リィエルちゃんのキャラソン、雰囲気が最高!(乏しい語彙)
未来スケッチ、良い曲なのでぜひ聴いてみてください!!
まだ薄暗い、朝靄の漂う早朝。二年次生二組の生徒は学院の中庭に集合していた。
「なぁ……俺、この遠征学修中にウェンディ様へ告白するんだ……」
「やめとけよ、アルフ」
「テンション上がってきたーッ!」
若さ故のテンションで、早朝にも関わらず皆元気いっぱいだ。
そんなクラスメイトの様子を尻目に、信一はグレンに呼び出された場所へ向かう。ちょうど校舎の影になってクラスメイトからは見えない場所。そこに着くと眠そうに目を擦るグレンともう1人。一応信一も知り合いである女性が待っていた。
「おはようございます、グレン先生。それと———アルフォネア教授」
「ふぁ……ん、おはようさん」
「やっぱりアルフォネア教授でしたか」
ニコニコと笑う信一にセリカは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
数ヶ月前に起きた天の智慧研究会によるテロ事件で、信一はセリカに一方的な要求を飲ませた。そのせいか、あまり彼女は信一に良い感情を持っていないのだ。
「家事全般ができて武力もあり、さらに信用も信頼もできる女。おまけに遠征学修中ずっと留守番できる暇な奴といったらコイツだしな」
「助かります、先生」
『大陸屈指の魔術師』、『灰燼の魔女』などの異名を持つセリカなら信一も安心して妹を任せられる。たぶん世界最強のお留守番だろう。
「グレンから事情は聞いてる。資格を持っているわけではないが、整体師の真似事くらいなら私もできるぞ」
「なら話が早いですね。リビングに屋敷についてまとめておいた紙を置いといたので、詳しいことはそちらで確認してください。これ、フィーベル邸の鍵です」
予備の鍵をセリカに渡し、できるだけ好印象な笑顔を向けるが、彼女は胡散臭い物を見るような目をするだけ。それだけの事をしたという自覚はあるし、それを気にしても得られるものなど無いので特に気にしない。
「それではお願いします。くれぐれも屋敷を汚したり壊したり灰燼にしたりしないよう気を付けてください」
「フンッ」
セリカは鼻を鳴らしてそのまま回れ右。学院内へと戻っていった。
「お前ら……仲良くしろよな」
「俺はそのつもりなんですけど、どうにもアルフォネア教授が俺のこと嫌いみたいですしね〜」
だが、学院内で生徒の安全が保証されるのは当たり前のことだ。そしてその安全を自分の家族に優先しろと言えるだけの事件が実際に起きた。なら従者として信一が最大限の安全を確保するのは当然の帰結である。そこにセリカの意思など関係ない。
とはいえ、自分の師匠と生徒の仲が悪いのはグレンの精神衛生上よろしくないみたいだ。それもあまり知ったことではないが。
「さ、出発しましょう。あんまり遅いとまたお嬢様がブチギレますよ」
「はいはい」
影から出て中庭に着くと、案の定システィーナは腰に手を当てて説教くさいことを言いだしてきたが、手慣れた様子でグレンは受け流す。
その姿をいつも通り楽しげに見守るルミアが口を耳に寄せてくる。
「シンくん、何か先生と話してたの?」
「はい。俺たちが遠征学修行ってる間、アルフォネア教授がフィーベル邸の留守番をしてくれることになりました。妹のこともあるので」
「なるほど。でも、アルフォネア教授がお留守番してくれるなら安心だね」
「えぇ、まぁ……」
「あれ?そうでもないの?」
八の字眉を作って苦笑いする信一にルミアは首を傾げている。
「いえ……1つ聞き忘れたことがありまして」
「何か大切なことなの?」
コクリと頷き、かなり深刻な表情を浮かべる信一。
「アルフォネア教授って……同性愛者じゃないのかと」
「……………………」
ルミアの顔が固まった。シリアスな顔で何言ってんだ、と言外に訴えられてる感じがする。
「まぁ歳を取ると性欲も枯れると言いますし、仮に同性愛者だとしても大丈夫でしょう」
「それ絶対に教授に言っちゃダメだよ!特に前半!」
女性に年齢についての発言はタブーなのだ。それがセリカに対してなら、冗談抜きで灰燼に
「ふぁ……」
実はルミアの隣にいたリィエルが眠そうにあくびを溢した。
かくして二年次生二組の生徒達は各々遠征学修への期待を胸に抱き、学院の外に停めてある馬車へと乗り込んでいく。
フェジテの南西、港町シーホークで行き交う人々の中を2人の男が歩いている。
1人は藍色がかった黒髪を後ろでまとめ、目元には色付き眼鏡、シルクハットを被りステッキを握るどう見ても軽い感じの青年。
もう1人は黒いポロシャツにジーンズのズボンという、かなりラフな格好をした落ち着いた雰囲気の男性。手にはステッキより長い
2人の年齢差は歳の離れた兄弟、もしくは親子といった程度だが、一目でそうではない事が分かる。ラフな格好の男性は顔立ちが平坦だからだ。そもそも人種が違う。
「おぉ!やっぱり港町だけあって魚料理の屋台がたくさんあるな」
「はしゃぐな」
「でもそろそろ昼時だろ?実際
男性の視線の先には魔術学院の制服に身を包んだ少年少女達。何人かの仲良しグループに分かれて昼食をどこで摂るか雑談を交わしながら歩いている。
その中には2人の護衛対象であるルミアと男性の息子である信一、さらに2人と共に暮らすシスティーナや形だけの護衛として付いている同僚のリィエルもいる。
「リィエルのことを警告しに行くんだろ———アル」
「あぁ。万が一ということは充分に考えられるからな」
「2年も経って、何度も背中を預けたのにまだ信用できないのか?」
「無論だ」
にべもなく青年———アルベルトは色付き眼鏡の奥から鷹のような眼光でリィエルを睨みながら言った。
それに男性———零はため息を吐き、呆れたように背中を向ける。
「まぁいいや。警戒するのは構わないけど、バレるなよ」
「わかっている」
今ここにアルベルトと零いるのは、ルミアを護衛する為だ。
学院に編入までしたリィエルは囮。実際は影からアルベルトと零の2人がかりでルミアを警護し、彼女を狙ってくる
(ま、俺の場合はアリスが気を利かせてくれたのかもな)
元王女とはいえ、今のルミアはただの国民。そんな彼女に帝国宮廷魔導士団が合計3人がかりで護衛するなど、破格に過ぎる。
零に関して言えば、アリシア女王がルミアと一緒に暮らす息子の側にいられるようにと配慮してくれたこともあるのだろう。
「お、美味い。やっぱり魚は塩焼きに限るな」
アルベルトの分は包んでもらい、さっそく屋台で買った自分の分に食らいつく。串で刺して焼かれた魚は、シンプルに塩だけで味付けされたとあって魚の旨味がよく出ている。子どもの頃は苦手だった内臓の苦味も今では味を引き立てるスパイスとして楽しめる。
「また、アイツの料理が食いたいよ」
今は亡き妻の味には程遠いが、魚を口にするとどうしても思い出してしまう。仕事の都合上、家族揃って食事をした回数は両手の指で足りてしまうくらい少ない。自分は良き父親であり、良き夫であれただろうか。
「……もう一本買おう」
感傷的になった時は好きなものを食べる。大人として年下の同僚に教えてきたことだ。
自分もそれを実践し、今やるべきこと———仕事に集中しようと決めた。
シーホークから船に揺られて数時間。優しい潮風が歓迎するように二組の生徒を撫でる。
時刻は黄昏時で、水平線に沈む太陽が海を黄金色に染めていた。
「とても綺麗ですね」
「そうね。フェジテじゃこんな景色は見られないもの」
タラップを降りながら信一とシスティーナは雄大な自然の芸術に感慨深いものを感じている。
故郷の港町は海が東側にあったので、日の出は見れても日の入りは見られなかった。同じ海と太陽のコントラストでも方角が変わるだけでここまで違うのかと驚きが隠せない。
と、その時だ。
「先生、しっかり……」
「あぁー……うぅー……」
ルミアとリィエルに両脇を支えられたグレンが後ろからタラップを降りてきた。
顔は真っ青で、今にもさきほど食べた昼食を雄大な自然の芸術にブチまけてしまいそうだ。
「「 ハァ…… 」」
相変わらず感動を壊すのが得意なグレンに主従は揃ってため息を吐く。
それも束の間、リィエルはともかくルミアに苦労をさせるのは嫌なので刀が入った布袋をグレンの襟首に引っ掛けてそのまま担ぐ。痩躯ではあるが、拳闘をやるせいか意外と重い。
「船がダメなら酔い止めくらい飲んでくださいよ」
「俺は薬が効きにくいんだ……うぷっ」
たぶん帝国軍時代に耐毒訓練でもあったのだろう。死なない為の訓練がまさかの逆効果だ。
布袋の先で洗濯物のようにブラブラしているグレンへとルミアが問いかける。
「でも、そんなに船が辛いならなんで
「あ?決まってんだろ、んなもん」
実は二組の行き先のアンケートを取った結果、軍事魔導研究所と白金魔導研究所で見事半々に分かれてしまったのだ。最後の1票であるグレンが白金魔導研究所に入れここに来ることが決まった。
その1票を入れた理由を、グレンは無駄にキリッとしたキメ顔で言い放つ。
「美少女の水着はあらゆるものに優先するのさ」
「せ、先生……!!」
「アンタ
「一生着いて行くぜ!!」
そんなグレンの言葉に後ろの男子達は感涙にむせび、尊敬の眼差しを向けていた。グレンが来てから男子のノリがおかしくなり始めたというのはシスティーナの言。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと旅籠に行きますよ!」
沸く男連中に冷ややかな目を向けつつ、システィーナはずんずん先へ行ってしまった。
担いでいるグレンとルミアが話しているのでそれに続くことができず、離されていく信一達。しかし、それを見計らったようにルミアの嬉しそうな声が後ろから聞こえてきた。
「ありがとうございますね、先生。軍事魔導研究所ではなくここを選んだのは、私達を軍の魔術に関わらせたくなかったからなんでしょう?」
「……何の事だー?俺はただ美少女の水着姿を拝みたかっただけだし」
ルミアから顔を晒してそう言ったのが、聞こえてる音の方向が変わったことから信一にも理解できた。たぶん今言ったことも本心だが、ルミアの言ったこともまた彼の心にあった本音なのだろう。
「男のツンデレに需要はありませんよ」
ここはグレンの気持ちを汲み、茶化すように言ってやる。
「べ、別にお前らの為じゃないんだからね!」
「キモいなぁ〜」
信一の意図を理解して照れ隠しにおどけるグレン。彼らの姿を眺めるルミアの顔に全てお見通しと言いたげな優しい笑みが浮かべられていた。
「それでは作戦を開始する」
物々しく重たい雰囲気で告げられたカッシュの一言に、二組の男子計8人は静かに頷く。
時刻は就寝時間。本来なら床に就き明日へと備えて寝る時間なのだが、遠征学修は天候の影響で旅程が狂うことを考慮して余分に時間を確保してある。二組は特に滞り無くサイネリア島まで来れたので、明日は実質自由時間なのだ。
それを良いことにここにいる男子生徒は今夜女子部屋にお忍びで遊びに行くという、なんとも思春期の男の子らしいことを決行しようとしている。
「でも意外だったな。まさか信一も来るなんて」
「そうだな。てっきり止める側だと思ってたよ」
「そのわりには話持ちかけてきたよね?」
そして、そのお忍び部隊にはフィーベル家の従者である朝比奈信一も加わっていた。さすがに旅籠ということで刀の入った布袋は部屋に置いてあり、珍しく手ぶらの状態だ。
「こういう機会はもうないかもしれなからさ。だから楽しまないと。それに———」
にこやかに言葉を紡ぐ。
「もし女子部屋で下手なことしたら……わかるよね?」
「……どうなるんだ?」
その笑顔から放たれる威圧感に、7人の男の子達は気圧される。しかし、それでも代表して問い掛けたカッシュはとても勇気があるのだろう。
「みんなの指を一本残らず突き指させる」
「「「 怪我の度合いがリアルで逆に怖い!! 」」」
「まぁ、遊ぶだけならそんなことしないから安心してよ」
自分のクラスメイトは人が傷つくことを進んでやるような連中じゃない。それは信一が1番よく分かっているので、この脅しは単なる保険だ。もちろんその時がくれば実行するが。
「それでどうやって女子部屋まで行くの?」
自分の話はここまでと切り上げ、雰囲気的に部隊長ぽいカッシュへ聞く。
「裏手の雑木林から木を登って部屋内に侵入するんだよ。俺達が泊まる別館と女子達が泊まる本館を繋いでる回廊じゃ誰かに目撃されるリスクがあるからな。ちなみにルートや誰が誰の部屋なのかは夕食をサボった時に調査済みだ」
「い、いつの間に……」
「流石……抜かりないぜ」
尊敬の眼差しがカッシュへと集まる。
「さぁ、行くぞ!俺達の
「「「「 おうッ! 」」」」
そして8名は歩み出す。全ては一夜限り、可愛い女の子とのキャッキャうふふを目指して。
———だが、それを阻む者がいた。
「甘い……甘いぜ?お前ら。その程度の浅知恵なぞ、最初からお見通しなんだよ」
「どう…して……」
本館への道中にある、ぽっかりと円形状に開けた空間で待ち受けていた。
カッシュの調査では、この時間ここにいるはずがない。それが何故だろうか。まるで未来が見えていたかのように仁王立ちしている。
「どうしてアンタがここにいるんだ———グレン先生!!」
カッシュの手酷い裏切りを嘆く慟哭が雑木林に響く。
「そんなの簡単だろ」
その慟哭すらグレンの心に届くことはない。さも当然とばかりに一同を睥睨し、威風堂々言い放つ。
「俺がお前らだったら、絶対このルート、このタイミングで、今晩、女の子達に会いに行くからなぁ!」
「ですよね〜」
信一はゼーロスと戦った時に学んでいた。経験は全てを凌駕するということを。
グレンの経験に基づいた憶測が、まだ青い少年の浅知恵を凌駕した。この状況はただそれだけのことだ。
「ま、そういうわけで……だ。部屋に戻れ、お前ら。一応規則なんでな」
「……………………」
「心配すんな。んなコトいちいち報告なんてしねーよ。だから……」
「———それはできないぜ、先生」
カッシュが食い気味に固い意志の灯った言葉を放つ。
「……なんだと?」
「男には退けない時がある……俺達にとっては『今』がそうなんだ……」
「あぁ、そうさ。俺達は退かない。例えドラゴンが行く手を阻もうと、例え多くの人から後ろ指を差されようと……俺達は
「それすら踏破できずして、何が
「そうか……お前ら」
グレンの目が変わる。生徒を見る目から『男』を見る目へと。
「………………」
「………………」
場に渦巻く緊張感。誰かの額に浮かんだ汗が流れ、頰を滑り、顎をなぞり、そして———落ちた。
「行くぜ、皆!俺に続けッ!グレン先生をやっつけろッ!」
「ふっ……かかってこい、お前らぁ!?」
講師と生徒……否、男と男が雑木林の中でぶつかり合う。そこにあるのは意地とプライドと9割の下心だ。
と、そんな彼らをどこまでも冷やかな目で見下ろす影が旅籠本館の屋上に1つ。まだ水分の残る銀髪を月明かりに煌めかせながら頬杖をついて眼下のしょーもない茶番を眺めている。
「何かあったの?システィ」
「おバカとおバカがバカバカしい意地張ってバカみたいにじゃれ合ってる」
「あんまりバカバカ言われると悲しいですよ」
「「 うわっ!? 」」
突然手すりの外からピョンっと飛び出してきた影にシスティーナとルミアは驚愕の声を上げた。
ここは旅籠の屋上。どう考えても外側から人が飛び出してくるような場所ではない。
「し、シンくん!?」
「はい。2人とも、お風呂はもう済ませたんですね」
「あ、うん……じゃなくて!」
「ここ屋上よ!どうやって来たの!?」
「どうやって、といわれましても……普通にこう、こうです」
右手を上げて、それを下げながら今度は左手を上げる。あまり信じたくはないが、旅籠の壁をよじ登ってきたらしい。
「【迅雷】を使えば大したことはないですね」
恐ろしいレベルの無駄遣いに2人の口が塞がらない。これを普通と言っちゃうあたり、何度かやってるんじゃないかと心配になってくる。
「そ、それより!あれは何してるの?」
「ん?
「
「女子部屋です」
「あはは……」
ルミアが苦笑いを溢す。このあたりは男女で価値観が違うのだろう。なにせ男連中はマジで女子部屋を
「まぁ、それは置いといてですね。リィエル」
「…………………」
信一は小柄な体躯のせいか背伸びをして下の様子を眺めているリィエルへ声をかける。
「あれは遊んでる……って言ったらカッシュ達に失礼だけどそんな感じだから襲いかかっちゃダメだよ」
以前、グレンに突っかかるハーレイへ問答無用で斬りかかっていたことを思い出して釘を刺しておく。一応カッシュ達は本気だからなんと言っていいか困る。
「……ん、大丈夫。カッシュ達からは嫌な感じがしないから」
「そっか」
あまり自身の感情を表に出すことはないが、他人のそういった敵意には敏感なようだ。そのあたりは安心できる。
同じようなことを考えていたらしいシスティーナと共に安堵のため息を吐いた、その時だ。
「あんな楽しそうなグレン……初めて見た……」
ぽつり、雨音のような小さな呟きがリィエルの口からもれる。
「そうなの?だいたいいつもあんな感じよ?」
「昔は……もっと暗かったから」
いつも通りの無表情で未だに続く茶番を眺める彼女の瞳には何が映っているのだろうか。生憎と読み取ることはできない。
「だから、わたしがそばにいて守ろうって……」
リィエルはリィエルで昔何かあったのかもしれない。
よくよく考えてみれば分かることだ。自分達と年の近い少女が宮廷魔導士団などという命懸けの世界に身を投じてる理由が楽しいものとは考えにくい。だからグレンを守るという使命を自身に課すことで何かに手を伸ばしている。
それが彼女にプラスなのかは、事情を知らない信一には与り知らぬことだ。
「別に暗くても明るくても、守りたいなら守ればいいと思うよ。もちろん仕事に支障が出ない範囲でね」
これが何も知らない自分に言える精一杯だった。ルミアを護衛するということに支障をきたさないのならリィエルの自由にすればいい。フィーベル家の従者であり、共にルミアを守る信一にも彼女を束縛する資格はないのだから。
「……うん」
「まぁ、何かわからないことがあったら皆を頼りなよ。もう友達でしょ?」
「とも…だち……?シンイチもわたしの友達?」
「俺? う〜ん……そうだなぁ………」
どうなのだろうか。良い関係を築きたいとは思っているし、ここは頷いておくのが合理的な判断だとは思うが……と、どう答えたらいいか迷っていたその時。
「あらあら。こんなところにいたんですの?お三方……と信一?」
「やっほ、ウェンディ。どうしたの?」
屋上の扉を開いて姿を見せたウェンディは、何故かいる信一に目を丸くしている。いちいち説明するのも面倒なのでさっさと話を進めてもらおうと先を促す。
「えぇ、これからわたくし達の部屋に集まってカード・ゲームにでもと思いましたの。それで3人を」
これまた男子が乱入したそうなことが女性陣だけで始まるみたいだ。
林の状況をチラッと見ると、7人もいるのに生徒側は劣勢を期している。そろそろ助力に行くべきだろう。魔術の才能がない自分が行ったところで焼け石に水だが、いないよりはマシだと思いたい。
「シンくんも参加しない?」
「う〜ん……俺、というか俺達はグレン先生を打倒しないといけませんし」
「あの連中を部屋に入れる気はないわよ」
「あはは、それ聞いたら泣いちゃいますよ」
わりと容易にその光景が想像できる。
あんまり女子の世界に長居するのは良くないと判断し、手すりに足をかけて飛び降りる準備。一度はこの3倍くらい高い転送塔から人を抱えて飛び降りているので恐怖はない。
「あ、待って信一!」
「はい?」
あとは手を離せば降りられるのだが、その時になってシスティーナが声を掛けてきた。
振り返って彼女を見ると、ほんの少し心配そうな表情を浮かべている。
「ちゃんと楽しめてる?」
「えぇ———もちろん」
いつもの微笑みではなく、満面の笑みでそれに応え、今度こそ飛び降りてカッシュ達の元へ向かうのだった。
雑木林の中では何故か怪我をしていないのに肩を抑えてたり、絶対自力で立てるはずなのに肩を貸し合ってるクラスメイト達。なんとなく満身創痍に見えるが、見えるだけで特に大きな怪我はない。
「クソッ!」
「やっぱり俺達じゃ届かないのか……ッ!」
「今は退いておけよ、お前ら。
ピンピンしてるグレンは彼らを睥睨してそう宣言。みんな、劣勢のせいか士気も落ちてグレンの言葉を鵜呑みにしようとしている。
「諦めるな!」
雑木林の中に戦意に満ちた激励の言葉が木霊する。一同が声の出所は目を向けると、信一が仁王立ちで胸を張って立っていた。
「信一……」
「諦めるな!立ち上がれ、
信一の激励に、しかしカッシュ達の戦意は挫けたままだ。膝を折り、悔しげに歯噛みするしかない。
「信一、
「確かにそうかもしれません。先生の言ってることはたぶん正しい」
「だったら……」
ただ1人、未だ戦う覚悟がある。この姿を見せれば彼らも立ち上がると信じて信一はまっすぐグレンの瞳へと眼差しを向けた。
「勘違いしていた」
「なに?」
言葉を遮って言われたものに、グレンは眉を顰める。だが構わず続ける。
「
「………………………」
「先生が言うのもまた
その言葉にカッシュ達はハッとした顔になる。
「何が言いたいんだ、お前」
「今俺達が目指す
グレンと信一の間を一陣の温風が吹き上げる。髪服の裾が煽られ靡く中、信一はカッシュ達への激励も込めてはっきりと言い放つ。
「いくぞ魔術講師———魔力の貯蔵は十分か」
その日の夜、さんざん騒ぎまくった二組の男子8名と担当講師1名は旅籠の従業員から一晩中お説教を食らったとさ。
はい、いかがでしたか?最後のセリフはたぶん皆さん分かったと思います。自分の中にロクアカ好きな人は大抵Fateも好きという偏見があるので。
分からなかった人はFateを見ましょう。全部。
次は海の回ですね。それではお楽しみに。