超速い慇懃無礼な従者   作:技巧ナイフ。

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第40話 大好きな彼女

 男子生徒を拘束してる間、信一は何もできない。

 そう察した他の生徒達は、もしもの警戒要員として2人残し、他はリィエルだけを狙い出していた。

 

「このっ!」

 

「当たれ! 当たれっての!」

 

「……シンイチ。ずっとこのまま?」

 

「うん。そのままでお願い」

 

 激しく動き回り、長く青い髪が尾を引く中、リィエルに呪文が当たる気配は一切無い。グレンの作戦通りだ。

 しかし、この状況は恐らく既にレオスへと伝わっている。ならば、そろそろ丘を陣取る為に援軍か、もしくはこの部隊が撤退することも視野に入れなければならない。

 

(というと…揺さぶりが必要かな?)

 

 自分達の役目は丘を陣取りに来た部隊の足止め。ここでこの生徒達を退かせ、別の場所に援軍に行かせてはまずい。

 そう考えた信一は、拘束してる男子生徒へ提案する。

 

「ねぇ、君達の中で通信の魔導器を与えられてるのって誰?」

 

「あ? そんな事聞いてどうするんだよ」

 

「いや、そっちの指揮官とお話したくてさ。別に敵の指揮官としゃべる事はルール違反じゃないでしょ?」

 

「それをして、俺達になんのメリットがあるってんだ」

 

「う〜ん……じゃあ話が終わるまで待ってくれたら———丘を渡してあげる。それならいい?」

 

「っ⁉︎……嘘じゃねぇだろうな?」

 

「もちろん」

 

 一瞬悩む間を空けて、男子生徒は必死にリィエルを攻撃している1人に声を掛けた。

 

「おい、リト! こいつにレオス先生と繋がってる通信の魔導器を貸してやってくれ!」

 

「はぁ⁉︎なんで?」

 

「話終わったら、この丘を渡してくれるってよ」

 

「……本当なのか?」

 

「うん。本当だよー!」

 

 リトと呼ばれた男子生徒の声に、信一は大声で答える。拘束されてる男子生徒がうるさそうに顔を顰めてくるが、構うものか。

 リトも、このままリィエルを狙い続けても埒が明かないことは目に見えていた。ならば、ここは信一の交渉に乗るのもアリかと判断してしまう。

 

「わかった。ただし、変な素振りを見せたらすぐに呪文を撃ち込むからな?」

 

「どうぞご自由に」

 

 にこやかに答えると、少し迷いながらもリトが通信の魔導器を渡してくれた。信一は男子生徒の拘束は解かず、彼の肩に魔導器を乗せて起動。

 数秒の間を置いて、レオスの声が返ってくる。

 

『どうしましたか、リトくん。丘の制圧は完了しましたか?』

 

「こんにちは、レオス様。こちらの声、聞こえますね?」

 

『その声…まさか信一くんですか⁉︎何故君がその魔導器を持っているのです?』

 

「まぁ、ちょっとした交渉です。少し俺とお喋りしてくれませんか?」

 

『何をふざけたことを…コホン。いいですか、信一くん。今は演習中です。いくら私達が知己の間柄でも、時と場合を考えるべきですよ』

 

 一瞬怒りを滲ませながらも、優しい口調でレオスが諭してくる。そんな予想通りの返しに、信一はニヤリと笑う。

 

(———かかった)

 

 そう。レオスにとって、信一はシスティーナに1番近い存在だ。下手に嫌われるような行動は極力避けたいはず。少なくとも、システィーナとの婚約を望む今の彼に、信一の存在は無視できない程の影響力がある。

 ———今はそこを突く。

 

「申し訳ありません。ですが、どうしてもレオス様に提案したい事がありまして」

 

『提案……ですか?』

 

「はい。聞き入れてもらえますか?」

 

『内容を聞かないまま承諾はできません。どのようなものでしょう?』

 

「簡単なものですよ。この演習、もしもレオス様が勝利しても———システィーナお嬢様を花嫁にするのは無しにしていただきたいのです」

 

 信一の言葉に、魔導器の向こう側でレオスが息を呑む気配を悟る。あまりにも馬鹿げていると思ったのだろう。

 だが、信一は察しの悪い愚か者の演技を続ける。

 

「もし聞き入れてもらえるなら、この丘を無条件でそちらにお渡ししましょう。なんなら、丘を守っている二組の俺達を『戦死』扱いにしても構いませ……」

 

『何を馬鹿な!』

 

 普段の彼からは想像できない程の荒々しい声が信一の言葉を遮る。

 

『信一くん、いくら君でも冗談が過ぎます! 「丘を渡すからシスティーナとの婚約は無しにしろ」ですって? そんなあべこべな提案を聞き入れるわけがないでしょう!』

 

「…………」

 

『私はなんとしても彼女と婚約を果たし、幸せな家庭を築きます。絶対に!』

 

 ふと、信一はどこか違和感を覚える。なんだこの執念は。まるで、システィーナと婚約することが目的のようだ。

 いや、正確には『婚約()()』と言うべきか。

 言い分だけを聞けば、レオスはシスティーナを心から愛し、誰にも渡したくないというものだろう。しかし、いつも温和だったレオスからは想像もできない激昂に、拭いきれない違和感が鎌首をもたげている。

 

『何故わかってくれないのです! 何故君は……君も、あんなロクでもない最低な(グレン)の味方をするのですか⁉︎』

 

「……。俺はグレン先生の味方なんてしていませんよ」

 

『同じ事です! 私の邪魔をするという事は、グレン先生の味方をする事でしょう!』

 

 おかしい。一見、レオスの言葉は筋が通っている。

 確かに信一は現状、システィーナとレオスを婚約させないという意味ではグレンの味方とも言えるだろう。

 だが、レオスの言葉の端々から聞いて取れる感情的な部分には、どこか致命的な破綻が感じられる。

 表現することが絶妙に難しい。それでも敢えて表現するならば、『らしくない』と言うべきか。

 

「では、交渉決裂ということですね」

 

『当然です。あまりに馬鹿馬鹿しい提案でした』

 

「そうですね。確かに言われてみればそうです。大変な無礼を働き、申し訳ございません」

 

『……いえ。私も感情的になって怒鳴ってしまったことを謝罪します』

 

 冷静な声色。まるで先程までの激情が嘘のようだ。しかし、ヒステリックと呼ぶには明らかに婚約への執着が度を過ぎていた。

 ……とはいえ、信一の目的は果たした。どちらかと言えば、信一は交渉の内容は『叶うなら』程度のものでしかなかった。

 本来の目的は交渉すること———最初に言った()()()だ。レオスと自分が交渉している間、敵軍は指揮官へと指示を仰いでも返ってくることがない。ごく短時間ではあったが、それもグレンならば有効に活用してくれただろう。

 信一は通信の魔導器をリトに投げ返し、拘束していた男子生徒を解放する。

 

「へへっ。もしかしたら約束を破るんじゃないかと思ったぜ」

 

「そんな事はしないよ。俺さ、嘘は嫌いなんだ」

 

「はっ! よく言うぜ」

 

 拘束していた男子生徒は首を回し、肩をほぐしてから左手を信一に向けてくる。それなりに長い時間拘束したので、その仕返しに自分を打つつもりなのだろう。その様子に、仕方がないと肩をすくめる。

 

「あ、でも1つだけ言い残していいかな?」

 

「なんだよ」

 

「リィエル、作戦続行! 適度に攻性呪文(アサルト・スペル)を撃ちながらここで時間を稼ぎ続けて!」

 

「ん、了解」

 

「この野郎ッ⁉︎」

 

 あまりにも鮮やかな掌返しに、男子生徒が目を剥いた。

 確かに信一は嘘が嫌いだ。でも、先ほど自分は宣言している。『誇りとか矜恃とかプライドとか、そんなものは捨てている』と。

 だからこそ、そんな嫌いという感情も捨て去ることができる。

 

「《雷精の紫電よ》!』

 

 そうしてこの演習中本当にやる事が無くなった信一はしたり顔を浮かべ、男子生徒の【ショック・ボルト】を受けて『戦死』となった。

 

 

 

 結果から言ってしまえば、最終的に演習は泥仕合と化し、両陣営の戦力損耗率が80%を超えたことで引き分けに終わった。

 そして、参加生徒一同は湖のほとりに再び集う。そこでは、最後まで生き残った二組の仲間達が待っていた。その中にはカッシュやギイブル、リィエル、当然ながらシスティーナとルミアもいる。

 リィエルと何やらおしゃべりしていたルミアが、こちらに気付いて天使の微笑みと共に手を振ってくれていた。

 

「お疲れ様です、ルミアさん。お怪我はありませんか?」

 

「お疲れ様。システィが守ってくれたから大丈夫だよ。シンくんこそ、『戦死』しちゃったみたいだけど……」

 

「あはは…面目ない。なんとか頑張ったんですけどね。【ショック・ボルト】には慣れているので、脱落した後に休んだらすぐに回復しましたよ」

 

「そっか。それなら良かった」

 

 心からの安堵を浮かべた彼女の笑顔に、心が洗われる信一であった。

 そのまま、ルミアと共に戦っていたシスティーナに視線を移す。彼女は不機嫌丸出しで腕を組み、そっぽを向いていた。

 その雰囲気に話しかけるのも憚られ、信一はルミアの耳元に口を寄せる。

 

「……お嬢様は何かあったんですか? なんというか…話しかけるなオーラが凄まじいのですが」

 

「……グレン先生がね、あまりにも卑怯な手を使うから、それでご機嫌斜めみたい。しかもほら、逆玉の輿を連呼するから」

 

「なるほど」

 

 確かに年頃の少女としては、自分ではなく家柄が目当てであると大っぴらに言われるのは屈辱だろう。しかも、システィーナ自身が自分のグレンに対する想いを自覚できていないのだ。

 周囲から見れば憧れる展開でも、当人にとってはたまったものではない。

 信一がどうフォローしようかと頭を悩ませ始めたその時、怒声によってその思考は中断された。

 

「貴方達ッ! なんなんですかその体たらくはッ!」

 

 レオスだ。彼が自分の陣営を激しく叱りつけている。

 

「あの無様な戦いはなんですか⁉︎貴方達が、もっと私の指示にきちんと従い、作戦行動を遂行していれば———」

 

「で、ですが、途中でレオス先生からの指示がなくなって……」

 

「黙りなさい!」

 

 レオスの剣幕に、生徒達はしゅんと可哀想なくらい萎縮している。

 よく見ると、リトと拘束していた男子生徒が信一を睨みつけていた。まぁ、アレは作戦だったので罪悪感など微塵も感じないのだが。

 とはいえ、今までの超然とした雰囲気のレオスしか見ていなかった生徒は、失望の色を称えた目を彼に向けていた。ボソボソとレオスへの評価を改める声が上がる。

 そして、ひとしきり自分達の生徒を怒鳴りつけ終わったレオスはずかずかとこちらへやって来た。

 

「おい、筋が違うんじゃねーか? 兵隊の失態は指揮官の責だろ?」

 

「うるさい。貴方ごときが私に意見するなッ!」

 

「それに、アンタ…よく見れば随分と顔色が悪いな? ……風邪か? さっさと帰って寝たほうがいいんじゃね?」

 

 確かにグレンの指摘通り、レオスの顔は病気を疑うレベルの土気色となっていたが、それでも眉を吊り上げて、

 

「誰のせいだと思っているんですか⁉︎そんなことはどうでもいいんです! それよりも、勝負はまだついていませんよ!」

 

 グレンへと食らいついていく。

 

「いや…勝負がついてねぇって、……もう引き分けたろ? これはお互い、白猫から身を引くってことでいいんじゃねーか? ほら、白猫もまだ結婚する気はねーみてーだし……」

 

 もうこの話は終わり。そう伝えようする彼の胸に、レオスは手袋を叩きつけた。

 

「再戦ですッ! 今度は、私が貴方に決闘を申し込む! 引き分けなんてあり得ない……システィーナに魔導考古学を諦めさせ、必ず私の妻とするんです!」

 

「……オーケー、いいぜ。なんだかんだ逆玉は魅力的だしな。なら、今度の決闘は……」

 

「レオス! 先生! もうやめてッ! いい加減にしてよッ!」

 

 再戦を受けようとするグレンの言葉を遮って、システィーナが声を上げた。

 

「黙ってれば、2人で勝手に盛り上がって、人を物みたいに扱って———」

 

「すみません、システィーナ。その件については心から謝ります。ですが……」

 

「……色々言いたいことはあるけど、レオスはまだいいわ。一応、レオスなりに私のことを考えてのことだし……。でも、先生は一体なんなんですか! 逆玉の輿、逆玉の輿って言って、あんな卑怯な戦い方までして……それでもし先生が勝っても、先生の求婚を私が受けると本気で思う⁉︎」

 

「…………」

 

 ついに爆発したシスティーナの激情から溢れる慟哭に、しかしグレンは無言の半目を向けるだけ。そしてついには無視して———

 

「……今度は一対一で勝負だ、レオス。日時は明日の放課後、場所は学院の中庭。ルールは致死性の魔術は禁止で、それ以外の全手段を解禁。これで、決着をつける。———へっ、これで一生遊んで暮らせるぜ!」

 

 レオスの手袋を拾い上げ、投げ返してそう言った。

 瞬間———ぱぁん! 甲高い音が周囲に響き渡る。システィーナの平手打ちがグレンの頬を鳴らしたのだ。

 

「———嫌いよ、貴方なんか」

 

 冷たくそれだけ言い残し、彼女は帰還用の駅馬車へと走り去ってしまう。

 

「システィ⁉︎ちょっと待って!」

 

「システィーナ、すごく怒ってる……なんで?」

 

 ルミアとリィエルも、システィーナの後を追って駅馬車へと向かっていった。

 そんな少女達を見送ったレオスがグレンへと嘲笑を向け、自分の担当クラスへと歩き去っていく。

 なんとも気まずい雰囲気だけが、残された二組の生徒達へと蔓延していた。それを払拭するように、努めて明るい声でグレンは声をかける。

 

「さ、本日の魔導戦術演習はこれにて終了! お疲れさん! 撤収だ、お前ら」

 

 お疲れさんお疲れさんと、生徒達の肩を叩いて駅馬車へ促すグレン。後味の悪い表情を浮かべながら駅馬車へとぞろぞろ生徒達は向かっていく。

 

「お疲れさん、信一」

 

 敢えて最後尾になった信一にも、みんなと同じように肩を叩いて送り出すグレンへ、足を止めて向き直る。

 正直なところ、ぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいだ。それでも、グッと堪えて一言だけ絞り出した。

 

「いくらなんでもやり過ぎでは?」

 

「……なんの事だ?」

 

 あくまで惚けるグレン。

 信一も、さすがにグレンの言動には我慢の限界であった。会ったばかりならば、それこそ殺していただろう。

 それでも堪えていられるのは、彼がただの悪意だけで生徒を傷付けるような人間ではないという信頼があるからだ。学院に赴任したばかりの、非常勤だった頃とは違う。彼が不器用ながら、それでも自分達の教師であろうと、生徒を命懸けで守ろうとするお人好しだと知っているからだ。

 しかしそれでも、先程の発言は許容できる範囲を超えている。

 

「先生がお嬢様をただ悲しませる為だけに、ああいった事を言っているとは思っていません。ですが、それでも言い方というものがあるのではないですか?」

 

「………………」

 

「先生のことは信頼しています。信用もしています。俺の家族を何度も守ってくれた事に感謝もしています。でも、お嬢様にあんな表情(かお)をさせる必要までありましたか?」

 

 ポタポタと、信一の強く握り込んだ拳からは血が垂れていた。努めて冷静に言葉を紡いでいるが、これでも必死に感情を抑えているのだ。

 

「……白猫には悪いと思ってるよ」

 

「それだけ分かっていれば十分です。以後気を付けてください」

 

 それだけ言い残し、信一も駅馬車へと向かって行く。

 

 

 

 

 コトッ、と。フィーベル家のダイニングテーブルにティーカップが載せられる。

 ソファには、信一とルミアが並んで座っていた。

 

「申し訳ありません、ルミアさん。馬車の中では助かりました」

 

「ううん。だってシンくん、システィに強く言えないでしょ?」

 

「えぇ、まぁ……。えっと…ルミアさんと差別してるわけではないんですよ?」

 

「わかってるよ。私にも強く言わないもんね」

 

 演習場から学院に帰る馬車の中で、ルミアはシスティーナを諭してくれた。

 グレンがどんな人間か。グレンがレオスへと決闘をふっかけた経緯。そして、グレンとちゃんと話してみようという提案。

 信一には、そんな事できない。もしちゃんと話し合った結果、さらにシスティーナが傷付くことになったら。そんなゼロにも等しい可能性に怯えて、ならばグレンとの縁など切ってしまえばいいと言うだろう。

 だが、ルミアは違う。時には厳しいと思える事でも、相手のことを想って言える心優しい少女だ。

 そんなルミアの言葉が効いたらしく、今頃システィーナはグレンと話し合っていることだろう。

 

「あの場では言いませんでしたが、先生もお嬢様には悪い事をした自覚があったようです。きっと話し合いも上手くいくでしょう」

 

「あれ? どうして言わなかったの?」

 

「………………」

 

「どうしてなのかな〜? シンくん?」

 

 無言で目を逸らすと、ルミアが楽しそうに顔を寄せ、頬をツンツンと突いてくる。

 恐らく、自分の感情もお見通しなのだろう。

 

「……分かっているのに聞くんですか?」

 

「言わないと分からないよ〜」

 

「むぅ……」

 

 言葉を詰まらせる信一の頬を、さらにムニっと摘むルミア。見なくても分かる。彼女は小悪魔的な笑みを浮かべているに違いない。

 

「……お嬢様を取られるかもしれないって、そう思ってしまう自分がいます」

 

「ほっぺ赤くなってるよ」

 

「ルミアさんが摘むからです」

 

 絶対違うと分かっているが、わざわざその理由まで聞くほどルミアも鬼ではない。

 クスクスと笑い、距離を取ろうとソファの上をスライドした信一へ肩がくっつくほど詰め寄る。

 

「シンくんってさ、そういうところ本当に可愛いよね」

 

「いつも可愛いルミアさんに言われたくないです」

 

「ありがと♪」

 

 このままからかい倒される未来しか見えない信一であった。

 だって仕方ないではないか。5年前、母親を殺し、妹を昏睡状態に追い込んで自暴自棄になっていた自分を引っ張ってくれたのがシスティーナなのだ。あの時自分の手を引いてくれたシスティーナの後ろ姿は、今なお色褪せることがない。いや、恐らく一生色褪せるなんてことはありえない。

 そんな信一にとって、人生の指針のような彼女が誰かの下へと行ってしまう。それを想像するだけで、枕が川に投げ込んだようにびしょ濡れになる自信がある。なんならこれまでに何度かなった。

 

「本当に大好きなんだね」

 

「そうですね。めちゃくちゃ大好きです。お嬢様には内緒ですよ?」

 

「たぶんもうバレてるよ」

 

「バレてるなら仕方ないですね。お嬢様にも俺を大好きになってもらいましょう」

 

 もはやからかい倒される未来しか見えないので、もう雑にまとめることにした。今更、こんな分かり切ったことを議論する必要はない。

 信一は自分のお茶を飲み干し、ソファから立ち上がる。

 

「さっ! お嬢様が帰ってくる前に夕食の支度を済ませてしまいますね。今日はルミアさんの好物を作りますよ」  

 

「やった! 私も手伝うよ」

 

「味見をお願いします」

 

 間髪入れずに言い放たれ、ルミアは頬をぷくっと膨らます。しかしそれも一瞬。楽しそうに信一の後ろへ続き、2人はキッチンに向かうのであった。

 

 

 

 そして———帰宅したシスティーナはレオス=クライトスと結婚することを宣言した。

 悲嘆と恐怖を笑顔の下に忍ばせて。







はい、いかがでしたか?少し駆け足気味になってしまいましたね。
ヒロインよりルミアちゃんとの会話が多かった。
わりと今回は信一のグレンに対する信頼が感じ取れる話だったと思います。もしグレン以外が同じ事をしていたら、ぶっ殺ぶっ殺♪

次回は信一がフィーベル家に来てすぐのお話です。お楽しみに。

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