Fate/Zero Son of Sparda   作:K-15

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EPISODE11 聖杯問答

「ほれ、まずはお前から語れ、バーサーカー。この宴は聖杯を手にする王を見極める聖杯問答。だがお前は王ではない。が、それでは折角の酒も楽しめん、この現世に転生した身、どのような願望を秘めているのか聞いておいても良いであろう?」

 

「何故、俺がこんな事を……」

 

 セイバー陣営の拠点である城に乗り込んだライダーとウェイバー。駈けつけたセイバーとアイリスフィールを呼びつけ何を始めるかと思えば、酒樽を突き付けてきた。

 敵陣に真正面から乗り込んで来たにも関わらず、戦うのではなく盃を交わそうと言う。

 呆気に取られるセイバーとアイリスフィールだが、そう感じるのは2人だけではない。ウェイバーと一緒にチャリオットに乗って来たバーサーカーも同じ考えだ。

 

「バーサーカー。まさかお前、酒が飲めんのか?」

 

「フフッ、狂犬に酒を飲ませる必要などない。犬は地面を這い蹲り泥水でも啜っていろ」

 

「まぁ、そう言うなアーチャー。それでは折角の宴も冷めてしまう」

 

 一緒に居るのはバーサーカーだけではない。いつ呼び寄せたのか、ライダーはアーチャーまでもこの宴、聖杯問答に呼び込んでいた。

 杯を取ろうともしないバージルをあざ笑うアーチャーに良い気分はしない。

 いつでも斬り掛かれるよう閻魔刀に手を掛けるバーサーカー。

 

「止さぬか、バーサーカー。ほれ、今は剣ではなく杯を手に持て。うまいぞぉ、この酒は!」

 

 アーチャーが宝物庫から出現させた酒はこの世の物とは思えぬ程の1級品。優雅に杯を口に運ぶアーチャーとは対称的に、ライダーはまるで自分の物のようにガブガブと喉の流し込んでは新しいのを注ぐ。

 

「かぁ~! うますぎるッ! バーサーカー、この酒を飲まぬ手はないぞ。セイバー、お前からも言ってやれ」

 

「はぁ……まぁ、この酒は確かに美味だ。余程の式典でも、このような酒は味わった事がない」

 

「セイバーもこう言っている。さぁ!」

 

 ライダーに押し迫られ、渋々酒の入った杯を手にするバージルはそれを一気に飲み干した。顔に似合わぬ豪快な飲みっぷりにライダーは満面の笑みを浮かべる。

 

「おぉっ!? 良い飲みっぷりだぞバーサーカー。どぉれ、もう1杯飲め」

 

「いや、酒はもういい」

 

「そうか? ならば語って貰おう。お前が聖杯を求める理由をな。余はそれをつまみにしてこの酒を飲む」

 

 また新たに酒を杯に注ぐライダーはガブガブと喉に流し込む。至高の逸品と理解しているのか、味わうと言う動作すらしない。

 バージルはランサーの様子に呆れたのか、根負けしたのか、口を動かした。

 

「俺は聖杯を手にする。そして求めるのは……更なる力だ」

 

「バーサーカ、口を挟むようだがそれは以前にも聞いた。私もアナタに少し興味があります。アナタの武が行き着く先に何があるのか。何を見るのかを」

 

 セイバーとは数度、剣を交えた時に言った事がある。求めるのは力。

 バージルは以前にも力を求めてテメンニグルを機動させようとした。スパーダが封印した力を自らのものにしようと。

 スパーダの形見であるフォースエッジの新の力を開放させようと、自らを止めに来たダンテと殺し合いも繰り広げた。

 けれども結局、スパーダの力を自らのものにする事はできず、魔界に1人取り残される。

 スパーダの息子たるバージルが受け継ぐべきものとは何なのか。圧倒的なまでの力か、人を愛する事を知ったその精神か、彼の気が付き始めている。

 

「俺は……親父を超える」

 

「父親を……」

 

「ほぅ、男なら誰しもが通る道だな。して、超えた先に何がある?」

 

「……わからない」

 

「わからんとは何だ? 目的があって親父を超えたいのではないのか?」

 

 問い掛けるライダーにバージルは静かに視線を向けるだけ。それでも酒の酔いが回ってきたのか、今日はやけに口が回る。

 

「親父は強かった。最強の剣士とも呼ばれていた。だが親父はその地位を捨てた、その力を、地位を、全てを捨て去り俺の母親となる女と一生を添い遂げた。俺には理解できん。何故、親父は力を手放したのか……何故、母を助けられなかったのか……俺はそれを知りたい……」

 

 バージルの長年の疑問、この問い掛けに答えたのはセイバーでもライダーでもアーチャーでもない。この場に居合わせた人間、アイリスフィールだ。

 彼女だけはバージルの父、スパーダの心情を理解できる。人間である事を選んだ彼女なら。

 

「バーサーカー、それは愛よ」

 

「愛……だと……」

 

「アナタのお父様の詳しい背景はわからないけれど、全てを投げ出せる程にその女性の事を愛していたのだと思う。少しだけれど、私もその感情はわかる。好きなら……愛しているなら……地位や名誉を捨てるくらい厭わない」

 

「だったら親父は……愛の為に死んだと言うのか? そのせいで母が殺されても!」

 

「バーサーカー、アナタが求めてるのは力なんかじゃない。アナタのお父様と同じ景色を見て納得したいだけ。お父様が求めた愛が何なのかを」

 

「黙れ……」

 

「力だけでは何も守れないわ。切嗣を見ていたからわかるの。人を愛する優しさがないと、誰かを守るなんてできない」

 

「黙れと言ったッ!」

 

 引き抜かれる閻魔刀、神速の斬撃はアイリスフィールの首元に迫る。

 だがセイバーが黙って見過ごす筈もなく、閻魔刀の刃は見えない剣に阻まれた。

 

「バーサーカー、貴様は――」

 

「愛などと、そんな不確かな物の為に母と親父は死んだのか? そんな物の為に、ダンテも俺も殺されかけたのか? そのせいで母が目の前で死ぬ光景を目にしなければならなかった!」

 

 剣を弾き距離を離す両者。

 互いに睨み合う2人だが、杯を手にするアーチャーはこの状況を大いに笑った。

 

「ハハハハハッ! これは中々、笑わせてくれるではないかバーサーカー。それでお前、力を手にしてどうするつもりだ。まだそれを聞いておらん」

 

「絶対なる力、それさえあれば全てを支配できる。人間の世界などと小さな物ではない。全てを支配する」

 

「ほぅ、それで?」

 

「俺は超える……親父を超える。そして成し遂げて見せる。魔王の座を」

 

 それを聞いてアーチャーは更に笑った。夜の冷たい空気に彼の笑い声だけが響く。

 笑った、笑った、腹の底から笑い続けた。

 

「良いだろう、バーサーカー。お前は我自らの手で殺す。魔の物を仕留めるのは英雄の役目。そしてそれは我こそが相応しい! 結構、大いに結構! 楽しませて貰ったぞ、バーサーカー、フフッ。ライダー、次はお前の順だ」

 

「お、次は余か。バーサーカー、お主が魔の王と名乗るのなら、それもまた余の覇道で征服するぞ。征服王まで成し遂げたこの身、何千年の月日が経とうと強者と剣を交え戦うのは心踊るわい! そしてお前を下し、余も世界を掴んでみせようぞ!」

 

「フンッ、勝手にしろ」

 

 剣を引くバージルは閻魔刀を鞘へと戻す。攻撃の意思が失くなったのを確認したセイバーも、見えない剣をバージルに向ける事はない。

 ライダーは2人が剣を収めるのを見ると、杯に注がれている酒をまた喉の奥に流し込む。

 

「さて、余が聖杯に望む願望だが……」

 

 あれだけ我が物顔でアーチャーが出した酒を飲んでいたライダーが躊躇している。頬を赤らめ、照れ臭そうに。

 ポリポリと人差し指で赤らんだ頬を掻くと、ようやくその一言を口にした。

 

「受肉、だ」

 

「はあああッ!? ライダー、お前夢は世界征服なんじゃ――ぶへぇ!?」

 

 マスターであるウェーバーは驚きのあまりにライダーに詰め寄ろうとするも、デコピン1発で退けられてしまう。

 

「馬鹿者が、それでは何の価値もないであろう。聖杯に世を牛耳られてどうすると言うのだ?」

 

 ごくりともう1杯、酒を煽る。

 

「魔力で現界しているとは言え、所詮はサーヴァント。余は転生したこの世界に、1個の命として根を下ろしたい。体1つで我を張って、天と地を迎え入れる。それこそが征服と言う行いの全て! そして成し遂げてこその我が覇道なのだ」

 

「そんな物……王の在り方ではない」

 

 ライダーの野望に異議を唱えたのはセイバーだ。

 

「ほぅ、ではセイバー。貴様の胸の内を聞かせて貰おう。それでこの聖杯問答の覇者を決めようではないか。真に聖杯を手にするのは誰が相応しいのかを。英雄王か、征服王か、魔王か、それとも騎士王か」

 

「良いだろう。私の願望……願いは、我が故郷の救済だ。万能の願望機を持って、ブリテンの崩壊の運命を変える」

 

 乾いていた、白けていた。あれだけ笑っていたアーチャーも、あれあけ高揚していたライダーの口からも重たいため息が漏れた。

 

「はぁ、騎士王。貴様、運命を変えると言ったか? それは過去の歴史を覆すと言う事か?」

 

「そうだ。過去の運命を変えるには奇跡を起こさなければならない。万能の願望機たる聖杯が本物であれば、必ずや運命は変わる」

 

「フフフフッ、お前も笑わせてくれるな。セイバー」

 

「アーチャー、何が可笑しい?」

 

 また笑い出すアーチャーだがバージルの時とは雰囲気が違う。この笑いは相手を見下している。セイバーの事を滑稽に見ていた。

 そしてライダーもまた、ピクリと眉を動かし口を開く。その口調はさっきまでと違い落ち着いており、まるで諭すようにセイバーに話しかけた。

 

「セイバー、貴様はよりにもよって自らが歴史に刻んだ行いを否定するのか?」

 

「そうとも。故国の繁栄を願って何が悪い? 何故、笑う? 剣を授かり、新名を捧げた故国が滅んだのだ。それを傷んで何故悪い。私はブリテンの騎士王として故国の繁栄を望むだけだ」

 

「フハハハハッ! 故国に身命を捧げただと? はははははッ!」

 

「アーチャー、笑われる筋合いなどどこにある! 王ならば、収める国の繁栄を願って当然ではないか!」

 

「セイバー、お前は――」

 

 呆れるライダーが口を挟もうとするも、先に動いたのはバージルだった。

 

「聞かせろ、セイバー。お前は俺と何が違うのかを」

 

「何だと?」

 

「国が滅んだ、お前はそう言ったな? 外敵が、または内紛か、どちらにしてもその程度の事ならば力さえあればねじ伏せられる」

 

「何も知らないで偉そうな事を言わないで貰いたい。力で支配するなど暴君のやる事。そんな物で国が栄えるものか。正しき統制、正しき治政こそが王の本懐だ!」

 

「だが貴様の言う統制と治政で国は滅んだ」

 

「そんな事はわかっている。だから私は聖杯に願いを託す。私が王に成らなければブリテンは……」

 

「無理だな」

 

 断言するバージル、思わずセイバーは鋭い視線を向けた。

 願いは成就しない、そう言われれば戦う意味も失くなってしまう。自らの存在意義にも関わる事を黙って見過ごす事はできない。

 

「どうしてそのような事が言える? お前に何がわかる!」

 

「何もわからんな、何も。セイバー、あの女はこう言ったぞ。愛があれば全てを投げ出せる、と。お前にそれだけの覚悟があったのか?」

 

「覚悟があるからこそ聖剣を抜いた。故国への愛国心、民の為、私は心を封じ込めた。王として国を収める為に人の生き方など捨てた。全てはブリテンの繁栄の為に」

 

「フンッ、心もないのに愛を語るか」

 

「バーサーカー、覚悟もない貴様にわかるまい。闇雲に力だけを求める貴様に!」

 

「そうだな。俺にはお前の覚悟などどうでも良い。だが1つだけ言える。お前の魂を引き継ぐ人間は誰も居なかった。お前のその力を、覚悟を、魂を、引き継ぐ者など居ない。だから――」

 

「黙れッ!」

 

「貴様の言う愛国心……確かにそうなのかもな。誰にも理解されず、後継者もおらず……そんな独りよがりの愛……そんなものが愛なのか?」

 

 握りこぶしを作り怒りに震えるセイバー。

 怒りを覚えるのは自覚があるからだ。国の為、民の為、そう願って王として統治して来たが、その思いが臣下の者や国民に伝わる事はなかった。

 彼女は1人で全てを背負いすぎている。それは他の者の事を考えての事だが、外から見れば誰も信用していないように見えてしまう。事実、円卓の騎士であるモードレッドは彼女に叛逆した。

 自覚しているから、跳ね除けたいから怒りを覚える。それを突き付けて来るバージルに。

 アイリスフィールにもバージルが放つ言葉の意味が良くわかった。

 

(アーサー王伝説の終幕は、親族と臣下の裏切りによってもたらされる。それは臣下との絆が確固たるものではなかったから。家族との愛が育まれてなかったから……)

 

「ハハハハハッ、まったく、飽きさせぬ奴らよ。愛を知らぬ騎士王に、愛を語る魔王か。これが笑わずに居られるか?」

 

「アーチャー、貴様も――」

 

「セイバー、お前はお前の信じる道を行けばよい。その苦悩、葛藤、慰み者としては上等だ。身に余る器を背負い苦しみに喘ぐその姿、我は高く買おう。もっと我を笑わせろ、セイバー。褒美に聖杯を賜しても良いぞ?」

 

「愚弄するか!」

 

 立ち上がるアーチャーはライダーに回した杯を手に取ると宝物庫へと戻した。それはこの宴がもう終わりだと言う事を示している。

 

 

「よもやこのような宴になるとは思わんだ。褒めて使わすぞ、ライダー。だがな、聖杯が我の物である事に変わりない。その時が訪れるまで、雑種共を間引いていろ。王はこの世に2人と要らん! 征服王よ、騎士王よ、魔王よ。真の王たるはこの我だ! 首を洗って待っていろ。ハハハハハッ!」

 

 霊体化してこの場から消えるアーチャー。それを合図にしてか、ライダーも席から立ち上がる。

 

「宴もここまで……と言いたい所だが、客人がまだ居るようだな。おいボウズ、余の近くから離れるなよ」

 

「アイリスフィール、敵のサーヴァントです」

 

 現れたのは退場した筈のアサシン。それも1人ではない。4体、5体、6体、周囲を囲むようにして無数に現れる。

 ウェイバーは情けない声を出しながらライダーに擦り寄り、不利な状況に立たされた事に怯えてしまう。

 

「どうしてアサシンが!? アイツは倒された筈なのに! それにどうして1体じゃないんだ!?」

 

「ざっと数えた所で24人。1人頭8人か。フッ、余裕だな」

 

 閻魔刀を引き抜くバージルは既に戦闘態勢に入っている。セイバーも剣を手に取り構えの体勢に入っており、戦闘の火蓋はいつ切られてもおかしくない。

しかし、火蓋を切ったのはライダーだった。

 

「違うぞ、バーサーカーよ。ここは余が、王が何たるかを見せ付けてやらねばなるまい。王とは! 誰よりも鮮烈に生き、諸人を刺す言葉! 刮目せよ我が軍勢! 王の軍勢を!」




明日も更新します。
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