岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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優季久々に暗躍!



【水上体育祭開催】

「では水上体育祭の開始じゃ!」

 

 そんな鉄心おじさんの宣言と共に体育祭は始まった……のだが。

 

「やる気ないな……」

 

「うん……」

 

 S組のあまりのだらけっぷりに、義経と一緒にげんなりした表情でその光景を見詰める。

 英雄や不死川さんに至ってはビーチパラソルにプールなんかで見かける長い椅子まで持ち出して寛いでいる。

 

「なあ冬馬、なんでみんなこんなやる気が無いんだ?」

 

 困ったときは一番物知りの冬馬に尋ねる。

 

「水上体育祭は成績の評価に含まれないんですよ」

 

「ついでに言うと、優勝したクラスに送られる水に関係する賞品も、金で買える奴らが殆どだからなぁ」

 

 冬馬の説明を引き継いで準が肩を竦めながら教えてくれた。 

 なるほど。良くも悪くも成績第一な訳か。

 ちらりと視線だけで弁慶と与一を見ると二人もあまりやる気は無さそうだ。

 

 ……さて、どうするか。

 

 個人的にはS組みんなで協力して一番になりたい。自分が楽しみたいと言うのもあるし、折角だから義経達にも楽しんで貰いたい。

 それに清楚姉さんと項羽姉さんは三年だ。クローン組が揃って参加できる体育祭は、今年だけだ。

 

 とりあえず主要メンバーから懐柔していくか。

 

「弁慶、与一」

 

「ん?」

 

「なんだ兄貴?」

 

「できればやる気出して体育祭に参加して欲しいんだが、武士道プラン全員揃っては今年だけなんだし……」

 

「そ、そうだぞ二人とも! 折角の体育祭だ。義経と一緒に頑張ろう!」

 

「いや、私は構わないけど」

 

「周りがこれじゃあなぁ」

 

 弁慶と与一が周りの生徒に視線を送る。 

 

「葵ファミリーも難しいか?」

 

「僕は別に良いよー!」

 

「俺は若とユキがやる気なら」

 

「私はやる気のある人材が増えるなら、本気でやってもいいですよ。大和君とは一度こういう場で知略を競い合いたかったので」

 

 ふむ。葵ファミリーは問題ないな。

 

 次は英雄だな。

 

「分かった。それじゃあちょっと焚き付けに行ってくる」

 

 あずみさんにマッサージされながら寛ぐ英雄の元に向かう。

 

「英雄、ちょっといいか?」

 

「む? どうした優季、お前達も寛ぐと良い」

 

「英雄は体育祭、全力で取り組まないのか?」

 

「無論だ。本来の体育祭ならまだしも、水上体育祭は競い合いよりも、その名のとおり祭り重視の趣向だ。我が本気を出すなど、些か大人気ないというものだ」

 

「王者の余裕。流石です英雄様!」

 

 あずみさんが目をキラキラさせながら、しかし後ろ手で『さっさとここから去れ』と合図する。

 

 ぬ~正論だ……まあでも、実は英雄は問題ない。

 

「紋さまは大差で勝つと言っていましたよ『兄上に負けないように』と」

 

「……なに?」

 

 英雄が露骨に反応する。内心でガッツポーズを決める。

 

「いや、すまない。ただ紋さまは嬉そうに『兄上なら我と同じ様に大差で勝つ!』と語っていたので」

 

 因みに後半の台詞は捏造だが、前半の台詞は紋さまが朝の移動の時に言っていたので全て嘘というわけではない。

 

「何故それを早く言わぬ! あずみ、この水上体育祭なんとしても大差で勝つぞ!!」

 

「は、はい。英雄様!」

 

 燃え上がった英雄に内心で満足すると同時に、殺気を放つあずみさんに後で怒られるかな~なんて心配をしながら、次のターゲットへと向かう。

 

 というか、あの人が距離と取るなんて珍しいな。何かあったのかな?

 

 

 

 

 くっ。お嬢様達のせいで妙に意識してしまう。

 

 九鬼英雄達と会話する優季を目で追いながら、パラソルの下で座って過ごす。

 

 それにしても、随分と鍛えられた身体だ。

 改めて優季の肉体を見詰め、その引き締まった身体に感心する。

 

 それにあの全身の傷、あれだけの傷跡を残すほどの修行をしたと言うなら、あの実力も頷ける。

 普段の学生服では見られない上半身の無数の傷跡に、改めて心が躍ると同時に、純粋に美しいと思った。

 

 なぜならあの傷こそが、優季が懸命に生きた証の様に見えたから。

 

 はっ! こんな事を考えているから誤解されるのだ。

 

「……マルギッテさん」

 

「っ!?」

 

 思考を切り替えようと思った瞬間、心配そうな表情をした優季に声を掛けられた。

 

「な、なんだ優季?」

 

「何かあったんですか? 今日は何故か自分の事を遠巻きに眺めていましたけど?」

 

 き、気付いていたのか。

 

「いえ。随分としっかりした身体だと思っただけです。よく鍛錬している。これからも怠けずに鍛えると良いでしょう」

 

「あ、ありがとうございます。マルギッテさんも水着、とても似合っていて綺麗ですよ」

 

「っっ!?」

 

 た、ただ綺麗と言われて何故動揺する?!

 

「そ、それで用件はそれだけか? なら私は休息に戻らせて貰う」

 

「あっ、その事なんですが。良ければ体育祭、一緒にやる気出して頑張りませんか?」

 

「……断る。そもそも二年相手にやる気を出すほどの者達が他クラスに居ると思えない」

 

 私の言葉に優季はやっぱり、といった表情で落ち込み、そして思案するように腕を組んだ。また何か企んでいるのか?

 

「それじゃ、もし自分に協力してくれて大差でS組が優勝したら、マルギッテさんと本気で戦います」

 

 優季の提案に、その言葉に、心が高鳴った。

 

「……本気、ですか?」

 

「はい。以前は自分がルールを決めました。ですから次はマルギッテさんが決めたルールで、マルギッテさんが望む形で、全力で戦います」

 

 身体が、心が興奮で高揚する。私の中の獣が、歓喜の雄叫びを上げた気がした。

 

「では、ルールはなんでも有り。ただし他者の介入は不許可。勝敗も相手が敗北を認めるか気絶するかのみ。そして私が求めるのは『勝利と言う結果の為に全力を出す』です。私と最初に戦ったあの時の様に」

 

 私は敗北してからこれまで優季を見続けた。間違いなく、優季は武術家というよりも『戦術家』だ。だからこそ、あらゆる手段を全力で振るう彼に勝ちたい。彼を倒したい! 

 

「……わかりました。自分の全てを出します」

 

 優季の目が、私の瞳を射抜く。

 

 そうだ。私だけを見ろ!

 

 ゾクゾクと熱と共に心地良い高揚感が走る。

 

「では、交渉成立です。日取りは後で決めましょう。お互いベストな状態が望ましい」

 

 それではメインディッシュの為にも……まずは兎どもを狩るとしましょうか。

 私は立ち上がり、口の端を吊り上げながらいつもの言葉を呟いた。

 

Hasen Jagd(ハーゼン  ヤークト)(野ウサギ達め、狩ってやる)」

 

 

 

 

 ……ふっ。

 

 その場に蹲って頭を抱える。

 

 やってしまったあああ!!

 仕方ないとはいえ、とんでもない約束をしてしまった!

 しかもマルギッテさん、物凄いマジな顔で歩いて行ったぞ。け、怪我人が出なければ良いが。

 

「だ、だがこれで、マルギッテさんも引き込めた」

 

 英雄がこちらに付いた時点で冬馬もこっちに引き込めるかもしれない。

 

 一度葵ファミリーの元に戻る。

 

「冬馬、どうだ?」

 

 それだけ言うと、意味が伝わったのか、冬馬が苦笑しながら頷いた。

 

「先程英雄からも頼まれました。私も頑張るとしましょう。しかし、残りはどうしますか?」

 

「S組の女子にも冬馬のファンは居るよな? 彼女達の説得を頼む」

 

「分かりました。ですが男子の方はどうするのですか?」

 

「準! 宇佐美先生!」

 

 F組の小柄な委員長を眺めていた準と、同じくF組の梅子先生を眺めていた二人を呼ぶ。

 

「どうした? 俺は今、桃源を眺めるのに忙しいんだが」

 

「おじさんもだよ。折角小島先生が水着なんだからさぁ」

 

「男子の説得を頼む」

 

「いや、説得ってどうやってよ?」

 

「魍魎の宴……」

 

 その単語に二人の顔が強張った。

 

「お前、どこでそれを」

 

「そんな事はいい……この情報、もし流出したら、分かるよね二人とも?」

 

「おらあああ男子ども! やる気出せやあああ!!」

 

「今日のおじさんマジだぜ。やる気出さない奴、超内申に響かせるからな!」

 

 二人の男が大声を上げながら男子どもに向かっていく。

 

 ……凄い効果だな魍魎の宴。つか宇佐美先生も関係していたのかよ。準を煽るために呼んだだけだったんだが。

 

 しばらくして男性陣の一部の者達が拳を空に突き出して声を上げ始めた。

 

「おやおや、男子の方は問題無さそうですね。それでは行ってきます」

 

 冬馬が頼もしい笑顔で女子の輪に入っていく。

 

「ねえユウ兄、どうしてそんなにやる気なんだ?」

 

 弁慶が困惑したような表情で尋ねる。その問いに、笑顔で答えた。

 

「勉強や鍛錬なんて一人でもできる。でも楽しむ事は一人じゃ出来ない。だからこそ、楽しむ事に手は抜かない」

 

 それは生前叶わなかった願いの一つ。

 

『友人達と一緒に楽しく過ごす』

 

 だから楽しむ事だけは全力で楽しむ。

 

「ふふ、ユーキらしいね。子供の頃もそうだったよね~」

 

 小雪が嬉しそうに笑って抱きついてくる。子供の頃の話をしたせいか、今は懐かしさが勝ったお陰で自然と彼女の頭をなでられた。

 

「確かに。兄貴はそういうところあるよな」

 

「仕方ない。ちょっとだけ頑張ろうかな」

 

 与一と弁慶が呆れたように笑いながら、それでも先程よりもやる気の籠もった表情をしていた。

 

 少し離れた所で女子の黄色い悲鳴が上がる。多分冬馬が上手くやったのだろう。残りの生徒は周りのやる気に釣られて自分もと思うはずだ。なんせプライドが高いからな。

 

 さてそれじゃあ……勝ちに行くぜ!

 




折角なので原作ではやる気の無かったS組をやる気にさせてみた。
そしてマルさんのイベントの準備が着々と進んで行く。


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