普通に考えれば分かることだろ。いくら両親が年に半年しか自宅にいないとはいえど、自分の家に他人を――異性を住まわせるなんて」

 

「あと、佐倉さんにも『屋根裏部屋に置いてもらえないか』と頼んだんだが――」

 

 

 祐介がそう言い終える前に、俺は反射的に動いていた。奴の顔面を鷲掴みにしてそのままフリーズする。衝動に任せていたら、俺は奴の顔面をどこかに叩き付けていただろう。俺の理性は仕事を果たした。奴は若干声を引きつらせながら「残念ながら断られてしまった」と言葉を締めくくる。

 佐倉さんが常識人で良かった。もし佐倉さんが祐介の提案にOKを出していたら、空本の3羽烏でOHANASHIしなくてはならないと思っていたところだ。奴を黎を2人きりにするのは正直よろしくない。「屋根裏部屋がアトリエに似ているから親近感があって」云々と呟く祐介の顔から手を離した。

 嫌な予感を察知した竜司はブンブン首を振る。自分の家は母子家庭だから無理――完全に、モルガナの面倒を見るのを断ったときの言い訳と一致していた。竜司が、杏が、助けを求めるようにして俺を見つめてくる。祐介は相変らず「ここに滞在したかった」等とほざいていた。

 

 俺はちらりと黎に視線を向ける。黎は「行く場所がないなら屋根裏部屋に泊まりなよ。佐倉さんは何とか説得するから」と言わんばかりの眼差しを祐介へ向けていた。

 

 佐倉さんが断ってなければ、黎は躊躇いなく祐介を屋根裏部屋に滞在させていただろう。こんな奴に慈母神ばりの優しさと漢らしい度胸を発揮する必要は皆無だ。

 多分、俺が「ルブランに泊まりたい」と言っても、いい笑顔で了承してくれそうな気配が漂う。……もうちょっと恥じらってくれないだろうか、お願いだから。

 

 

「……しょうがない。祐介、お前、今晩はウチに来いよ」

 

 

 観念した俺は肩をすくめ、空本兄弟へのSNSを開いた。“寮を飛び出してきた友人(男)を泊めたいが、奴は金欠だし頼れる人間もいない。俺が何とかしないとルブランに泊まることになってしまう。黎とそいつを2人にしたくない”とメッセージを送る。間髪入れず双方から了承の返事が返って来た。それを見せれば、祐介がパアアと表情を輝かせる。

 

 

「本当か!? 感謝するぞ吾郎! 明日の朝食は焼き魚と味噌汁があれば充分だからな!」

 

「お前って本当に図々しいな!!」

 

 

◇◇◇

 

 

「吾郎は毎日、こんなに美味い朝食を食べているのか……!」

 

 

 祐介は目をキラキラさせながら、空本家の食卓を見つめていた。一粒一粒がつやつやした輝きを帯びた白ご飯、オクラとワカメを主体に使った味噌汁、塩味が効いた焼き鮭、ほんのり焼き目のついた出し巻き卵、キュウリとミョウガにおかかを振りかけたさっぱり系の和え物、自家製梅酢で作ったジュレ。

 本日の朝食は和食となっている。前日に「和食が食べたい」と主張した祐介のリクエストに至さんが答えたのだ。しかも、彼の凝り性は焼き魚と味噌汁では止まらなかったらしい。至さんは褒められて嬉しかったのだろう。でれでれした笑みを浮かべていた。

 

 そんな保護者を横目にして、俺は手早く朝食を食べ進めた。

 

 今日は全国統括公開模試が行われる日だ。東京中の高校3年生が集う大規模なもので、センター試験および大学入試問題に対応している。将来のために大学進学を視野に入れている俺にとっては、この模試を疎かにすることはできない。

 怪盗団や探偵および密偵として活動しつつ、奨学金制度を利用するための成績を保つというのはハードスケジュールなのだ。勿論、すべてを完璧にこなさなければ密偵なんて務まらない。外面良く振る舞うのは俺の得意分野である。閑話休題。

 今日の朝食も美味しい。自分の分を食べ終えた俺は、最後の締めに緑茶を啜った。「ごちそうさま。今日も美味しかった」と挨拶すれば、至さんはいい笑顔で「おう、お粗末さま」と返した。それに対して、祐介は図太くお代わりを要求する。

 

 

「祐介くんはよく食べるなあ。いっぱい食べる子は好きだぞー」

 

「俺ここに下宿したいです」

 

「ダメに決まってるだろ。それ食ったら寮へ帰れ、絶対帰れ」

 

 

 模試の試験場へ向かう準備――主に身支度や持ち込む参考書の確認――の傍ら、空本家に張り付く気満々の祐介をひっぺがす。

 

 奴の胃袋は掃除機並で、またお代わりを要求していた。人の家の飯だからか、タダで食べれる飯だからか、祐介には遠慮の素振りがない。言い方は悪いが、まるでヒモみたいだ。

 「金がないなら自力で金策に走れ」と言いたいものの、祐介の人柄を分析する限り、絵を描く以外の仕事は絶対に向いてない。給料を貰うより先にクビになりそうだった。

 

 

「んー、至ぅ……」

 

「おう、おはよう航。席に座って朝食食べちまえ」

 

 

 俺が慌ただしく出かける準備をしていたとき、航さんが部屋から這い出してきた。目元に酷い隈を刻みながら、ふらふらと朝食の席に現れる。昨日は帰ってすぐに寝込んだのだろう。よれよれの白衣とスラックスというくたびれた格好のまま至さんの腰に抱き付いた。

 至さんに促され、航さんは言われたとおりに席に着いた。航さんの視線は当てもなく彷徨っている。彼は俺に負けず劣らずハードスケジュールだったか。研究者という職業柄、数日間徹夜して計測するなんて当たり前らしい。自宅に帰ってきては泥のように眠る日々が続いていた。

 それでも航さんが健康診断や病理診断で引っかからないのは、至さんが作った料理を食べようとする意識が残っているためだろう。時間になると食べながら研究を続けるようだ。強行軍を組む航さんに対し、至さんはしょっちゅう昼食を作ったり、弁当を持たせたりして対応していた。まるで母親か妻のような尽くしっぷりだった。

 

 むしゃむしゃと朝食を貪り喰っていた祐介が動きを止める。

 奴は指で枠を作りながら、空本兄弟を枠内に収めて観察し始めた。

 

 嫌な予感を覚えたのは気のせいではない。案の定、祐介が目を輝かせながら叫びだした。

 

 

「なんだあの兄弟は!? あれは本当にただの兄弟愛なのか? 禁断の愛の間違いではないのか!? ――ハッ、そうか! 描けばいいのか!」

 

「俺の保護者で何を妄想してるんだオメーは」

 

「むぐぅ!? ――うむ、美味い! 絶品だ!!」

 

 

 熱の籠った祐介の分析を、俺は“奴の口に出し巻き卵を突っ込む”という方法で強制的にシャットダウンさせた。というか、聞いて堪るかそんな分析。聞いてたら模試の成績に影響するだけでなく、模試の受付時間内に間に合わない危険性が出てくる。

 

 自分たちが不埒な妄想から絵の題材にされているというのに、至さんは暢気に「新しい友達は個性的な子だなー」と笑うだけだ。確かに聖エルミン学園高校のペルソナ使いも個性的な面々が多かったけど、祐介のそれは彼らと比較してはいけないと思う。

 航さんに至っては半分夢の中である。至さんの介護を受けながら朝食を食べ進める様子は親鳥からエサを与えられる雛鳥みたいだ。甲斐甲斐しく献身的な至さんと、彼の行為すべてを受け入れるがままの航さんを見た祐介はまた何かを喚きだしたが、その度に俺が奴の口におかず類を突っ込んで黙らせた。

 

 正直、祐介の分析を至さんや航さんに一言たりとも聞かせたくないのだが、俺は統括模試を受けなければならない。

 せめてもの抵抗に、俺は「人の保護者で不埒な妄想をしたり、本人の許可なく題材にしてはいけない」と祐介に言い含めておいた。

 祐介はいい笑顔で白米をお代わりしていたので効果は皆無であろう。それでも俺は、模試の会場へと間に合うよう家を出なければならなかった。

 

 電車やバスを乗り継いで、俺は全国統括模試の試験会場に辿り着く。会場では、様々な学校の生徒たちが参考書と睨めっこを繰り広げていた。淡々とした表情の者、知り合いと談笑している者、頭を抱えて唸る者など様々である。

 

 

(智明は、会場には来てないようだな……)

 

 

 高校3年生が一同に会する模試会場でたった1人を探すのは、砂漠で砂金を探すようなものであろう。そんなことを考えていたとき、スマホに連絡が入った。鳴っていたのは、獅童智明から渡されたスマホである。奴らは僕個人のスマホに足が残るのを嫌い、仕事用のスマホを手渡してきた。

 獅童のことだ。変なアプリが仕込まれている危険性から風花さんに確認してもらったところ、『“現時点では”変なアプリは入ってない。密偵にとって脅威になりそうなのは位置確認アプリくらいか』とのことだ。僕は風花さんの言葉を思い返しつつスマホを確認する。

 

 

「『仕事があるから模試は受けられない』か。……流石、学生議員秘書見習い」

 

 

 僕は皮肉たっぷりに呟いた。同時に、“こんなところで暢気に模試を受けていてよいのか”という疑問と焦燥が浮かんでは消える。

 智明の言う『仕事』が()()()()()()()()()()ことは明らかだ。奴が『廃人化』を使って殺人を行っていることを僕は知っていた。

 僕が学生生活を送る今この瞬間にも、奴は『廃人化』を行い人を殺しているのだろう。だが、奴が僕にする話は“怪盗団を潰すための世論操作”だけである。

 

 ……それもそうか。相手は僕がペルソナ使いでパレスに侵入できるとは気づいていない。把握しているのは“パレスに怪盗団が侵入している”ことと、最悪の場合として“そいつらがどんな身なりの連中なのか”程度であろう。

 

 

(奴の深いところに潜り込むためには、“僕がペルソナ使いであることを示さなきゃならない”か……?)

 

 

 しかし、それはリスクが大きすぎる。怪盗団の衣装は変更不可能だ。クロウの王子様風衣装を智明に晒した場合、僕が怪盗団の一員だと気づきかねない。

 それが原因で怪盗団に矛先が向いてしまえば本末転倒。それを逆手に取る作戦がないわけではないが、リスクがあまりにも大きすぎる。

 

 ――……何より、俺自身がその重石に耐えられるかどうか。

 

 僕がそんなことを思案していたときだった。ふと顔を上げた先に、見知った顔を見つける。新島冴検事の妹で、怪盗団を追いかけている秀尽学園高校の生徒会長、新島さんだ。

 新島さんは浮かない顔をしていた。具体的に言うなら、断崖絶壁の先端から眼下の景色を見つめているような様子だ。放っておけば飛び降りてしまいそうな気配が漂う。

 『昔の吾郎も、そんな感じの表情を浮かべていた』――黎がそんな話をしていたことを思い出した僕は、迂闊だとは自覚しながらも、新島さんを放っておくことができなかった。

 

 

「新島さん、どうかしたのかい?」

 

「……珍しい。貴方の方から私に話しかけてくるなんて、どういった心境の変化かしら?」

 

「何やら思いつめた様子だったから心配になってね。僕の恩人が『昔のお前にそっくりだ』って例えた顔だなって思ったら、放っておけなくて」

 

 

 きっと、黎ならそんな顔をした相手を放っておかないはずだ。僕を救い上げてくれた大切な人の姿を思い浮かべる。……なんだか1人で照れくさくなってきた。

 

 

「それって有栖川さんのことでしょう?」

 

「あれ、分かる?」

 

「それ以外に誰がいるの?」

 

「いないし作る気は一切ない」

 

 

 新島さんの表情が、別方面で厳しい顔つきとなった。黎の話をする僕を見る冴さんと瓜二つの顔だった。

 つい「姉妹揃って反応が同じだ」と零せば、ほんの僅かだが、新島さんの表情が和らいだ。流石シスコンである。

 

 

「いいのかしら? 未来の伴侶がいる身で女性に声をかけるだなんて」

 

「キミを放置したままの方が黎に叱られる。『吾郎は自分と同じ苦しみを味わう人を見殺しにしたのか』って」

 

「見殺しって……私、死にはしないわよ?」

 

「死にそうな顔をしてただろ。そんなに思い悩むくらいなら、どこかで吐き出したらいいんじゃないか? 僕でよければ、聞き役くらいにはなれると思うけど」

 

 

 まさか僕からそんなことを言われるとは思わなかったのか、新島さんは目を丸くした。丁度そのタイミングで、僕のスマホのアラームが鳴り響く。そろそろ模試の開始時間だ。とりあえず僕は新島さんに「また後で」と一方的に約束し、模試を受けることにした。

 

 全教科と選択教科を含んで5科目以上のテストを受け、終わったのは夕日が差し込む時間帯である。どやどやと引き上げていく生徒たちの群れをかき分けながら、僕は新島さんの姿を探した。一方的な約束だから期待はしていなかったが、僕の予想に反して、新島さんは模試会場の入り口で僕を待ち構えていた。

 僕は“己がそれなりに有名人である”という自覚はあったので、会場のトイレで手早く変装した。鹿撃ち帽を目深く被り、黒く野暮ったい眼鏡をかけ、髪を束ねる。ネクタイをやや緩めてボタンを2つ外せば、適度にフランクな生徒の出来上がりだ。こんな格好なら、多くの人々が僕を“明智吾郎”と認識できないはずだ。

 僕の予想は正解だったようで、会場内をうろうろしても話しかけられることは皆無だった。勿論、新島さんですら僕をスルーしかかった。「すみません」と声をかけたら不審者を見るような目で睨まれたので、とりあえず屈んで眼鏡をずらす。「約束していた明智吾郎だけど」と言えば、新島さんは大きく目を見開いた。

 

 

「一方的な約束だったから、気に留めず帰ったかと思った」

 

「明智くん、その格好……」

 

「自分の有名度合いは自覚できてるからね。どこで誰が見てるか分からないから慎重にしないと。変な噂を立てられて黎に被害が向いたら大変だし、キミに火の粉が降りかかったら僕が冴さんに殺されちゃうよ」

 

 

 「『キミに会った』ってだけでも殺されそうだから」とぼやく僕を見て、新島さんは噴き出した。鉄の女宜しくお堅かった表情が緩む。

 ……成程、笑い方は冴さんそっくりらしい。僕が「やっぱり姉妹だ」と零せば、新島さんはどこか照れたように耳を染めていた。

 

 

「あれ、吾郎?」

 

 

 不意に声をかけられた。振り返れば、黒いジャンバー姿でクレー射撃用の銃ケースを抱えた俺の保護者――至さんの姿があった。「模試の会場ここだったの?」と首を傾げる至さんは、僕の隣にいた新島さんを見て一瞬目を剥いた。

 保護者が何かを叫ぶ前に「違うからね? クソ親父と同じ轍を踏むくらいなら、黎の冤罪を仕組んだ犯人と一緒に心中するから」と主張した。複数人の女と股がけするなんて、愛人をこさえた僕の父親と変わらないではないか。至さんは僕の言葉に嘘はないと感じ取ったらしく、静かな面持ちでうんうん頷く。

 至さんは「どちらさまですか?」と新島さんに問いかけた。新島さんはすらすらと自己紹介する。彼女が検察庁における僕の上司――冴さんの妹だと知った至さんは、「吾郎がお世話になってます」と新島さんに深々と頭を下げていた。正直、それが少しだけ照れくさい。

 

 「いつも吾郎がお世話になっているから」という理由で、至さんは新島さんに何かを奢ることにしたようだ。

 折角なので、僕も至さんに便乗する。渋る新島さんを半ば強引にファミレスへと押し込んだ。

 

 

***

 

 

 クラシカルなBGMが流れる。家族連れやカップル、おひとり様――この店には、様々な人々が集まっていた。

 客層を分析すると、僕らのような面々は場違いだと言えそうだ。高校生2名と片方の保護者1名という組み合わせは、完全に歪であろう。

 

 

「あ、あの、私は別にいいですから」

 

「いーのいーの。こういうときは遠慮せず甘えとくもんだ」

 

 

 新島さんは遠慮していたが、至さんにそう言われて目を丸くしていた。あの様子だと、新島さんは冴さんに甘えられずにいるらしい。

 

 

(新島さんがいつも張りつめていたのは、唯一の肉親である冴さんに頼ることができなかったからか……?)

 

 

 確かに冴さんは、怪盗団や獅童正義が絡んだ事件を追いかけている。僕も彼女の手足となって動いているから、それが多忙であることは知っていた。

 でも、冴さんは新島さんのことをとても気にかけていたし、『仕事を終わらせたら真に会える』って笑顔で語っていた。できる限り努力していたのだ。

 

 

(……もしかしたら、冴さん以外に頼れる存在が誰も居なかったのかもしれない)

 

 

 秀尽学園の校長も、教師も、生徒会の面々も、誰もが新島さんを頼っているようだ。実際、新島さんは教師から『怪盗団のことを調査しろ』と命じられている。余程信頼されていないと、一生徒にそんなことを頼みはしないだろう。

 では、新島さんはどうだったのか。あの様子から分析すると、新島さんの方から誰かに頼ったケースは皆無なのではなかろうか。優秀な子どもを頼る大人は多いけど、子どもが大人に頼ると風当たりが強めに感じることはある。

 人に頼られている人間は誰かに頼り辛い。僕の実体験でもあるし、南条圭さんや桐条美鶴さんのような財閥を率いる責任を負った人物と接して分かっていることだし、達哉さんや命さん、至さん等の一件で証明済みだ。

 

 

「新島さんは何食べるの? 好きなの頼みなよ。……もしかして、この店嫌だった?」

 

「い、いいえ! えーと、それじゃあアイスティーを……」

 

「他には? ケーキとかパフェとか、グラタンとかドリアとか、何でもいいよ」

 

「……新島さん、観念して奢らせてあげて。子どものために大人が頑張る……それが至さんの“譲れない正義”なんだ」

 

 

 至さんはニコニコ笑ってメニューを指示す。僕は新島さんに耳打ちした。新島さんは少し困惑していたが、大人しく頼ることにしたようだ。頷いて、適当なスイーツを指さす。僕も至さんに促されて、とりあえず一番最初に目についたパンケーキを指さした。

 注文を終えて、僕たちはのんびりと談笑する。程なくして頼んだ料理が皿に並んだ。気さくで親しみやすい至さんの様子に緊張がほぐれたのか、それとも文字通り赤の他人に近しい相手なので話しやすいと思ったのか、新島さんはポツポツと愚痴を零し始めた。

 

 秀尽学園高校の生徒会長である新島さんは、教師――それでも誰から頼まれたかは暈していた――からの依頼で怪盗団について調べ回っていたという。

 だが、秀尽学園高校には、怪盗団以外にもきな臭い気配が漂っているらしい。何でも、秀尽学園高校の生徒をターゲットにした詐欺と恐喝事件が発生しているとか。

 最近は校内に張り紙が張られていたり、生徒たちからのSOS――「弱みを握られ脅されている。助けてほしい」という匿名の相談が相次いでいるそうだ。

 

 それを聞いた至さんが、顎に手を当てて呟いた。

 

 

「そういえば、聖エルミン学園高校や七姉妹学園高校、月光館学園高校や八十稲羽高校でも、似たような詐欺や恐喝事件が蔓延してたって聞いたな」

 

「それって、ウチの学校と同じ……!?」

 

「かもしれん。知り合いに月光館学園の関係者、警察関係者、警察志望の大学生がいて、この面子が頑張ったおかげで主犯は逮捕できたんだ。だが、“逮捕したそいつらはあくまでも末端に過ぎなくて、黒幕は東京のヤクザじゃないか”ってことが明らかになったらしい」

 

 

 月光館学園高校関係者、警察関係者、警察志望の大学生――明らかに、僕が知っているペルソナ使いたちだ。

 しかも、狙われた学校はピンポイントで“ペルソナ使いの通っていた高校”である。

 更に共通点を挙げるとするなら、“有栖川家の親戚やその関係者が通っていた高校”というのも気にかかった。

 

 OBOGである彼らの御膝元で暴れる犯罪者は命知らず過ぎやしないか。

 派手に()ったんだろうな、と、そんな予測が頭をよぎった。

 

 

「至さん。何でそんな情報知ってんの?」

 

「今までの繋がりを利用して集めた。伊達に調査員やってるわけじゃない。話を聞く限り、大人でも手こずるような奴が黒幕みたいだぞ」

 

 

 当たり前のことだが、検事の妹にして生徒会長と言えども、新島さんは一介の高校生である。知り合いたちを手こずらせるような相手に対し、できることなんてタカが知れていた。状況が改善できないことに依頼者である教師は腹を立て、新島さんに当たり散らしているらしい。

 

 

「なんで、私ばかり責められるの……! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、もうどうしたらいいのか……!」

 

(――え?)

 

 

 新島さんの言葉に、僕は思わず目を丸くした。

 

 冴さんが新島さんに当たり散らすなんて、そんなことがあるのか。確かに可能性は0ではないのだろうけど、でも、冴さんは妹である新島さんのことを大切に想っている。

 僕に妹の自慢話を聞かせるときの冴さんは本当にデレデレしてて、“結婚願望よりも妹大好きの色が強いから婚期が遅れるのでは”と思ってしまう程の溺愛ぶりだった。

 新島さんに彼氏なんてできたら、該当者を尋問室に連れ込んで被疑者同然の取り調べを行いそうな雰囲気があったのに。……そんな冴さんが、妹に八つ当たり? 想像できない。

 

 至さんは黙って新島さんの叫びを聞いていた。彼女の悲鳴を受け止めて、寄り添っていた。嘗て、彼が僕にしてくれたのと同じように。

 自分の弱音を吐き出し終えた新島さんは、模試を受ける前よりも幾分かスッキリとした面持ちとなっていた。それを確認した至さんが口を開く。

 

 

「キミは凄いよ。大人が怯えてやろうとしないことを率先して引き受けて、必死になって解決しようとしている。……できないことを『できない』って言うの、勇気がいるよな。“言ったら最後、みんなから見捨てられてしまう”って不安になるの当たり前だよ。ウチの吾郎だって最初はそうだったし」

 

「至さん、余計なこと言わないでくれ」

 

「ああうん、悪かったな吾郎」

 

 

 僕の話を例に持ってこようとした至さんを睨む。

 至さんは懐かしそうに笑った後、言葉を続けた。

 

 

「悪いのは“事件を解決できない新島さん”じゃない。“新島さんに全部押し付けて、高みの見物してる大人たち”だ。そんな奴らのために“いい子”をやる必要なんてないだろ。そうしなきゃ得られない地位や名誉なんて捨てちまえ」

 

「……そんなの、言うだけなら簡単ですよね。無責任ですよ」

 

 

 噛みつくような声だった。至さんは驚くことなく、黙って新島さんの言葉を受け止める。

 

 

「女性でのし上がっていくのは大変なことだって、お姉ちゃんは私に言うんです。実際、本当に大変そうで……」

 

「だろうなぁ。知り合いの司法関係者がよくぼやいてたよ。『クソみたいな上司のせいで捜査が進まない』って。新島さんのお姉さんも、その壁にぶち当たってるんだな」

 

「……お姉ちゃんはいつも言うんです。『勉強していい大学へ入れ』、『将来のために、今やるべきことだけに目を向けなさい』って。……『今の貴女は役立たずだから、私の足を引っ張るような真似だけはしないで』って」

 

 

 そのために、自分は“いい子”をやっているんだ――新島さんは言外にそう訴えていた。

 

 新島さんの言葉には同意できる。僕も将来のためにと勉強し、大学進学を目指している高校生だからだ。いつまでも保護者である至さんや航さんの世話になるわけにはいかないし、有栖川家に寄生しようとする連中から黎を守れる強さを手に入れなければならない。

 獅童の犯罪を止めるため/黎の冤罪を晴らすために司法関係の勉強を始めた僕だけれど、今では「そっちで生計を立てるのもいいかもしれない」と思いつつある。司法関係者の肩書なら、「しきたり」等という話を持ちだして黎を手籠めにしようとする連中を社会的に撃退できるからだ。

 勿論、今やっている探偵業も悪くない。メディア露出は好きではないが、用途によっては上手く使えそうだ。割り切ればどうにでもできそうである。割り切ると言う意味では、このまま役者に転向しても稼げる自信はあった。閑話休題。

 

 確かに、新島さんは品行方正が服着て歩いているレベルの“いい子ちゃん”だ。大人が褒め称える文字通りの『優等生』である。

 けれど今の新島さんを見ていると、魚が陸上で生活しようと躍起になっているように思えるのだ。上手くいかなくて、憤っているように感じた。

 

 

「……新島さんは納得してなさそうだよね。何に憤ってるの?」

 

 

 何の気なしに僕が問いかけると、新島さんは眉間に皺を寄せた。渋い顔をしてアイスティーを飲み干した彼女は、大きくため息をつく。

 新島さんは暫く俯いて何かを考えていた様子だったが、意を決したように顔を上げた。「明智くん」と、新島さんは僕の名を呼ぶ。

 

 

「正義って、何だと思う?」

 

 

 その眼差しは、容赦なく僕を射抜く。冴さんと同じ鋭いそれに、僕は思わず背を伸ばした。

 

 

「……それはまた、難しい問題だね。法律による正義、世間一般の物差しから見た正義、自分自身が正しいと信じている正義……沢山あるよ」

 

「貴方は何をもって正義だと主張するの? “正義の探偵さん”」

 

「犯罪者には法の裁きを受けさせるべきだ。けど、残念なことに、法の裁きを潜り抜ける巨悪がいるのもまた事実。逆に法律を利用して無辜の人々を陥れる輩だって存在している。……正直、法律ってのは使い方次第でどうにでもなる道具(ツール)であり物差しに過ぎない。けど、その物差しがなければ秩序は乱れ、誰も彼もがやりたい放題の無法地帯になってしまう。それじゃあダメだと思うから、僕は法による裁きを重要視するんだ。法律は“人を正しく守り、物事を正しく裁く”ための道具(もの)だと信じているから」

 

 

 “正義の探偵さん”としての答えを求められた僕は、“正義の名探偵・明智吾郎”として返答する。そうして、「今回は、怪盗団の正義に敵わなかったけど」と付け加えた。僕が出演していたテレビを見ていたのか、それとも僕が以前零していた演技(大部分が本音)を思い出したのか、新島さんは納得したように頷く。

 新島さんは「正義」について悩んでいるらしい。「悪人を『改心』させ、罪を償わせる……怪盗団の正義って、何なのかしらね」――それは、怪盗団の動向が気になるということだろうか? ……やはり、死にそうな顔をしていたと言えど、彼女に声をかけたことは迂闊だった。でも、見捨てて良かったとは思えない。絶対に。

 

 

「彼らは正しい意味での“確信犯”なんだと思うよ。自分たちが正しいと思う正義を信じているから、迷わずにいられるんだ」

 

「確信犯……」

 

「新島さんも口に出さないだけで、周りのせいで出来ないだけで、そういうものがあるんでしょ? 言いたいこと、したいこと、証明したいことが」

 

 

 僕の問いかけに、新島さんは黙り込んでしまった。幾何かして、黙って僕と新島さんのやり取りを聞いていた至さんが口を開く。

 

 

「しんどいなら、誰かに頼ればいい。俺なんてしょっちゅう誰かに頼ってるぞ」

 

 

 優しく細められた双瞼が、ほんの少しだけ昏く感じたのは何故だろう。

 至さんは朗々と言葉を続ける。

 

 

「俺は無力だ。行く先々で怪異現象が発生し、その元凶どもからは揃いも揃って“俺有責”って言われるし、終いには“お前にはその原因を直接解決する力がない”って事実上ハブられる。金もなければ権力もない。……いつだって、いつだって、誰かに任せなきゃいけなかった。誰かに頼らなきゃいけなかった。誰かに背負わせて、それを後ろから見てるだけしかできなかった」

 

 

 今まで歩いてきた旅路を想いながら、俺の保護者は語り続ける。救えたもの、救えなかったもの、拾い上げたもの、零れ落ちたもの――清濁併せ持った旅路の果てで、自分が得た“宝物”を1つ1つ確認するかのようだった。

 

 御影町のスノーマスク事件とセベク・スキャンダルでは冴子先生を救って神取を助けられなかった。珠閒瑠の事件ではニャラルトホテプの人形と化した神取を光へ引き戻すこと叶わず、“滅びの世界”からやって来た達哉さんを見送ることしかできなかった。

 御影町の一件で見つけた物質の解析のため、桐条財閥へ共同研究を持ちかけたせいで鴻悦の研究および狂気が加速し、巌戸台の事件が発生する原因を作った。結果、偶然そこに居合わせただけの命さんにニュクスが封印され、ニュクス復活の原因にさせてしまった。

 フィレモンとニャラルトホテプがイザナミに入れ知恵した際、具体例として挙げられたのが自分自身の存在だった。結果、自身の関係者で且つ八十稲羽を訪れた存在――真実さんに白羽の矢が立ってしまい、彼は丸々1年間、仲間と共に霧の中を彷徨う羽目になってしまった。

 

 

「ハッキリ言う。俺は誰かに頼らないと生きていけない自信がある。今までも、これからも、多分死ぬまでずっとこのままだ」

 

 

 至さんはどれだけ自分を責めただろう。自分さえいなければよかったと何度も思い悩み、それでも、生きて次世代のペルソナ使いを支えようとした。

 嘗ての仲間たちとのコミュニティやコネクション、コンペティションを駆使して、必死になって若者たちをサポートしてきた。それが自分の正義だと信じて。

 

 新島さんにとって、至さんの告白は超弩級の自虐に聞こえたのだろう。若干引き気味になっていた。

 

 

「そんなプライドも意地もない発言する大人、初めて見た……」

 

「何が起きるごとに『全部お前のせいだからね。あと、お前じゃどうにもできないから』って言われ続ければこうなるよ。でも、そんな俺にだってできることがある」

 

「できること?」

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 自信満々に言い切った至さんは完全な素面だ。何も知らない第3者――それこそ新島さんみたいなタイプからすれば、今の発言は“酔っ払いですら馬鹿にする”レベルの妄言だろう。実際、新島さんは大変困惑している。至さんの表情に嘘がないという点が、余計に新島さんを困らせてしまっているようだ。

 至さんの旅路――御影町、珠閒瑠市、巌戸台、八十稲羽を駆け抜ける――では、悪神の企みに挑むペルソナ使いたちを勝たせるため、様々なサポートを行っていた。自分が出会って絆を紡いだ面々と協力して、次世代のペルソナ使いの道を切り開いてきた。小さな突破口の積み重ねで、最後は彼/彼女たちを勝利させた。

 その軌跡を、僕は彼の隣でずっと見てきた。直接何かをできない自分の存在に思い悩み、それでも必死になって駆けずり回っていた大人の背中を見つめていた。至さんは今でも、自分の業に真正面から挑みながら、心身ともにボロボロになっても、自分が今までの旅路で得た“宝物を守る”ために戦い続けている。

 

 神取鷹久の問いに『宝物を見つけるため』と答えた空本至は、それを守るために旅路を往く。

 その過程で、彼はまた宝物を見つけて、それを守るために旅路を往くのだ。

 

 

「自分が勝てないなら、自分と同じ目的のために立ち上がった誰かを勝たせるために戦うってのも悪いもんじゃないよ。自分にできることとできないことを把握することも、戦うためには必用なことだ」

 

「空本さん……」

 

「役に立たなきゃ存在しちゃいけないなら、俺なんて『生まれてきたことが間違いだった』レベルになるぞ? 実際、フィレモン(クソオヤジ)からそう言われたし」

 

「至さん」

 

 

 自虐に突き進もうとする至さんを俺は制した。俺の自慢の保護者がこれ以上自傷行為を続ける姿なんて見たくない。

 

 それに、俺の自慢の保護者が『生まれてきたことが間違いだった』なんて言われたら、俺の人生だってどうなっていたか分かったものではないのだ。

 彼がいなければ俺は身勝手な大人たちによってボロボロになっただろうし、有栖川黎と出会うこともなかった。舞耶さんや命さん、真実さんとも会えなかった。

 もしかしたら、怪盗団としての仲間たちとも出会えぬまま、たった1人で生きて行かなくてはならなかったかもしれない。

 

 そんな光景、想像できなかった。想像なんてしたくなかった。

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺の必死な形相が伝わったのだろう。至さんは「ごめん吾郎。もう自虐はお終い」と苦笑した。

 

 

「そんな俺でも、『ここにいていい』って言ってくれる仲間たちがいる。こんな奴でも『至さん』って慕ってくれる奴らがいる。だからせめて、俺は、そんな人たちを助けられる存在でありたい……いつも、そう思ってるんだ。――フィレモン(クソオヤジ)に何を言われ、何を対価にされようとも」

 

 

 後半がよく聞こえなくて、僕と新島さんは首を傾げる。至さんは満面の笑みを浮かべ、「フィレモン(クソオヤジ)を定期的にぶん殴りながらな」と締めくくった。クソオヤジがフィレモンのことを指していることを知らない新島さんは、クソオヤジが至さんの実父を指していると思ったのであろう。やっぱりちょっと引いていた。

 楽しそうに笑っていた至さんは、ふと時計を見てバツが悪そうな顔をした。僕と新島さんも時計を見る。そろそろ帰らないと明日に支障が出そうな時間帯だ。話し込んでいるうちに相当時間が経過していたらしい。窓から外を見れば、空は真っ暗になっていた。……冴さんが鬼のような形相をしている姿が脳裏をよぎる。怖い。

 

 

「……ねえ、新島さん。冴さんに連絡した?」

 

「ええ。“友達と会うから遅くなる”って。明智くんの名前は出してないわ」

 

 

 良かった。カム着火ファイアーインフェルノ状態の冴さんによる尋問は無しになったようだ。安心した表情を浮かべた僕を見た新島さんはくすくす笑う。

 「メディアで見る明智くんと、空本さんや有栖川さんが絡んだ明智くんって雰囲気違うわね。こっちの方がいいかも」――新島さんは、冴さんと同じことを言った。

 思ったことを口に出すと、新島さんはどこか嬉しそうに頷く。ただ、その横顔がどこか寂しそうに見えるのは、彼女が知る冴さんが()()()()()()()()ためだろうか。

 

 そんなとき、「吾郎がお世話になってるから」と主張した至さんが、新島さんを送ると言い出した。確かに、こんな時間に女性を1人で帰すのは物騒である。秀尽学園高校の生徒が詐欺や恐喝被害に合っているのだ。ヤクザからしてみれば、男子生徒より女子生徒の方が狙いやすいだろう。

 

 だが、その脇に男性がいたらどうなるか。同年代が並んでいるのより、年上の男性と女子生徒の組み合わせの方が、狙いにくさが多少上昇するはずだ。

 「長話につき合ってもらったお礼」、「子どもを甘やかすのも大人の役目」と主張した至さんに押し切られた新島さんは、苦笑しながら頷いていた。

 

 

◇◆◆◆

 

 

 ねえ、新島さん。誰かの言いなりになっていて、窮屈だって思ったことある?

 大人たちの押し付けに、「おうふざけるな下手に出れば調子に乗りやがって! 轢き殺すぞ!!」って感じたことは?

 

 ……成程。その顔からして、そういう経験は日常茶飯事と見た。それでもずっと我慢し続けたのは、居場所が欲しいからかな?

 

 さっきも言ったけど、“新島さんに全部押し付けて、高みの見物してる大人たち”のために“いい子”をやる必要なんてないだろ。そのためにキミの人生がすり減っていいはずがない。そうしなきゃ得られない地位や名誉なんて捨てちまえ。

 実際、そういうモンって、キミの思った通りの役に立たないからね。頼れる生徒会長という肩書が、司法関係者の家系という血筋が、優等生という評価が、キミの役に立った試しがあったかい? 実際、キミを苦しめるばかりじゃないか。

 「生徒会長のくせに問題を解決できない。司法関係者の家系なのに操作能力がない。優等生だから、内申点が欲しいんだろう」――そんな心無い言葉に苛立ちを感じたことがあるんだろう。俺も昔はそういう怒りを抱いた子どもだから、何となくわかる。

 

 新島さんは、怪盗団に何を見出したの? 怪盗団のことを追いかけて、最後はどうするつもり? 彼らを冴さんに突き出して、「よくやったわ真!」って褒めてもらうの? ……やめとけ。それを()()()()()にやったら、「余計なお世話、手間が増えた、役に立たない子」って更に怒鳴られるだけだ。理不尽にな。

 もうちょっと()()()()()()だったら、真面目に取り合ってくれたかもしれない。でも、()()()()()()()()()()()()じゃなきゃ取り返しのつかない被害が出る。それも、人の生き死にに関連するようなレベルのやつ。下手したら世界滅亡という究極の理不尽を呼び覚ます系のやつ。

 

 今、俺のこと酔っ払いみたいだって思ったでしょ。残念、素面なんだよなコレ。ついでにアルコールを飲んでも全然酔わないの。航――あ、俺の双子の弟なんだけど、弟が飲んだらベロベロに酔っぱらうから、そっちの介護に勤しんでるかな。……って、どうでもいいか、こんな話。

 

 ……ねえ、新島さん。今すぐこの一件から引けば、キミは何事もなく平穏な日常へ戻れるよ。キミの内申点は少々下がるかもだけど、それでも進路に影響は出ない。どの大学にだって行けるはずだ。

 どんな目的や理由があっても、キミは自分の意志で怪盗団を追い続けるつもりなのか? 怪盗団の正義に興味を抱いて、接触を試みるつもりなのかい? その対価がとんでもないレベルであっても構わないって言える?

 新島さん、約束してくれ。怪盗団を追いかけ続けるなら、どんな理不尽にも屈することなく反逆してほしい。どんな運命が立ちはだかろうが、フルスロットルでぶち壊してほしい。そうやって、キミが信じる正義の味方の道を切り開いてほしい。

 

 それを成せるなら、成したいと願うなら――新島さんは“いい子”の肩書を失い、超弩級の厄介事に巻き込まれることになる。それこそ、世界の危機に挑む羽目になるかもしれない。代わりに、今キミが欲しくて堪らない()()()のものが手に入る。キミが望む答えを手にするためのチャレンジが始まるだろう。手に入れられるか否かは、それこそキミの努力次第。

 

 どうする、新島さん。このまま日常に帰ってずっと我慢し続けるの? それとも、今まで築き上げた多くのモノを捨ててでも非日常に足を踏み入れるの?

 キミには自由を選ぶ権利がある。踏み出す自由、留まる自由、真実を知る自由、何も知らぬままでいる自由、反逆する自由、反逆しない自由。

 

 抽象的でよく分からない? そんなに真面目に考えなくてもいいよ。真面目に考えていると頭が爆発する系の理不尽とか沢山あるし、多分、キミがこれから巻き込まれるのもそういう系の理不尽だから。神様が人間に与える試練とか、本当に訳分からないから。そいつが友好的であろうが敵対的であろうがね。

 俺、神様嫌いなんだよ。「試練を与える」だの「おもしろそうだったから」って理由で人の人生滅茶苦茶にして、そうした損害に関しては全然ノータッチだ。むしろ「選んでやったんだから光栄に思え」ってふんぞり返るんだぜ? そんな神様要らないから。こっちの方から願い下げだっつの。

 因みに、顕現していれば神様は殴れる。殴れるんだったら物理的に倒すことだってできる。実際やったことあるから分かる。……何言ってるんだコイツって顔してるね。キミの選択次第では永遠に意味が分からないかもしれないし、意味を知って頭を抱える羽目になるかもしれない。それもまた選択だ。

 

 ……俺も、もう少し自由だったらなあ。力も試練も永遠も要らないから、ただの人間になりたかったな。

 波乱万丈な人生じゃなくて、大切な仲間や家族と穏やかな人生を生きて、静かに死んでいくような人間に。

 

 でも、もう戻れないし戻る気もない。知ってしまったから。知る自由と立ち向かう自由を選んだから、もう知らんぷりはできないんだ。したくないんだ。

 

 

 ……知る自由、立ち向かう自由、反逆する自由、正義を貫く自由。新島さんが選ぶ自由は、それがいいの? それでいいの? ――いいんだね。なら、俺はもう何も言わないよ。こんな『クズ』のお節介、喧しかったでしょ。ごめん。

 え? 久々にスッキリできた気がする? そりゃあよかった。っと、着いたね。ここで大丈夫? ……そっか、分かった。それじゃあ頑張って、新島さん。あと、冴さんによろしく言っといて。「ウチの吾郎がいつもお世話になってます」って。じゃあ、おやすみなさい!

 

 

 

 

 

 ――ああ、俺は、あと何回、夜を超えることができるだろう。朝を迎えることができるんだろう。

 

 俺の旅路は、いずれ終わる。

 そのとき、俺は、答えを出すのだ。

 

 

『キミは、何のために生きている?』

 

 

 なあ、神取。俺の答えは、あの頃と何も変わっちゃいないよ。

 俺の生きる意味は――()()()()()は、きっと()()()()()()()()()

 

 

◇◇◇

 

 

 祐介は寮へ戻ることにしたそうだ。奴は帰る前にルブランへ立ち寄り、『サユリ』を飾っていったらしい。

 

 班目を『改心』させた怪盗団は、次のターゲットを探して情報収集を行いつつ、メメントスの攻略や学生生活を送っていた。僕の場合、そこにメディア出演や密偵業が付随される。いくら本業のためにセーブしているとは言えど、大衆操作およびメディア露出は大変ハードスケジュールであった。

 獅童の懐刀である智明は僕以上に多忙で、SNSや電話でしか接することができない。テレビ画面に顔を出すあいつを見ることが増えた。同時に、俺が大人しくしている間にも、『廃人化』による精神暴走はずっと続いていた。早く獅童を止めなくてはと思えば思う程、何もできない自分が嫌になる。役に立てない自分が嫌になるのだ。

 あと、智明から『有栖川黎に貼り付け』という指示が出た。“怪盗団を炙り出す”という名目だが、ピンポイントで黎を指名するあたり勘も鋭いらしい。社会見学で顔を合わせ、言葉を交わしたと言えども一瞬だけなのに。……本当に油断ならない相手だ。慎重にならなければ。

 

 

吾郎:黒幕がキミに目を付けた。暫く『キミを見張る』という名目で接触するからよろしく。

 

黎:了解。不謹慎だけど、吾郎と一緒にいられるのは凄く嬉しい。

 

 

『ん゛ん゛ん゛ッ』

 

『どうした吾郎。いかがわしいDVDでも見てたのか?』

 

『違うから』

 

 

 ベッドの上でのたうち回っていたら、航さんがノックなしで扉を開け、俺の部屋を覗き込んできた。俺は即座に否定する。

 航さんは首を傾げながら扉を閉じた。……彼の“ノックはしないが聞き耳は立てる”癖はどうにかならないのだろうか。

 ここは自宅であって、異界化した聖エルミン学園高校でもなければ異界化した御影町でもないというのにだ。

 

 さて、智明からの指示を受けた僕は、大手を振って黎と接する時間を確保することができるようになった。まずは駅で顔を合わせ、ルブランにも顔を出し、放課後や夜にも顔を合わせる。その時間は僕にとって癒しの時間であり、相手側の情報を流すための作戦会議でもあった。

 奴が狙いそうな相手を予めピックアップしたり、怪盗団側に関する情報をどれ程黒幕に提供するか協議したり、黒幕に提供した情報と黒幕から提供された情報をすり合わせて対策を練ったりした。

 

 智明には“怪盗団関係者に接触成功。密偵として張り付く”とだけ報告しておいた。奴は了承の返事をした後、“できることならそいつを篭絡しろ”と指示を寄越す。電話を切った後、俺は1人で震えた。爆笑を堪えるので。

 

 

吾郎:黒幕がキミを篭絡しろと指示を出してきた。

 

黎:馬鹿だなあ。私はもうとっくに、吾郎に篭絡されてるのに。

 

吾郎:馬鹿だよね。僕だってもう黎に篭絡されてるのに。

 

黎:それでも、吾郎は黒幕について何も語ってくれないよね。

 

 

吾郎:ごめんね、黎。でも、もう少しだから。

 

黎:分かってるよ。信じてるから。

 

 

 黎はそう言うだけで、特に追及はしなかった。僕が自分の口から告げるのを待ってくれるらしい。その優しさが嬉しくて、けれど苦しかった。

 覚悟を決めなくてはと思うのに、『情報が集まらない』と誤魔化してばかりだ。そんな僕に愛想をつかしてもいいはずなのに、仲間たちは見捨てないでいてくれる。

 

 ……新島さんは、そういう相手はいなかったのだろうか。いい子じゃなくても、成果を出せなくても、何も言えなくて沈黙していても、大丈夫だと笑って受け入れてくれる人はいなかったのだろうか。見捨てないでいてくれる人はいなかったのだろうか――僕がそんなことを考えつつ、仕事を終えて怪盗団に合流したその日。

 

 

「――さて、これはどういうことなのか聞かせてくれない? “怪盗団のライバル、正義の名探偵”明智吾郎くん」

 

 

 鬼の首取ったりと言わんばかりの形相で仁王立ちする新島さんが、怪盗団の前に現れた。

 ……どうしてこうなった。本当に。

 

 




魔改造明智の密偵ライフは順風満帆(?)に進んでいる模様。それから、魔改造明智と保護者の至は思い悩む真を放っておけなかったようで、ちょこっと話をしたようです。但し、翌日に怪盗団の証拠を掴まれ逆に脅されてしまいました。なんでこうなった。――そんな感じで、金城パレス編がスタートです。
原作よりも規模が大きい金城の被害。東京だけでなく、各年代のペルソナ使いが通っていた学校も被害に合いました。但し、ペルソナ使いOBOG一同によって各支部は鎮圧されております。……捕まった犯人一同はどんな地獄を見たんでしょうねー(白目)
誰も知らないところで、保護者にも何やら怪しいフラグが点灯中。よろしければ、魔改造明智の旅路だけでなく、保護者の旅路にも注目して頂ければ幸いですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。