岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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これにてマルさんとの決闘は終了です。




【マルギッテとの決闘 (後編)】

 マルギッテさん強過ぎる。

 多分時間にしても精々二、三分の攻防だった。

 

 強化を使用したマルギッテさんは、もはや自分の目を持ってしても、その姿はブレてしまって完全には捕らえ切れなくなっていた。

 それでも玉藻静石による黒天洞が間に合っていたのはキャスターによる感覚強化のお陰だ。

 

 ほぼ直感に従い彼女が行動を起こすと同時に玉藻静石を動かしていたが、それが仇となった。

 彼女はトンファーを囮に、玉藻静石の動きを止めたのだ。その事実に気付いて驚きのあまり逆側に身体が無意識に動いたところを狙われ、拳が脇腹にめり込んだ。

 

 反応できなかった。そのせいで踏ん張る事もできずに、力に流されるまま吹き飛ばされた。

 背中を木の幹に叩きつけられ崩れ落ちそうになるのを、木に寄り掛かる事でなんとか倒れずに踏ん張る。

 

 脇腹が折れて肉体のダメージも深刻だな。唯一の救いは内臓が無事な事だが、いつ壊されてもおかしくない。

 

 自身の状態を確認し、もはや最後の切り札を切るしかないと、余った川神水晶で自作し両手に填めた数珠の左腕の方に気を送り、いつでも発動できるようにした状態で詠唱を開始する。

 

「ここは我が国、神の国、水は潤い、実り豊かな中津国。国が空に水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光。我が照らす。豊葦原瑞穂国、八尋の輪に輪をかけて、これぞ九重、天照――」

 

 詠唱の途中でマルギッテさんが動こうとしたので数珠を起動させて即席の『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を展開する。

 

 マルギッテさんは熾天覆う七つの円環を見た途端に動きを止めてくれた。

 熾天覆う七つの円環は黒天洞と違って移動できないただの大きな気の盾だ。精々一、二秒の時間稼ぎ程度の効果しか期待していなかったが、警戒して足を止めてくれたのは嬉しい誤算だ。

 

「水天日光天照八野鎮石」

 

 詠唱を終え、力を蓄えた玉藻静石が砕けると、キャスターがかつて使用した宝具に肖って作り上げた結界術が発動する。その効果は『龍脈を流れる大地の気を自身と繋げる』というものだ。

 

 術の発動は成功し、山の下を流れる龍脈から一気に自分の身体に向かって大地の気が送られてくる。

 

「――っごふぅっ!!」

 

 と同時に身体の中で膨れ上がり暴れる大地の気のせいで身体中に激痛が奔り、堪らず吐血する。

 そもそも大地の気を自分に馴染ませずに体内に無理矢理流すという行為自体が自殺行為であり、下手すれば肉体が文字どおり崩壊してもおかしくない。

 キャスターで感覚を強化しなければ、体外へ排出しながら必要な分を集めるなんて芸当は不可能と言ってもいい。

 

 元々のダメージと術の発動の痛みで眩暈を起こしながら、その痛みから開放される為、すぐに次に移る。まだ切り札の完成には至らない。むしろようやく準備を終えた段階だ。

 

 歯を食い縛って更に詠唱する。

 

「舞い散るが華、斬り裂くは星、これぞ至高の美。万雷の喝采を聞け。インペリウムの誉れをここに、しかして讃えよ。ドムス・アウレアと――」 

 

 最後の一文を前にマルギッテさんの動向を確認する。何故か彼女はその場から動いていなかったが、こちらとしては好都合だった。それでも気を緩める訳には行かないので、彼女を警戒しながら唱える。

 

舞い詩う黄金劇場の道化者(アエストゥスドムスアウレアジェクラトル)演目(アクト)童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)

 

 集めた大地の気を触媒として、自分の周囲に新たな結界術を形成する。

 

 そして世界はその姿を変え、かつてセイバーが戦っていた黄金の劇場がその姿を現した。

 

「……優季、私は今、あなたが実は魔法使いだと口にしても信じる自信があります」

 

 バラの花弁が天から降り注ぐ豪華絢爛な黄金の舞台の上で、マルギッテさんはもはや呆れたように笑いながら呟いた。

 

「魔法使いなんておこがましい。自分はただの……人間です」

 

 マルギッテさんに返答しながら自分の状態を確認する。

 

 大地の気が身体から無くなった事と、黄金劇場の効果によって肉体の治癒力が少しだけ上がったお陰で、なんとか両足で立つまでには体力は回復した。

 

『招き蕩う黄金劇場』

 

 かつてセイバー使った自身の知る領域を自分に都合の良い効果を与えて世界の上に建築するという魔術。

 

 その魔術を何年も掛けて構想を組み、実験し、ようやく完成させたのが大幅に効果の下がった劣化版招き蕩う黄金劇場である、舞い詩う黄金劇場の道化者だ。

 

 劣化版とはいえ、使用には大幅な準備を必要とし、制約もある。 

 

 まず自身の気力では発動させるには気力が不足している為、キャスターの水天日光天照八野鎮石で大地の気を集めてそれを用いる必要があった。

 

 そしてセイバーは招き蕩う黄金劇場という一小節のみで、あらゆる領域を世界の上に直接建築できたが、そもそも自分には世界の上に領域を建築出来るほどの才も無ければ、作り手としての経験も圧倒的に不足している。故に自分が作れる領域はセイバーが見せてくれた『黄金劇場』のみであり、劇場である為に明確に『演目』を宣言しなければ『効果』を得られない。演目を宣言しないとただの黄金の劇場が広がるだけだ。

 

 そして今回の演目は『童女謳う華の帝政』。

 その効果はセイバーの宝具と同じ主人公役はあらゆる事に上昇効果が働き、敵役は逆にあらゆる事に下降を受けるという効果。

 

 何度か拳を握って状態を確認する。

 

 さっきよりも力は入る……いけるか?

 

 正面のマルギッテさんに視線を移すと、彼女は訝しそうな表情で自分の身体を一瞥した。その様子からマルギッテさんにも効果はちゃんと出ているようだ。

 

 自分の感覚だと童女謳う華の帝政の効果は現状の自身の能力を約三割上昇させる。逆算すると相手は三割減少と考えるのが妥当だ。そして純粋に考えるならこの時点で互いの戦力は六割の差が出る。だがそれは力が同程度ならばの話であり、上昇はともかく減少の値は予測でしかない。

 

 なんせ対人で使うのは初めてだからな。

 

 強化を使用したマルギッテさんはかなり強い。まともに対応するにはせめて身体が反応できるくらいには差が縮まっている必要がある。

 

 結界の維持は五分が限界だ。呪術では避けられる可能性がある。迷っている暇は……ない!

 

「ふぅ……ふっ!!」

 

 呼吸を整え干将・莫耶と残った右腕の数珠を消費して玉藻静石を具現して一気にマルギッテさんとの距離を詰める。

 

「っ――はっ!」

 

 マルギッテさんがこちらの行動に気付くと不敵な笑みを浮かべて同じ様に駆け出す。

 劇場の舞台の中心でお互いに剣とトンファーを突き出し合う。

 

「「――!?」」

 

 お互いに頭を狙った攻撃を首を横にずらして回避する。彼女の動きはなんとか視認できるレベルにまで落ちていた。

 

 これなら!

 

 双剣を縦に横に斜めにと可能な限り勢いを殺さないように繰り出し続け、マルギッテさんはその攻撃を時には避け、時には防ぐ。リーチの優位は自分に有るが、双剣の扱いが未熟過ぎてこちらの攻撃が当たらない。

 

 だが今はそれでいい。この技はゆっくりと気を練らなければならない。その時間を稼げれば十分だ。

 

 攻防が続くとマルギッテさんもこちらの動きに慣れたのか、カウンターを合わせ始めた。そのカウンターを回避しつつ攻撃を繰り出す。

 

 攻防の間彼女の瞳を見続ける。諦めない強い意志の宿った者の瞳。そして何かを探るような目。

 

 読まれている?

 

 マルギッテさんは間違いなく警戒している。『何かを狙っているんじゃないか?』と。

 

 もしかして彼女が深く踏み込んで来ないのは警戒していると同時に、こちらの最後の一手にカウンターを合わせる為か?

 

 そこまで推察するが、自分はそれでも攻防を繰り返し、マルギッテさんも応じる。

 自分は次の一手で彼女を倒す為に。マルギッテさんはその一手を逆手に自分を倒す為に。

 

 体感にして一、二分の攻防の末に、準備が整う。

 

 マルギッテさんのトンファーの突きを双剣で上に弾き、同時に双剣の柄から手を放す。

 マルギッテさんが一瞬驚きの表情を浮かべる。その隙に右手に今迄溜めた力を込め、近距離最速の技である一足一打を放つ。

 

 掌底が後数センチで彼女の鳩尾に叩き込めるという距離まで迫る……が、その掌底は空を切る。

 

「――ふっ」

 

 マルギッテさんに右斜め後方にステップされて回避された。

 その動きは先程までと違って素早く、かろうじてマルギッテさんが死角に入る間際に、腕を引く動作だけは捉えられた。きっと拳を放つ準備に違いない。

 

 こちらは腕を伸ばしきり、勢い良く踏み込んだ為、もはや自分自身では方向転換している暇が無い。

 

 故に玉藻静石で攻撃する。自分自身を。

 

「おおお!!」

 

「何っ!?」

 

 玉藻静石に左斜め後方から勢い良く平面で体当たりしてもらい、彼女の逃げた方へと無理矢理身体を吹き飛ばす。

 

 脇腹が痛い。だが方向は修正され、マルギッテさんとの距離も縮まる。

 伸ばした腕を僅かに曲げ、右手に溜めた力で、一振りの剣を具現させる。

 

 童女謳う華の帝政の上昇効果とキャスターの礼装効果によってようやく具現に至れる光り輝く聖剣。

 

「『永久に遥か(エクスカリバー)――」

 

 それを彼女を倒す為に――

 

 

「――黄金の剣(イマージュ)』!」

 

 ――振り下ろした。

 

 

 

 

 黄金の劇場は硝子細工が砕けたような音と共に砕け散る。その音を聞きながらマルギッテは光の濁流に飲み込まれる。しかしその表情は清々しい物だった。

 

 魔法、黄金の劇場、極めつけは聖剣ときた。本当に、お前は何者だ優季。

 

 意識が飲み込まれる最中、マルギッテは小さく笑った。

 

 どうでもいいか。大事なのはそれらを受けた『初めての相手』が私だという事だ。

 

 自分達の決闘を監視していた者達に、マルギッテは気付いていた。もっとも、すぐに彼らに対しては意識を向けるのを止めた。何故なら手は出してこないと知っていたからだ。

 

 悔しいだろう強者ども。特に武神、史上最強。もうお前達はこれらを知った。知ってしまった。『自分を驚愕させる』という強者にとってこれ以上無い喜びを、私が全て味合わせて貰った!!

 

 マルギッテはもはや意識を保てないと理解している。

 女としては悔しい思いもある。だが、優季の性格上まだ挽回は可能だと開き直った。そして開き直った以上、意識を失う最後の瞬間まで、この強者としての、武人としての歓喜を堪能し尽くす事にした。

 

「ああ、本当に……最高の決闘だった」

 

 マルギッテは幸福感に包まれながら、光の濁流から受ける衝撃に身を任せそして……意識を失った。

 




物凄い詰め込んだ回でしたが、やりたいこと全部やったので満足。

今回やったキャスター→セイバー→アーチャーと自サーバント三人の技をコンボみたいに繋げると言うのは実は当初から一度やりたかったんですよねぇ。
ギルとエリザは技が絡ませ難かったので仕方ないね。

とりあえず一段落です。で、次回から何話か書いた後は、本編最終イベントに入る予定だけど、その前にまじこいSで、もう一回情報収集しないと……ああ記憶力が欲しい(しばらく経つと細かい部分を忘れちゃうんですよねぇ)


【技・武器解説(簡略版)】(Fate/EXTRAを知らない人用です)

『招き蕩う黄金劇場』
セイバーの宝具の魔法に近い魔術。
由来は彼女が建てた劇場であるドムス・アウレア。
ゲームでは発動中は筋力貫通ダメージと敵の弱体化の効果を得るというシンプルな効果だが、本編でも語ったとおり、彼女はこの魔術で好きに色々な領域を作れるので結構なチートである。しかも固有結界よりも燃費が良く長持ちする。
彼女の私設工房から料理のキッチンスタジアム。果てには主人公と結婚する為だけに教会まで造ってしまうと言う、まさに皇帝の名に相応しいやりたい放題の技である

因みに主人公に同じ技名として使わせなかった理由は、劣化の意味も勿論あるが、作者的な理由を述べるなら『主人公は相手を楽しませる側である』というのを強調したかったから。ただそれだけである。

『永久に遥か黄金の剣』
由来は原作stay nightに登場するアーサー王の所持していた聖剣エクスカリバー。
アーチャーの宝具である無限の剣製の中でのみ使用できる約束された勝利の剣(エクスカリバー)の贋作である。
劣化版聖剣と言えば分かりやすいだろう。
しかし劣化とは言え聖剣である為その威力は彼の持つ技の中では一番威力が高い。と同時に消費MPも高い(流石は高燃費サーヴァントの宝具。道具もまた高燃費である)
実は彼が作る贋作の中では唯一元の武具とは名前が大きく違う。きっと彼にとっては譲れない大事な理由があるのだろう。
……と、イイハナシダナー的に書いたが、多分理由は劣化と言う意味を伝えたかっただけなんだと思う。なんせスタッフ陣が勝手にモーション作っちゃって慌てて追加した技らしいので(参考=設定資料)


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