エメの過去   作:フリッカ・ウィスタリア

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全く来た事の無い場所でママが車を止めると、用事があるから建物の前で待っていて欲しいと言われたエメはずっと母を待っていたが…


ストリートチルドレン

12年前

イギリス 某所

ブルルルル…

ママの運転している車が急に街中で止まった

エメ「ママ、どうしたの?」

母「…エメ、ママはちょっと行かないといけない所があって、そこにエメは連れて行けないんだけど、待ってられるわよね?」

エメ「ママ、どこに行くの?帰ってくる?」

母「…ええ、帰ってくるわ。だから、ママを追いかけてきちゃだめよ?」

エメ「うん!分かった!ちょっと寂しいけどエメ待ってる!」

エメは元気よく返事した。しかし、なぜか母親の表情は晴れず、何かを言いたげだった

エメ「ママ?どうしたの?どこか痛いの?」

母「え?…ううん、何でもないよ。じゃあママ行くね」

エメ「うん、行ってらっしゃい!」

エメは母がどこに行くのか、いつ頃帰ってくるのかを全く教えられぬまま母を送り出した

 

数時間後

あれからかなりの間待ったが、いまだに母はエメの所へ帰ってこなかった

エメ「(ママ、遅いなぁ…)」

もう日も落ちてきて、かなり暗くなってきたというのに帰ってこない母を待っていたエメだったが、時期が秋だった事もあり夕方になるとなかなかに冷え、エメは少し震えていた

遂に痺れを切らしたエメは、母を探しに歩き出した

エメ「ママー!どこー!早く帰ってきてよぉ…」

泣きべそをかきながら夕方の街を彷徨ったエメだったが、母の姿は一向に見つからなかった

エメ「(ママ…どうして帰ってきてくれないの?…私何か悪い事しちゃったのかな…)」

エメは自分が何か母に悪い事をして母が怒って置いてけぼりにしたのだと思った

しかし、真実はそうではなかった

エメはまだ幼くて知る由もなかったが、エメの家は不幸続きで家計が崩壊寸前であった

そのうえ最近父親も大病を患い、とても働けるような状況じゃなかった

その結果、家計が回らなくなり、母親が独断でエメを捨てる事にしたのだ

そんな事を知らないエメは足が疲れても、指先が冷たくなって凍えてきても母をずっと探し続けた

そして次第に日は落ち、もう夜になってしまった

エメ「寒い…ママ…私良い子になるから、帰ってきてよぉ…」

いつまで経っても迎えに来てくれない母に対し、半ば懇願するように泣き始めてしまった

???「どうしたんだい?お嬢ちゃん」

すると、誰かが話しかけてきた

エメ「お爺ちゃん、誰?」

???「ん?僕はノアだよ。お嬢ちゃんの名前は?何で泣いてるんだい?」

エメ「私はエメ…ママが…迎えに来てくれないの…私、ママに何かしちゃったのかな…」

ノア「そうか…ママがなぁ…もしかしたらエメちゃんが何かしちゃったのかもしれないし、してないかもしれない。でも、こんな夜になるまで迎えに来てくれないっていうのは、ちょっと不自然だねぇ」

エメ「うん…私が何かしちゃったなら、ママにごめんなさいしたい」

ノア「おっ、エメちゃんはちゃんとごめんなさいできるのか。えらいねぇ」

ノアは優しくエメの頭を撫でた

ノア「とにかく、こんなところに居たら風邪をひいてしまうから、ちょっとこっちへおいで」

そういってエメを近くの公園へと連れて行った

エメ「お爺ちゃん、これは何?」

ノア「これ?これは僕の家だよ。これだけでもかなり雨風は防げるからね」

ノアが連れてきた場所には幾つかの段ボールを組み合わせて作ったと思われる簡易な家があった

ノア「さあ、二人だと少しきついけど、外にいるよりは暖かいからね」

そう言われてエメは段ボールの家の中に入っていった

エメ「ほんとだ!暖かい!」

ノア「気に入ってくれたようで何よりだ。さあ、今日はもう遅いから寝るといい。ママを探すのはまた明日だ」

エメ「わかった。おやすみなさい」

エメは長い間歩いた事で疲れていたのだろう、目を瞑るとすぐに眠りについてしまった

ノア「(この周辺で置き去りにされたという事は、この娘はおそらく家の事情で捨てられたんだろうな…それにしても、こんな小さい子を捨てるなんて、甲斐性のない親だな…見たところまだ4、5歳じゃないか…)」

ノアはそんな事を考えながらエメの頭をゆっくりと撫で、ストリートチルドレンになった頃の自分の姿をエメに重ねていた

ノア「(さてと、そろそろ寝るかな…)」

 

次の日

エメ「んぅ…朝?」

ノア「ああ、そうだね」

エメ「ママを探さなきゃ…」

ノア「もう行くのかい?」

エメ「うん。早くママを見つけて、ごめんなさいしないと…」

エメがそう言うと、ノアの表情が少し曇ったが、すぐまた笑顔になり、エメを送り出してくれた

ノア「お母さんが見つかるといいな!」

エメ「ありがとう!おじいちゃん!」

ノアにお礼を言ってから、エメは再び母を探しに歩き回った

 

2時間後

グゥゥゥゥ…

エメ「おなか、すいたなぁ…」

よく考えてみれば、昨日の昼から何も食べていない。お腹が減るのは当然だ

エメ「ゴミ箱を漁るのは抵抗あるし…どうしよう…」

そんな事を思いながら歩いていると、パン屋の前に来ている事に気が付いた

エメ「パンの良い匂いがする…でも、お金持ってないから買えないなぁ…」

そのとき、店の裏口から女が出てきた

女「あれ?お嬢ちゃんどうしたの?」

エメ「え、えっと…」

エメが言い淀んでいると、再びエメの腹が鳴った

女「あぁ、お腹が空いてたのね。ちょっと待ってて」

そう言って再び店の裏口に入って行き、袋を持って戻ってきた

女「はい、昨日の残り物だけど、まだ美味しいと思うから君にあげるね」

エメ「あ、ありがとう」

女「ところで、君お母さんかお父さんは?」

エメ「分からない…昨日の夜迎えに来るって言ってたのに、まだ迎えに来てくれないの…」

女「そうだったの…」

女は少し何かを考えているようだったが、考えが纏まったのか、再びエメに話しかけてきた

女「私の家に匿う事は出来ないけど、この時間に来てくれれば、残り物のパン位ならあげれるから、欲しいならこの時間においで」

エメ「え?いいの?」

女「大丈夫よ。でも、他の孤児の子も来るから、あまり遅いと無くなっちゃうけどね」

エメ「あ、ありがとう!」

お礼を言ってからエメはパンをもらい、また歩き出した

女「あの子…ここらで見た事ないはずなのに、どこかで見た気がするのよねぇ…」

 

エメ「今日もママ見つからなかったなぁ…」

朝からずっと母を探したものの、相変わらず母の姿は見つからなかった

エメ「(寒っ…とりあえず、どこか風の当たらない所に行かないと…)」

そう思い、近くの森の中へ入って行くと、運の良い事にもう使われていないであろうボロ小屋があった

エメ「あっ、あそこなら外より寒くないかな?」

中に入ってみると、小屋の中には明かりなどはなく、うっすらと棚がある事だけは確認できた

エメ「何か足元に転がってるけど、どかしちゃえば寝転がれるよね」

手探りで床に散らばっている物をどかし、スペースを作りそこに寝転がった

エメ「(なんか、床がざらざらしてる…砂でも散らばってるのかな?)」

床の形は見えるものの、細かい物となるとさっぱり見えなかった

その時、小屋の扉が開き、ランプを持った男が入ってきた

男「ん?なんだお嬢ちゃん」

エメ「え?おじさん誰?」

男「おじさん?この小屋の持ち主だよ」

エメ「ご、ごめんなさい!すぐ出ていくね!」

慌てて小屋から出ていこうとするエメだったが

男「いや、出ていかなくて大丈夫だよ」

エメ「でも…」

男「だって…お嬢ちゃんはここからもう出ないからね」

エメ「…え?」

今何か会話がおかしかったような感じがする

エメ「ど、どういうこと?」

男「どういう事って、そのままの意味だよ」

そう言いながら、男は少しずつエメの近くに寄ってきた

すると、エメの足元も少し照らされて床がはっきりと見えた

エメ「こ、これって…血⁉」

先程ざらざらしていると感じたものは、乾いた血だったのだ

男「あーあ、それを見られたら、なおさら帰せなくなっちゃったよ」

男はエメの腕をつかみ、押し倒した

エメ「お、おじさんやめて!痛い!」

男「いいねぇ…女の子の悲鳴はやっぱりいい…」

男は気味の悪い笑みを浮かべると、エメの服を強引に脱がし始めた

エメ「やめて!誰か、誰か助けて!」

男「こんな森の中で叫んだって誰も助けに来ないよ!諦めなお嬢ちゃん!」

エメは必死に暴れたが成人男性の腕力に勝てるわけもなく、もがいているだけだった

男「ああそうだ…あれを持って来よう」

すると、不意に男がエメの拘束を解き何かを取りに行った

エメ「(は、早く逃げないと!)」

エメは必死に扉まで走り扉を開けようとしたが、扉はビクともしなかった

男「ハハハ、その扉は閂をしてるからお嬢ちゃんには開けれないよ!残念でしたー!」

再び男に担ぎ上げられ、小屋の奥まで連れて行かれてしまった

エメ「なんでこんな事をするの!?」

男「なんでって、楽しいからだよ」

笑いながらそう言った男の手には、中型のナイフが握られていた

男「さあ、もっといい声を聞かせてくれよ!」

今にでも男がナイフをエメに突き立てようとしていた時、外で微かに人の声がした

女A「ねぇ、今なんか声しなかった?」

女B「気のせいじゃない?ここら人いないし」

エメ「(誰か近くにいる!?)助けて!たすムグッ⁉」

男「チッ!黙ってろ!」

男はエメの口を手で塞ぎ、叫べないようにした

エメ「(外の人がどこか行っちゃったら、今度こそ殺されちゃう!)」ガブッ!

男「⁉いってぇ!」

エメに手の皮を嚙み切られた痛みで男はナイフを取りこぼしてしまった

エメはすぐにそのナイフを掴み、半狂乱になりながら男の胸元に突進した

男「がっ!?」

男が仰向けに倒れ、今度はエメが男に馬乗りになる形になった

エメ「(死にたくない!死にたくない!!死にたくない!!!)」

男「グッ!…痛っ!…や、やめ…」

必死にナイフの抜き刺しを繰り返しているうちに、男がピクリとも動かなくなった

エメ「あ…あぁ…私…人を…」

殺されそうだったからとはいえ、人を殺めてしまった事に動揺を隠し切れないエメだったが、とにかく助かった事に対する安心が上回ったのか、脱がされた服を着直してから男のランプを引っ掴んで扉まで行き、閂を苦戦しながらも外して外へ出た

そして、見晴らしの良い草原を途中で見つけ、そこで今夜は野宿することにした

エメ「(私…お巡りさんに捕まっちゃうのかな…)」

そんな不安が頭を巡ったが、当時のDNA鑑定はかなり低精度で、あまり証拠になりにくいものだった

その為、数日後に小屋から見つかった男の遺体を調べても決定的な証拠は何も見つからなかったが、それはまた別のお話

 

数日後

エメ「あのお姉さん、朝に来れば余ったパンをあげるって言ってくれたけど、あのお姉さんはひどい事しない人…だよね?」

数日前の件以来、少し大人に不信感を抱き始めていたエメは数日間だけ野宿をし、食事は野草やキノコを食べていた。しかし、それだけでは栄養も偏ってしまうので、恐る恐るといった様子でパン屋へと足を運んだ

すると、エメがパン屋に着いた時点ですでに先客がいた

子供A「おはようマリさん、パンまだ余ってる?」

どうやら、パン屋のお姉さんはマリと言うようだ

マリ「ええ、あんた達にあげれるくらいは余ってるわよ」

子供B「やったぁー!」

子供C「あれ?君は誰?」

少し離れた所に居たというのに、3人の子供のうち一番大きな子に見つかってしまった

エメ「えっと…エメラルド」

大まかに見て5歳は年上と思しき子に話しかけられた事で、私は少し言葉を詰まらせた

子供B「見たことない子だけど、君も孤児なの?」

エメ「孤児?」

子供B「要するに、親がいないのかって事よ」

エメ「ママもパパもいるよ。でも、迎えに来るって言ってたのに来てくれないの…」

子供A「それって、捨てられたんじゃないの?」

今まで誰もエメにその事実をあえて言わなかったが、この子はさらっとそうエメに言ってしまった

エメ「ママが…私を?」

子供A「だって、普通母親が迎えに来ないなんておかしいじゃん。そんなの、十中八九捨てられたんだよ」

子供C「お、おいビリー、いくらなんでも言い過ぎ…」

ビリー「言い過ぎなんかじゃない!僕だって、二人だってそうだったじゃないか!」

マリ「はいはい、こんな所で喧嘩しないの。そうだ、丁度いいわ。この子をあんた達の所に入れてあげたら?身寄りがないのには変わりないんだし」

イヴ「この子を?…どうする?」

テトラ「どうするって、入れる一択だろ。僕らだって人数がいた方が何かあった時良いんだし。ビリーもそれでいいよな?」

ビリー「僕はどっちでもいいよ」

エメ「で、でも…私はママを探さないと…」

マリ「ママを探すにしても、拠点も移動手段も確保しないまま動いたら自滅するわ。ママを見つける間だけでも食住を安定させた方が君のためよ」

エメ「…わかった。そうさせてもらうわ」

テトラ「じゃあ決定なエメラルド。僕はテトラ、下の名前は覚えてないからないよ」

エメ「う、うん。あと、エメラルドじゃ長いから、エメって呼んで欲しい…な…」

イヴ「分かったわエメ。私はイヴ、テトラと同じで下の名前はないわ」

ビリー「僕はビリー、名前は二人がつけてくれたから、元の名前は知らない」

マリ「ところで、ママの名前は何て言うの?」

エメ「ママはサテライト・マーティンって名前だよ」

その名前を聞いた瞬間、マリさんの顔が一瞬固まった気がしたが、すぐに笑顔に戻った

マリ「分かったわ。一応私の方でも情報を集めといてあげる」

エメ「ありがとう!」

やはりこの人は警戒しないでよさそうだ

母が自分を捨てたのではないかという事を聞かされたエメはまだ混乱していたが、身寄りがない今、寝泊まりする所ができるのは助かる為、この三人の所に厄介になる事にした

 

To Be Continued




エメの口から語られたサテライト・マーティンという名前、これを聞いたマリさんの表情はなぜ固まったのか…
次回『バイターズ』

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