岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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という訳で久々の日常回。



【既にテストムード】

 さて、この水晶をどうするか。机の上の水晶の原石を睨みながら考える。

 

 今日は休日という事で昨日の体育祭で得た水晶の加工をしようと思い立った。

 他の獲得した商品は今朝届けられたので、義経や清楚姉さん達の分も含め、使わない物は全てその手に詳しそうな大和に頼んでネットオークションに出品して貰った。因みに依頼料は手に入れた魚介類専門ペットショップの割引券だ。

 

 一応賞品を売っていいのか鉄心おじさんに確認したところ、問題ないらしい。

 食べ物関係は九鬼の調理場の冷蔵庫に保存して貰った。食事時にでもみんなで美味しく頂こうと思っている。

 

 それはそれとして今は水晶だ。確か前の世界ではサーヴァントの幸運値を上げるネックレスの『開運の鍵』という礼装があったな。形状としてはアンティーク調で紐が通された頭部の裏表に『開』と『運』と言う文字が彫られ、ブレード部分には英文で『幸運』と彫られていた。

 

 でも現実だとちょっとかさ張るな。あと思いつくのは敵の攻撃を被弾しまくった時にキャスターから貰った礼装、『妖狐の尾』か。いやでもあれはキャスターの毛だから意味があったのか?

 

 あれこれ色々と考えた結果、とりあえず持ち運びやすいストラップで試してみる事にした。

 

 さてと、それじゃあまずは水晶を削ろう。

 

 机に傷がつかないようにテーブルクロスとゴム版を轢き、彫刻刀セットときめ細かい紙鑢の束、おうとつの少ない艶のあるクリーニングクロスを準備する。

 

 気で物体を強化すれば水晶も彫れるし削れるから便利だよね~。

 まぁこの世界は剣で鉄とか切ったりする人も居るし、今更このくらいじゃ驚かないけどね。

 

 水晶を通常のビー玉のサイズより一回り程大きいサイズになるように彫刻刀で丁寧にカットし、角を削る。

 

 大きな角を削った後は、鑢で表面を研き更におうとつの無い球体の形になるようにする。

 表面が綺麗に研き終わったら、一度表面をクロスで拭いて出来を確認する。

 

 まあ素人がやったにしては綺麗か。

 きめ細かい鑢やクロスを使っているとは言え、専門道具じゃないから細かい傷や大きさが歪なのは仕方ない。

 

 お店への依頼料の費用も分からないし、加工にもきっと時間が掛かるだろうからな。

 

 とりあえず可能な限り水晶玉を黙々と制作して行く。

 

 

 

 

「ふう。終了っと」

 

 とりあえず自作の巾着袋に30個程詰められた大きさが微妙に違う水晶を眺める。

 

 まあそれでもまだ元の水晶自体は三分の二近く残ってるんだけどね。

 

 思ったよりも残った水晶の原石を眺めながら、さて次はと言ってスケッチブックにストラップのデッサンを書いていく。

 

 水晶玉は先端、真ん中に帯で、その先に紐輪を作って、そこに小さめのフックでいいかな。

 とりあえず試作とばかりに太目の糸を取り出して編み物を開始する。

 水晶が落ちないように網目状にして……帯びに名前を入れるから色違いでこう編んで……携帯に付けれるように紐輪作って、引っ掛ける場合に備えて紐輪にフックを通して……。

 

 一時間かけて取り合えず試作を一つ作り、強度を確認したり水晶やフックが零れ落ちないか確認したりして問題点を見つけては改善を繰り返す。

 

 うん。とりあえずこれでいいな。

 

 ストラップの構成が纏まり、ようやく制作の本番に取りかかる。

 

 まずは水晶玉に気力を込める。札に気を込めることで慣れているので問題は無い。

 ゆっくりと時間をかけて川神水晶に気力を送って馴染ませ定着させる。焦ると割れてしまうし、上手く封じ込められなくて後から気力が抜けてしまうからだ。

 

 ゆっくりと気力を送り、水晶玉の許容量に達したので送るのを止めてちゃんと封じ込められたか確認する。

 

 ……ん、問題なし。

 

 糸を縫う時も糸その物に気を通してゆっくりと編みこんで糸を切れ難くする。

 

 ちまちまと縫い物を繰り返すこと数分、最後にストラップの帯びの名前がずれていないか確認する。

 

 よし、自作厄除けストラップ完成!

 

 川神水晶を見たときにこれだと思った。

 基本、水晶に限らず天然の宝石類には微弱ではあるが、不思議な力を宿している物が多い。そして水晶は魔除けや災厄を退ける力があると古来から伝えられている。

 

 乙女さんと旅している時に水晶に自分の気力を込める事で、水晶の持つ効果を強化するという方法があると教えられたので、いつか試してみたいと思ったのだ。

 まあ効果がどの程度上がるのかは分からないが、少なくともお守りくらいにはなるだろう。

 

 ストラップの帯びの所には、漢字で『葉桜清楚』と書いてある。ローマ字と迷ったけど、それだと帯が長くなり過ぎるから止めた。幅は一センチちょっとだから問題ないだろう。

 

 それにしても、一人分作るのに結構時間が掛かったな。

 思った以上に川神水晶に気が込められる為、丁寧に作るとしたら精々一日にニ、三個が限界だった。

 

 マルギッテさんとも戦わないといけないから気力は常にマックスを維持したい。それに気力がある内に、最近サボっていた使用した分の札の補充もしないといけないしな。

 

 結局その日はほぼ一日中部屋で作業をしていた。

 夜にはみんなに海産料理を作って義経達に振る舞い、ブイヤベースは温めればまだ食べられるので、従者の人達にも夜食としてどうぞと伝えておいた。

  

 

 

 

 翌日の六月最後の週の月曜日。

 いつものメンツと一緒に登校して席に着くと、マルギッテさんがやって来た。

 

「優季、決闘の日取りだがテスト開けの土曜日。場所は川神山で行おうと思う。何か質問はあるか?」

 

「こちらとしてはテスト明けで嬉しいですけど、場所が川神山なのは?」

 

「もちろんお互いに全力で戦うためだ」

 

「了解。それで川神山の何処で?」

 

「説明する。地図を見ろ」

 

 マルギッテさんが胸ポケットから折り畳まれた地図を取り出して机に広げる。

 

「ここが川神山の登山ルートの入口の一つだ。ここから入り、このルートを通ったこの場所は、木の無い平坦な開けた場所になっている。ここで勝負だ」

 

 そう言ってテキパキとそこに行くための道順と危険な箇所の説明、注意すべき野生動物の説明に入る。

 

 そのあまりにも詳しく具体的な説明から、彼女が事前に自分の目で現地調査しているのは明白だった。

 

 なんというか、流石軍人と言っていいのか、マルギッテさんには生前戦ったダンさんのような独特な頼もしさと格好良さがあるよな。

 

 地図から視線をずらしてマルギッテさんを見る。彼女の顔は真剣そのものだった。その真面目な顔が、生前戦った一人の老齢の騎士を思い出させる。

 彼もまた軍人であり、誇り高い騎士であり、迷う自分に道を説いてくれた先達であった。

 

 おっと、見惚れてないでちゃんと説明を聴こう。

 

 凛々しいマルギッテさんの横顔から視線を外し、改めて視線を地図へと戻し当日の打ち合わせをする。

 

「という訳です。理解しましたか?」

 

「大丈夫です。それじゃあ決闘はテスト明けの七月の十八日の土曜ですね」

 

「一応連絡先を教えておく。こちらで不都合があれば伝える」

 

「あ、では自分も。色々巻き込まれ体質なので」

 

 自分の言葉にマルギッテさんは否定せずに、確かにな。と呆れたような笑みを浮かべた。ちょっと酷い。いやまぁ自覚あるけどね。

 

 この生前からの巻き込まれ体質はなんとかならんかなぁ。

 そんなことを考えながらマルギッテさんと連絡先を交換し合った。

 

「ユーキまた戦う約束したの?」

 

「体育祭で協力して貰う代わりにね」

 

「相変わらず身体張るなぁ優季は」

 

 傍で成り行きを見ていた小雪と準の言葉に苦笑して答える。

 

「しかしマルギッテにしては珍しいですね。テスト明けまで待つとは」

 

 確かに。と、冬馬の疑問に頷く。

 自分も、こちらがベストの体調なら彼女はすぐにでも仕掛けてくると考えていた。

 

「本来ならすぐにでも戦いたいところだが、今迄と違い、今の私はお嬢様の護衛任務を最優先にと言われている。故にお嬢様に負担のなるような行動は避けるように自粛していると理解しなさい」

 

「なるほど軍人の鏡ですね」

 

 マルギッテさんがいつもの表情で答えると、冬馬が納得したと頷き、自分も心の中で頷く。

 公私共に彼女とって一番の優先はクリスなのだろう。

 態度や言動で怖い印象を受けるけど、やっぱりマルギッテさんは優しい人だ。

 

「しかしテストか、確か50位以下だとS落ちなんだっけ?」

 

 テストの話題になると、弁慶がめんどくさそうな顔で呟く。

 

 S落ちと言うのはS組の生徒がテストで50位以下になり、他クラスに替えられてしまう事の通称だ。

 

 自分の場合はS組から落ちた段階で九鬼ビルから放り出されるので、死活問題だ。

 

「そう言えばテストを休んだ場合はどうなるんだ? 川神学園は期末考査しかないんだろ?」

 

「我が教えてやろう。自分の不注意による病気や事故、他人の妨害工作に嵌った場合は、ほぼ問答無用でS落ちだ。自己管理は出来る人間の基本だからな。それ以外の場合は登校可能になった時に実力テストを行う形になる」

 

 与一の問いに先程まで冬馬と話していた英雄が答える。

 

「義経さん達の編入で、良くも悪くも学園自体が活気付いていますから、きっとテストの成績が上がる者が増えると思います」

 

「S落ちも十分にありえるって事か」

 

 あずみさんの言葉に改めて気を引き締める。

 一応普段の勉強にはついて行けているし、夜の復習もしているから大丈夫だと思うが、やはり今も教室で勉強している生徒を見ると少しだけ不安になる。 

 

 それにしてもシビアな世界だ。なんで自分のような凡人がそんなエリート達の競争世界に居るんだか、場違いにも程があるだろう。

 

 水上体育祭の熱なんて疾うに冷め、すっかり勉強ムードとなった自分のクラスを眺めながら、小さく溜息を吐いた。

 




という訳で日常回でした。そしてマルさんとのバトルはテスト後になります。
つまり夏休み直前ですね。次も日常回になると思います。
七夕はもう少し後ですね。


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