エメの過去   作:フリッカ・ウィスタリア

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小学校では特に問題も無かったエメだったが、ある日、中学に入ってからの友達の様子がおかしい事に気が付いて…


いじめ

あれから更に数年経ち、エメは中学生になった

里奈「エメー、どうやったら早く走れるねん…」

この子は中学に入ってから仲良くなった木下 里奈(きのした りな)、よく私に運動系のアドバイスを求めてくるのだけれど、私よりもっと足の速い子は居るんだけどなぁ…

里奈「だってエメ優しいし、他の子に聞くと大抵鬱陶しがられるんやもん」

エメ「そういうもんなの?まあいいけどさ。じゃあ、また学校に自転車置いて放課後に走る?」

というより、それくらいしか方法を知らないので、それを断られたらどうにも出来ないんだけど

ちなみに私も里奈も帰宅部の為、放課後は時間があり余っている

里奈「ありがとう!」

エメ「その代わり、今度古典の勉強教えて欲しいな。最近の授業が結構やばくなってきたから」

里奈「了解、相変わらずエメは運動神経にスキル全振りなんやねぇ」

エメ「その言い方だと勉強全部がダメみたいじゃん…一応これでも理数と英語は学年上位だよ?文系は現文以外苦手だけど...」

里奈「苦手っていうか、エメの成績に至っては壊滅的やんか」

エメ「そんな事言う子は地獄の特訓よ?♪」

エメはニッコリと笑った。もっとも、目は全く笑っていなかったが

里奈「止めて!?」

実は以前にも同じように里奈が私の古典の点数をからかってきた時に無茶な特訓を面白半分でしたことがあり、それが軽くトラウマになっているのか里奈は必死で止めてきた

エメもそれを分かっていて言っているあたり意地が悪い

エメ「まあいいわ。じゃあ、また放課後に校門集合ね」

里奈「分かった」

里奈との約束をした後、現在進行形で取り組んでいる社会の課題をする作業に戻り、唸りながら解き進めて休み時間は潰れた

 

放課後

エメ「さぁ、いっぱい走って筋力つけよー!」

里奈「一応私は人間やねんから、無茶な距離走らせんでよ?」

エメ「んー?それじゃまるで私が人間じゃないような言い草に聞こえるんだけど?」

里奈「ごめんて!私が悪かったからその怖い笑顔やめて!?」

度々エメの地雷を踏んでくる里奈に対し、怖い笑顔で答えるエメの姿は最早恒例となりつつあった

エメ「とにかく、今日はどのコースで走る?またいつもの家まで?」

里奈「うーん、せやね。そのコース以外パッと思いつかへんしな」

そんな話をしていると、エメ達は後ろから誰かに呼ばれた

麗華「ねぇ、あんたら邪魔なんだけど?退いてくんない?」

エメ達を呼んだのは佐々木 麗華(ささき れいか)という同級生で、いわゆる不良女子だった

里奈「邪魔って、横通ればええやない…別に狭くもないやろ…」

一応、歩道に私達は横並びになってはいるが、まだ1.5人分位は横を通れるスペースがあった

麗華「退けって言ったら退けよ!ウゼェな!」

里奈「…」

麗華に怒鳴られ里奈は黙り込んでしまった

対する麗華は学校で嫌な事でもあったのか、とても気が立っているようだった

エメ「まあいいけど…はい」

わざわざ事を荒立てる必要も無い為、エメは道を空けてやった

麗華「チッ…あの先公、綺麗事並べて怒鳴り散らしやがって…(ブツブツ」

麗華はエメの横を通り過ぎる時、何かブツブツ言っていたが、よく聞き取れなかった

エメ「里奈大丈夫?」

里奈「う、うん、大丈夫…怒鳴られてビックリしてもただけやから」

エメ「ならいいけど…まあ、気を取り直して走ろうか」

少し気まずい空気になってしまったが、エメが少し強引に走ることを促した為、それ以上の悪化は防げた

その後は駅二つ分ぐらい離れている里奈の家まで走り、更にそこからエメだけは篠原家まで走って帰った

 

次の日

エメ「(今日の社会の授業はさっぱりだったなぁ…里奈にまた教えてもらわなきゃ…)」

そんな事を思いながらエメは移動教室へ向かい、その途中でトイレに寄った

中に入ると、トイレの窓から外を覗くように里奈が立っていた

エメ「あれ?里奈そんな所で何やってるの?」

エメに呼ばれて里奈が振り返った

エメ「…⁉里奈、何で泣いてるの?何かあったの?」

振り返った里奈の目は少し潤んでいて、先程まで泣いていた事が窺えた

里奈「な、泣いてなんかあらへん!ただ目にゴミ入っただけや!」

また典型的な嘘をついたものだ

エメ「いや、でも…」

里奈「大丈夫や!何でもないからエメは気にせんでええねん!」

そうとだけ言うと里奈は足早にトイレを出て行ってしまった

エメ「え、えぇ…明らかに何かあった反応じゃないの…」

里奈の言動が気になったエメだったが、考えても結論が出ない事は目に見えているのでやめた

 

放課後

エメ「里奈ー、今日どっか寄っていく?…って、いないじゃん」

一日の授業が終わり里奈の教室に行ってみると、既に里奈の姿はなかった

エメ「先に帰っちゃったのかな?」

いつも一緒に帰っている友達が珍しく先に帰った事に少し驚いたが、まあそういう日くらいあるだろうと思い気にせず一人で帰ることにした

すると、その途中で何気なしに見た窓から校舎裏に入って行こうとする里奈が見えた

エメ「(こんな時間に校舎裏に何の用だろう…!まさか…)」

昼休みにトイレで見た里奈の泣き顔と合わせ、嫌な予感がしたエメは急いで校舎裏まで走った

 

校舎裏

エメ「(この嫌な予感が当たらなければいいけど…)」

ただ単に先生に何か教材を運んでくれと頼まれただけなどのオチであってほしいと願いながら校舎裏に来た

すると、里奈のものと思しき声が聞こえたので壁の影に隠れて盗み聞いた

里奈「な、なんか用なん?」

彩「私らさぁ、今金欠なんだよね」

里奈「へぇ…」

麗華「ここまで言えば…わかるよね?」

里奈「言いたいことはわかるで?でも、うちだってお金は自分のために使いたいし…」

エメの嫌な予感は的中してしまった

しかも質の悪い事にその内容はカツアゲだった

彩「あんたの小遣い事情なんて聞いてないよ。あんたがチミチミ金使うより私らがパッと盛大に使ってやる方が世の為人の為なの。さっさと私らに金出しなよ」

エメ「ちょっと聞き捨てならないわね」

話を聞いて我慢できなくなったエメが姿を現した

エメ「(麗華と…もう一人は知らない子ね)」

里奈「エメ!?何でここにおるん!?」

麗華「なんだよエメ、私らコイツにお金の交渉してるだけなんだけど?」

エメ「カツアゲしてるだけじゃない!ただの犯罪よ!」

彩「偽善者ぶるのやめてくれない?」

エメ「私が偽善者だろうとなんだろうと、あんたらが悪者なのは変わりないわよ」

麗華「うるせぇな!すっこんでろ!」

そう言うと、麗華は女子らしくもなく殴りかかってきた

それを私はあえて躱さなかった

エメ「カツアゲして思い通りにいかなかったら殴るのね…」

殴られた左頬をさすりながら麗華の腕を掴んだ

麗華「な、なんだよ…」

次の瞬間エメが麗華の顔を先程自分がされたように殴った

彩「なっ!?」

里奈「え、エメ?」

エメ「私は気が短いの。そういう理不尽、我慢できない性質なの」

麗華「な、何しやがる!」

エメ「先生に言いたければ言えばいいわ。その代わり、さっきのカツアゲの件は全部録音させてもらったから、罰を受ける時は道連れってことで、そこらへんよろしくね」

エメがそう警告すると、、軽く悪態をついたもののそれ以上は何も言ってこず、おとなしく出て行った

里奈「エメ、ほっぺた大丈夫?殴られとったやろ?」

エメ「大丈夫大丈夫、私頑丈だし」

里奈「ならええけど…というより、なんで録音機なんか持ってたんや?」

エメ「あぁ、これ?いつも古典の授業が意味分からないから録音させてもらって後で復習してるだけだよ。ちょっと本来の使い方と違うけど役に立ちそうだったからね」

そう言って再生ボタンを押すと、少し中途半端な所からではあったが、先程の会話が録音されていた

里奈「本当に録音してたんやね…でも、ありがとう。助かったわ」

エメ「今度から困ってるならちゃんと相談して?友達なんだから」

エメはバイターズに居た頃、誰かを頼るという事の安心感を身をもって知っている為、真剣な顔で里奈にそう言った

その態度に少し気圧された里奈だったが、友人の優しさを受け自分一人で抱え込んでいるのが馬鹿らしくなり、笑えてきた

里奈「ありがとう。でも、エメはもうちょっと人に厳しくなった方がええで?先生に頼まれた時も全然嫌な顔せえへんし」

エメ「まあ暇だしね。それより、こんな所にずっと居座ってたら先生に怒られちゃうしとりあえず帰ろう?」

里奈「せやな、すぐ鞄取ってくるから校門で待ってて」

そう言うと里奈は教室まで走っていき、里奈が戻って来てからいつもの様に二人で家に帰った

 

数日後

それから数日経ったが、あの件以来あの二人がエメや里奈に嫌がらせをしてくるような事もなく平和な日常を送っていた

いつもの様に休み時間を使って古典の勉強に苦戦し、休み時間がそろそろ終わる時間になったので次の授業の用意をしようと机の中身を探っている時、何かが手に当たった

エメ「ん?なんだろこれ…手紙?」

引き出しの中には四つ折りにされた手紙が入っていた

エメ「何々…放課後に屋上に来てください、お話ししたい事があります…なにこれ?」

普通ならラブレターと思うシチュなのだろうが、日本での文面の一般的な意図を全く理解していないエメは頭にハテナマークを浮かべていた

エメ「とりあえず、放課後に屋上に行けばいいのね」

呼び出しの場所が屋上だという事だけ確認するとエメは午後の授業の用意をして急いで移動教室へ向かった

 

放課後

エメ「(廊下の掃除が長引いちゃった…里奈に先に帰っておくようには言ったし、屋上に向かおうかな)」

やる事をさっさと終えてから少し急いで屋上へ行った

エメ「(でも、なんでわざわざ屋上なんかに呼び出すんだろう…面と向かって言うか誰かに伝言を頼めばいいのに…)」

そんな事を思いながら屋上の扉を開けると…誰も居なかった

エメ「あれ?誰も居ないじゃない…」

屋上に出て少し進んだ所で、頭から背中にかけて鈍痛が走った

エメ「痛っ!」

即座に振り向くと、バットを持ったチャラチャラした男子と麗華が立っていた。というより、どこに居たのだろう

男「麗華、お前の事殴った女ってこいつ?」

麗華「そうよ、こいつに殴られたの」

エメ「…何のつもり?」

麗華「私の邪魔した罰よ」

エメ「なるほど…恨み晴らすためにわざわざ男連れてきたってわけね。自分じゃ歯が立たないから…いかにも貴女らしいわ」

麗華「っ!?早くこいつとっちめて!」

男「あんま事情知らねーけど、俺の麗華を殴ったってんなら、それなりのケジメつけてもらわないとな!」

そう言って男はバットで殴りかかってきた

いくら頑丈だといっているエメでもバットでまともに二発も殴られたら死ぬ可能性がある為、イヴ仕込みの動体視力でバットを見切り、逆にバットを持っている男の腕を後ろで固めた

男「イタタタタ!」

あまりの痛さに逆の手を振り回しエメを攻撃してきた

腕を掴んでいるため避けることは無理だったが、二回目の攻撃に対してはカウンターの要領で男の後頭部に肘鉄を食らわし意識を飛ばした

麗華「ちょ…何やられてんのよ!?」

男の方がやられるとは思ってもいなかったようで麗華が喚きだした

私はそのまま気絶した男からバットをもぎ取り、麗華に近付いていく

麗華「え?じょ、冗談…だよな!?や、やめろ!」

バット片手に迫ってくる私に恐怖したのか麗華は逃げようと走り出した

それを私は走って取り押さえ、馬乗りになって逃げられないようにした

エメ「貴女は私を男を呼んでまで攻撃していた。そんな事までしたんだから、殺されるとまでは言わなくても返り討ちに会う覚悟くらいはできていて当たり前…よね?」

エメは笑顔でそう告げた

麗華「ち、ちがっ、只の出来心で…」

エメ「言い訳は聞きたくないわ…じゃあね麗華」

そう言って私がバットを振り上げて今にも振り下ろさんとした時、遂に恐怖が振り切れたのか麗華は気を失った

エメ「…ったく、覚悟もないのに突っかかってこないでよね…」

先程とはうって変わって呆れたように麗華の上から退いたエメは、麗華をさっきの男共々階段横の風の当たらない場所へ引きずって行き、両者が死んでないのを確認してから家に帰った

その日の夜、風呂に入るときに背中を見てみると、背中に一筋の痣ができていたが、目立つ所でもないためエメ以外の誰もその痣には気が付かなかった

次の日エメが学校に行くと麗華は既に学校に来ていたが、エメと目が合うと少し怯えたような顔をして、その後一切関わってくる事はなかった

 

さらに数年後

あれからさらに数年経ち、私は家からは少し遠い高校へ通っていた

担任「はーい、今年は転校生が居るわよー。静かにしなさーい」

エメ「(転校生か…どんな子だろう)」

担任「それじゃあ、自己紹介お願い」

女子「はい、えっと…父の仕事の関係で転校してきました。時雨 蒼です。一年間よろしくお願いします」

私はこの高二になった年が自分の人生を変えてしまう年になるなど、知る由もなかった

 

To Be Continued




力は争いを生む。しかし、時にそれは抑止力となって平和をもたらすのかもしれない
エメの高二の年、この言葉のさす意味は前作を読んでくれた方なら、分かるかもしれない…
次回『蒼とエメ』

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