岸波白野の転生物語【まじこい編】【完結】   作:雷鳥

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改めての日常回。



【お見合い大作戦 (前編)】

 さて、放課後は暇なわけだがどうするか。

 

 弁慶はだらけ部に、与一は本屋へ、義経は一子と一緒に修行に行ってしまった。

 

「百代と項羽姉さんは松永先輩と一緒に川神院に行っちゃったしな」

 

 なんだかんだで百代も項羽姉さんもお互いに興味はあったらしい。二人で好戦的な笑みを浮かべて嬉々として帰っていった。

 そして彼女達と一緒に向かった松永先輩は『これは好機!』みたいな怪しい笑みを浮かべて二人についていった。多分同じ武道家として二人の武を間近で見たいのだろう。

 

 小雪は今日は習い事があるとかで帰ってしまった。

 

「それでは私はいつもの場所に寄ってきます」

 

「俺も今日は用事があるから」

 

 冬馬はいつもと言っていたので賭場だろう。準は分からないが……なんか凄い嫌な気配を放っている。

 

 そう言えば今日はやけに一部の男子の気が乱れていたな。

 どうせ暇だし、ちょっと探って見るか。

 

 机から席を少し離し、立ち上がっても音が鳴らないようにして、席に着いたまま精神を集中し、ゆっくりと自分の気配を消して行く。

 

 ……よし、隠形(おんぎょう)成功。

 立ち上がってゆっくりと立ち上がって普通に歩き出す。

 

 隠形とは姿を隠す術の事だ。とは言っても今の自分は気配を完全に殺しているだけなので、実際に姿が消えた訳じゃない。言うなれば道端の石ころのような感じで、見えているのに見えていないようなものだ。意識して見ればちゃんと見える。

 

 ふむ。一部の男子が同じ方向に向かっているな。

 その流れに自分もついて行くと、着いた場所は体育館だった。ここで何してんだ?

 

 暗幕の下ろされた体育館に潜入すると、入口でなんか三角帽子のような覆面を手渡していたので、一つ拝借して被る。覆面の額に51というナンバープレートがついていた。

 

 ……うわぁ。

 

 改めて見回して……心の中でそう呟いた。

 なんせ自分と同じ様な格好の連中が沢山居るし、閉めきった体育館に沢山の男子が集まれば蒸す。正直覆面をさっさと脱いでしまいたい。

 

 それにしてもなんだこの催し?

 とりあえず目立たないようにしていると、壇上にスポットライトが当てられた。

 

「「童☆帝! 童☆帝!」」

 

 なんだなんだ?

 

 周りの男子達のテンションが上がっていく。

 壇上を見ると小柄で水着と覆面のみを装備した男子生徒が現れた。凄いなあいつ。

 

「諸君。臨時の魍魎の宴に集まってくれたこと、誠に感謝する」

 

 魍魎の宴、男子が偶に呟いてた宴だな。

 

「さて、今回臨時に開いたのは他でもない。今週末に行われる水上体育祭、その祭りの為の作戦会議を開きたいと思う」

 

「童帝、いつものやり方ではダメなのですか!」

 

「無論だ。今回は九鬼の従者部隊もやってくる。水中カメラ及び、砂地の隠しカメラは全て見つかると考えて良い」

 

「そ、そんな!?」

 

「俺達の楽しみが!!」

 

 ……なるほど。そういう宴なわけね。

 

 男として気持ちは分からないでもない。

 

「だが写真自体の撮影は許可されている。よって、今回は人海戦術で行こうと思う」

 

「ほうほう」

 

「童帝及び写真部が、可能な限り検分されないギリギリや、通常のアップや全体写真を狙う。後で検分される可能性が高いラインを、諸君らに頼みたい。機材は全て我々が用意した。見事検分を免れ、写真提供してくれた者には、体育祭後の宴で好きな写真を一枚贈呈しよう。なお、悪用防止及び周囲の了解が得られやすいように機材はポラロイドカメラを使う」

 

「おお! 流石は童帝、太っ腹だ」

 

 ……なるほど。写真を売っているのか。いや、多分状況的に見て競りだな。

 

「以上だ。皆、次の魍魎の宴で会おう」

 

 童帝の締めの言葉と共に、宴は終わった。

 

 ……ちょっと屋上の空気を吸って来よう。

 

 覆面を脱いで去ろうとした時……体育館の方からやってくるガクト、モロ、準を見つけた。お前ら参加してたのかよ。

 

 話を聞こうかとも思ったが止めた。

 写真くらいは別に良いだろう。それにあの宴で売られた写真が脅しに使われたら、きっとあの宴に参加している連中が黙っていないから、ある意味安心できる。

 

 戦いは数だよ。と、昔の偉い人は言っていたような気がする。

 

 

 

 

 屋上に出ると、あの騒ぎが嘘の様に綺麗に元通りになっていた。

 

 一体どんな建築技術を用いれば一日でここまで直せるのだろうか?

 理論派のラニが見たらきっと、ありない。と頭を抱えるに違いない。いやどちらかと言えば現実的な凛の方が驚くか?

 

 そんなどうでもいい事を考えていると、屋上の扉が開いて誰かがやって来た。

 

「むっ、鉄か?」

 

「あっ、梅子先生」

 

 やって来たのは梅子先生だった。ただ、ドアを開けた瞬間に見た表情はどこか気落ちしているようだったが、自分を見つけるといつもの様にクールな引き締まった表情に戻った。

 

「どうしたこんな所で?」

 

「いえ、昨日の件で屋上がどうなったのかが気になって」

 

「そう言えばお前も巻き込まれていたな。毎度毎度えらい奴に目をつけられるな」

 

「ははは」

 

 梅子先生の言葉に苦笑で答える。本当に、自分はそういう星の元にでも生まれたのだろうか。

 

「ああそれと、川神一子について礼を言っておこうと思ったんだ。ありがとうな、鉄」

 

「ん? 一子についてですか?」

 

 そう言えば梅子先生は一子の担任だったっけ。

 

「ああ。ここ最近川神の授業中の居眠りが無くなったから理由を尋ねたら、お前に『人に物事を教える立場になるなら授業をちゃんと受けろ』と言われたと言っていたからな」

 

 そうか。一子はちゃんと授業を受けているのか。

 一子が目標に向かってちゃんと頑張っている事に喜びを感じ、自然と顔が綻ぶ。

 

「自分は何も。一子がちゃんと目標に向かって頑張っているだけです」

 

「それでも切っ掛けはお前の言葉だ」

 

「だったら嬉しいです。ところで、先生はどうしてここに? それにここに来た時に落ち込んでいるようでしたが?」

 

 こちらの言葉に梅子先生は眉を寄せてしばし沈黙する。

 

「……うむ。あの川神姉妹を変えた鉄になら、別にいいか」

 

 梅子先生は恥かしげに視線を下げた後、意を決したように口を開いた。

 

「実はな、両親からお見合いの話が来ていてな。まあ今までも断っていたんだが、今回はやたらしつこくてな。どうしたものかと」

 

 お見合い、というかこれも恋愛相談になるのか?

 

 梅子先生に個人的な悩みを相談して貰えるほど信頼されている事に嬉しさを覚える反面、恋愛事に疎い自分に、果たしてちゃんとした答えが出せるか不安が過ぎる。

 

「えっと、梅子先生はお見合いする気は無いんですよね?」

 

「ああ。だがな、両親にもいい年して彼氏の一人もいないのはどうだと言われてはなぁ」

 

 ああ、両親に言われたら結構キツイかも。 

 自分が両親にお見合いを勧められたら果たして断れるだろうか……ちょっと自信が無いな。

 

「お見合いって、別にすぐに付き合ったりする必要はないんですよね? 始めは友達からじゃ、ダメなんでしょうか?」

 

「まあお見合い自体はいいんだが、したが最後、両親に色々急かされそうでな。そっちの方が憂鬱なんだ」

 

 言葉どおり、憂鬱な表情で溜息を吐く梅子先生……きっと大人には色々あるのだろう。そう言えば大事な事を聞いていなかった。

 

「因みに相手って梅子先生より年上なんですか?」

 

「いや、年下らしい……なあ鉄、年下と言う事でお前に尋ねるが、年の離れた年上と言うのは、恋人相手としてはどうなんだ?」

 

 少し切羽詰ったような表情で、真剣な声色で梅子先生がこちらに振り返る。少し考えた後、自分の思っている恋愛観を、そのまま伝える事にした。

 

「……自分は、恋をした事が有りません。ですがもし、相手の内面が好きなら、年や外見は気にしないと思います。そりゃ年の差故に色々な事で喧嘩だってあるでしょうけど、それでも傍にいたいと思える。それがお互いを想い合える『恋愛』という感情だと思っています。逆にそうじゃないのは『片思い』という恋の感情だと思います」

 

 梅子先生は意外なものを見るような目でこちらを見詰めた後、その表情のまま口を開いた。

 

「鉄は恋をした事が無いと言う割には、随分と具体的な恋愛観を持っているんだな」

 

「あはは」

 

 そんな梅子先生に苦笑して言葉を濁す。

 

 確かに自分は恋を知らない。でも恋と言う感情に衝き動かされた者達を知っている。

 

 ただ相手に愛されたいと願った少女を。

 

 ただ相手を愛したいと願った少女を。

 

 ただ相手を守りたいと願った少女を。

 

 ただ相手の幸せを、願った相手が死した後も、生涯を通して願い続けた男を。

 

 恋と言う感情は唯一愛に勝る感情だ。男はそう言っていた。

 そのとおりだと思う。相手の為なら全てを捧げ、相手の為なら自分から身を引く。

 そんな一方的な感情に、相互理解など無いのだ。

 

 だが自己満足と断ずるには、その感情はあまりにも重く、純粋だ。

 

 果たして自分は、岸波白野は、そこまで『彼女達』を愛していたのだろうか?

 

 いや愛してはいた。そして恋愛と言っても良い感情も得た。

 だがやはり、自分にとって最初に来るのは『恋』ではなく『愛』なのだ。

 

 自分は、誰かに恋する日など来るのだろうか?

 狂おしいほど特定の誰かだけを想い焦がれる日が来るのだろうか?

 

 っと、自分の事はいいな。今は梅子先生の問題だ。

 

 思考がずれ始めたので慌てて切り替える。

 う~ん、なんとかお見合いを断る良い方法……そう言えば以前準に見せて貰ったジャソプに、偽者の恋人同士の話が合ったな。

 

 正直、偽者の恋人作戦には良い思い出が無いが、一応提案してみるか。

 

「梅子先生、偽者の恋人作戦なんてどうですか?」

 

「偽者?」

 

 怪訝な表情で梅子先生が呟く。

 

「ええ。恋人がいるからお見合いはしばらくしないって感じで」

 

「しかしその偽の恋人を誰に頼む?」

 

「巨人先生……は、ダメですね」

 

「ああ。ダメだな」

 

 あの人は全力で自分を売り込んで本物の恋人になろうとする気がする。

 梅子先生も巨人先生の名前を出しただけで真顔で否定した。可哀想過ぎる。

 

「……提案したのは自分ですから、自分で良ければ手伝いますよ?」

 

「鉄が恋人役をって事か?」

 

「ええ。身長ありますから制服脱げば多少は大人に見えると思います」

 

 実際学生には見えないと思う……身体に傷があるせいで警戒されたりもするし。なんか自分で考えて少し悲しくなた。

 

 落ち込んでいる間に、梅子先生が顎に手を当てながら、全身を観察するようにこちらを見詰める。

 

「ふむ。確かに見えなくないな……しかし、いいのか?」

 

「ええもちろん。梅子先生にはいつも授業でお世話になっていますし、歴史に対しての個人的な質問にも答えて貰っていますから、そのお礼です」

 

 生前英雄と関わったからか、自分は歴史の勉強が好きだ。

 もちろん接した彼らとは違うかもしれない。

 それでもその時代、その場所で、彼らがどう思って過ごし、物事を決断して行ったのか、そんな事を考えることが楽しかった。

 

「そうか。なら、お願いするとしよう。丁度明日は私用で夜は両親と七浜で会う事になっているから、七浜駅前で待ち合わせしよう時間は大体……」

 

 それから梅子先生と軽く打ち合わせして、明日の予定を組み立てる。

 

「では、梅子先生が先にご両親と会って『彼氏を紹介する』と言って、外で待つ自分を呼びに行くという流れでいいですね?」

 

「ああ、すまんな鉄。お前は年の割りにしっかりしているから、きっと学生とは思われないだろう」

 

 それはそれで老け顔と言われている様で少し複雑です先生。

 一応髪型は学生気分をと考えて、生前の頃に近い髪型にしているんだが……顔ばっかりはどうにもならないからなぁ。

 

 まあ、梅子先生の問題が解決するなら別にいいか。

 苦笑しながら梅子先生と携帯のアドレスを交換し合い、別れた。

 

 そう言えば、大人っぽい私服なんて持ってたかな?

 そんな根本的な事を考えながら、自室に着くなりクローゼットを漁った。

 




と言う事で今度は梅子先生。
まあ原作だと梅子先生、別にお見合い自体は問題無い発言しているので、ちょっと流れが違います。日数はぶっちゃけ作者の都合。
あと前半のあれは書きたかったから勢いでやっちゃたんだぜ!


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