今回は小雪・弁慶、百代・項羽の話になります。
「次の競技ってなんだ?」
「三人四脚だそうだ」
普通に二人三脚じゃないあたりが、川神学園らしい。
次の競技について話し合うクラスメイトの話を聞きながら、改めて学園、いや学長の鉄心おじさんの奇抜さに苦笑する。
「ねえねえユーキ、僕と準と組もう!」
「ユウ兄、私と義経と組もう」
「え?」
小雪と弁慶の二人から同時に誘われた。
「む~弁慶は運動できる二人が揃ってるじゃん!」
「私と義経とユウ兄のペアならより確実に一位を取れるよ」
二人が火花を散らしながら自分の左右の腕を掴んで離さない。
「……じゃあこのまま行こう」
「「え?」」
「弁慶、自分、小雪の並びでいいだろう。義経、与一、準というのもバランス的には問題無いはずだしな。どうかな冬馬?」
「問題ないでしょう。行ってらっしゃい」
軍師役の冬馬が頷いたので二人の手を引いてスタートラインに向かう。
「な、なんかユーキが積極的?」
「ちょ、ちょっと意外だね。どうしたのユウ兄?」
「ん? まぁあのままだと喧嘩になりそうだったのもあるけど、二人が折角誘ってくれたんだ。一緒に組むのは当然だろ? 」
そう言って手を放して二人の妹分の頭を撫でる。
「……んまぁ、他の誰かと組まれるよりは」
「……ましか」
二人は少し頬を赤くしながら頷くと、腕にしがみ付き苦笑を浮かべた。
◆
「よし、結び終えたぞ」
優季が自分の両足を弁慶の右足と小雪の左足に結び付ける。
「えっと、僕達が左足を出した時は、ユーキだけが右足を出すんだよね?」
「そう。真ん中だけ逆の足を出す必要があるんだ」
「確かに真ん中の人が重要になってくるね」
「ちょっとその場で足踏みしてみるか?」
他の選手も似たような事をやって感触を確認しているので、提案してみる。
「うん!」
「いいよ」
「それじゃあ」
二人の肩に手を置き、二人はこちらの脇から背中の方に手を回して三人で密着する。
うわ。ユーキの身体凄い堅い!
あ~ユウ兄の体温感じてると、無性に眠くなるなぁ。
小雪が興味津々に優季の身体をペタペタ触り、弁慶はより体温を感じるように密着する。
「ちょ、小雪くすぐったい。弁慶これから勝負なんだから寝ようとしない」
二人に苦笑して注意するが二人は無視して自分の興味を優先する。
そしてそんな三人のやり取りを聞いた周りの男子は全員が思った。『リア充爆破しろ』っと。
しかし誰も口には出さない。優季が実力者なのは知っているし、何より優季の身体の無数の傷の迫力に圧倒されてしまっていたから。
「お、始まったぞ」
スタートの合図と共に選手が走り出す。第一走者が全員ゴールし終わり、優季達第二走者の番が来る。
「それじゃ、いち、に、で行くぞ」
「おー!」
「了解」
スタートの合図と共に、三人が駆け出す。決めていた掛け声と共に三人は一気に加速して行き、後続を置き去りにしてゴールする。
「ふう。意外に走れるもんだな」
「まぁ普段から稽古していれば」
「ある程度合わせられるよね~」
武道を嗜む者同士、呼吸とタイミングさえ合えば、動きを合わせることは容易い。
「それじゃあ紐を外して――」
「え~もうちょっとくっついてようよ~」
そう言って小雪が更に身体を寄せて大胆に寄り掛かる。
折角ユーキが異性として意識し始めたんだから、大胆に行くよ!
元々ユーキ以外の男の視線に興味の無い小雪は、ここぞとばかりにアタックを掛ける。
くっ。与一を連れてきたのは間違いだった。アイツの前ではあまりだらしない姿は見せたくないんだよなぁ。
与一の前であまりだらしなくすると、与一がそれを理由に言い訳して逃げるので、弁慶はある程度周りに視線があるときは、義経へのからかいや優季への甘え、そして自身のだらしなさをセーブしていた。その分だらけ部や九鬼ビルで義経や優季と二人きりの時はセーブしない。
弁慶は小雪を羨ましそうに見詰めながら、せめてもの抵抗と、優季の腕を抱き寄せて自分の身体に密着させて引っ張る。
「ほら行くよユウ兄!」
「ちょっ待って! 歩調を合わせて! 裂ける! 裂けるって!!」
紐に結ばれたまま自由に動き出した二人に、優季は涙ながらに訴えるのだった。
◇
嬉しい思いと同時に酷い目に遭った。
変な風に動かしたせいか、突っ張ったような感じのする股に一度視線を向けた後、次の競技を見守る。
次は三年の競技だっけ。
砂浜に座って競技を眺める。三年生達が用意された机の上から封筒を取って中身を確認している。
借り物競争かなんかかな?
なんて感じで見守っていると、紙を見た数名の三年生が数人こちらにやって来て、冬馬に詰め寄った。
「「葵君一緒に来て!!」」
「おやおや、私は一人しかいないのですが……」
「私が先に来たのよ!」
「私の方が先に声を掛けたわ!」
なんか凄いことになってる。
「な、なあ準。三年生はなんの競技をしているんだ?」
近くにいた準に声を掛ける。
「えっと、確か『探し人競争』だったと思うぞ」
「あ~もしかして物じゃなくて人の特徴が書いてあって、その人物を連れて来るって奴か?」
「まぁ様子を見る限りそうだろうな」
冬馬の状況を見ながら、大変だなぁ。と同情しながら邪魔にならないように少し距離を取る。
結局その場でジャンケンが行われ、勝った人が冬馬を連れて行った。
それにしても特徴が書いてあるならそんなに被らないと思うんだけどなぁ。
「まあ関係ないかな」
自分が誘われることなんて無いだろうと思って次の競技に向けて休息していると、物凄い地響きが響いた。
……嫌な予感がする。
立ち上がって音のする方へと振り返る……武神と覇王が物凄い勢いでこちらに駆けていた。
あ、死んだ。
「みんな逃げろおおぉぉおお!!」
そんな誰かの叫びが聞こえた気がした。
◆
悟ったような目の優季の右手を百代が、左手を項羽が同時に掴んで、そのままの勢いでゴールに向かう。
「おい放せ項羽」
「お前こそ放せ百代! 俺の探し人は優季だ」
「私だってそうだ。優季以外ありえない。だから譲れ。ピーチジュース奢ってやるから」
「ふん。どうせ年下とかだろう? お前にはお前の弟がいるではないか。そっちに行け、というか貴様、その金は昨日優季に借りた金だろ!」
「いや~私に気軽に金貸してくれるのなんてもう優季くらいしかいなくてさ~。まあそれは置いといて、そっちこそ身内とかじゃないのか?」
二人は優季を連れたまま火花を散らしつつ、会話を繰り広げる。
因みに優季は引っ張られるままタオルの様に宙に舞っている為、それどころではなかった。
「なら同時に確認するか?」
「いいとも!」
二人は立ち止まると、優季を空高く放り投げた。
「イエエエェェェェァアアアア!?」
悲鳴を上げながら空高く放り投げられた優季を一度確認した後、二人は手に持った紙をお互いに見せ合った。
『大切な人。身内・友人・恋人いずれも可』
「…………」
「…………」
二人が同じ内容に固まる。そして同時に叫ぶ。
「義経達でも連れて行けばいいだろ!」
「川神一子を連れて行けばいいだろ!」
紙を突きつけた状態でにらみ合う。
「こうなったら」
「勝負しかあるまい」
二人が睨み合う中、優季が落ちて来たので二人でキャッチする。
「さ、流石に死ぬかとおも――」
「悪い優季」
「もう一回飛んでくれ」
「だと思ったよちくしょおおおぉぉぉ……」
二人は優季を空に放り投げると同時に構える。
「ジャン!」
「ケン!」
「「ポン!!」」
同時にグーを相手に向かって放ち合い、その拳を二人共首を横に反らして紙一重で回避する。
「あい!」
「こで!」
「「しょっ!!」」
お互いに手の平を合わせて力比べに移行する。
「ぬぬ」
「くぬぬ」
二人を中心に闘気が渦巻く。
「やめんか!!」
「ぐは!」
「ぐわ!」
「ごふ!」
鉄心が気で武神を顕現して、二人を海に向かって吹き飛ばす。ついでにタイミング悪く落下してきた優季も、とばっちりで吹き飛ばされ、三人揃って海に落ちていった。
◇
水面に顔を出す。
「ぷはぁ。死ぬかと思った」
「くそ。じじいの奴、手加減しろって」
「ぬう川神鉄心、いずれこの借りは返す」
二人は遠くの鉄心先生を睨む。
流石に今回はやり過ぎなので、二人に一言物申そうと傍に寄ろうとしたその時、目の前に二枚の紙が流れてきた。
『大切な人』
……むぅ。こんなの見たら怒れないじゃないか。
溜息を吐いて二人の肩を叩く。すると二人共肩をビクつかせて物凄い気まずそうな顔をした。
「あ、いやな優季、これはな」
「そ、そのだな、なんというか」
「はいはい怒ってないから早く戻ろう……できれば今度はゆっくり引いてくれると嬉しいな」
そう言って二人の手を取る。
「あ、ああそうだな。もう勝負じゃないしな」
「そ、そうだな。清楚もゆっくり戻ろうと言っている」
二人も今度は掴んだ手をゆっくりと引っ張り、三人で泳いで砂浜に戻る。
それにしても手を繋いで泳ぐなんて子供の頃以来か。
正面の二人を見詰める。二人は何やら顔を赤くしながら何かを小声で言い合っている。
『大切な人』
二人にそう思われているのが嬉しくてつい顔が綻んでしまう。
「どうした優季?」
「ああ、急に笑ったりして?」
「いや。自分も……二人の事が大好きだよ」
言ってちょっと恥かしかったので照れた笑顔を浮かべると、二人は暫く真顔で固まると、一気に顔を赤くしてそして、
「「は、恥かしいこと言うな!!」」
自分を放り投げた。
照れ隠しにしてはひどくないかなぁ。
眼前に迫る砂浜を見詰めながら、勢いにまかせて思った事を口に出してしまった事を後悔した。
次回も今回と似たような路線になると思います。
本当はちゃんと一人一人やりたかったけど、流石に競技を考えるのが大変だったのでボツりました。