エメの過去   作:フリッカ・ウィスタリア

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再び独り身となってしまったエメは警察に連れられとある孤児院へと来た
そこには優しそうな女性が待っていて…


サリー孤児院と篠原夫婦

エメの過去3

 

孤児院

婦警「さあ、ここが孤児院よ」

エメ「ここが…私の新しい家?」

院という割にはそこまで大きくはない施設にエメは連れてこられた

婦警「ええ、お友達の事は残念だけど、代わりに君が精いっぱい生きてあげよう。ね?」

婦警は優しい声でエメを慰めた

院長「あら、貴女が新しい家族かしら?」

エメ「えっと…はい、そうです」

婦警「あっ、サリーさん、お久しぶりです」

この女性はサリーというようだ

サリー「お久しぶりです婦警さん」

二人は少し話をし始めたが、すぐに話を切り上げた

婦警「それでは私は仕事がありますので失礼しますね」

サリー「ええ、お気をつけて」

婦警さんが帰ると、サリーさんは私の方へ向き直った

サリー「フフッ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。私はこの孤児院の院長のサリー・パーカーよ」

エメ「エメラルド・マーティン…です。エメって呼んでください」

サリー「これから仲良くしましょうね。エメ」

サリーは握手を求め、右手を出してきた

それに対し、エメは若干躊躇しながら右手を出し、握手をした

エメ「(この人の手、温かい…すごく優しそう…だけど、もしかしたら…)」

エメの脳裏には自分を殺そうとしてきたあの二人の男の顔が思い浮かび、目の前の女の一つ一つの行動に少し警戒していた

サリー「さあ、院の中に入って頂戴。他の子達と顔合わせしてもらわなきゃね」

サリーさんは何やら楽しそうだった。なんで?なんか怖い…

エメは少し怖がっていたが、サリーはただ単に新しい家族が増えて喜んでいただけである

サリー「皆、新しい家族が来たわよー!」

女子A「どんな子?どんな子?」

男子A「男?女?」

男子B「何歳?」

エメは施設内に入るなり質問攻めにあった

サリー「さあ、みんなに自己紹介して頂戴」

エメ「え、えっと、エメラルド・マーティンです…5歳です」

他の子達の勢いに気圧され少したどたどしい自己紹介になってしまった

サリー「はい、それじゃあ今度はみんながエメに自己紹介する番よ」

男子A「ダン・ローレンス、8歳だよ!」

男子B「僕はマルコ・ウォーカー、10歳だよ」

女子A「私はメリー・アンデルセン!4歳!」

エメ「えっと、サリー先生…でいいんですか?この院の子は私を含めて4人なんですか?」

サリー「いいえ、まだ二人いるわ。二人ともまだ赤ちゃんだけどね」

先生と話をしていると、奥から男の人が出てきた

男「先生、その子がエメラルドちゃんですか?」

サリー「ええそうよ。あっ、彼はリムよ。ここで私の手伝いをしてくれているの」

リム「初めまして、これからよろしくね」

リムはサリー同様握手を求めてきたが、エメは以前の事件があるため、大人の男性に警戒をしていた

リム「…ハハハ、流石に初対面で握手は馴れ馴れしすぎたかな?」

サリー「エメは男性恐怖症だと婦警さんから聞いてるし、リムに慣れるのに時間がかかるかもしれないわね」

リム「ハハハ…まあ、気長に待ちますけどね」

エメ「(多分あの人は安全な人なんだろうけど…やっぱり男の人は怖い…)」

その日は院に着いた時点で夕方前だった事もあり、すぐに夕飯を食べ、風呂に入り、部屋に案内されそこで寝た

 

数日後

サリー「さあ、今日は天気が良いからお外で遊びましょう!」

何気に子供達よりテンションが高い先生だった

院庭で遊んでいる先生とメリー達を見ながら、エメはバイターズに居た頃の日課をこなしていた

リム「何してるのエメちゃん?」

この数日でようやくエメはリムに話しかけられても身構えないようになった

エメ「体を鍛えてるんですよ。私の日課です」

リム「体を?何でそんな事…ここは安全だよ?」

エメ「以前いた所も安全だと思ってたのに、私が弱かったからみんな死んじゃったんです。あんな思い、もう二度としたくないですから」

リム「エメちゃん…事情は簡単にしか知らないけど、辛かったら僕や先生を頼っていいんだよ?」

エメ「ありがとうございます」

リム「(この受け答えもそうだけど、この子5歳には見えないんだよなぁ…なんか既に世の中を悟っちゃってるというか、すべてをあきらめちゃってるというか…何か力になれればいいんだけど…)」

リムは自分が今エメの役には立てないと悟り、その場を立ち去った

マルコ「エメー!こっちで鬼ごっこしよー!」

エメはマルコに遊びに誘われた

エメ「分かった。すぐ行くわ」

ずっと日陰で体を鍛えていた為、走るのも悪くないと思い、エメはマルコの誘いを受けた

数分後、エメが鬼なると即行で全員が捕まってしまい、逃げる側になると待ち伏せでもしない限り捕まらないという惨状になってしまった

サリー「ハァ…ハァ…ハァ…エメは…足が速いわねぇ…」

エメ「そう?自分ではあまりそうは思わないですけど…」

エメは本心でそう思っていたが、相手からしたらショック物である

サリー「子供に負けたぁ!悔しい!」

そういう割にはサリー先生の顔はとても楽しそうだった

 

夕方

メリー「ねぇエメ、どうしたらそんなに速く走れるの?」

エメ「どうやったらって…走り込む…とか?私はそうしてたし…」

ダン「うわー、大変そうだね…」

サリー「でも、その努力の賜物なんだからすごいわ!」

そんな風に先生達と話をしているうちに夜遅くになってしまった

 

3年後

あれから三年が経ち、その間にダンが養子に迎えられていった

院に入った頃は周りの人に異常なくらい警戒していた私だったが、先生の言った通り院の中で何か事件が起きるような事もなく、月日が流れて行った

サリー「エメ、貴女に話があるのだけれどいいかしら?」

エメ「ええ、大丈夫ですよ」

ある日の夜、先生が私の部屋にやってきた

エメ「先生、何かあったんですか?」

サリー「エメ、2,3日前に施設前に老夫婦が来ていたのは知ってるかしら?」

エメ「老夫婦?…あぁ、あの優しそうなお爺さん達ですか。はい、私も少しですけどお話ししましたから」

サリー「ええ、それでその夫婦が貴女を養子に迎えたいそうだけど、どうする?」

エメ「私を養子に…ですか…」

先程優しそうな夫婦だと言ったものの、話をしている風ではという意味であり、実は酷い人かもしれないと、かなり失礼な妄想を広げていた

すると、先生は私の考えを察してくれたのか

サリー「あの夫婦は私の知り合いだから、信頼はできる人達だから、その点では安心して大丈夫。でも、貴女がこの院に残りたいと言うなら無理に薦めたりはしないわ」

こういう時、先生は噓をついたりしない事は知っている為、少し安心した

エメ「…じゃあ、その申し出を受けさせてもらいますね」

サリー「分かったわ。あの夫婦にもそう伝えておくわね」

エメ「(私の、新しい家族…か)」

少し不安はあったが、新しい家族とうまくやっていけるよう頑張ろうと決心しその日はいつもより早めに寝た

 

次の日

老父「やあ、数日ぶりだね。僕は篠原克典だよ」

エメ「(シノハラカツノリ?珍しい名前ね…外国人かな?)エメラルド・マーティンです。エメって呼んでください」

老母「私達の申し出を受けてくれてありがとうね。私は篠原恵美子よ」

エメ「こちらこそ、これからお世話になります」

克典「僕達はもう家族なんだから、敬語なんて使わなくていいよ」

エメ「えっと、じゃあ…父さん、母さん」

恵美子「この年で母さんって言われるのはなんだか恥ずかしいわね。それも、孫ほど歳の離れた子に」

サリー「あら、もうお二人と打ち解けてるじゃない。心配はなさそうですね」

克典「サリーさん、貴女の教育はとても素晴らしいよ。こんなしっかりとした優しい子はそうそう居るもんじゃない」

サリー「いえ、エメはこの院に入ってきた頃からそんな感じで、しっかりしていたんですよ」

恵美子「あら、そうだったの?頼りになる子なのね」

そう言って恵美子さんは優しく笑い、私の頭を撫でた

そんな事をしているとき、院の中からみんなが出てきた

メリー「エメ、向こうでも元気で暮らしてね!」

マルコ「エメなら大丈夫だ!エメはしっかり者だからな!」

エメ「皆…ありがとう!」

思わず泣きそうになったが、どうにか踏みとどまれた

その後、ちょっとした手続きを終わらせ、正式に私はこの二人の養子になった

克典「さあ、手続きも終わったし、私達の家に行こうか」

そう言われ、克典の車に乗り2時間足らずで夫婦の家に着いた

家の中で、とりあえずお互いの事をもっとよく知ろうという話になり、互いの話をした

大まかに言うと、この夫婦は日本人で、恵美子さんの方が若い頃に患った病で子を残せなくなってしまい、子供がいなかったそうだ。そのまま年を取り、仕事でこっちで賃貸を借りて長期滞在している時に養子の事を知り、以前から交流があったサリー先生の所を訪ね私の事を知ったそうだ

しかも、あと数週間で日本へ再び帰るそうだ

エメ「(日本語か…かなり難しいって聞くけど、頑張らなきゃ!)」

次の日から、二人に教えてもらいながら日本語を勉強し、日本に帰る日までに簡単な日本語程度なら片言ではあるが、喋れるようになった

 

★次元の壁★

ここからは言語フィルターなしの日本語でお送りいたしております

★次元の壁★

 

帰国日当日

関西国際空港

空港員「…はい、パスポートをお返ししますね。良い旅を」

エメ「ア、アリガト」

まだ少し拙い日本語だった為、エメは自分の返答が間違ってないかと思い克典の方を見ると、その思いを察してくれた

克典「うん、大丈夫だよ。上手だった」

どうやら大丈夫のようだ

 

数時間後

篠原家

その後、さらに克典の車で揺られること数時間、やっと夫婦の日本の家に着いた

恵美子「さぁ、ここが私達の家よ」

エメはゆっくりと単語を話してくれている恵美子の言葉を少し頭で反芻しながら聞き、家に着いたと言っているのだと理解した

エメ「こコが、私のイえ?」

克典「そうだよ。ここが今日から僕達とエメの家」

家の中に入ってみると、特別広い訳ではないが、決して狭い訳ではない。むしろ、三人で住むなら少し広いといった位だった

克典「ところで、エメに一つ提案があるのだけど」

エメ「テいあン?」

克典「そう提案、エメはスクールに行く気はないかい?」

エメ「スクール?行きタイ!でも…マだニホンゴうまくナい…」

恵美子「大丈夫よ、学校に行くのは来年度だから、ゆっくり日本語を覚えていけばいいわ」

再び日本語の勉強が始まったが、エメは二人の迷惑にならないようにと思うと不思議と苦にならなかった

 

数か月後 編入日当日

克典「最近イギリスの訛りが減ってきて、日常会話位なら問題なくできるようになったね」

エメ「うん、頑張った!」

恵美子「編入までに間に合ってよかったわね」

エメ「まだ日本語を読むのは少し苦手だけど、会話はたぶん大丈夫だと思うわ」

克典「それじゃ、学校に行ってきなさい。早く友達ができるといいね」

エメ「良いお友達出来るように頑張るね!」

そういい私は編入先の小学校へと走っていった

 

茨木中央小学校

エメ「エメラルド・マーティンです。一年間よろしくお願いします」

担任「はい、じゃあみんなエメラルドちゃんに質問ある子ー」

担任がそう言うと、一斉に手が挙がった

担任「えっと、じゃあ山口君」

山口「食べ物とかは何が好き?」

エメ「豆乳とか、あっ、あとヤクルトとか好きです」

担任「(8歳で豆乳とは…既に健康に気を使ってるのかただ単に豆製品が好きなのか…)はい、じゃあ次は…太田ちゃん」

太田「どんな遊びが好きなの?」

エメ「遊び?…走る系の遊びなら結構好きですよ」

担任「はーい、そろそろ質問タイムはおしまい!他は後でエメラルドちゃんに個人的に聞いてちょうだいね」

担任が質問を途中で切り、あとで個人的に質問するように言った為、休み時間になった途端に私はクラスメイトに囲まれ、質問攻めにあい、全く休んだ気がしなかった

 

夕方

恵美子「エメ、初めての学校はどうだった?」

エメ「皆に質問攻めにあってすっごく疲れた…でも、みんな優しそうで良かったし、楽しかったよ!」

克典「それは良かった。勉強の方はついて行けそうかい?」

エメ「うーん、今日ちょっと受けた感じだと、国語が…」

克典「算数とかは大丈夫そうなのかい?」

エメ「うん、まだ日本語が不十分でも数字だけだから何とかわかる感じ。国語も今のところはまだギリギリ大丈夫そうだけど、来年、再来年ってなったら危ういかも…」

恵美子「じゃあ、国語を頑張らなきゃね!」

克典「まあ、たぶん小学生レベルなら僕らでも分かると思うから、分からない所は聞きにおいで」

エメ「分かったわ。たぶん結構な頻度で聞きに来ると思うけど、頑張って勉強しなきゃ日本での生活がしにくいもんね!」

恵美子「フフッ、すごいやる気ね」

その日も寝る直前まで国語の勉強を二人に手伝ってもらいながら進めていった

 

To Be Continued




サリー孤児院のみんなと篠原夫婦のおかげで、人間不信から脱することができたエメ
小学校の友達はみんな優しく、今までの生活とは似ても似つかない平和な卒業を迎える事が出来たが…
次回『いじめ』

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