Fate/Zero Son of Sparda   作:K-15

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EPISODE26 運命

 黄金の剣を構えるセイバーは魔王に勝負を挑む。自身の全てを掛けて、騎士王の全てを掛けて、愛を知る魔王に勝たなければならない。

 瞬時に間合いを詰め袈裟斬り。並の相手ならセイバーの攻撃に対して身構えなくてはならないが、バージルは閻魔刀を振ると意図も容易く弾き返す。

 激しい火花と轟音。

 一瞬姿勢を崩す両者だが、すかさず握る剣を振る。

 

「ハァァァッ!」

 

「弱い……弱いぞ、アルトリア! お前が持つ全てを出しつくせ!」

 

「うるさい! 言われずとも!」

 

 剣を振り続けるセイバー。右へ、左へ、タイミングをズラして。だがどれも、今のバージルの前では簡単に受け流される。そしてまだ、バージルは右手に握るスパーダを一振りたりとも使っていない。

 己の愛刀である閻魔刀、神速の斬撃がセイバーを襲う。

 

「ぐっ!? ですがまだ!」

 

「受けるだけでは俺に勝てんぞ?」

 

「舐めるなァァァッ!」

 

 魔人化した事で攻撃力が飛躍的に上昇してはいるが、スピードは今までと変化ない。1度はバージルと戦ったセイバーなら対処できる。

 怒りさえも利用して剣を振り続けるセイバー、刃と刃が交わり火花が飛ぶ。

 自身の魔力を引き出して斬る、斬って斬って斬りまくる。

 響く轟音、分断される空気、走る閃光。

 

(まだ本気を出していないのは誰だってわかる。けれどもそれを待っていられる程余裕がある訳でもない。タイミングは掴んだ、勝負は一瞬!)

 

 もはや何度目か、バージルの閻魔刀から繰り出される神速の斬撃。セイバーはこの時を待っていた。

 

「死ね、セイバー!」

 

「であああァァァッ!」

 

 再び剣と剣が交わる。バージルの攻撃を受け止めるセイバー。否、受け流す。同時に足を1歩踏み出し、魔王の鱗に刃が走った。

 鮮血が飛ぶ。確実に体を捕えた。

 だが、魔王はキズを負った様子は見えない。

 

「この程度ではダメか。流石は魔王、と言った所ですか」

 

「たかが一撃で俺を倒すなどと……」

 

「その右手の大剣を使え、魔王! さもなくば次は首を斬り落とす」

 

 深く斬り込まれた胸元。流れ出る赤い血は、数秒もすると元の状態へと戻ってしまう。

 ダメージを受けたバージル、けれどもまだスパーダは使わない。閻魔刀を鞘へ戻し、スパーダも背中に抱え、ベオウルフを両手足に装備する。

 構えを取るバージルは肉弾戦でセイバーに挑む。

 

「まだ魂を開放させないのか? 今の貴様を倒すのにスパーダは必要ない」

 

「私を愚弄するか? 最後に勝ち残る王がどちらなのか、それを決める勝負ではないのか!」

 

「わかっていないようだな、セイバー。俺は何度も言っている、魂を開放させろと。ならば証明してやる。スパーダの真の後継者である俺に今の貴様では……勝てん!」

 

 セイバーは剣を握っている分のリーチはあるが、そのくらいで優位に立つ事はできない。ベオウルフを装備したバージルは接近してパンチやキックを繰り出してくる。攻撃の速度は剣を振るよりも早い。

 姿勢を低くする、軌道を読む、間合いを離す。

 閻魔刀を握っていた時とは全く違う戦法に流石のセイバーでも瞬時に対応できない。

 

「あの時の光る籠手、けれども当たらなければ」

 

 地面を蹴るセイバーは1度距離を離す。剣を構え直し、敵であるバージルを睨み狙いを付けると一気に駆け抜けた。次の攻撃の手が来るよりも早く、剣を振る。

 

「ハァァァッ!」

 

「来るか……」

 

 黄金の剣は魔王の体をまたも斬り付ける。だが間合いに入り込んだ隙に強力なパンチが飛ぶ。反応するセイバーは剣の腹で何とかコレを受け止めたが、衝撃が剣を通じて右手を痺れさせる。

 

「クッ!? だがこんな痺れなどたかが数秒だ。アウトレンジから攻撃を仕掛ければ避けられまい!」

 

「そう同じ事を何度もさせるか!」

 

 また距離を離すセイバーは同じ戦法でバージルにダメージを与えようと考えた。距離を離してからの一撃離脱。

 いくらベオウルフの手数が多かろうともこれならダメージは受けない。剣を構えたセイバーは地面を蹴り一気に加速した。狙うは魔王の首。

 

「ハァァァッ!」

 

「甘いぞ、セイバー」

 

 寸前の所で減速を掛けるセイバーは上空から降り注ぐ剣に回避を余儀なくされる。バージルの魔力で形成された幻影剣。無数の青く発光する魔の短剣が真上からセイバーを襲う。

 

「くっ!? ですが――」

 

 セイバーの反射神経と身体能力があれば真上からでの奇襲でも回避できる。無数の発光する剣が地面の至る所に突き刺さり、駆けながら振り切るセイバーは迂回してバージルを狙う。

 それでも縦横無尽に飛んで来る幻影剣に時には回避に専念しなくてはならない。

 

(動きを止められれば相手の思う壺。この短剣の威力は前にも見ている。私の甲冑なら耐えきれる!)

 

 思考を切り替える、回避ではなく攻撃に打って出るセイバーは幻影剣の雨の中を突っ切った。

 

「貰ったァァァッ!」

 

 が、魔王に剣は届かない。

 降り注ぐ幻影剣はセイバーに突き刺さるとその動きを瞬く間に止めてしまう。

 

「もう少しの所で!? この短刀は攻撃の為ではないのか」

 

「射程距離に入ったぞ? 貴様はベオウルフの事を勘違いしている。これは手数で攻撃する魔具ではない。上級悪魔でさえも一撃で葬り去る圧倒的なパワーだ。 さぁ、少し本気を出してやろう」

 

 魔力に対して高い防御力を持つセイバーに幻影剣は大したダメージにはならない。それでも動きを止められてしまえば一転、窮地に立たされる。

 ベオウルフを装備した右腕を引くバージルは拳に魔力をチャージさせていく。

 

「これは……不味い!?」

 

 チャージされる魔力が光り輝く。直感的に理解するセイバーはこの状況から何とか逃れようと体を懸命に動かす。突き刺さる幻影剣にヒビが入るが、それでも拘束から逃れるには時間が掛かってしまう。

 手も足も出せず、無情にも魔力はフルチャージされた。漆黒の魔力に包まれた右腕がセイバーのボディー目掛けて放たれる。

 

「砕け散れッ!」

 

「まだだァァァッ!」

 

 突き刺さる幻影剣が割れた。拘束から逃れると同時に姿勢を低くするセイバーはバージル渾身の右ストレートを回避、そしてカウンターで横一閃。

 バージルの体からまたしても血が流れるが、セイバーの離脱が遅れている。隙を逃してくれる程、生易しい相手ではない。

 フルチャージされた一撃ではないが、強力なアッパーにセイバーの体が浮き上がった。

 

「がはぁッ!」

 

「まだ終わりではないぞ」

 

 地に足の付いてない、空中では受け身を取ることさえ許してくれない。

 パンチ、キック、アッパー、様々な攻撃が連続して叩き込まれる。肉が、体が、骨が悲鳴を上げるが敵などしない。

 上段蹴りを2連続で食らうセイバーはそのまま壁まで吹き飛ばされた。コンクリートへバリバリにヒビが入り、そこでようやく動きが止まる。

 切っ先を地面に突き刺して体を支える。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……クッ! バージルへはさしてダメージが通っていない。マスターの補助がなくてもそれだけの回復力があるのか……」

 

「キズの治癒は俺自身の悪魔としての能力。多少体を斬ったくらいで優位になるなどと思うな」

 

「ならば回復が追い付かないだけの攻撃を撃ち込むまで! 魔王、私が培った剣の全てを受けてみろ!」

 

 セイバーの握る剣が光り輝く。全てを出し切らなければ魔王を倒す事などできない。けれどもセイバーはバージルが言った言葉の本当の意味をまだ理解していなかった。

 輝く聖剣から、全てを消し去る最大威力の魔力が放たれる。

 

「スパーダよ、その力を俺に見せろ!」

 

「エクス――」

 

 遂に構えた魔剣スパーダ。セイバーと同様に自身の魔力を剣へと溜め、最強の魔剣は至高の聖剣と撃ち合う。

 黄金の光と漆黒の闇が放たれた。

 

「その魂ごと消し去れッ!」

 

「カリバァァァッ!」

 

 閃光と衝撃。

 相反する2つの強大な魔力は周囲の物質を全て消滅させていく。壁も、床も、空気も、空間さえも。

 まともに受ければ立っていられる者など存在する筈もない。

 光と闇の撃ち合いの勝負の末、セイバーもバージルもまだ健在だった。

 

「エクスカリバーが……」

 

「力だけで俺に勝てると思うな。セイバー、お前の囚われた魂を開放させろ。そうでなくては」

 

「勝てないのか……魔王に……」

 

 力なくうなだれるセイバー。自身の最強宝具であるエクスカリバーをも相殺する相手に、ダメージを負った体であとどれだけ戦えるのか。

 相手はまだ全力と言える程の力を出していない。嫌でも敗北の2文字が頭を過る。

 

「私は……聖杯を手にする事もできず、思いさえも証明できない! こんな事で……こんな事で!」

 

 不思議と涙が流れて来る。自身の力が足りない事に、故国を救えない事に。

 ここで負ければセイバーはまたあの場所へと戻される。ブリテン崩壊のあの地へ。迫る敵は全て斬り捨てた、例えそれがかつての仲間であろうと。それが国の為だと信じて戦った、戦った、戦い抜いた。

 その結果に待っていたのは何もない。国も失くなり、仲間も失い、自らの命さえも。

 

(身に余る器を背負い苦しみに喘ぐその姿、我は高く買おう)

 

(お前は王と言う偶像を追っていた小娘に過ぎん)

 

(力だけでは何も守れないわ。切嗣を見ていたからわかるの。人を愛する優しさがないと、誰かを守るなんてできない)

 

 思い出すは聖杯問答。あの場面、アーチャーとライダー、そしてアイリスフィールが言っていた言葉を思い出す。

 

(私が目指した王の姿は間違っていたのか? ならば尚更、私が王になるべきではなかった。ブリテンの崩壊を止めるには聖杯に願いを託すしか……)

 

(セイバー、お前がすべき事は国を救う事ではない。その誇り高い魂を引き継がせる事だ!)

 

(引き継ぐ? 私の魂を? だが、人間を捨てた私の魂など……また別の王がブリテンを守ってくれる。繁栄させてくれる。真に故国と民を愛してくれるだろう……ならばこの感情は何だ? 私は故国を愛していた! 臣下を、民を! ならば何故、ブリテンを崩壊の危機から守れなかった! 愛を持っていたのに何故守れない! この感情は……愛ではないのか……)

 

 心の中の叫びが誰に伝わるのだろうか。無慈悲に剣を振り上げる魔王にセイバーはもう対抗できない。

 

「ごめん……なさい……みんな……」

 

 ぼろぼろと涙を流すセイバー、アルトリアはこの瞬間に王である事を捨てた。そしてようやく気付く。他者へと向けるべき感情、愛とは何なのかを。

 騎士王の魂は今、開放された。アルトリアと呼ばれた1人の少女の元に。

 解き放たれた魂に騎士たちは答えよう。真の忠誠を。

 

「我らが王よ、面を上げて下さい」

 

 轟音、魔王の刃が防がれた。

 頬を涙で濡らすアルトリアはゆっくりと前を見る。そこに居たのは見慣れた背中、アーサー王の近臣として強い忠誠と気高き騎士道精神を誓った戦士の姿があった。

 

「ラン……スロット……」

 

「王よ、まだ戦は終わっていません。アナタが危機に面しているのなら、お守りするのが我らの使命。王よ、どうぞご命令を」

 

 聖剣アロンダイトを握るはアーサー王に『理想の騎士』とまで言われた男、ランスロット。それだけではない、この場に現れたのは円卓の騎士と呼ばれた歴戦の戦士たち。

 周囲を囲むようにしてアルトリアを守る彼らに、彼女は驚きに目を見開きながらもその名前を呼んだ。

 

「ガウェイン! ベディヴィエール! トリスタン! 」

 

「ハッ! 我ら円卓の騎士、王の命によりここに参上いたしました!」

 

 片膝を付き頭を垂れる面々。その中には自らの血統を引き継ぐ子孫も居た。

 

「モードレッド……お前も……」

 

「父上が窮地と知り駆け付けてまいりました」

 

「私の事を……まだ父と呼んでくれるのか?」

 

「俺の父上はアナタだけです。父上の為なら喜んでこの命を差し出します」

 

「モードレッドッ!」

 

 アルトリアは膝を付くと自分の子どもを抱きしめた。感情的に涙を流し、肌の暖かさを感じ、嗚咽を漏らす程に激しくその体を抱き締める。

 思えば王として立ち振る舞うばかりで親としての顔は見せなかった。初めて見せるアルトリアの弱さにモードレッドは驚くも、そんなアルトリアを受け止める。

 

「父上、ありがとうございます。俺は今、この上なく幸せです」

 

「モードレッド……命を差し出すのはアナタではない。子を守るのは親の使命。アナタは引き継がなくてはならない。我が故国を、ペンドラゴンの性を、そして我が魂を」

 

 言葉で伝えるべき事はこれで充分。あとは背中で語るのみ。

 騎士王アルトリア・ペンドラゴン、そして親としてのアルトリアの姿を。

 立ち上がり剣を構えるアルトリアは魔王に対して叫んだ。

 

「魔王バージルよ! ここに現れたるは我がブリテンが誇る精鋭、私に忠義を尽くした円卓の騎士たち。そして私の愛を受け取り、魂を受け継ぐ子。私はここに宣言する! 貴様を討ち取り、モードレッドをこの手で守ると! それこそが私が見付けた新たな役目だ!」

 

「ようやく気が付いたか、騎士王。ならばその力、俺に見せてみろ!」

 

 魔王は遂に本気を見せる。左手には閻魔刀を握り、右手には魔剣スパーダを。溢れ出る魔力も瞬く間に強大になり、その威風はまさに魔王。

 

「行くぞ、魔王!」

 

「来い、騎士王!」

 

 アルトリアはモードレッドと共に構えを取り、その後方ではトリスタンが宝具である弓を構えて援護する。

 フェイルノートの音色が魔王を狙う。

 

「王よ、人の心を取り戻し愛を知るアナタは、私が真に忠義を捧げる人に相応しい。ならばこそ答えよう。その命を! 痛みを歌い、嘆きを奏でる。フェイルノート!」

 

 音に乗る無数の矢が縦横無尽にバージルへ迫る。一切の容赦のない必殺の一撃。

 それでも魔王を討ち取るには足らない。魔剣スパーダはその姿を変え大鎌に変形した。

 

「雑魚に用はない! この程度!」

 

 バージルは大鎌をトリスタン目掛けて投げ付ける。意思を持つかものに動く大鎌、それはフェイルノートの音色が繰り出す矢の一撃を粉砕し、トリスタン本体を襲う。

 

「流石は魔王、音色よ!」

 

 音速の斬撃が大鎌に当たるも、その勢いは全く衰えない。流石のトリスタンでも回避を余儀なくされ、身を屈めてこれを避けようとした。

 だが魔剣スパーダは狙った獲物を絶対に逃さない。鋭い刃は対魔力など関係ないとばかりにトリスタンの腹部を掻っ捌く。

 

「ぐぅッ!? すみません……」

 

 溢れ出る血にトリスタンは忽ち動けなくなる。

 そうした間にも騎士王と魔王の距離は詰められて行く。

 

「ベディヴィエール! 行って下さい!」

 

「おまかせを、我が王よ! 魔王などにアナタの笑顔は奪わせはしない!」

 

 魔王と対峙するベディヴィエール、けれどもその表情は勇気に満ちている。

 

(アナタの笑顔、その為に私は今まで尽くして来た。その願いがようやく……)

 

 ベディヴィエールは剣を抜いていない。彼の宝具は常時発動型、真名を開放すれば自ずとソレは現れる。

 閻魔刀を抜くバージルに真っ向からぶつかりあう。

 

「我が命、我が腕は王の為に。我が魂、喰らいて奔れ! 銀の流星!」

 

 右腕が黄金に光り輝く。魔力で形成された刃でバージルに挑む。

 

「一閃せよ、デッドエンド・アガートラムッ!」

 

 ぶつかりあう両者の刃。

 ベディヴィエールの宝具、その威力は一振りで一軍を消滅させるだけの威力がある。けれどもバージルは悪魔の笑みを浮かべていた。

 

「そのような模造品で、神をも超える悪魔に挑もうなどと! 片腹痛い!」

 

「なっ!?」

 

 アガートラム、それはケルトの戦神が用いたとされる神造兵器の模造品。神を超える悪魔に勝てる筈もない。

 黄金の輝きは閻魔刀の一太刀に分断され、神速の斬撃が体を斬り裂く。

 行く手を遮るベディヴィエールを斬り捨てて、バージルは次なる騎士ガウェインに挑む。その先で待つアルトリアを討つ為に。

 

「魔王に手心を加える必要はありませんね。我が王よ、アナタの苦悩を私は今初めて知った。アナタが涙を流すまでに私達は追い込んでしまった。私にその涙を拭う資格などありはしない。この罪、命を投げ打ってでも!」

 

「どれだけ騎士が集まろうと、悪魔の前では敵ではない!」

 

「自らの全てを王に捧げる! 誇りもない貴様にはわかるまい! 刮目しろ、我が剣を!」

 

 握る聖剣を振り上げるガウェイン。太陽の加護が光を照らす。

 

「この剣は太陽の写し身。あらゆる苦情を清める焔の陽炎は、闇をも斬り裂き悪魔を葬る! エクスカリバー・ガラティーン!」

 

「至高の聖剣でさえも、魔剣スパーダの前では……無力!」

 

 太陽の炎の斬撃、それでもエクスカリバーを討ち破ったスパーダを相手にするには分が悪い。漆黒の闇は太陽を遮る。

 

「スパーダの力を……俺の力を知れッ!」

 

「私が手助けできるのもここまでです。王よ……」

 

 魔王バージルの前にガウェインでさえも敗れた。崩れ行くガウェイン、残された騎士もランスロットただ1人。

 

「騎士王、御身は私が守ります。行くぞ、魔王! 生憎、手加減できる程の器用さは持ち合わせていないのでな」

 

「手加減? フフッ、手加減してでもお前に勝てるぞ?」

 

「勝負!」

 

 聖剣アロンダイトを構えるランスロットは駆ける。振り下ろす剣は閻魔刀と交わった。

 

「我が剣の全てを騎士王に捧げる!」

 

「貴様らの忠義を、感情を、その魂を開放させろ! そして俺に見せてみろ、人間の力を!」

 

「ならば垣間見るが良い! これが我が剣の真髄!」

 

 己が持つ武術の全てを駆使してランスロットは剣を振るう。閻魔刀が繰り出す神速の斬撃を受け、返し、放つ。

 刃を交える度に相手の力量が鮮明に感じ取れる。目の前の魔王は生前に戦ったどんな相手よりも強い。強い所ではない、セイバーのクラスで現界した他の円卓の騎士を一撃で倒せるだけの力など人知を超えた存在。

 神をも超える悪魔。

 

「貴様の真髄とはこの程度か?」

 

「いいや、まだだ。そのような戯言をほざくのなら、我が宝具を受けてみよ!」

 

 聖剣アロンダイトで横一閃。この攻撃も閻魔刀で簡単に受けられてしまうが、ランスロットの視線は鋭く魔王を睨む。

 宣言通り、自身が持つ最強宝具を放つ為。

 どれだけ相手が強大であろうと、王の眼前で退く事などありましない。

 

「最果てに至れ、限界を超えよ。王よ、この光を御覧あれ! アロンダイト・オーバーロード!」

 

「太陽をも遮る漆黒、貴様の光でかき消せるか?」

 

 聖剣アロンダイトに輝きが灯る。籠められた魔力はどこまでも清い湖のように青く、斬り付けた相手を消滅させる必殺の剣。

だが湖から溢れ出るだけの魔力があろうとも、閻魔刀は全てを食らい尽くす。

 神速の斬撃はランスロットの手から聖剣を弾き飛ばした。

 

「なんだと……」

 

「死ねッ!」

 

 魔剣スパーダが腹部に突き刺さる。

 致命傷を負うランスロットだが、騎士王を思う意思はまだ死んではいない。

 

「ぐぅッ!? まだ終わらない……終われない……」

 

「コイツ……」

 

 血に汚れ、血反吐を吐きながらもスパーダを掴むランスロット。残る力を振り絞り最後の抵抗をしてみせた。

 バージルは右腕に力を込めるが押すも引くもできない。

 勇姿を見せるランスロットにアルトリアは最後の言葉を掛ける。

 

「ランスロット、下がって! あとは私がやります!」

 

「ですが……私は……」

 

「下がれ! 私の言葉が聞こえないのか! アナタにも私にも、まだやる事がある。お願いだ、ランスロット……」

 

「王よ……御意……」

 

 スパーダを引き抜くバージル、同時にランスロットは光の中へと消えていき現世からは居なくなる。魔王の前に立つ騎士はもう残り2人になってしまう。

 

「魔王バージル、最後に1つ言わせて欲しい」

 

「言ってみろ」

 

「ありがとう。私は今、幸せを感じている。同時に悲しみと苦しみ、言葉にはできない感情が胸の中で渦巻いている。こんな感情は久しぶりだ。これが人間と言う物なのだな」

 

「魂を開放したか。その結果の1つが騎士の召喚。お前を慕う騎士たち、その為に命を投げ打った」

 

「気が付くのが遅かった。今の私には感謝の言葉を送る事しかできない。もう聖杯に願いを託す事はない。私の願いは、魂は、モルドレッドが引き継いでくれる」

 

「ならば見せてみろ。お前のその気高き魂を!」

 

「見てみろ、魔王よ! これが私達の魂だ!」

 

 アルトリアとモルドレッド、2人が握る黄金の剣。アルトリアの手元に戻った鞘と合わさり、エクスカリバーは本来の機能を取り戻す。

 最強にして最高、至高の聖剣。全て遠き理想郷。

 けれどもアルトリアはもう理想郷など追い駆けない。全てはモルドレッドに託したのだから。

 

「モルドレッドよ」

 

「はい、父上」

 

「奇跡だろうと運命だろうとどうでも良い。お前にもう1度再会できた。それだけで私は幸せだ」

 

「はい、俺も同じ思いです」

 

「もう私は理想郷など求めない! あるのは皆を思う愛だ! 撃ち破れるものなら破ってみせろ! エクス――(Reunion of)

 

 黄金の剣を振り上げる2人。バージルも魔剣スパーダを両手で握り、その刃に赤黒い魔力を溜める。

 愛を知る騎士王と魔王。振り下ろされる両者の剣がぶつかりあう。

 

カリバァァァッ(destiny)

 

 閃光に包まれる景色。全ての物が光に変わる。

 

///

 

 闇は光に包まれた、立っているのはアルトリアとバージル。

 アルトリアの手元からエクスカリバーは消えており、バージルが握るスパーダも元のフォースエッジに戻っていた。

 わずかに残っていた聖杯への祈り。それもまた、光の中へ消えてしまう。

 

「勝負は付きました。バージル」

 

「引き分け……と言いたい所だが、お前の勝ちだ。俺は聖杯の力を使っていたからな」

 

「いいえ、アナタは聖杯の力など使っていない。そのアミュレット、それが魔剣を開放する鍵なのですね。聖杯は鍵の役割をしただけ。あの魔剣、あの強さは間違いなくアナタの力だ」

 

「フッ、そうか。もうお前と会う事もないだろう」

 

「ありがとう……」

 

 バージルは振り向きもせずに歩きだし、眠る桜を抱えてこの場から去って行ってしまう。アルトリアもこれ以上は無粋を考え、アイリスフィールを抱えマスターである切嗣の元へと向かった。

 第4次聖杯戦争ももうすぐ終わる。


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