その先でエメは思わぬ出会いをして…
学校
蒼「あっ、先生おはようございます」
教頭「あぁ、おはよう」
昨日休んだから二日ぶりの学校だな
そんな事を考えながらげた箱を開けると…上靴がなかった
エメ「あれ?蒼って一昨日上靴持って帰ってたの?」
蒼「いや、持って帰った記憶はないね。ってことは、隠されたのかな?」
エメ「そんな暢気に済ませられる話じゃないよ!?だれがこんな事…いや、大体予想はつくけど…」
蒼「大丈夫大丈夫、どこに隠されてるかは予想がつくから。たぶんここら辺に…」
そう言って蒼はおもむろに近くのゴミ箱を漁った
蒼「ほら、見つかった」
エメ「ゴミ箱の中にあったの!?それ絶対悪意あるよ!」
蒼「別にあそこ生ゴミとかは入ってないから大丈夫だよ。それにあれ位の事なら、中学で散々やられ慣れてるし」
エメ「上靴をごみ箱に捨てられて『あれ位』って思える蒼の精神力にびっくりだよ」
蒼「そう?慣れてなくても、そんなに怒るような事じゃない気がするけどな」
エメ「まあ、蒼が気にしてないならそれでいいんだけど…」
エメは少し不満げだったが、私が気にしていないと言うと引き下がってくれた
教室に入ってチラッと例の二人を見ると向こうは目をそらした。中学時代の子達もそうだけど、何が楽しいのか分からないわ…
一応、少しだけ警戒してみたが、その日一日は今朝の嫌がらせ以降、何もして来なかった
土曜日
蒼「エメ、じゃあ私行ってくるね」
私は休日だというのに制服を着て、エメにそう告げた
エメ「うん。行ってらっしゃい」
エメに留守番を頼んで私は、ある所に出かけて行った
火葬場
蒼「あの、予約していた時雨です」
役人「貴女が時雨様ですか。この度はご愁傷さまです。お父様はこちらに既に運ばれています」
役人さんによって父が安置されている場所に案内された
役人「普通ならご遠慮するのですが、最後にお父様のお顔をご覧になられますか?」
蒼「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」
役人さんが気を利かせてくれたので、厚意に甘えさせてもらうことにした
蒼「父さん…ごめんね…私が転校したいなんて言ったから、父さん夜中まで無茶して働いて…私、父さんがフラフラしながら仕事行ってるの知ってたのに、気遣ってあげられなかった…」
そう呟きながら、私はいつの間にか父さんの手を両手で握っていた
蒼「(でも、今の学校では、すごく優しい友達ができたよ…エメっていうんだけどね、私がいじめられてたところを助けてくれたの。しかも、父さんが死んだって事を聞いて、エメは支えになるって言ってくれたの。お人好し過ぎるでしょ?でも、今までそんな事言ってくれた子どころか、いじめを止めようとしてくれた子もいなかったから、嬉しかった…私もっと強くなるわ。絶対いじめなんかに負けたりしない、弱音も吐かないわ。だから、父さんは安心してね…)」
どれくらい父さんの前で思いを念じてたかはわからないが、役人さんは気にした様子はなかった
役人「お父様との別れは済みましたか?」
蒼「…はい。長々とお待たせしてすいません」
役人「いえ、お気になさらず。お父様が若くして亡くなられたのですから、仕方がないですよ。それでは、これから火葬に入ります。また2時間後にお越しください」
蒼「わかりました。それでは失礼します」
そう返事をして火葬場から出る時、何気なしに振り返ると、ちょうど父さんが火葬炉に入るところだった
蒼「(父さん…見守っててね)」
2時間後
役人「あっ、時雨様、先程ちょうど火葬が終わったところです」
蒼「そうですか」
再び父さんの入った火葬炉の所に行き、役人さんが炉の中から父さんを出してきた
まだ40代にも拘らず、遺骨がボロボロになっていた
これは火葬炉の火力の影響なのか、過労と不摂生によって骨が脆くなっていたのか理由は分からなかった
役人「さあ、お父様の遺骨をこの骨壺に入れてください」
役人さんに促され、父さんの遺骨を骨壺に入れていった
そして、全部の骨を入れ終えた後、役人さんが骨壺を風呂敷に包んでくれて、それを私は家に持ち帰り母さんの仏壇の中に置き、遺影を夫婦そろって仏壇に並べてから、エメと一緒に夕飯を食べ風呂に入り寝た
日曜日
エメ「蒼、どこか遊びに行かない?」
蒼「遊びに?別に構わないけど、急にどうしたの?」
エメ「昨日はお父さんの事とか色々あって蒼疲れたでしょ?だから、気分転換でもって思ってね」
蒼「エメ…ありがとう。じゃあ、どこに行こっか?」
エメ「蒼の行きたい所でいいよ」
蒼「じゃあ…京都のアニメショップ巡りとかどう?あっ、でもエメがつまんないか…」
エメ「あぁ、私はアニメの事をあまり詳しくないだけで、アニメ自体は好きだし大丈夫だよ」
蒼「そうなんだ。じゃあエメもアニメショップ巡りしたら、もっとアニメ好きになれるかもしれないね」
エメ「そうかもね。面白いアニメとかいっぱい教えて」
蒼「いいよ。とりあえず、長く見て回れるようにササッと用意して行こうか」
そう言って私達二人は必要最低限のものだけをもって近くのアニメイトへと向かった
アニメイト
エメ「へぇ、ここがアニメイト?本屋さんにしては大きいね」
蒼「まあ、漫画以外にも、アニメのグッズとかも置いてるしね」
エメ「そうなんだ…早速見て回ろうか!」
蒼「ええ、そうね」
その後、私達は数十分は普通の単行本やグッズを見ていたが、店内を大体見終わるとエメが不意に口を開いた
エメ「ねぇ、あっちの棚は見ないの?」
蒼「あっちの棚?…あぁ、あれはちょっと特殊な同人誌だから、エメには早いかも…」
少し言葉を濁しながら、私はエメに言った
エメ「早い?何が?」
エメの表情から察するに、本当に言っている意味がわからないのだろう。キョトンとしている
蒼「その…表現が過激だから…あの区間一帯の本」
普通の同人誌ならまだ爆弾を見分ければ良いだけだったのだが、エメが指していた棚は丸々同性愛の同人誌コーナーだったのだ
エメ「まあ、一度読んでみて合いそうになかったらやめとくよ」
しかし、エメは私の意図に気付かぬまま件のコーナーに入っていき、試し読み用のコピー本を読み始めた
蒼「(ヤバイヤバイヤバイ!エメが新しい世界に足突っ込んじゃった!)」
しばしエメの様子を後ろから見ていると、エメの顔がちょっと赤くなった
蒼「エ、エメ?大丈夫?」
エメ「蒼…これ…」
エメがコピー本を閉じ、ゆっくりとこちらを向いた
エメ「すごく面白いね!!」
蒼「…え?」
エメ「私この話の原作知ってるけど、原作よりこっちの方が好きかも!!」
色々と予想外だった
私はてっきり、「ご、ごめん!確かに私にはまだ早かったよ(///⊃ω⊂)」と返ってくると思っていたのに、エメは気に入ったようだ
蒼「ちょっとその本見せて」
もしや、運良く普通の話を見たのかとも思ったが、どのページを見ても一般的なアニメではとても放映できるようなものではなかった
ということは、エメはこれらの絵を見て気に入ったと言ったということだ
蒼「えっと…エメはこういった本は見たことあるの?」
エメ「こういう本?多分ないよ?」
Oh…まさかの身近にこんなモンスターが眠っていたとは…ちなみに、私は別にエメに引いてる訳では無い
かく言う私もそういった本(どっちかと言うと百合の方が好きだが薔薇も好き)は好きだから同じ趣味の人が出来たのはとても嬉しい
ただ、あまりアニメに詳しくないと言っていた人物がまさか腐女子だったとは誰が予想できただろうか
蒼「どうやら、取り越し苦労だったみたいだね」
エメ「え?どういう事?」
蒼「いや、一般的に同性愛ってまだまだ世間的に認可されてないから、こういう本は嫌われやすいんだよね。エメがそうだったら悪いなと思ってさ」
エメ「そうだったんだ…気を使ってくれてありがとう。でも、同性でも異性でも純愛は純愛、素晴らしいことだと私は思うよ」
蒼「(な、なんだ…この子は聖女か!?)」
エメの口振りから、同性愛に対する言い訳がましい発言ではなく、本当にそう思ってるという事が蒼には分かった
エメ「ま、まあ、流石にちょっと内容にびっくりしたけどね…」
そう言うエメの顔は先程よりはマシになったが、未だ顔が赤かった
そのままの勢いで他の場所にあるアニメイトやメロンブックス、とらのあなと丸一日を使ってアニメショップを堪能した
そして、夕方になってようやく家に帰ってきた頃には、持って行ったリュックは本でいっぱいになり、エメもなかなかのオタク兼腐女子に成り果てていた
エメ「それにしても、今日一日でこれでもかって位に世界が変わったわ」
蒼「そうだね。あっ、そういえば…」
エメ「これは…!このキャラ照れてる!かわいい!!」
物は試しと思い、百合の本も見せてみたところ、エメは結構気に入ってくれたようだった
蒼「私の部屋にいろんな漫画置いてるから、興味あるなら勝手に読んでくれて構わないから」
エメ「本当⁉わかった!」
蒼「(奥の方に行くにつれて過激な表現が多くなってるけどね…)」
エメ「早速、面白そうな漫画を2、3冊借りるね!」
エメがアニメに興味を示したからこっちの世界に迎え入れたのであって、無理やりこっちの世界にエメを引きずり込んだ訳ではないが、オタクでもなかった友達を一日でここまで変えてしまった事に少し背徳感を感じた
エメ「あっ、このキャラかわいい!」
蒼「ん?あぁ、そのキャラは吸血鬼のレミリア・スカーレットだね。」
エメ「こんな吸血鬼なら吸血させてあげたいわね。…このキャラは?」
蒼「それは土間うまるだね」
エメ「すごくちんちくりんでかわいいわね!あれ?うまるちゃんはどこ行ったの?」
蒼「え?ちゃんとここにいるよ?」
エメ「同一人物なの⁉可愛いと綺麗を併せ持ってるとか反則でしょ!?」
蒼「確かにそんな人いたら羨ましいよね」
そんな風に二人で漫画やアニメについて長々と語り合い、かなり夜遅くなってから明日が学校だと思い出し寝た
学校
蒼「さてと…今日は何かされてないかな?」
先週上靴を隠されたときに気にしてないとは言ったものの、嫌がらせをされないことに越したことはないので、何もされていない事を少し願っていた
蒼「…よし、ちゃんと上靴はあった」
エメ「よかったね。やっとあの二人も飽きたのかな」
蒼「そうだといいけどね」
とりあえず、朝は特に何かがあった訳でもなく平和に過ごせた
5時間目
教師「お前らー、今日の体育はドッジボールだぞー」
体育教師のその一言で、各クラスの男子生徒達が歓声を上げた
男子A「勝ったら何かあるんすか?」
教師「なんか寄こせってか?んー…じゃあ、勝ったチームは成績アップな」
男子B「よっしゃぁ!頑張んぞー!」
教師「雄叫びは勝ってからにしろな?」
蒼「あの先生、男子と女子は一緒にするんですか?」
教師「そのつもりだが、何か不満か?」
蒼「いえ、只の確認ですよ(男女混合かぁ…最初の外野に立候補するか、出来るだけ早く緩い球に当たって場外に出とこうかな…)」
まあ、運動神経が皆無な私は当たろうと思わなくてもすぐ場外行きだろうけど
そんな事を考えているうちにチーム分けが終わった
蒼「(あっ、エメも同じチームだ。よかった…)」
正直、エメが敵チームだったら、私チーム内で居場所無くなっちゃうし
エメ「私は的が小さいから最後まで残ってそうだなぁ」
確かに、エメは一般的な女子高生にしては身長が少し低いかもしれない(とはいっても、150㎝位だけど)
蒼「いいなぁ、私は逃げ切れる自信全くないよ」
何気にエメの運動神経が如何程のものなのか知らないけど、どれくらいなんだろう
そんな事を思っていると、ゲーム開始の合図が出たので、急いで逃げた
数分後
蒼「的が小さい云々の前に、あの運動神経はすごすぎじゃないかな…」
あれから数分経って、私達のチームはエメだけになっているが、未だにエメにボールが掠りもしていない
そのうち、敵チームがミスボールを出してエメがキャッチした
エメ「おりゃ!」
エメの投げたボールは敵陣地で低滑空し、少しづつ敵の数を減らしていった
その為、外野にボールが回ってくることがほとんどなく、本当の意味で相手チームVSエメという状況だった
しかし、ずっと避けていた為疲れがたまっていたのか、あと三人というところで敵のボールに当たってしまい、こちらの負けになってしまった
エメ「ごめんね皆、あとちょっとだったのに」
美香「いや、最初の方はこっちがかなり負けてたし、エメはかなり敵の数減らしてくれたじゃん。気にしないで」
圭太「むしろ、俺らの方がほとんど役に立てなかったしな」
夏美「そうよ!男子もっと頑張ってよ!」
男子全員「すんませんでした!」
これでもかって位に男子の声がハモった
その後、数回ゲームをして結果は5クラスのうち3位となった
To Be Continued
エメの驚異的なまでの運動神経にクラス一同驚かされた半面、男子の役に立たなさが際立っていたドッチボールも終わり、いよいよ夏休みが近づいてきていた
次回『絶望』