岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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水上体育祭+マルギッテ編開始です。



【マルギッテの憂鬱】

「最近タロットに嵌ってさ~」

 

 水上体育祭を翌日に控えた朝のHRで、何故か宇佐美先生がそんな前置きをしてタロットカードを取り出した。

 

「いやいやどういうことじゃ?」

 

 不死川さんがすかさずツッコむ。不死川さんも何気にツッコミスキル高いよね。あまり話したことないけど。

 

「いやさ。一昨日辺りから小島先生の魅力が更にアップしてるから、そろそろ本腰入れようと思って小島先生が以前趣味でやっていたって言うタロットカードを、話題確保の為に先生もできるようになってみた訳よ。と言うわけで、会話の切っ掛けの為にお前らの大アルカナを調べます」

 

「ついに言い訳しなくなったな」

 

 ついに話題確保の言い訳をやめた宇佐美先生に準がツッコむ。

 でも確かに梅子先生、以前よりも輝いているよう見えるな。

 因みにコートはそのままプレゼントした。自分で作ったものだから構わないと言って。

 

「ですがちょっと興味はありますね」

 

「お、じゃあ葵から引くか?」

 

 宇佐美先生が冬馬の前にやって来てカードを適当に切り、取りやすいように広げて差し出す。

 

「では……おや、法王です」

 

 冬馬が引いたカードを見て意外そうに呟く。もっと別のカードでも予想していたのだろうか?

 

「ははは、流石は我が親友冬馬、皇帝であった我を支えるに相応しいカードだ!」

 

 冬馬の次にカードを引いた英雄が、皇帝のカードを見せながら冬馬の肩を抱いた。

 

「そうですね。皇帝を支えるのも法王の仕事ですし、あながち間違っていませんね」

 

 そう言って冬馬は優しく微笑んだ。正に博愛精神の塊であるパーフェクトイケメン!

 

「オレは、隠者か」

 

「私は魔術師ですね」

 

「私は戦車か……」

 

 準が隠者を引き、あずみさんが魔術師を、マルギッテさんが戦車を引いた。

 なんというか当たり過ぎてて怖い。この世界占いも結構当たるしなぁ。

 

「僕も引くよ。えい、あっ星だ!」

 

「確か星って、希望、純粋、好奇心、だっけ?」

 

 小雪の横からカードを見ながらアルカナの内容を思い出す。

 

「へ~なんか良い意味のカードなんだね!」

 

 確かに小雪は純粋だし好奇心の強い子だから合ってるな。

 

「次は義経が……義経は戦車だ!」

 

「私は女帝だね」

 

「俺は愚者だ。ふっ始まりだな」

 

 へ~義経は太陽だと思ったんだが、弁慶の女帝は合っているような気もするな。与一はこういう占いだと大抵愚者だな。まあ自由と言う意味では合っているか。

 

「ユウ兄も引いてみたら」

 

「うんうん。僕も気になる!」

 

「そうだな」

 

 弁慶と小雪に勧められてカードに手を掛ける。

 

「お、力だったよ」

 

「力のアルカナは強固な意志、思いやりと言う意味もありますから、優季君には合っていますね」

 

 お互いに引いたアルカナの話題に盛り上がりながら、HRは過ぎていった。

 因みに不死川さんは月、宇佐美先生は運命だった。

 

 

 

 

「と言うような事がありました」

 

「お父様、自分は正義でした!」

 

「そうか。戦乙女も膝を付く美と勇を併せ持つクリスに相応しいな」

 

 川神商店街にあるレストランで、クリス、マルギッテ、フランクの三人は、久しぶりに三人揃って食事を取っていた。

 

「学校の方はどうだねクリス? 何か不自由している事はないか?」

 

「大丈夫です。良き友人達に恵まれましたから」

 

 クリスは屈託の無い笑顔でフランクの質問に答え、フランクは満足そうに頷く。

 

 フランク、彼は親馬鹿だった。それこそ娘の為なら領域侵犯とか平然とやってしまうくらいの。

 これで本人が無能なら、軍をクビにでもなっているのだろうが、彼は優秀だった。それこそ国が我侭を許すくらい優秀であり、彼自身も名門貴族の出だった。故にある程度の我侭が許されてしまう。

 

 そうした過保護教育の結果、クリスは箱入りお嬢様と言っても過言ではない、純粋で優しいが、同時に世間知らずで我の強い少女に育った。

 

 クリスは五月にその自分の世間の知らなさや我の強さのせいで風間ファミリーとの間で問題を起こした。その問題を、クリスは今でも重く受け止めて、自分が悪かった部分を少しずつではあるが、改善して行こうと心に誓って日々を過ごしている。

 

 そんな頑張るクリスを他所に、フランクが今一番心配しているのは、遠い異国に留学している娘に変な虫が付かないか、という父親なら一度は体験する悩みであった。

 

 フランクはまずクリスとよく一緒に行動する風間ファミリーの中から、同じ寮住まいで一番空気の読めそうな大和に、娘の動向を報告するように頼んだ。

 

 なぜ女性陣に頼まなかったのか?

 理由は一つ。残り二人があまりにも不振だったからだ。

 かたや人形片手にキョドる由紀江、かたや冷めた目で挨拶すら適当な京、この二人に頼むと言う方がどうかしている人選だった。

 

 はっきり言ってフランクの人選は正しいと言っていい。

 大和自身は現状クリスを友人としか思っていないし、本人はフランクとのパイプを強固にしたいので、自分から不快な印象を得るような真似はしない。結果、二人はお互いに持ちつ持たれつの良い関係で続いている。と、大和は思っている。

 

 結論から言えばクリスは順風満帆に過ごしていると思える。しかし、懸念材料が無いわけではない!

 

 しかしそんな大和の考えとは裏腹に、フランク、彼は娘の事になると考えすぎる悪い癖があった。

 

 武士道プラン。マルギッテの報告によれば、その内の一人はあの武神を倒し、更に覇王の生まれ変わりまで征したという。確か名前は鉄優季、と言ったか。

 

 フランクは注文したチョコパフェを口に運びながら思案する。

 

 クリスと同じく娘の様に思っている彼女が、態々他のクローンの報告を小さく纏めた上で膨大な量を報告してくるくらいだ。しかもその内容の殆どが、その少年を褒める内容。しかもあの武道の名門鉄の名を持つ一族の血を引く者。優秀なのは間違いないだろう。ここは一度、マルギッテ本人から鉄優季について訊いておくべきか。

 

「マルギッテ、クローンの動向はどうだね? 特に、鉄優季という少年は?」

 

「はっ。報告でもお伝えしましたが、鉄優季は戦闘、学業、両面で優秀です。そしてクローン達の心の支えは彼と見て間違いないでしょう。それと、結果を優先すべき戦いと、過程を優先すべき戦いをよく見極めて戦っている事から、戦いの考え方は武道家というよりは、我々軍人に近いと思われます」

 

「うむ。それが本当だとすれば、中々決断力のある冷静な青年のようだね」

 

「ええ。そうです、彼の新情報ですが、どうやら料理だけでなく裁縫も得意だとか。料理は一度食べましたが、栄養バランスも考えられた良い出来でした」

 

 その後もフランクが特に何も聞いていないのに、マルギッテは嬉々として優季に関することを報告する。

 

「……なるほど、分かったぞ!」

 

 フランクと同じチョコパフェを食べながら、じっと報告を続けるマルギッテを見ていたクリスが、理解したとばかりに声を上げた。

 

「何が分かったんだいクリス?」

 

「ふふん。お父様は鈍いですね。ずばり、マルさんは優季に恋しているのです!」

 

「……え?」

 

「ほう……」

 

 クリスの自信満々な答えに、マルギッテは思考を停止させ、フランクは納得した顔で頷いた。

 

 なるほど。流石は私の娘だ。思えばマルギッテの行動は恋する者のそれに近しい。いや、もはや決定的だろう。なんせ同じ女性で聡明な娘が言っているのだから!

 

「そうか。うむ、思えば私も、男をここまで褒めるマルギッテを見たのは初めてだ。しかしクリスの答えで全て納得した。もしかしたら将来自分の恋人になるかも知れぬ者の事を良く報告したい。そんな乙女心からの報告なら、鉄優季君の報告の量が多く、そして詳細なのも納得と言うものだ」

 

「ちょ、ちょっとお待ち下さい御二人とも! 確かに私は優季に興味を抱いておりますが、それは武人としてですね。別に恋人になど! そ、それに報告の量が多いのはクローン達の重要人物だからで……」

 

 恋人、優季が恋人か……。

 

 マルギッテは慌てて否定しながらも、つい想像してしまう。優季が自分のパートナーとなった姿を。

 

 戦場で背中を預け合う姿を。

 一緒に料理を囲う姿を。

 二人で手を繋いで街を歩く姿を。

 

「……っは!?」

 

 慌てて頭を振って今しがたした妄想を振り払う。

 その様子を見て、ますますフリードリヒ親子は自分達の考えに自信を持つ。

 

「マルギッテ、別に恥かしい事ではない。無自覚に恋すると言うのは良くあることだ。特に初恋はな。私も初恋の時はそうだった」

 

「マルさん! 自分はマルさんの初めての恋を応援するぞ!」

 

「ちがっ!? 御二人ともどうか冷静に、私の話を聞いて下さい!」

 

 親しい相手には強く否定できない性格のマルギッテは、普段の威圧感など消えうせ、それでもなんとか落ち着かせようと二人の説得を再度試みる。

 

「じゃあマルさんは優季が嫌いなのか?」

 

「き、嫌いではないですが、異性としてはなんとも思っていません」

 

 そう。あくまでも人として、武人として認めているだけだ。

 

「だいたい優季は誰に対しても優し過ぎるくせに、好意に対して鈍感です」

 

 そう。優季は鈍感過ぎる。榊原小雪や弁慶のあからさまな行動を見れば、異性として好かれているなど明白だというのに。

 

「だいたい本人は隠しているようですが、榊原小雪や弁慶の胸が当たっていると鼻の下が少し伸びていますし、川神百代や葉桜項羽の下着が見えそうになると視線を向ける始末。女の好意に誠意を見せない時点で、男としては終わっています」

 

 そうだ。男としては最低な部類だろう。だいたい私のスタイルだって先程上げた連中と遜色無いスタイルのはずだ。だというのに、優季は私に対しては友人の様に接する。そう言えば、最近はあのメイド二人とも良く一緒に居ますね。

 

 マルギッテは優季の女性関係を思い出して顔を歪めてグラスを強く握り締める。その時グラスにヒビが入る。

 

「マルギッテ、それは嫉妬ではないかね?」

 

「っ!?」

 

「流石お父様。マルさんは嫉妬をするくらい優季が好きだったのだな!」

 

 フランクの言葉にマルギッテが動揺する。

 

 嫉妬、私が優季を取り巻く女性達に嫉妬している?

 

「い、いやちがっ!?」

 

「いやいやマルギッテ。別に恋は悪い事ではないよ。クリスと違って君はもう成人だ。日本にいる間は十分に青春を謳歌するといい。うむ、となると君にしかい頼めない任務以外は極力他に回すとしよう。その分君がクリスの傍にいてくれるわけだから、私としても安心だ」

 

 マルギッテの恋の応援も出来て、娘の安全も確保できる。確か日本ではこういう場合を一石二鳥と言うのだったか。

 

 フランクは満足げに頷き、決定事項の様に話を進めて行く。

 

「自分もマルさんが一緒に居てくれる方が嬉しいです」

 

「……了解しました」

 

 笑顔で微笑み合う二人を見て、これ以上何を言っても無駄だと悟ったマルギッテは、自分の心の整理も付かないまま、項垂れた。

 




 正直優季のアルカナは無難に『世界』か『愚者』でも良かったかなとも思ったのですが、とりあえず一番当てはまりそうな『力』のアルカナにしました。
 因みに原作と違うアルカナなのは冬馬と準です。Sでは原作の悲劇を回避しているので、当てはまりそうな物を選びました。弁慶は優季と同じで一番当てはまりそうな物を選びました。
 さて、次回から水上体育祭ですが……久しぶりに難産です。


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