今回はマルさん視点となります。
まさかここまで追い詰められるとは。
内心で苦笑しながら、攻撃を受けた左足を見詰め、私は先程までの攻防を思い返す。
自分が優季に恋していると受け入れた翌日。私は自分でも驚くほど心穏やかに、その日を迎えた。
体中に力が漲る。まさにベストな状態で私は決戦の地へと赴き、トンファーを取り出していつでも戦えるように準備を済ませる。予感のようなものがあったのだ。この戦いで油断は命取りだと言う予感が。
そしてそれは的中した。やって来た優季の姿は異様だった。例の礼装と言う技だろうが、先日とは違う姿と違う防具だった。
だがそんな事を気にする余裕は無かった。優季の真剣な表情と気迫から、彼もまた自分と同じ予感を感じたことは明白だった。
お互いに特に何も語らず、戦闘体勢に入りそして……私にとって驚愕を覚える戦いが始まった。
符術と同じ名でありながらまったく違う威力と仕様の技。それはら何も無い空間に突如西洋のそれとは違う漢字と対極図で作られた和風な魔方陣が展開され、放たれる。
正直初見の炎天を始め、直感をフル稼働してようやく避けれていると言った状況だった。お陰で攻撃にまで思考を割く暇が無い。
出鱈目もいいところだ。
以前那須与一が言っていた『魔術師』という単語が頭を過ぎり納得してしまう。
実際魔術師のような攻撃に加え、優季はその場から動かずに遠距離からの攻撃を繰り返していた。動けぬ理由があると判断した私は多少のダメージを覚悟して接近戦を試み、そして彼の右目に一撃入れる事が出来た。
もっとも、代償として私は左足に深刻なダメージを受けたがな。
罅が入ったのは間違いない。下手すれば折れるだろう。
右目を腫らしながら、立ち上がった優季に、私は純粋な賞賛を送った。
「咄嗟に氷天で私の左足を攻撃するとは、やはり簡単には倒せませんか」
「攻撃を受ける事が避けられないなら、それを逆手に反撃するのは当然でしょう?」
優季は真剣な表情で、しかし口元に笑みを浮かべながらそう答えた。
私はその答えに可笑しくなってしまい、つい気を緩めて笑ってしまった。
「くく、確かに」
ああ、またお前の新しい一面を知ってしまった。お前は相当に負けず嫌いなのだな。
普通、予想外の攻撃を受ける時は、反撃に思考が回るよりも早く、大抵の場合は反射的に肉体が防御の姿勢を取るものだ。
だと言うのに、優季は平然と反撃して来た。あの拳が届くか届かないかと言う僅かな時間でだ。
その上彼にとっては攻防の起点となる目を潰されたと言うのに、未だその瞳には一切の衰えも、怯えも無く、闘志に満ち溢れている。
ああ優季、お前は何度私をときめかせれば気が済むのだ。
強い眼差しに射抜かれ痛みとはまた別の熱が肉体を包む。
だがやはり、お前を手に入れるためにはこちらも覚悟を決めねばならないみたいだな。
「やはり私が認めた男です。故に見せましょう。優季、これが……私の全力です」
その言葉と共に、私は強者としてのプライドを捨てた。
全身に気を漲らせると、肉体が熱を持ち、活性化して行くのが分かる。
「まさか強化!?」
優季はありえないとばかりに目を見開き、今迄で一番の驚きを見せた。
人を驚かせるような技ばかり使う優季を逆に驚かせたことに愉悦を感じ、同時に嬉しくもあった。
何故なら彼は私が強化を使わないと思っていたからこそ驚いた。それはつまり、私を強者と思っていてくれたということだ。
悪いな優季。今の私は矜持に生きる武人でもなければ誇りに順ずる軍人でもない。
今の私は、形振り構わない一人の男に恋する……乙女だ!!
全身の強化を終えて優季へと視線を移す。彼は既に臨戦態勢に入っていた。切り替えの早さは流石と言える。
「この姿を見た事を誇りに思いなさい。では……行くぞ」
宣言を終え、私は一気に駆けた。優季の死角である右側に。そして拳を放つ。
大きな衝撃音が山中に響き渡った。
「ッ!」
拳に衝撃を感じながら目の前の黒天洞と呼ばれたシールドを見詰める。
優季は視線どころか身体すら反応を示さなかった。その事からこちらの動きを完璧には捉えていなかったはずなのだが、実際は完璧に防御された。
直感や危機察知によって咄嗟に動かした? 確かめるか。
強化した身体能力に任せてすぐにその場を移動し、黒天洞の範囲外へと回り込んで拳を放つ。そして拳を放ちながら視線だけは黒天道だけを見詰める。
すると優季の身体や視線が動くよりも早く、黒天洞の中心である鏡のような武具が横にスライドするように移動し、シールドが、こちらの攻撃を受け止められる位置まで移動してくる。そしてシールドの端に拳が当たると、今までと同じ様に衝撃を吸収されてしまう。
私はこれまでの観察から、黒天洞というシールドは、攻撃した時の衝撃を札に流して外へと逃がしていると仮説を立てる。
仮説を信じるなら黒天洞に触れるのはまずい。そして優季自身の、少なくとも肉体は反応できていないように思える……ならば!
私は先程と同じ様にシールドに守られていない位置へと瞬時に移動してトンファーを棍棒の様に持って振り被る。
予想通り黒天洞がこちらに移動した瞬間に、持っていたトンファーを投げつけ、自身は更に早く動くべく足を無理矢理動かす。
―――っ!
左足に激痛が走り何かが軋む音が体内に響くがそれを無視する。
黒天洞にトンファーが触れた瞬間、黒天洞の動きが僅かに止まる。衝撃を吸収する瞬間、僅かにだが黒天洞は動きが止まる。
私は一瞬にして優季の左側は回り込み、無防備な脇腹目掛けて拳を放つ。
「はっ!!」
「がっ――!!」
懇親の一撃を優季に叩き込む。彼は顔を苦痛に歪めて吐血しながら吹き飛んで行く。
手応えはあった。確実に骨を折った手応えはあった。だが、私の顔に笑みは無い。
あの状況で自分から攻撃を受けに来るだと!?
先程、優季は一歩分身体をこちらに寄せた。そのせいで距離が僅かに縮まり、こちらの威力を完全には乗せ切れなかった。
しかも拳の感触が確かなら、優季の身体に力みが殆ど無かった。身体の力みを解き、衝撃に逆らわないことで僅かにだが衝撃は外に逃げる。
優季はあの状況で被害を最小限に抑える為に行動したのだ。
できるかそんなこと!? 喰らえば致命傷の一撃を前に、力を抜いてその身を晒すなんて判断、それもあの一瞬で!?
初めて……心の底から恐怖した。私が相手しているのは……本当に人間か?
優季への恋心や戦いの高揚感を飲み込むように、私の全身を恐怖が侵食して行く。
「――此処は我が国、神の国、水は潤い、実り豊かな中津国――」
小さく呟かれたその言葉に、意識が現実に引き戻され、吹き飛ばされた優季の方へと視線を向ける。
「――国が空に水注ぎ、高天巡り、黄泉巡り、巡り巡りて水天日光――」
優季は叩きつけられたであろう木の幹に背を預けながら、呼吸は荒く、しかししっかりと言葉を紡いで行く。そして彼の言葉が紡がれる度に、彼の頭上で回転する鏡のような武具の力がどんどん膨れ上がって行く。
「――我が照らす、
まずい! よく分からないがあれは止めなければならないと、私の直感が言っている!
今の私なら一秒以内に詰められる距離だった。しかし走り出そうと構えた私の目の前の空中に、一瞬にして七枚のピンク色の花弁の巨大な花の何かが出現する。それがなんなのか解からずつい足を止めてしまい、その一瞬の判断ミスが、彼に続きを紡ぐ時間を与えてしまった。
「――水天日光天照八野鎮石――」
優季の武具が弾けると同時に直下型地震のような衝撃が私を、いや、山全体を襲い、それと同時に優季の肉体から在り得ない程の気力が溢れ、溢れた力が螺旋状になって天へと奔る。
く、震動で上手く動けん。それになんだこの重く気持ち悪い感覚は!?
まるで酸素や二酸化炭素の濃度が高い場所に行った時のような気持ちの悪さと、空気の圧のような重さが私の周囲を覆い尽くす。そのせいで上手く身体が動かない。
「ごほ、はあ、はぁ――舞い散るが華、斬り裂くは星、これぞ至高の美。万雷の喝采を聞け。インペリウムの誉れをここに、しかして讃えよ。ドムス・アウレアと――」
私が戸惑っている間にも、優季は苦しそうな表情を浮かべながら言葉を紡いでいく。
「
そして私は目にする。幼き日に忘れ去った奇跡……『魔法』を。
さあ舞台の門は開いた! 次回は道化者(優樹)の踊りを堪能するといい!!(短いけどね!!)
【技・武器解説(簡略版)】(Fate/EXTRAを知らない人用です)
『
キャスターの宝具。ゲーム的効果は1ターンの間MP消費しないというEXTRAでは微妙だったが、CCCでは結構優秀なチート宝具(去勢拳が強いから)
本来の効果は結界術であり、結界内ではキャスターは呪術コスト0で呪術使いたい放題というとんでも能力である。前回でも軽く説明したが、本来ならキャスターは死者すら蘇生できる呪術すら行使できる程の神であり、本来なら結界も国一つ覆える為、サポートとしてこの能力を行使されたら相手はほぼ勝てないと思う。(国その物と戦うようなものである)
『
由来はギリシャの英雄アイアスの盾。
アーチャーが唯一得意とする防御用武具。本来は投擲武器や、使い手から離れた武器に対して無敵という概念を持つ概念武装で、光で出来た七枚の花弁が展開し、一枚一枚が城壁と同等の防御力を持つ。攻撃を防いでいる間、一定ダメージを超えると、花弁が一枚ずつ砕かれて行く。というのがステイナイト時の設定なのだが、EXTRAシリーズではバッドステータス付与すら無視して相手の攻撃を完全に相殺するという、無敵故に鉄壁!な盾になっている。ステイナイトをやった者からすれば、何があったアイアス!?状態である。