岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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ついに咬ませマルさんではなく真マルさんとの戦いが始まる!!



【マルギッテとの決闘 (前編)】

 山道を進む度に全身を緊張感が包み込む。

 別に直接殺気を感じた訳ではないし、特に気負っている訳ではない。

 ただ予感がするのだ。生前の死闘による感と、これまで培った戦いの経験から、百代、項羽姉さんと戦った時以上の死闘が待ち受けているという予感を。

 

玉藻鎮石(たまもしずいし)

 

 持って来た全ての札を合わせ、キャスターが使っていた外枠に武器としての装飾が施された円形の鏡を具現する。具現された鏡はまるで意思を持つように自分の周りを浮遊して付いてくる。

 

 よし、成功。

 

 元々キャスターは玉藻静鎮石を遠隔操作して使用していたが、今迄の自分ではそこまで出来る技術は無かった。

 しかし式紙の術式を覚えてから、札を触媒とすることで式紙を操る要領と同じ方法で術者と意識をリンクさせる事で遠隔操作が可能となった。

 

「次は……礼装・キャスター」

 

 目的の場所に辿り着く直前に、その身に礼装を纏う。

 

 上はキャスターが纏っていた神話礼装の衣装をそのまま自分に合うようにサイズの微調整を行い、下はキャスターはパンツと一体型だったが、流石に恥かしいので腰部分だけはアレンジして通常の道着と同じ形状にし、腰にキャスターが着ていた着物の黒帯を腰に巻いて留める。

 装飾は金だが衣装の色は白ではなくキャスターの着物と同じ青紫。そして今の自分の髪の色はキャスターと同じパールピンクである。

 

 何故キャスターなのか? 勿論理由がある。

 キャスターの礼装でも強化は第二段階を使用する。だが、その作用は主に身体よりも肉体の内側である感覚面に作用される。

 感覚をより鋭利にする事で気をより敏感に感じ、精密に操作する事が出来る。

 あらゆる感覚を強化する以上マイナス面もある。痛覚は倍になるし神経や内蔵への負担も大きい。しかしキャスターの姿でなければ出来ない事は多く、自分の最後にして取って置きの切り札はこの姿でなければ使用できない。

 

 戦う前から切り札を切る準備の前段階を済ませそして――――決戦の地に足を踏み入れる。

 

「…………来ましたか」

 

 そこにはいつもの軍服を着て、既にトンファーを装備し、眼帯を外して静かに佇むマルギッテさんの姿があった。

 

 鋭く、しかし落ち着いた闘気だ。それに昨日とは違うあの決意の眼差し。

 マルギッテさんの表情を見た瞬間に、自分の選択は正しかったと確信する。もしいつもの姿で現れていたら、礼装を纏う間も無く狩られていたに違いない。

 

 たった一日で何が彼女をそこまでの強さに押し上げたのかは分からない。だが一つだけハッキリしている。

 

 全てを尽くさなければ……目の前の相手には勝てない!

 

 軽く足を開き、両手を合わせて臨戦態勢を取る。

 

 こちらの動きを見て、マルギッテさんもトンファーを構える。

 

 お互いに会話は無い。理解しているのだ。既に戦いが始まっていると言う事に。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに相手を見詰めながら動かない。もっとも、こちらは既に礼装を使っている。その為長くは闘えない。故に……こちらから攻める。

 

「炎天!!」

 

 瞬間、マルギッテさんが立っていた足元に魔法陣が浮び火柱が上がる。

 

「ふっ!」

 

 マルギッテさんはその場を獣の様に俊敏に横に跳んで回避するが、自分は更に追撃を掛ける。

 

「空裂! 密天!」

 

 今度は彼女が逃げた先の正面に魔方陣が展開し、そこからビームの様な稲妻の砲撃が放たれる。

 マルギッテさんは空裂を深く腰を落として屈んで回避するが、その瞬間足元に密天の魔方陣が展開する。魔方陣は息を吸うように一定の空間を吸引する。

 

「吸い寄せっ――!?」

 

 ただでさえ腰を落として屈んでいた彼女は吸引に耐えられずに膝をついたその時、一気に魔方陣から鋭く大きな衝撃波が放たれる。

 

「ぐあぁ!!」

 

 マルギッテさんは身体を切り刻まれながら宙へと吹き飛ばされる。だが油断は出来ない。

 

 吸引が止んだ一瞬の間に自分から跳んで僅かにダメージを減らされた。

 

 マルギッテさんの戦闘技術に驚きと尊敬の念を抱きながら、油断無く次の攻撃を行う。

 

 炎天で飲み込み、更に距離を稼ぐ!

 

 宙にいる彼女に向かって炎天を放つ。

 

「トンファーカッター!!」

 

 炎天を発動すると、彼女は空中で器用に体勢を立て直し、両手のトンファーの端を掴んでサイドスローの形で投げつける。二本のトンファーは高速回転して炎天を切り裂き消滅させる。

 

 気で纏い、更にその纏わせた気を鋭利に尖らせて固定し、擬似的な鋭利な楕円形の刃物にしたのか。

 

 こちらが炎天の消滅と共に砕け散るトンファーを見据えながら先程の技の解析を行っている内に、マルギッテさんが地面に着地する。

 

「疾っ!」

 

 着地と同時にマルギッテさんが、新たなトンファーを取り出してこちらに向かって疾走する。

 

「氷天!」

 

 迫る彼女の正面に魔方陣を展開するが、彼女はそれをまるで幅跳びの様にこちらに勢い良く跳んで回避する。先程まで彼女が居た空間に氷塊が生まれ、少しして砕け散る。

 

「せいやあああ!!」

 

 マルギッテさんは跳躍した勢いを乗せて跳び蹴りを放つ。それを見て彼女と自分との間に玉藻鎮石を動かす。

 

「黒天洞!」

 

 玉藻鎮石を中心に紫色の波紋の様に動く円形の気で作られたシールドが展開され、マルギッテさんの強力な蹴りがシールドに当たった瞬間、シールドが振るえ玉藻鎮石から十数枚の光る札が放出されて空中で四散する。しかし玉藻鎮石は吹き飛ばされずに悠然と浮遊し続ける。

 

「くっ!!」

 

 彼女は黒天洞のシールドを蹴って軽く後ろに跳んで着地する。

 

「炎天二符!!」

 

 マルギッテさんが立っている場所の正面と地面に同時に炎天を展開して十字の火柱を奔らせる。

 気で作られた炎は触れる物を焼く事はあっても、燃え広がる事も燃え続ける事も無いため山火事を心配せずに放てるのがいい。

 

「チィ!!」

 

 マルギッテさんは大きく飛び退きこちらの攻撃を回避するが、距離が離された事に苛立ちの表情を浮かべて舌打ちする。正直舌打ちしたいのはこっちである。

 使用する技はこちらが声に出しているから判別できるとは言え、縦横無尽に放たれるそれらを回避された上に、玉藻鎮石を形成してる札をたった一撃で十枚以上も消費させられた。

 

 そもそも何故技名を言うのかと言えば、重要な意味がある。

 気というのはイメージが大事だ。気を練り、形を与え、発動させる。これら全てを如何に早く、正確に行えるかで、同じ技でも威力や消費する気の量、身体への負担が大幅に変わってくる。それが体外への関渉なら尚更だ。キャスターでなら、体外に放出した気を一定の箇所に集め、留め、形を与える事が出来るからこそ、魔術の様に発動できる。しかし未熟な自分では代わりに全神経をそちらに集中させているから身動きが殆ど取れない。決闘ではまさに相手を倒すか、倒されるかの博打のモードだ。

 

「……その浮遊している武器は衝撃を逃がすのか。そして符術の時と技名は同じ様ですが仕様も威力も大違いだな。炎天、空裂は直線系の技。密天、氷天は範囲系の技と言ったところでしょうか?」

 

 正解だよちくしょう。たった一回で見切るか。

 

「しかし何も無い空間から突然攻撃が放たれる。随分と出鱈目だ。以前那須与一が言っていた魔術師と言う二つ名は伊達ではなかったと言う事か」

 

 マルギッテさんが不適に笑って再度こちらに突撃してくる。

 

 相変わらず早い!

 

「氷天!」

 

 マルギッテさんの予想進行ルートに氷天の魔方陣を展開する。

 

「ふっ!」

 

 魔方陣から一定範囲に氷塊が生まれるが、マルギッテさんはそれを更に急加速で回避する。

 

 無茶する。今のは足の筋力を無理矢理動かした。筋繊維が切れてもおかしくなかったぞ!

 

 驚愕している間にまた接近を許してしまうが、彼女がこちらを攻撃する前に玉藻鎮石が間に入り込み彼女の攻撃を受ける。

 

「空裂三符!!」

 

 先程と同じ状況になり今度は時間差で空裂を三連続放つ。瞬間、酷使した頭に痛みが走る。

 

「くっ――つあ!?」

 

 マルギッテさんは一発目を横に側転して回避し、二発をその場で身体を捻って回避するが、三発目が彼女の右肩を貫き苦悶の表情を浮かべる。貫くと言っても肉を抉るわけではない。肉体を貫通し、通った箇所から強力な電流を身体中に流すのだ。

 

 動きを止めた彼女にすぐに密天を使用し、再度距離を取ろうとした瞬間――。

 

「っ――おおおぉぉ!!」

 

 マルギッテさんは未だに空裂の攻撃を受けながら、雄叫びを上げてこちらに深く踏み込み左のトンファーを握った拳をこちらに放った。

 

 防御が間に合わない!

 

 迫るトンファーと拳の反対側へと首を動かして回避した瞬間、冷汗が出た。マルギッテさんがトンファーを支点に拳を半回転させ、拳の位置を反転させたのだ。

 

 やられた!

 

 彼女の狙いにまんまと嵌ってしまう。トンファー分こちらはどうしても先に動く。結果、彼女は拳のみ後出しが可能なのだ。

 

 一瞬浮んだ、もっと大きく避けるべきだったという後悔の念をすぐに捨て、右目に迫る拳を見詰めるながら、この状況で出来る最善を尽くすために密天ではない別の術を発動する。

 

「ぐっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

 拳を右目に受けながら軽く吹き飛ばされる。

 いつもの倍近い激痛が右目から走るが、その痛みを無理矢理押さえ込んで残った左目でマルギッテさんを見据える。

 彼女は立っていたが左足を庇うように重心を右足に寄せていた。

 どうやら術の発動は間に合ったらしい。彼女が近距離に居てくれた事が幸いした。

 

「くっ。咄嗟に氷天で私の左足を攻撃するとは、やはり簡単には倒せませんか」

 

「攻撃を受ける事が避けられないなら、それを逆手に反撃するのは当然でしょう?」

 

「くく、確かに……」

 

 愉快そうに笑ったマルギッテさんは突然先程までの闘気を霧散させた。

 

「やはり私が認めた男です。故に見せましょう。優季、これが……私の全力です」

 

 次の瞬間、マルギッテさんの身体に気が充満し、そして身体から力強い気が放出される。

 

「まさか強化!?」

 

 彼女が行ったのは強化だった。あの強者としてのプライドの高いマルギッテさんが、自分程度に強化を行ったのだ。その事実に驚くと同時に、彼女のこの決闘にかける決意と覚悟が並大抵の物ではない事を強く実感させられた。

 

 強化を終えた彼女は改めてこちらを鋭い視線で見据えながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「この姿を見た事を誇りに思いなさい。では……行くぞ」

 

 彼女の姿がブレた次の瞬間――――大きな衝撃音が山中に響き渡った。

 




個人的に慢心捨てたマルさんはこの位強くていいと思う。

そして早速二度目の礼装発動。ぶっちゃけ今回の格好はシンプルです。色くらいでしょう弄ったのは(下半身は流石に変えましたが)つまり臍だしルックです。イメージ優先の為なら傷だらけの身体を惜しげもなく晒す優季、流石です。

そして久々に原作技と武具が出たので下で解説してます。


【技・武器解説(簡略版)】(Fate/EXTRAを知らない人用です)

玉藻鎮石(たまもしずいし)
正式には『水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)』。
武器自体が彼女の宝具その物な為、本来はこちらの名である。
本編では武具と能力を使い分ける為敢えて玉藻鎮石と表記している。(原作では確か使い分けていなかったはず)
本編で語っている通り遠隔操作を可能とし、護って良し、攻撃して良しの出来る子。しかし所有者からは使えない子扱いされる可哀想な子。因みにキャスター事態が英霊扱いの為に弱体化しているせいでもある。本来なら死者すら蘇生可能なチート宝具の凄い子である。
原作では後の八咫鏡の原点として扱われている。


『空裂』
ビームである。(いやホントに)
威力は高く、発動モーションもカッコイイと、プレイヤー全てが認める呪相系最強の技である。
但し使えるのは『敵として登場する過去キャスター』である!!
使用できないと知って泣いたプレイヤーは多いに違いない。(私もその一人です)



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