岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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ようやくメインヒロインの二人目登場。
そして後数話で幼少期編も終了です。



【小雪との出会い】

 風間ファミリーに出会ってから一ヶ月が経った。 

 

「タッチ!」

 

「あ」

 

「わーい! 次はユウが鬼だよー!」

 

 一子が嬉しそうに逃げる。やれやれぼーっとしていたようだ。

 

 因みにユウというのはファミリー内での自分のあだ名だ。

 優季だからユウ。うん。シンプルでいいあだ名だ。

 他のメンバーのあだ名は風間はキャップ、師岡はモロ、一子はワン子、百代はモモ先輩。

 直江と島津は名前で呼ばれている。

 

「さて、それじゃあガクトにロックオン!」

 

「俺かよ!」

 

 宣言どおりにガクトに猛ダッシュで迫る。

 もちろんガクトもマジ逃げではあるが、スピードはこちらの方が上なので、なんなくタッチする。

 

「くっそ~なんでユウはモロとかワン子を狙わないんだよ!」

 

「いや狙う事は狙うぞ。俺は均等に鬼になるように狙ってる」

 

 そうじゃなきゃみんなで楽しめないからな。

 

「キャップとモモ先輩はまだ鬼やってないじゃん!」

 

 ガクトが不公平だと喚いて余裕顔でこちらを眺めている二人を指差す。

 

「あいつら速すぎて捕まえられないんだよ。マジつまらない」

 

「ほう。誰に対しての物言いだ」

 

 百代が指を鳴らしながら少しだけこちらに近寄る。しかし決してこちらの射程範囲内に入って来ない辺りが、なんともいやらしい。

 

「お前ら二人だよ。遊びなんだから手加減しろ。逃げてるだけで楽しいか?」

 

 ダメ元で挑発する。

 

「「もちろん!」」

 

 しかし二人とも良い笑顔で断言するだけだった。ちくしょう。

 

「これだよ」

 

 呆れて溜息を吐く。

 

「スキあり!」

 

「あ」

 

 その隙にガクトにタッチされてしまい、ガクトはさっさと逃げる。

 

「へへーん。鬼ごっこで考え事するなんて馬鹿な奴!」

 

 流石にちょっとムカっと来た。

 とりあえずルールなのでその場で10秒数えてから、標的の方に振り返る。

 

「……さて、次は大和かな」

 

「お、俺かよ」

 

 心情的にガクトを狙うと思ったのだろう。射程内で笑っていた大和に詰め寄る。

 まあ正直ガクトを狙いたかったが、それはそれ、これはこれである。

 大和も何気に鬼の回数が少ないから狙える時には狙う。

 

「ほいタッチ」

 

「くっそ。ユウだって十分速いじゃないか」

 

「そして今度は逃げる!」

 

 そんな感じでみんなで遊んだ後は、それぞれ思い思いに行動する。

 

 ガクトは最近百代に力自慢的なポジションを奪われたため、たまに勝負を挑んでは負けて人間椅子にされている。

 そして座っている百代はご満悦な表情でお菓子を食べている。ドSですか貴女は?

 

 ワン子と大和は花の茎で引っ張り合いの遊びをしているし、キャップはなんか新しい勝利のポーズと言って、色々なポーズをとり、それにモロが合いの手を入れて笑っている。

 

 余った自分といえば、それを少し遠くから眺めながら日向ぼっこ中。

 

 平和だなぁ。

 

 寄り掛かっていた木に更に体重を預けながらそんな事を考えていると、不意に視線を感じてそちらへと振り返った。そこには木の陰からこちらを覗いている女の子がいた。

 

 誰だろう?

 

 そう思って立ち上がって近付くと、女の子もこちらに気付いたのか、逃げるような素振りを一瞬見せたが、女の子は何故か急に立ち止まった。

 

「大丈夫?」

 

 具合でも悪いのかと思って女の子に優しく声を掛ける。

 すると女の子は一度身体をビクっと震わせた後、おずおずと振り返った。

 

「な、なんで僕が見てるって分かったの? 今迄誰も気付かなかったのに……」

 

 女の子は服は薄汚れていて、髪もボサボサだった。可愛いのに勿体無い。

 

「ん~勘かな? それより今迄って事は、あいつらを見ていたのは今日が初めてじゃないんだな?」

 

「……うん」

 

 こちらの言葉に彼女は頷き、ゆっくりと近付いてきた。

 よくよく見れば女の子は少し痩せていて、それに身体も震えていた。

 

 もしかしてこの子、イジメか虐待でも受けているのか?

 彼女の格好と反応からそう予測した。しかしその予測を口にせずに、続きを尋ねた。

 

「じゃあ何か、あいつらに用があるんじゃないのか?」

 

 彼女が怯えないように、出来る限り優しく尋ねる。

 彼女はしばらく視線を彷徨わせた後、顔を上げた。

 

「ぼ、僕も一緒に遊びたい!」

 

 震える唇と手、そして縋る様な瞳が、自分の心を締め付ける。 

 きっと、精一杯勇気を振り絞って言ったに違いない。

 

「うん。いいよ」

 

「え?」

 

 微笑みながら、彼女の手を優しく握る。

 

「自分の名前は優季、君は?」

 

「ぼ、僕の名前は小雪!」

 

「小雪か。それじゃあ仲間に入れて貰えるように、一緒にお願いしてあげるよ」

 

「いいの!」

 

 小雪は初めて嬉しそうな笑顔を浮かべた。その笑顔は、とても可愛かった。

 

「ああ。ダメだなんて絶対に言わせないから安心しろ!」

 

「うん!」

 

 小雪に力強く頷いて約束し、お互いに手を繋いで一緒にみんなの所に向かった。

 

「おーいみんな!」

 

「ん……誰だその子?」

 

 大声でみんなを呼ぶと、最初にこちらに振り返った大和が、眉を顰めてそう尋ねて来た。

 う~んかなり警戒してるな。

 

「自分の友達の小雪だ。一緒に遊びたいみたいだから連れて来た」

 

「へぇー。優季、友達なんていたんだな」

 

 ガクトが意外そうに呟く。その点については放って置いて欲しい。

 

「小雪ちゃんっていうの? 私一子! よろしくね!」

 

 相手が女の子だと分かると、一子は嬉しそうに駆け寄って来た。

 

「おいおいリーダーに内緒でここに連れて来るとはどういう了見だ!」

 

 内緒にしていたという点を強調してキャップが面白く無さそうな顔をする。

 

「サプライズだ。次からは気を付ける。同い年の女の子が一人じゃ一子も可哀想だしな。嬉しいよな一子?」

 

「うん!」

 

 少々卑怯だが一子を早々に味方につける。

 実はこのファミリー、自分も含め一子にはなんだかんだ言って甘いのだ。

 利用してしまった一子には、今度お菓子でも奢ってあげよう。

 

「仕方ないなぁ。次からはちゃんと一声掛けろよ」

 

 と言っていつもの笑顔に戻るキャップ。終わった事は気にしない性格なのもキャップの長所の一つだ。

 

「おう。それじゃあ何して遊ぼうか? 小雪が決めていいぞ」

 

「いいの?」

 

「初めてみんなと遊ぶんだ。小雪の遊びたい遊びで構わない」

 

 百代がやって来てフォローしてくれた。もしかしたら何か感づいているのかもしれない。

 

「それじゃあダルマさんが転んだ!」

 

「じゃあ自分がダルマさんが転んだ言うから、みんな並べ~」

 

 率先して木に向かう。とりあえず彼女とみんなの仲を取り持つ事を優先する。

 

「行こう小雪ちゃん!」

 

「うん!」

 

 どうやら妹分が出来て一子が張り切っているようだ。これなら安心だろう。

 最近百代に弟子入りとかしてお姉さんってポジションに憧れているようだったからな。

 

「それじゃあ行くぞ~の前に、百代、キャップ、手加減しろよ」

 

「分かってるよ」

 

「おう!」

 

 二人に確認を取ってから、ゲームはスタートした。

 その後は影踏みにゴッコ遊び、花で冠を作って遊んだりした。

 そんな感じで楽しい時間を過ごしていると、あっという間に夕暮れだった。

 

「あ、僕そろそろ帰らないと」

 

「自分もだな。流石に夜道を走って帰るのは勘弁」

 

 小雪が名残惜しそうに原っぱを見詰めていた。

 

「なあキャップ、確かお前らって平日も集まれる時は集まってるんだろ?」

 

「おう。基本的に来たい奴は来て勝手に遊んだり昼寝したりしてるな」

 

「最近は姉さんとユウの噂が広まって、他のグループもちょっかい出さないから平和そのものだ」

 

 一体どんな噂が流れているんだろう。今後の学園生活に不安を覚えたが、まあいいかと考え直して、傍に立つ小雪の肩に優しく手を置いた。

 

「じゃあ小雪、自分は無理だけど、お前は平日も来れるなら来いよ」

 

「いいの?」

 

「もちろんだよ。私達もう友達なんだから」

 

「おう学校違うからユウと同じでゲスト枠だが、今日からお前もファミリーの一員だ!」

 

 このゲストと正規メンバーの違いが分からないが、まあ同じ学校や地区的な理由があるのだろう。子供の時はそういうのに拘るものだと父さんも母さんも言っていた。

 

「うん! 絶対遊びに来るね!」

 

 小雪は嬉そうな笑顔でみんなにそう言った後、こちらに振り返った。

 

「ユーキ本当にありがとう!」

 

「小雪が勇気を出したからだよ」

 

 少し涙目になった顔で、それでも嬉しそうに笑う小雪の頭を優しく撫でて彼女を褒める。

 

「帰り道、気をつけてな」

 

「うん!」

 

 元気に手を振って去っていく小雪に手を振り返し、自分も帰ろうと歩き出すと、何故か百代がついてきた。

 

「私も今日は修行があるからもう帰る」

 

 それだけ言うと、隣にいた自分の手を掴んで走り出した。

 

「お、おいおい、なんで走る必要があるんだよ!」

 

 抗議の声を上げるも、百代はそれを無視し、他のメンバーから大分遠ざかった所で手を放した。

 

「さて、どういうことか説明してくれるか?」

 

「ん? 何がだ?」

 

「お前、あの子と知り合ったの今日が初めてだろ?」

 

 流石百代、鋭い。

 

「百代は小雪を見てどう思った?」

 

「可愛いと思った。そしてイジメを受けているんじゃないかと思った」

 

「流石。自分もそう思ったから連れて来た。気付かなければ無視していたかもしれないが、気付いた以上は放っておけない」

 

 自分がゆっくりと歩き出すと、百代も横に並んだ。

 

「あの子には友達が必要だ。最悪みんなが拒否したら、自分がグループを抜けてたな」

 

「あいつらはそんな器の小さい奴らじゃない」

 

「ところがキャップは口を挟んで来たし、ガクトと大和は小雪の身形を見て、面白く無さそうな顔をした。モロはなんか自分に近いもの感じたのか多少は好意的だったが、結局主張はしなかった。特別な場所っていうのは思い入れも強い。いきなり他人が入って来たら拒絶するのも仕方が無い」

 

 だからもし拒絶されたら味方の居ない小雪の味方をしてやりたかった。

 

「……よく見てるんだな」

 

「友達の事だからな。何かあった時にすぐに察してやれるように気を配っているつもりだ」

 

「お前は私達の親かなんかか」

 

「手の掛かる子供が多いですわ」

 

 茶化して返したら軽く頭を小突かれた。

 

「まあいい。小雪も話していて楽しかったしな」

 

「んじゃ、自分がいない時はよろしくな。遊んでいる時はあまり目立たなかったけど、時々手が震えていたり、過剰にビクついたりしてたから、きっとまだまだ不安なんだ」

 

「ん。頼まれてやろう」

 

「……ありがとう百代」

 

 頼もしくて優しい幼馴染に感謝を述べながら、新しい妹分を支えて行く事を密かに心に誓った。

 




と言う訳で小雪ちゃんでした。
原作、特に無印だとかなり不憫な子です。
原作では京の対的な存在として書かれていますが、この作品では『百代』の対的存在として書いています。
理由は幼少期編が終わった後の『幼少期編の解説回』にでも書こうかと思います。


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